青春物語宣言〜なかよし部〜   作:ほーさんでっさ

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第11話

普段は埃と静寂、そして怠惰な空気に支配されているこの場所が、今日はまるで野戦病院の撤退戦のような慌ただしさに包まれていた。

「おいクロエ君! その漫画の山は置いていけ! 重量が嵩むだけだ!」

「……本気? これがないと暇で死ぬんだけど。精神安定剤みたいなもんなの」

「ユニ先輩~! 私の美顔器とヘアアイロン、どっちが大事ですかね!? 究極の二択なんですけど~!」

「どっちも要らん! 通信機器と最低限の着替え、あと非常食だけを持てと言っているだろう!」

ユニは部室の中央で、腕を組みながら的確かつ焦燥を含んだ指示を飛ばしていた。

 

テーブルの上には、ティーパーティーから届いたばかりの「監視強化通達」が無造作に広げられている。

封蝋の赤色が、まるで血痕のように見えた。

(ナギサ君の本気を感じる……。これは単なる嫌がらせではない。明確な「排除」の意思だ)

セイアの脱落により、均衡を失ったトリニティ。

疑心暗鬼に陥ったナギサは、少しでも不穏な動きを見せる因子を片っ端から潰しにかかっている。

非公認であり、かつてブラックマーケットなどでも好き勝手に活動していた「なかよし部」は、真っ先に粛清リスト入りしたことだろう。

 

「このままここに居れば、遅かれ早かれ難癖をつけられて退学だ。……我々には、ナギサ君の目が届かない、あるいは『監視済み』として放置されている安全地帯(セーフハウス)が必要だ」

ユニは眼鏡を押し上げ、結論を出した。

「行き先は『補習授業部』の部室だ」

「えぇ~? なんでまた勉強しに行かなきゃなんないんですかぁ?」

チエルが頬を膨らませ、丁寧にパッキングしたコスメポーチを抱きしめて抗議する。

「私、もう補習はこりごりですよぉ。青春(アオハル)の無駄遣いですぅ」

 

「逆だよチエル君。あそこはナギサ君が『問題児を一箇所に集めて隔離する』ために作った場所だ。つまり、灯台下暗し。既に隔離されている場所に紛れ込んでしまえば、新たな追撃を躱せる可能性が高い」

ユニはホワイトボードに簡単な図を描いた。

『ナギサの監視網』の外側に逃げるのではなく、内側の『ゴミ捨て場』に自ら飛び込むという発想だ。

 

「……なるほど。毒を持って毒を制す、ってこと? 悪くない判断」

クロエが段ボールを担ぎ上げ、淡白に同意する。

「どうせあっちも旧校舎だし、構造は似たようなもんでしょ。隠れるには都合がいい」

「そういうことだ。……行くぞ。これは敗走ではない。より強固な陣地への戦略的アップデートだ!」

こうして、なかよし部一行は、生活用品と大量の「大事なガラクタ」を抱えて象牙の塔を後にした。

目指すは、トリニティのもう一つの吹き溜まり――補習授業部の教室である。

 

ガララララッ!!

静寂に包まれていた旧校舎の一室。その扉が、遠慮のない音と共に開け放たれた。

淀んだ空気が動き、教室内の埃が舞う。

「失礼するよ。……ふむ、ここがナギサ君の用意した『ゴミ捨て場』か。空調は効いているようだが、カビ臭いな」

 

先頭を切って入ってきたユニに続き、クロエとチエルがドカドカと荷物を運び込む。

教室にいた先客たち――補習授業部の面々は、突然の侵入者にペンを止め、凍りついた。

「な、なによあんたたち!?」

最初に反応したのは、赤いラインの入った制服の少女、下江コハルだった。

彼女は机をバンと叩いて立ち上がり、侵入者たちを指差した。

「部外者は立ち入り禁止よ! ここは神聖なる補習の場なんだから! 変なもの持ち込んだら没収するわよ!?」

 

