青春物語宣言〜なかよし部〜   作:ほーさんでっさ

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第2話

聖テレサ女学院、旧校舎「象牙の塔」。

その最上階にある研究室は、今日も今日とて重苦しい空気に包まれていた。理由は明白、慢性的な資金不足である。

 

「諸君、状況は深刻だ。昨日の夕食は、森で拾った木の実と水道水だった」

ユニがげっそりとした顔で報告する。

 

「えぇ……ユニ先輩、それは流石にサバイバルすぎませんか? お腹壊しますよ?」

チエルが心配そうに眉を下げる。その口調は丁寧だが、彼女の放つ極彩色のオーラは相変わらずだ。

「あたしはちゃんとバイト代でパン買ったからいいけど。……で? ユニ先輩、またなんか思いついたわけ?」

クロエが呆れ半分に尋ねると、ユニは待っていましたとばかりに眼鏡を光らせた。

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれたクロエ君。前回、ナギサ女史には却下されたが、我々は既に『トリニティ景観向上事業団』として非公認ながら活動を開始している。そこでだ!」

 

ユニは机の上に置いてあった布をバッと取り払った。

現れたのは、ドローンのような機械に、無理やりファンシーなユニコーンの角とカメラを取り付けた奇妙な物体だった。

 

「これぞ新発明、『ぷかぷかユニコプター・索敵くん一号』だ! これでトリニティ自治区内の『景観を損ねている場所』をサーチし、我々『ユニちゃんズ』がそこを強襲! 綺麗サッパリ浄化したのち、事後承諾でティーパーティーに高額な清掃費を請求するのだ!」

「なるほど! 私たち『なかよし部』が掃除をして、お金をもらうわけですね! マッチポンプ的なビジネスモデルです☆ さっすがユニ先輩、悪知恵だけはトリニティ随一です!」

チエルがニコニコと笑顔で「ユニちゃんズ」を「なかよし部」に訂正しつつ拍手する。

「……まあいい。早速、反応があったぞ」

 

ユニがモニターを指差す。

映し出されたのは、トリニティとゲヘナの自治区境界線付近にある、放棄された市街地エリアだった。壁はスプレーの落書きだらけで、いかにもガラの悪い連中がたむろしている。

 

「不法占拠者に、違法な落書き。まさに景観汚染の極みだ。ここを更地にすれば、間違いなく感謝状と共に金一封が贈られるはず!」

「更地にする前提なんですね……」

「行くぞ、景観向上事業団! いや、ユニちゃんズ、出動だ!」

「はい! 『なかよし部』、出動ですね!」

 

トリニティ外縁部、廃墟エリア。

そこは、法の目が行き届かないグレーゾーンであり、複数のスケバン・グループが縄張りを争う激戦区だった。

 

「あー、かったりぃ。マジでこんなとこ掃除すんの? ユニ先輩」

到着するなり、クロエが愚痴をこぼす。

周囲には鉄パイプを持ったスケバンたちが、怪訝な顔でこちらを睨みつけていた。

 

「当然だクロエ君。これも部費のため、そしてボクの明日の食パンのためだ。……おい、そこの不届き者たち! 直ちに退去したまえ!」

ユニが懐から小型の自動拳銃を取り出し、ビシッと突きつける――が、その手は小刻みに震えており、銃口はあさっての方向を向いている。

 

「あぁ? なんだテメェら。ここが誰のシマだと思って……」

スケバンたちが殺気立つ。

だがその時、通りの向こう側から、もう一つの集団が現れた。

ロングコートを翻す長身の女、爆弾を抱えた小悪魔的な少女、無愛想なダウナー少女、そしてオドオドした少女の四人組。

ゲヘナ学園の「便利屋68」である。

 

「あら? 先客かしら」

リーダーのアルが足を止める。彼女たちもまた、誰かからの依頼でこのエリアの「掃除」に来ていたのだ。

ユニは瞬時に計算した。ゲヘナの生徒。しかもあのようなアウトローな風貌。間違いなく、このエリアを汚染する元凶の一部だと。

一方、アルもまた勘違いをしていた。トリニティの深窓の令嬢たちが、こんな吹き溜まりにいるはずがない。つまり、彼女たちもまた「裏の仕事人」なのだと。

二人のリーダーが対峙する。

風が吹き抜け、空き缶がカランと音を立てた。

 

「ふっ……。初めまして、同業者の方。私たちは『便利屋68』。このエリアは私たちが依頼を受けているのだけれど?」

アルがハードボイルド(自称)な笑みを浮かべて牽制する。

対してユニは、胸を張って宣言した。

 

「同業者? 一緒にしてもらっては困るな。我々は高潔なるトリニティの守護者……『トリニティ景観向上事業団』、通称『ユニちゃんズ』だ!」

「そうですね! 我々『なかよし部』の存在を、世の中に知らしめましょう!」

ユニの決め台詞に被せるように、チエルが元気よく言い放つ。

その瞬間、時が止まった。

 

「……は?」

アルの表情が固まる。

 

(『ユニちゃんズ』……? いや、『なかよし部』……!? な、なんてふざけた名前……いや、待って。裏社会でそんな可愛らしい名前を名乗るなんて、逆に自信の表れ!? 『姿を見た者は生きて帰れないから、名前だけで油断させる』……そういうことなの!?)

