榊原
「理事長、入るぞ。
ゼロバンゲートを連れてきた」
秋川やよい
「――ッ!!」
理事長の目が、これ以上ないほど見開かれた。
驚愕という言葉がそのまま形になったような表情。
秋川
「榊原、仕事が早いな!
明日にでもトレーナー・スタッフ総出で捜索願いを出すところだったが……
手間が省けた!!」
声が部屋に響き渡る。
その勢いに、俺は思わず肩をすくめた。
榊原は無言で俺の背中を軽く押し、
理事長の前に立たせる。
秋川
「……ふむ。
お前が“ゼロバンゲート”か?」
その視線は鋭い。
だが、怒りではない。
“真実を見極めようとする目”だった。
俺は喉を鳴らし、
帽子のつばを握りしめた。
ゼロ
「……はい。
俺です」
秋川は腕を組み、しばらく俺を観察するように見つめた。
秋川
「変装で模擬レースに出走し、
観客を沸かせ、
ウマ娘たちを本気にさせ、
学園中を混乱させた張本人……」
一歩、近づく。
秋川
「――実に面白いッ!!」
俺
「えっ」
榊原
「……理事長?」
秋川
「いやぁ、久々に血が騒いだぞ!
あの走り、映像で見たが……
あれは“本物”の走りだ!!」
怒られると思っていた。
しかし秋川から発せられたのは、歓喜だった。
秋川
「だがな――」
急に声のトーンが落ちる。
秋川
「お前が“何者”なのか。
それをまず、聞かせてもらおう」
その言葉は重く、
逃げ場を塞ぐように響いた。
榊原は横で静かに腕を組み、
俺の答えを待っている。
俺は深呼吸し、
胸の奥に押し込んできた秘密を、
ついに言葉にしようとしていた。
榊原の時と同じように、
ゆっくりと帽子を取る。
隠していた耳が、
ぴくりと震えながら露わになる。
秋川やよい
「――面妖!!」
理事長の声が部屋に響き渡る。
驚愕、興奮、そして“未知への好奇心”が混ざった叫びだった。
秋川
「まさか……男のウマ娘がいるとは聞いたことはあったが……
実際に見るのは初めてだ!!」
その目は、珍しい宝石を見つけた学者のように輝いている。
恐れでも拒絶でもない。
ただ純粋な驚きと興味。
俺は視線を落とし、
耳が恥ずかしそうにぴくりと動く。
ゼロ
「……すみません。
隠していました。
でも、俺は正式な登録もされていません。
学園にも……“存在しない”扱いで」
秋川は腕を組み、
俺を上から下までじっくりと観察する。
秋川
「ふむ……なるほど。
確かに、存在しないはずのウマ娘だ。
だが――」
一歩、俺に近づく。
秋川
「お前の走りは、紛れもなく“本物”だったぞ」
胸が熱くなる。
榊原が横で小さく息を呑む。
秋川
「男だろうが女だろうが関係ない。
ウマ娘である以上、走りには嘘がつけん!」
その言葉は、
俺の胸の奥にずっと刺さっていた“劣等感”を一瞬で吹き飛ばすほどの力を持っていた。
秋川
「だがな――」
声のトーンが落ちる。
秋川
「お前がここにいる理由。
なぜ隠れていたのか。
そして……なぜ走ったのか」
理事長の目が、俺の心の奥を射抜く。
秋川
「すべて、話してもらうぞ」
榊原は黙って俺の背中を支えるように立っている。
逃げ場はない。
でも――
逃げる必要も、もうないのかもしれない。
理事長は、榊原のことを
口調は荒くとも誠実な男だと信頼しています。