ユニはコハルの的外れな抗議を一瞥して無視し、教卓に立つ人物に目を向けた。

黒髪のウルフカット、タイトなスーツ、そして白衣。

噂のイレギュラー、連邦捜査部シャーレの顧問「先生」だ。

先生はチョークを置き、眉をひそめてユニたちを見据えた。

そこには、子供を甘やかすような緩さはなく、不法侵入者に対する大人としての警戒と、教師としての威厳があった。

「……君たちは? ノックもなしに入ってくるなんて、感心しないな」

静かだが、芯の通った声。

 

あくまで対等な「交渉相手」として振る舞うべく、名乗りをあげる。

「失礼。我々は『なかよし部』。……ナギサ君の理不尽な弾圧により、活動拠点を追われる身だ。単刀直入に言おう、先生。この教室を、我々のシェルターとして提供したまえ」

「はあ? 何言ってるの?」

先生は困惑し、警戒の色を強める。当然の反応だ。

 

いきなり現れた素性不明の生徒が、堂々と「匿え」と要求しているのだから。

「断る理由はないはずだ。敵の敵は味方。我々を受け入れれば、ナギサ君に対抗するための知恵を貸してやらんでも……」

ユニの言葉が止まった。

交渉のカードを切ろうとしたその時、視界の端に、ある一人の少女を捉えたからだ。

机に向かって小さくなっていた、黄色のツインテールの少女。

平凡を絵に描いたような、阿慈谷ヒフミ。

ユニの目が、懐かしそうに、そしてニヤリと細められた。

 

勝った、と思った。最強の交渉カードが、向こうから転がり込んできたのだ。

「おや……。そこにいるのは、見覚えのある顔だね」

名前を呼ばれたわけでもないのに、ヒフミの肩がビクリと跳ねた。

恐る恐る顔を上げる。そして、ユニたちの顔を見た瞬間、その表情が「しまった」という焦りと絶望に染まった。

「あ……あぁ……」

 

ヒフミの脳裏に蘇る、鮮烈な記憶。

数ヶ月前のブラックマーケット。

ゴミ山から発掘された巨大なペロロ像。それを巡ってヘルメット団と争い、ボロボロの軽トラで爆走し、敵を爆破したあの夜。

そして、その中心にいたのが、目の前の三人組だった。

彼女たちは決して悪い人たちではない。むしろ助けてくれた恩人だ。

だが、問題なのはそこではない。

「阿慈谷ヒフミが、あのような無法地帯で、あんな騒動の中心にいた」という事実を知っている人間が、この場に現れたことだ。

 

もし、それが先生や他の部員にバレたら?

「ヒフミちゃん、不良だったの!?」と軽蔑されるかもしれない。

「死刑よ!」とコハルちゃんに断罪されるかもしれない。

(ま、まさかここで会うなんて……! バラされたら、私の「普通の青春」が終わっちゃいます……!)

 

「奇遇だね、ヒフミ君。いや……『あの時のゴミ山女王』と呼んだ方がいいかな?」

「わーーーっ!! ストップです! ストップですぅぅぅ!!」

ヒフミが慌てて立ち上がり、両手でバツを作る。顔は真っ赤だ。

「な、なんのことですかぁ!? 人違いです! 私、そんな名前知りません! ゴミ山なんて行ったことありません!」

「何を言っているんだ。あの日、ブラックマーケットの深部で、巨大なペロロ像を背負って『これは私の家宝です!』と高らかに宣言し……」

「わーーーっ!! アーアー聞こえませーん!!」

 

ヒフミが大声で遮る。必死すぎて涙目になっている。

教室がシーンと静まり返る。

コハルやアズサ、ハナコ、そして先生が、怪訝な顔でヒフミを見ている。

「ヒフミちゃん? ……ブラックマーケットって……?」

先生が静かに尋ねる。

 

