恋姫無双とか勘弁して下さい   作:ミラベル

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プロローグ

 「私」という自己が確立していく過程で、私には違和感があった。

 それは今の自分の生活の不便さから始まる。

 

 まず、現在の正確な時間が解らない事に違和感を覚えた。

 一刻、二刻と時間を数えるが、私はどうにもその時間の数え方に馴染めない。

 漢数字にも違和感を覚えた。あの漢字で表す数字にはどうにも慣れない。

 

 ついで今の生活にも違和感を覚えた。

 

 それは井戸で水を汲み瓶に水を貯める生活の行為であったり、川で魚を釣るための竿のような道具であったり。

 土壁で作られた家であったりと、自分自身でも理由が見つからない違和感だった。

 

 何せ生まれた時からこの環境にいるのだ。

 生まれた時から自分は国からも、ましてや村からも出たことは一度もない。

 比較対象もないのに、それがおかしいと思うこと自体が妙な話である。

 

 ………あと、変な話だが下のやり方にも違和感があった。

 小の方なんだが、座ってやることにも違和感がある。

 いや、女が立ってすることがまずおかしいのであるが、どうにも意識がはっきりとした時から、この違和感は拭えなかったのだ。

 

 そんな様々な違和感を抱えて生きてきた私であったが、村に立ち寄った商人からの話でようやくこの原因が解った。

 

 私はズバリ、異世界に転生していた。

 つまり私の意識の根底には、異世界人としての知識があったのだ。

 

 光武帝だとか、項羽と劉邦だとか。

 現在は漢が国を治めているとか。

 そんな話を聞かされて、モヤモヤに包まれていたそれがはっきりと晴れた時、私は自分が転生した存在であると気が付かされ、確信した。

 

 死んだ原因は覚えていない。

 ついで私の前世は男だった。どうりで最近色気づいてきた女友達の話題に乗りきれないわけだ。

 

 商人の話を聞くに、どうやら後漢末期らしい。

 肉屋が宮中で十常侍とゴタゴタしているという話を耳にしたから間違いはない。

 

 と、ここまで聞いて自分は過去の世界に転生したのだと思った。

 が、どうやら違うらしい。

 

 曰く、肉屋は女であるという。

 

 思わず笑ってしまったが、どうにも商人の話を聞くにマジだそうだ。

 ちなみに西涼の馬騰はどうかと聞くと、これも女。

 曹家や袁家は聞けばこれも当主は女だという。

 

 「なんでさ」

 

 思わずそう言ってしまった私は悪く無いだろう。うん、悪くはないはずだ。

 そして、もう一つ。私はここで思い出し、気がついてしまったのだ。

 

 この世界には真名という、親しい者にしか教えず、親しい者としか呼び合えない風習があると。

 これを知らずといえど真名を許されない者が、相手の真名を言ってしまえば打首になったって文句は言えない。

 そんな設定がある某18禁のゲームの存在を、私は知っていた。というか私はそれを楽しんでいたことを覚えていた。

 

 「ここ恋姫無双じゃないですかやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 ここで私はこの世界が異世界であると知り、同時にこれから始まるだろう乱世を思って腹痛と頭痛によってその場にうずくまった。

 

 急に叫んだ挙句、お腹を抱えてうずくまる私。傍目から見ても気が狂ったようにしか見えない。

 そんな私を見て慌てる商人をよそに、私は必死に考えた。

 

 この世界、所詮エロゲといってなめたらいけない。

 登場する人物達のほとんどは、物理法則やら人体法則を無視して、某無双ゲーの如く暴れまわる。

 ついで後漢末期なのに麻婆豆腐は作る、ドリルはある、『気』などというとんでもパワーはあるわで、三国志という名の異世界に近い。

 

 確か別ルートではヴリトラとかいうマジモンの神話級化け物まで登場したはずだ。

 そんなのは別会社の某聖杯戦争でやってくれ。ここは三国志だ。

 

 恐らく、この世界は私が知るように乱世になっていくのだろう。

 

 この世界の強制力と修正力はとてもやばかったはずだ。

 主人公とかいう大抵はその肩書だけで大半の危機を乗り越えられるような者でさえ、世界に抗ったせいで最終的には文字通り世界から消されてしまった。

 

