青春物語宣言〜なかよし部〜   作:ほーさんでっさ

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クロエの影が少し薄かったのでメイン話
実力の指標として


第6話

深夜2時。聖テレサ女学院、旧校舎「象牙の塔」。

草木も眠る丑三つ時、なかよし部の部室から、音もなく滑り出る一つの影があった。

黒いパーカーのフードを目深に被り、気配を完全に殺したその少女は、クロエだ。

「……静かだ。闇夜は私の友。誰にも見られず、誰にも知られず……」

クロエは懐に手を当て、そこにある一通の封筒の感触を確かめる。

 

宛先は『月刊・黄昏の詩篇 編集部』。

中身は、彼女が徹夜で推敲を重ねた、魂の叫び(ポエム)の投稿原稿である。

「この想い、世界へ届け……。今日の消印有効だ。急がねばな」

普段の気怠げなダウナー口調とは違う、どこか酔いしれた「ポエマー人格」の独白を心の中で呟きながら、クロエは闇夜を疾走した。

ユニやチエルには絶対に秘密の、孤独な聖戦が始まった。

 

トリニティ自治区の市街地。

街灯がまばらに道を照らす路地裏を、クロエは影のように移動していた。

目指すポストまで、あと数ブロック。

その時だった。

クロエの「暗殺者(アサシン)」としての勘が、強烈な寒気を捉えた。

 

「…………ア?」

前方の曲がり角から、不気味な声が漏れた。

そこに立っていたのは、トリニティの制服を着た、長身の少女。

長い黒髪を振り乱し、両手には二丁のショットガンを引きずっている。

そして、その顔は――

「キェェェェェェ!! ヒャハハハハ!!」

白目を剥き、よだれを垂らしながら、裂けんばかりの笑顔(?)で絶叫していた。

正義実現委員会・委員長、剣先ツルギ。

 

偶然にも、彼女は深夜のパトロール中だったのだ。

(あ、こんばんは! こんな時間に女の子が一人歩きなんて危ないよ!)

ツルギの内心は純度100%の善意と心配だった。

しかし、その出力形式(アウトプット)は、完全にバケモノのそれだった。

「ッ!? (殺気!? なんだコイツ、問答無用で殺す気か!?)」

クロエが身構える。

 

ツルギが「大丈夫?」と近づこうとして一歩踏み出した瞬間、バキィッ! とアスファルトが粉砕された。ただの足踏みで。

「(……マジかよ。目が合った瞬間に戦闘態勢か。トリニティの治安維持部隊は、夜間外出即・処刑ってわけか)」

クロエは冷や汗を流しながら、懐のポエム(封筒)を庇う。

「上等だ。……私の『魂(原稿)』は、誰にも渡さない……!」

 

「キェェェェェ!!(危ないから、私が家まで送るよー!)」

ツルギがドタドタと走ってくる。

クロエには、それが「獲物を見つけた捕食者の突進」にしか見えなかった。

「……チッ。運が悪いな」

クロエの手元で、ジャラッと金属音が鳴る。

スローイングナイフ。

彼女が瞬時に腕を振るうと、ナイフはツルギではなく、頭上の街灯へと突き刺さった。

 

パリーン!

ガラスが砕け、路地裏が完全な闇に包まれる。

「ギギッ!?(あれっ、真っ暗になっちゃった!?)」

「視界を奪えば、デカブツもただの的だ」

クロエは闇に溶け込み、ツルギの側面へと回り込む。

ユニやチエルの前では見せない、「元・裏社会のプロ」としての洗練された動き。

 

クロエはツルギの死角から、関節を狙って蹴りを放つ。

ドゴォッ!

「アブッ!?(わぁ、すごい! 君、動きいいね! カッコいい!)」

蹴りは直撃したが、ツルギはビクともしない。それどころか、クロエの鮮やかな体術に感動し、テンションが最高潮に達してしまった。

 

「ヒャハハハハハ!! イイぞォォ!! もっとダァ!!」

興奮したツルギは、喜びの表現として、手にしたショットガンを空に向けて乱射し始めた。

ズダダダダダダダダッ!!!!