「ち、違います先生! 誤解なんです! 人違いなんですぅ!」

ヒフミが必死に弁明する。

ユニは察した。

(なるほど。彼女は表向き「普通の生徒」を装っているのか。……ふむ、裏の顔(アウトロー)を隠して学園生活を送るとは、なかなかの策士だ)

ユニの中で、ヒフミへの評価が「変人」から「狡猾なアウトロー」へと勝手に格上げされた。

これは使える。

 

ユニはニヤリと笑い、先生に向き直った。

「失礼。どうやら人違いだったようだ。……だが先生、彼女(ヒフミ)とは以前、『ちょっとした課外活動』で一緒になってね。とても骨のある生徒だと記憶しているよ」

「え、ええ……まあ……」

 

ヒフミは冷や汗をダラダラ流しながら、力なく頷くしかない。否定すれば、ユニが具体的なエピソード(軽トラでの銃撃戦など)を語りだすかもしれないからだ。

「つまりだ、先生。彼女のような『面白い人材』がいるこの場所なら、我々のような『異端児』が混ざっても違和感はないだろう? ……ねえ、ヒフミ君?」

ユニは目でヒフミに訴える。『バラされたくなければ協力しろ』と。

ヒフミは涙目で、ガクガクと首を縦に振った。

 

「せ、先生……。あ、あの、この人たち……悪い人たちではない、と……思います……たぶん……」

先生は頭を抱えた。

ヒフミのこの異常な動揺ぶり。そして、この生徒たちが抱える「訳あり」な空気。

教師としての勘が告げている。「ここで追い出せば、もっと面倒なことになる」と。

先生は深いため息をつき、それから少しだけ表情を緩めた。

「……事情はよく分からないけど。ヒフミちゃんがそう言うなら、信じるよ」

先生は近くの空き椅子を引いた。

 

「狭いけど、座りなよ。……詳しい話はあとで聞かせてもらうからね」

「……感謝するよ」

ユニは短く礼を言い、椅子に座った。

チエルがヒフミの席に駆け寄る。

「ヒフミ先輩~! お久しぶりです! あの時のペロロ様、まだ元気ですか?」

「あ、あはは……。チエルさん、でしたっけ。……あの、ここでの会話は、その……お手柔らかにお願いしますね……?」

 

ヒフミが小声で懇願する。

「お任せくださいよぉ! 秘密厳守はなかよし部の鉄則です☆」

「……だといいんだけど」

クロエも荷物を置き、やれやれと肩をすくめた。

こうして、なかよし部は「ヒフミの弱み」という最強のカードを切って、補習授業部への合流を果たしたのだった。

 

不法占拠(シェア)から数時間。

なかよし部の面々も、それぞれのペースでこの空間に居座り始めていた。

教室の隅では、静かなる武闘派たちの交流が始まっていた。

白洲アズサが自分の愛銃の手入れをしているのを、クロエが横目で眺めている。

「……何」

 

視線に気づいたアズサが警戒する。

「……いや。いい銃だと思って。手入れも完璧」

「……! お前、銃が分かるのか」

「生きるために覚えた。……その分解手順、教科書通りじゃない。実戦派でしょ」

「……ああ。お前も、ただ者ではないな」

 

二人の間に、言葉以上の会話はなかった。だが、そこには戦う者同士にしか分からない、静かなる敬意が芽生えていた。

一方、ユニは窓際で優雅に本を読んでいた浦和ハナコの隣に陣取っていた。

「……随分と余裕だね。この状況で」

「あら、そうですか? 私はただ、賑やかになって嬉しいだけですわ♡」

ハナコはとぼけるが、その瞳は鋭くユニを観察している。

 

ユニもまた、ハナコの底知れなさを感じ取り、無言で微笑み返した。

(……ただのエロ河童ではないな。この気配、同類の匂いがする)

先生は、教卓からそんな生徒たちを眺めていた。

カオスだ。間違いなくカオスだが、不思議と空気は悪くない。

ナギサによって集められた「落ちこぼれ」たちと、逃げ込んできた「はみ出し者」たち。

彼女たちは、社会からはみ出したという一点において、奇妙な親和性を持っているのかもしれない。

 