 まず十中八九、騒乱が大陸中で巻き起こるに違いあるまい。

 そしてそんな世界で生きている以上、私も世紀末に近い状態の日常を過ごさなければならないのだ。

 

 私の頭のなかに、劉備や曹操や孫策と一緒に三国統一を目指すだとか、自分で国を立ち上げるという選択肢はない。そんなものはない。

 

 「親が望む一番の就職先が公務員」な世界が当たり前で、安定志向の一般ピーポーだった私が、そんな道を進む度胸があるとお思いか。

 いやだ、そんな面倒事は断じて嫌だ。

 

 例えるならば建国は「起業」、英雄達と進む道は「大手企業の内定後に自分で企画立案交渉行動」だ。

 就職先はどこがいいですかと聞かれたら、第一に公務員という目に見える安定を取る私だ。

 そんな冒険心は無いし、自分にそんな勇気があるとも思ってはいない。

 

 それ以前に、あいつら全員怖いんだよッ!?

 

 画面越しに見るから可愛く見えるだけであって、実際は人をバンバン殺すし発想も物騒な連中だ。具体的にはイライラしていたら刀剣を振り回す奴が多数だ。現代で言う「異常精神患者」共がたくさんいるのだ。

 

 まぁ乱世だからしょうがない。現代という比較的に統一されていて安定している社会ではないのだから。

 むしろ、彼女たちのような在り方でなければ生きられないし狂ってしまうのかもしれない。

 

 というわけで、遠くで愛でるならまだしも、近くで生きていこうとは思えない。

 胃が死ぬ。すぐに死ぬ、今死ぬ。

 

 私は舞台したから演劇を見るならまだしも、自分で舞台に上がって必死に練習して演じるような人間にはなりたくない。

 確かに観客から浴びる声援は気持ちいいだろうが、そのために死ぬような思いをしたくないし死にたくないのだ。

 

 そうなると、私がやることは限られてくる。

 

 私にできることは、これからやってくる騒乱を乗り切るために武術を磨くこと。

 そして勉学や商売や社会などの幅広い知識を、生き残るために身につけることだ。

 

 いくら「明日からがんばる」ことが多い私であっても、死にたくはない。

 いくら面倒くさくても、いくら辛くても、いくら苦しくても、生きるためにはやるしかないのだ。

 

 私の姓は『結(ゆい)』、名は『巍(ぎ)』。

 

 ただの農民で、元男の女。

 死なないために、今日も私は山に上り体を鍛え、商人や旅人から情報を得る。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 ある村に、『非凡』と噂される少女がいた。

 

 齢い五つで理路整然とした言葉を述べ、商人が見せた書物を理解する。

 更にはそれに対する疑問を問いただし、独自の見解を述べて商人を驚かせた。

 さらに都の様子や他の群の様子を聞きとると、知らないはずの事実まで推測して当てて見せたという。

 

 「一を教えて百を知る」と少女の事を商人は褒め称えた。

 だが村の者達は幼さを見せず、年不相応大人びた雰囲気と、能面のように顔を強ばらせ、表情を変えぬ少女を不気味に思いその存在を隠した。

 

 齢い六つになれば少女は山に登り、狩りを行うようになった。

 幼子には到底引けぬような大人用の狩人の弓を用いて、兎や狐といった大人でさえも慣れねば手こずるような獣たちを次々に打ち取る。

 

 さらに近隣の村の長老達から、野草の知識や薬草の加工と抽出の知識を学び始めた。

 

 普通の村人達は体の怪我を癒やす薬草の知識を求めたが、彼女が最も求めたものは毒の知識であった。

 時には山に登り、庵や洞窟に住む怪しげな呪い師から教えを受けるなど、その執念は計りがたく。

 周囲の大人が驚くほどの集中力でこれらの薬学を修めていった。

 

 そうして彼女が齢い七つの時。

 人喰い虎が山道に現れたと村々で話題となった。

 旅の武芸者が腕試しと何人もその参道へ向かうも、一人も帰ってこなかった。

 

 少女はその話を聞くやいなや、弓と短剣を持って村を飛び出した。

 

 少女の親は流行病で両名ともになくなっており、親戚がその身を預かっていた。

 しかし年に見合わぬ聡明さと、張り詰めたように妙な気を漂わせる少女を、親戚は不気味に思っていたので彼女を止めなかった。

 同じように、村の者達も彼女を不気味に思っていたので止めなかった。

 