アルの脳内で勝手な妄想が加速していく。

「な、なかよし部……。やはり、ただ者ではないようね……」

「ふふん、恐れ入ったか」

 

ユニが得意げに鼻を鳴らす。

その背後で、クロエが低く呟いた。

 

「……おいチエル。今あいつ、なかよし部にビビったぞ」

「ちぇるーん? 名前が可愛すぎて驚いちゃったんですかね☆」

「……違うと思うけど」

 

コソコソと言い合う二人を見て、アルの隣にいたカヨコが溜息をついた。

「アル、なんか噛み合ってない気がするけど」

「違うわカヨコ! あれは高度な情報戦よ! 名前を二つ出すことでこちらの認識を撹乱しているのね!」

「とにかく! このエリアの景観を向上させるのが我々のミッションだ。邪魔をするなら排除する!」

 

ユニが震える銃を構え直す。

それに反応したのは、便利屋の切り込み隊長、ハルカだった。

「排除……? 私たちを……アル様を、排除するって言いましたか……? 雑草が……よくも……よくもォォォ!!」

「ひぃっ!? 急にキレた!?」

 

ハルカがショットガンを構え、トリガーを引き絞る。

轟音と共に戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

「ちぇる~ん☆ いきなりドンパチですか! 望むところです!」 

チエルが軽やかにステップを踏み、銃弾を回避する。

彼女の腰には、ピンクのラインストーンで「ちぇる☆」とデコレーションされた派手なハンドガンが差さっているが、彼女はそれを抜こうともしない。

 

「銃撃戦ですか? でも、狙いをつけるのは面倒ですねっ!」

チエルは強化外骨格のようなエフェクトを拳に纏わせると、目にも止まらぬ速さで踏み込んだ。

「ちぇるちぇる・ぱぁぁぁんち!!」

「げぇっ!?」

 

接近戦を挑まれたハルカが驚愕する。チエルの拳圧がハルカを吹き飛ばした。

その動きに合わせて、ムツキが楽しそうにカバンを開いた。

「あははっ! お姉さん、銃持ってるのに使わないんだ! 面白いね~! これならどう? ぽいっ!」

 

投げられたのは無数の爆弾。

チエルはそれを空中で蹴り返しながら、ウィンクを決める。

 

「お返しです☆ 爆発は芸術、ってやつですか?」

「おっ、話わかる~! どっかん!」

 

爆炎が咲き乱れる中、キャッキャと笑い合う二人。波長が合いすぎて逆に危険極まりない。

一方、クロエは物陰に滑り込み、冷静に応戦していた。

 

「あーもう、めんどくさ。なんであたしがこんなこと……」

銃撃の合間に、反対側の遮蔽物に隠れているカヨコと目が合う。

「……あんたも、苦労してそうだね」

カヨコがボソリと呟く。

 

「……そっちもな。リーダーがアレだと大変だろ」

「……否定はしない」

 

敵同士ながら、奇妙なシンパシーが流れた。

そして、戦場の中央。

ユニは優雅に(実際は腰が引けているが)銃を指揮棒のように振り回していた。

 

「甘い! 甘いぞ便利屋! ボクの計算では、その弾道は当たらん!」

ユニがそう叫んだ瞬間、アルのスナイパーライフルが火を吹く――はずだったが、アルが瓦礫に躓いて体勢を崩した。

弾丸はとんでもない方向へ飛び、看板を固定していたロープを切断。巨大な看板がスケバンたちの頭上に落下した。

 

「なっ……!?」

 

ユニは目を見開いた。

「計算外の軌道……いや、あえて外して環境を利用した攻撃か!? なんという高等戦術……! やるな、女史!」

「えっ? あ、ええ! 当然よ! 全て計算通りだわ!」

 

アルは冷や汗をダラダラ流しながらドヤ顔を決める。

賢者とハードボイルド、互いに過大評価し合うポンコツの頂上決戦である。

そこへ、無視されていた現地のスケバンたちが激怒して乱入してきた。

 

「テメェら! 人のシマで好き勝手やってんじゃねえぞオラァ!」

奥から改造された巨大なブルドーザーが突っ込んでくる。

 

「げっ、戦車!?」

「アル様、危ないです!」

 