その予感は的中した。

まず訪れたのは、甘いお菓子を持った「魔女」だった。

「やっほー☆ みんな頑張ってる?」

現れたのは、聖園ミカ。

ティーパーティーのパテル派の長であり、ユニたちが警戒する「震源地」だ。

「あ! ミカちん! お疲れ様ですぅ~☆」

チエルが無邪気に手を振る。

「えっ……?」コハルたちが凍りつく。

ミカは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに天使の笑顔で応じた。

 

「あはは、チエルちゃんもいたんだ。……ふふ、賑やかになって良かったね」

ミカはロールケーキを配りながら、ユニの元へ歩み寄った。

そして、屈み込んで耳元で囁く。

「……ねえ、ユニちゃん。あの子たち(補習授業部)に変な知恵、つけないでね? 特に……『私のこと』とかさ☆」

絶対零度の警告。

ユニは紅茶を啜りながら、淡々と返した。

 

「ボクは事実と論理しか語らないよ。……安心したまえ」

ミカが去った後、教室には微かな緊張が残った。

だが、それを吹き飛ばすように、第二の試練が訪れた。

「失礼します。シスターフッドより派遣されました」

無機質な試験監督。

 

彼女が突きつけたのは、ナギサによる「第一回学力確認テスト」だった。

内容は、古トリニティ語による超難解な神学論文の読解。

赤点を取れば、即刻退学。

「な、なによこれ……読めない……」

アズサが震える。

「こんなの、習ってません……!」

ヒフミが涙目になる。

 

先生が抗議するが、受け入れられない。

その時、ハナコの手が震えた。

(……読める)

彼女には、この内容が理解できた。だが、ここで実力を出せばナギサに目をつけられる。しかし解かなければ全員退学。

進むも地獄、退くも地獄。

ハナコがペンの先を震わせていた、その時。

 

「……くだらないな」

静寂を破ったのは、冷ややかな嘲笑だった。

ユニだ。

「ナギサ君も焼きが回ったか。……こんなカビの生えた古文書を引っ張り出してくるとは」

ユニは問題用紙をペラペラとめくり、鼻で笑った。

 

そして、隣で苦渋の表情を浮かべるハナコを一瞥し、ニヤリと笑った。

(安心したまえ、同類。……泥を被る役なら、ここに適任がいる)

ユニは手元のルーズリーフに猛スピードでペンを走らせた。

書き終えるや否や、ユニは反対隣のチエルにその紙をバシッと押し付け、小声で命じた。

「チエル君。……これを『感情を込めて』読み上げたまえ」

「え? 今ですかぁ?」

「今だ。最大ボリュームでな」

「了解です☆」

 

そして、ユニは前席のクロエの椅子を蹴った。

「クロエ君、壁だ」

「……りょ」

次の瞬間。

「あーーーっ!! 消しゴム落とした!!」

クロエがわざとらしく大声を上げ、立ち上がった。

 

そして、試験監督の目の前に立ちはだかるようにして、床に這いつくばる。

「あれー? どこ行ったー? ないなー、おかしいなー」

「ちょ、ちょっと! 席に戻りなさい!」

監督がクロエに視界を遮られる。

「動かないで。踏むよ」

クロエがドスの効いた声で威圧し、監督を釘付けにする。

 

その隙に、チエルがスクッと立ち上がった。

手には、ユニが書いたルーズリーフ。

「あー! なんか急に『ポエム』が読みたくなってきましたぁ!!」

「はあ!?」

コハルやヒフミがギョッとする。

チエルはユニが書いた難解な「正解」を、ギャルのバイブスで朗読し始めた。

 