 数日の時が経った。

 少女は自分の背丈を超える程の虎の頭部を背負い、山道から帰ってきた。

 

 既に数日音沙汰も無く、死んだと思っていたので親戚と村人たちは驚いた。

 そして少女の姿を見て、言葉を失った。

 

 体中に泥が塗られており、その上からは大量の乾いた血が塗り重ねられていた。

 匂いも山猿のように酷く、周囲の大人たちは皆一様に鼻を押さえる。

 

 一番の特徴は、彼女が出かける前には無かった顔の傷であった。

 顔の真ん中を通り過ぎるかのように通った三本の裂傷。虎の爪が掠ったと何事もなかったかのように言ってのけた少女に、周囲の大人たちは震え上がる。

 

 端正で美しい顔に刻まれた、激しい戦いの傷跡。

 「毒を使わなければ死んでいたかもしれない」と坦々と述べた少女を、周囲の大人たちは人喰い虎以上に恐ろしく思った。

 

 本来であれば彼女の勇名が村々へ伝わってもおかしくはない。

 

 しかし村人達はこの悍ましい少女の存在が周囲へ伝わることを恥として嫌い、虎の討伐の手柄は村の若い衆が行ったとした。

 少女はこれに不満一つ漏らさず、「そうですか」と呟くと水浴びのために川へ向かう。

 

 欲を出さず、不平一つ言わない。

 障害残るであろう怪我を負ってまで得た大手柄。

 知られれば士官も夢ではないそれを奪うという、酷い仕打ちを与えたのにも関わらず彼女は何も言わない。望まない。

 

 人としてあるべき欲を見せぬ少女を村人たちは更に気味悪がった。

 

 最も、少女はそんな事を気にせずに山に上り、熊や虎の噂が上がるやこれを狩り続けた。

 旅の武人から武の教えを請い、気の扱い方を学び、商人から知識を得る。

 

 そうして少女が十になった時。

 ある商人が、こんな辺境にこんな傑物がいるとはとたいそう驚いて、是非養子にと乞うたことがあった。

 

 少女は商人よりも遥かに早く、そして空で計算をやってのけた。

 さらに近隣の村に案内役として商隊に連れ添った際に、襲ってきた野党十数名をたった一人で返り討ちにしたのだ。

 

 遥か遠くの野党を弓で穿ち、取り囲む彼らをまるで舞を舞うように切り捨てていく。

 少女に切られた傷はわずかであっても、その毒によって瞬く間に動けなくなる。

 そうして倒れていく輩の中で最後に立っている彼女は、「森の獣よりも遅い」と息切れ一つなく言ってのけた。

 

 おまけに負傷した商隊を薬学と医学によって治療するという、辺境の農民の出とは思えない聡明な少女に商人はとことん惚れ込んだのだ。

 

 だがこの商人の願いを村人たちは聞き入れなかった。

 既にこの頃には乱れた世の中が更に乱れたことで、賊がそこら中に往来していた。

 また悪天候からくる食料不足と、疫病や病の流行の兆しが噂されていたからだ。

 

 この村を含めた周辺の村々も度々賊に襲われる事があったが、この少女により幾度と無く守られていた。

 また少女が山から取ってくる獣の皮や肉は村の貴重な収入源であったし、病気や怪我に対する知識を持つ少女は不気味なれど手放すわけにはいかなかったのだ。

 

 だが、商人はこのままでは彼女の才能が埋もれてしまうと危惧した。

 

 商人は自ら旅を通じて得た経験から、世が乱れる前兆があることを知っていた。

 そしてきっと彼女のような才ある存在が求められると解っていたのだ。

 

 そこで商人は自ら少女の説得を試みた。

 

 「このままでは君はここで飼い殺しにされてしまうだろう。ここは辺鄙で武術を鍛えることも、知識を得ることにも適してはいない。私の後を継いで商人になれとは言わないから、私と一緒にこないか。ちょうど良い私塾を私は知っている。そこに君を通わせよう」

 

 彼は根っからの善人であった。

 

 そして商隊を危機から救った少女に、大きな恩受けたと感じていた。

 そんな彼が示した条件は、まさに破格と言ってもいいだろう。

 

 しかし少女は顔色一つ変える事無く、首を振った。

 