ブルドーザーが暴れ回り、廃墟の壁を次々と破壊していく。

これでは景観向上どころか、ただの災害現場だ。

 

「ええい、おのれ! ボクの計算を物理で粉砕するとは! こうなれば奥の手だ!」

ユニは懐からリモコンを取り出し、高らかに叫んだ。

ドローンの影から、もう一つの機械が投下される。

 

「行け! 『なかよしX(プロトタイプ)』! 我が叡智の結晶を見せてやるのだ!」

 

ズシン、と着地したのは、円筒形のボディに無理やり手足をつけたようなロボットだった。

目はLEDでギラギラと輝いている。

「起動確認。ターゲット・ロックオン」

 

ロボットから合成音声が響く。

アルが身構える。

 

「くっ……秘密兵器まで隠し持っていたなんて……!」

 

しかし、ロボットは攻撃する代わりに、アルの方を向いて喋り出した。

『対象・アル。顔面偏差値・高。知能指数・測定不能。中身・ポンコツ。社長ごっこは楽しいでちゅか?』

「…………はい?」

アルの思考が停止する。

『そのコート、通販で買った安物ですか? 似合ってまちゅよ、見栄っ張りなオバサン』

「お、オバ……ッ!?」

 

アルの顔が真っ赤になり、目じりに涙が浮かぶ。

精神的ダメージは甚大だった。

「ちょ、ちょっと! 設定がおかしいぞ! なんで煽りスキルに全振りしてるんだ!」

 

ユニが慌ててリモコンを叩くが、ロボットは止まらない。

 

『対象・ユニ。金欠チビ。へ理屈メガネ。友達料を払わないと人が離れていくタイプ』

「ぐわぁぁぁっ!!? ボクにまで!?」

ユニが膝から崩れ落ちる。敵味方無差別の精神攻撃兵器、それが『なかよしX』だった。

だが、それが最悪のトリガーを引いた。

 

「アル様を……オバサンって言ったァァァァ!!!!」

ブチギレたハルカが、大量の爆薬を抱えてブルドーザーに向かって走り出したのだ。

「許さない……この一帯ごと消えろォォォ!!」

「ま、マズイですよあれ! このエリアごと吹っ飛びます!」

 

チエルが叫ぶ。

クロエが舌打ちをした。

 

「チッ……あーもう! ユニ先輩、アレ蹴っ飛ばすから合図して!」

「えっ、あ、うん! ……今だクロエ君!」

 

クロエが『なかよしX』を全力でキックする。

吹っ飛んだロボットは、暴走するハルカとブルドーザーの間に挟まった。

 

『自爆モード、シークエンス開始』

「は?」

 

カッッッッッ!!!!!

閃光。そして轟音。

なかよしXの自爆と、ハルカの爆薬、そしてブルドーザーの燃料が誘爆し、凄まじい爆発が廃墟エリアを飲み込んだ。

 

砂煙が晴れると、そこには何もなかった。

廃墟も、落書きも、スケバンたちの拠点も。

ただ、見事なまでの更地が広がっていた。

 

「……ふぅ。これで任務完了、ですね?」

煤だらけになったチエルが、にっこりと笑う。

 

「どこがだよ。死ぬかと思った……」

ボロボロのクロエが座り込む。

 

反対側では、同じく煤まみれのアルたちが呆然としていた。

「……な、なんなのよあいつら……」

「アルちゃん、あのお姉さんたち面白かったね~!」

ムツキは楽しそうだが、アルは完全にトラウマを植え付けられたようだった。

ユニは立ち上がり、ボロボロの服を払ってアルに歩み寄った。

 

「……ふっ。なかなかやるな、便利屋68。今日のところは引き分けとしておこう」

「え、ええ……。トリニティ景観向上事業団……『なかよし部』。覚えておくわ……(二度と会いたくない……)」

アルは震える声で答え、そそくさと撤退していった。

 

数日後。

「端的に換言すれば、破産だあああああ!!!」

象牙の塔に、ユニの絶叫がこだました。

テーブルの上には、ティーパーティーからの手紙。

ユニが自信満々で送りつけた「景観向上作業費」の請求書に対する返答である。

そこには、ナギサの優雅な筆跡でこう書かれていた。

『不法占拠者の排除には感謝しますが、過度な爆破活動による地盤沈下および騒音公害への苦情処理費用を請求します。差し引き、マイナス20万クレジットです。――桐藤ナギサ』

 

「なんでですか!? 更地になったから景観は最高になったじゃないですかー!」

「……マイナスってことは、借金じゃん」

チエルとクロエが冷めた目で見つめる中、ユニは涙目で空を仰いだ。

「神よ……ボクの明日のパンはどこだ……」

聖テレサ女学院、なかよし部。

彼女たちの戦い(と金欠)は、まだ始まったばかりである。




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