「『ああ~! バルナバス様マジ尊い~! でもその愛は二面性があるとかヤバくな~い!?』」

教室に響き渡るチエルの大声。

「『ぶっちゃけ慈愛とか言いつつ、裏では政治利用とかマジ引くんですけどぉ~! つまり答えは【欺瞞】ってことですねぇ~!』」

「『てか次の問題ぃ! 否定神学とか意味不だけどぉ、逆に考えれば【光】が見えてくるとかエモすぎません!? 答えはBの光で決まりですぅ~!!』」

「静かにしなさい!! 退場させますよ!!」

 

監督が叫ぶが、クロエが壁となって通さない。

その間に、チエルのポエムはクライマックスへ。

「『ラストは全部Aで埋めときゃワンチャンあるとか、人生イージーモードすぎますぅ~!!』」

朗読終了。

 

チエルは満足げに紙を置き、ウインクした。

「ふぅ、スッキリしましたぁ☆」

教室は静まり返った……わけではない。

ヒフミとコハル、アズサのペンが、猛烈な勢いで動いていた。

「(ば、バルナバス様は二面性……答えは欺瞞……!)」

「(否定神学はB……!)」

 

ハナコは、口元を扇子で隠し、肩を震わせていた。

(……ふふっ、あはははっ! なんて……なんて強引なやり方!)

ハナコは一言も発していない。ヒントを出したのは、あくまで「頭のおかしいギャルが勝手に叫んだだけ」だ。

これなら、ハナコが疑われる余地は微塵もない。

(どうだい。これなら文句はあるまい?)

 

「試験終了です」

監督が用紙を回収し、怒り心頭で去っていった。

教室内には、燃え尽きた灰のようにぐったりとした生徒たちが残された。

「し、死ぬかと思った……」

ヒフミが机に突っ伏す。

 

だが、手応えはあった。全員、白紙ではない。おそらく赤点は回避できただろう。

先生が、ユニの元へ歩み寄った。

「ユニちゃん……」

先生は深く息を吐き、呆れたように、しかし感謝を込めて苦笑した。

「すごいやり方だったね。……試験監督も形無しだよ」

「……ふん。我々は『なかよし部』だぞ、先生」

 

ユニは眼鏡を直し、悪びれずに言った。

「空気を読むなどという高尚なスキルは持ち合わせていない。……騒ぎたい時に騒ぎ、ポエムを読みたい時に読む。それが我々の流儀だ」

「……ありがとう。おかげで、全員助かったよ」

先生は真摯な眼差しで礼を言った。

ユニはフンと鼻を鳴らし、視線を逸らした。

 

「勘違いするな。これは『家賃』だ。……それと、あそこのエロ河童が困った顔をしていたから、少し手を貸したに過ぎない」

ユニの視線の先には、ハナコがいた。

ハナコはユニと目が合うと、扇子をずらし、悪戯っぽく、しかし心からの笑顔を見せた。

「……素敵なポエムでしたわ、ユニさん。感動しました」

「……茶化すな」

帰り際。

 

校門を出たところで、ハナコがユニの隣に並んだ。

「貴女、本当に面白い方ですね」

ハナコの声は、いつもの演技がかったものではなく、素のトーンに近かった。

「……私の代わりに、あんな目立ち方をしてくださるなんて」

「才能ある者が、つまらない政治の道具にされるのは美しくないからね」

ユニは前を見たまま答える。

「それに、ボクたちは元々『問題児』だ。今更評価が下がったところで痛くも痒くもない。……だが、君は違うだろう?」

 

ハナコは足を止め、ユニの背中を見つめた。

自分を守るために、自らピエロの演出家になってくれた賢者。

「……ふふ。これからは少し、気が楽になりそうです」

ハナコは再び歩き出し、ユニを追い越した。

すれ違いざま、小声で囁く。

 

「……頼りにしていますわ、賢者さん?」

ユニはニヤリと笑った。

「……利用する気満々か。まあいい、利害が一致する間は付き合ってやろう」

賢者と策士。

二人の間に、言葉以上の強固な、そして誰にも言えない秘密の同盟が結ばれた瞬間だった。

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