 「何故だ、どうして君ほど聡明な子がわかってくれないんだ。みれば彼らも君を良くは思っていない。下手をすれば、君のその素晴らしい才能が埋もれるどころか潰されてしまうだろう」

 

 少女はここで初めて、困った表情を見せた。

 

 「貴方は私を心の底から想い、心配して私を誘っている。その気持はとても有りがたく嬉しい」

 

 「ならば何故受け入れてくれない?」

 

 「一将功成りて 万骨枯る。私は共に枯れ果てる者達に寄り添い、生きていきたい」

 

 「ッ!?」

 

 商人は言葉を失った。

 

 一人の将軍が功をたてて諸侯になるその影には、骨となって朽ち果てる万の民がいる。

 英雄と持て囃されて歴史に名を残す者がいる一方で、名も残らず散っていく者達がいる。

 

 「彼らは決して華やかではなく、虚しく、無情。だが私もまたそうありたく思う」

 

 「なんと……」

 

 この年頃の子供といえば、英雄の話に花を咲かせ、いずれは自身もと夢を見る。

 しかし彼女は違う。その影で無くなる無名の無量の命に思いを馳せている。

 例え自身の才が埋もれても、潰されてもこの村々の生きる命を守りたいと願っている。

 

 その慈悲たるや、如何なるものか。この矮小な身では想像もできない。

 ただひとつ解ることは、彼女が大器を持つ英雄の素質があるということだけだ。

 

 故に、惜しい。

 彼女の信念は固い。氷のように冷たく美しい様相とは裏腹に、その内には苛烈な意志が燃えているのであろう。

 恐らく、自分のような存在ではこの少女を動かすことはできない。

 

 「確かに、君がいなくればここ周辺の百数十人は死ぬかもしれない。しかし君が世に出れば、数万の人を救うこともできるのではないか」

 

 「私は、私が知る世界で安寧の時を過ごしたい。私の知る世界を守りたい。あるかも解らぬ可能性の世界に存在する者達のために、どうしてこの生命を賭けられようか」

 

 この少女はどこまでも冷静だ。

 どこまでも現実を見つめている。恐らく彼女は先見の明があり先が見えているのだろう。

 しかしそれでも尚、彼女は自身が受けた恩をとったのだ。

 

 彼女の信念を愚かと笑う事は容易い。

 しかし愚かと笑う事は容易くとも、彼女の考えを変えるだけの言葉と言葉の力を自分は持たない。

 

 ああ、哀しきかな。哀しきかな。

 そう言って商人は彼女を引き込めぬ己の器の小ささに悲しみ、そして彼女が世に出ぬことを憂いた。

 

 商人は後にこの少女の名を、もし養子にできたのであれば入れたであろう私塾の師にのみ語った。

 その師の名前は『水鏡』。そして隠れて商人の話に聞き入っていた小さな少女の二人の心にも、彼女の名は残ることとなる。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 よくわからないけれど、商人のおっさんにやたらと自分と一緒に来ないかと誘われた。

 

 おっさんが言うには、自分には武も知も備わっており、将来性抜群だという。

 過剰評価も良いところである。いや、本当に。

 恐らく、賊に対して自身が戦った時の様子が、彼には相当美化された形で残っているのかもしれない。

 あれだ、吊り橋効果に近い心理的影響があったのだろう。

 

 賊といっても、所詮は元は農民。なんの戦闘訓練もされていない。

 

 こっちが弓を持っているのに馬の上で体を屈めもしないし、構えだって隙だらけ。

 むしろあんなんでお前ら死んでいいのかと、こっちが逆に心配してしまったほどだ。

 

 あれが武を嗜んでいる連中なら絶対にうまくいかない。

 流浪の武人達を捕まえて手ほどきを受けている中で解ったことだが、自分には圧倒的に力が足りない。

 

 剣を受けたら弾かれるかそのまま叩き潰されるし、押されたら地面を軽々と転がっていく。

 気で強化してもこれなのだから、自分で言うのも何だが才能がない。その気も楽進のようにかめはめ波もどきが出来るほど操作は上手くなく、精々が体を強化するぐらい。そしてしても負けてしまう。

 

 世の中は理不尽である。

 体格は魏のちみっこ二人より少し大きぐらいなのに……。

 何で神様は才能を綺麗に分配してくれへんのやッ!?

 

 というわけで毒と速さで押し通すスタイルが確立した。

 もうこの時点で士官の線は無い。だって毒ってだけで、この世界では過剰に毛嫌いされるのだ。

 劉備然り、曹操然り、孫策然り、三大勢力以外にも使っていることがバレたらアウトだろう。

 

 なんでや、最高だろ毒。某狩りゲーでも毒は意外と使えるんだぞ。

 何の力もない凡人の毒で死んでる英雄の数は少なくない。

 つまり私のような凡人代表が身を守るのに、格上殺しの毒は丁度良いのだ。

 

 だが嫌われるし、卑怯だと言われる。価値観の違いだろう。

 いや、実際「毒は卑怯だ」と言われるほど優しい世界であることは嬉しいのだが、なんか釈然としない。

 

 最終的に、おっさんから私塾に入ろうとか言う誘いがあった。

 条件的には破格だが、その内容は飼育されて太らされる豚とそう変わりがない。

 

 つまり私塾で箔をつけたら、働きなさいとどっかに推薦状持たされるに違いない。

 そうなったら晴れて乱世の仲間入りだ。嫌なことこの上ない。

 

 それと曹松さん、言い訳に使わせて頂いてすんませんでした。

 ぶっちゃけそれっぽい有名な言葉を言えば、この時代の学がある大体の人は、勝手に考えて勝手に解釈してもらえるから楽である。

 早い話が禅問答に似ていて、多く語らなくてもそれっぽく「ずばり」みたいに言えば勝手に納得してもらえる。

 

 素晴らしい、他人と話そうとすると顔が引き攣ってしまうほどコミュ症な自分には都合が良い。

 アルバイトの面接でさえ、緊張で顔が能面のようになってしまい、サービス系は全て落とされていたという苦い記憶がある自分には実に良い話である。

 

 まさか生まれ変わってもコミュ症が治っていないとは。いや、中身は同じだからしかたがないのか。

 今生では顔に傷までできてしまっているのだから、さらに人相が悪化してしまった。

 せっかく顔の出来は良いというのに、最悪である。

 

 気が使えることと、毒が使えることに慢心した結果がこれだ。

 泥を体に塗って匂いを消して待ち伏せしたまでは良かったものの、最後の最後に焦ってしまった代償だ。

 何故にあの時の自分は、大虎相手に短剣で大立ち回りを演じようと思ったのか。

 毒で弱っていても虎は虎、焦っても接近戦は絶対にやってはいけない。

 

 どうにも自分には英雄補正がないようだ。毒で鈍っていなければ、顔が吹き飛んでいただろう。

 

 この経験から私はさらに自分の決意を新たにしたのだ。

 絶対に、士官は、しません。虎よりも恐ろしい連中とどうして戦わにゃならんのだ。

 お金とか名誉とか、そんなものより安定が求められる現代出身をなめてはいけない。金が稼げるからって定時で帰れないのは嫌なのだ。

 

 というわけで、おっさんの誘いを断った。面倒くさい可能性は一欠片だって残さない。

 その後も度々お声はかかるものの、その度に故事や未来の寓話や本から引用した言葉でごまかし、全て袖に振って村の中で過ごした。

 

 その間も武術を磨き続ける。才能はなくても、無いなりに鍛えておいた方がいい。

 振りかかる災難、賊は増えるばかりだ。そういう連中を相手するために、鍛えることは絶対に必要。

 最も、自分から賊を狩ったり、猛獣に挑んだりはもうしない。虎で懲りましたわ。自ら変なところに飛び込んだらあかん。死ぬ。

 

 戦乱が終わるまで村で過ごすつもりだ。

 

 劉備や曹操、孫策らが建国し、どのルートに入るか解らないがエンディングになる。

 そしたら武官以上に文官が求められる時代になるだろう。

 戦後に文官は何人いたって足りないはず。そうなれば適当な採用条件がいいところで仕官すればいい。

 

 どんなことを考えながら数年が経ったあるとき。村の長老に呼ばれた。

 

 「ここら一帯の村々は、太平道に与する事に決めた。お前も力を貸してくれるな?」

 

 おい。

 今何言いやがったこのクソジジイ。




 久しぶりに実家に帰ったら、恋姫の四コマ漫画を見つけて書きたくなりました。
 恋姫は四コマ面白いですよね、見ているとあっという間に時間が過ぎます。

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