「なっ!? 威嚇射撃にしては殺意が高すぎるだろ!?」

クロエが慌てて遮蔽物に飛び込む。

コンクリートの壁が、ツルギの弾幕でチーズのように削り取られていく。

「(クソッ、なんてデタラメな火力だ……! まともにやり合ったら、私の『魂の詩(ポエム)』が蜂の巣になっちまう!)」

 

クロエは必死に逃げ回りながら、隙を窺う。

しかし、ツルギの野生の勘は凄まじく、どこに隠れても即座に見つかり、「ヒャッハー!(見つけたー!)」と追いかけてくる。

「ハァ……ハァ……。しつこい悪霊だ……!」

クロエは路地の行き止まりに追い詰められた。

 

「ギギギ……アハァ……(へへへ、鬼ごっこ楽しかったね……)」

ツルギがゆらりと近づいてくる。

クロエは最後の手段として、隠し持っていた閃光弾(スタングレネード)のピンを抜いた。

「(ここで目眩ましを使って、強行突破でポストへダンクシュートする……!)」

クロエが決死の覚悟を決めた、その時。

 

「――そこまでになさい、委員長!!」

凛とした怒声が響き渡った。

ツルギの動きがピタリと止まる。

「アブ……?」

現れたのは、長い黒髪と巨大な翼を持つ、グラマラスな少女。

正義実現委員会・副委員長、羽川ハスミだった。

 

「まったく、銃声が聞こえたと思えば……。深夜に何をしているのですか! 市民への威嚇射撃は禁止と言ったでしょう!」

ハスミがツルギの首根っこを掴む。

「ウググ……アババ……(ち、違うの、あの子がすごくて、つい……)」

ツルギは借りてきた猫のように縮こまり、「シュン……」と小さくなった。

ハスミは溜息をつき、クロエの方へ向き直る。

そして、ハスミの眼鏡がキラリと光った。

 

「……貴方、お怪我は?」

「……ない。アンタが止めてくれなきゃ、危ないところだったがな」

クロエは警戒を解かず、パーカーのフードをさらに深く被る。

ハスミの視線が、クロエを値踏みするように観察する。

(……委員長の暴走を、この至近距離で凌いだ? 息は上がっているけれど、外傷はゼロ……。しかもあの制服、ニ年生?)

正義実現委員会は常に人手不足だ。

特に、ツルギの暴走を止められる「実力者」は、ハスミにとって喉から手が出るほど欲しい人材だった。

 

ハスミの表情が、厳格な風紀委員から、「有能な人材を見つけたヘッドハンター」のそれに変わる。

「貴方、お名前は?」

「……通りすがりの善良な市民だ。(名前がバレたら、ポエム投稿の事実まで芋づる式にバレる!)」

「そうですか。では、その『善良な市民』さんに提案です」

ハスミが一歩、詰め寄る。

「正義実現委員会に入りませんか?」

「……は?」

クロエが呆気にとられる。

 

「貴方のその身のこなし、判断力、そして何より『ツルギ委員長と対面しても正気を保てる精神力』。素晴らしい。我が部に来れば、特別待遇(主に委員長のお守り役)を約束します」

「…………」

クロエは顔を引きつらせる。

冗談じゃない。政治の犬になるのも御免だが、あんな怪獣(ツルギ)の世話係なんて、命がいくつあっても足りない。

「……パスだ。私は群れるのが嫌いでね」

 

クロエは手の中で転がしていた閃光弾を、足元に落とした。

カッ!!!!

強烈な閃光が路地裏を白く染める。

「しまっ……!?」

ハスミが腕で目を覆う。

 

視界が戻った時には、既にクロエの姿は消えていた。

ただ、少し先の郵便ポストに、一通の封筒が投函された音が、カタン……と響いただけだった。

「……逃げられましたか。ですが、あの身のこなし……」

ハスミは手帳を取り出し、何かをメモした。

その横でツルギは、「あの子、行っちゃった……」と寂しそうにアスファルトをいじっていた。

 

明け方。

象牙の塔、なかよし部の部室。

「あ~、お腹空いた。ユニ先輩、カップ麺まだですか~?」

「待てチエル君。3分ジャストで蓋を開けるのが美学だ」

徹夜明け(ゲームと読書)のチエルとユニが、朝食の準備をしていた。

そこへ、ドアが開く。

「……ただいま」

ボロボロに汚れ、疲れ切ったクロエが入ってきた。

 

「おや、クロエ君。お帰り。随分とやつれているな。悪霊にでも会ったか?」

ユニが麺を啜りながら尋ねる。

クロエは深くため息をつき、いつもの気怠げな椅子に深く沈み込んだ。

「……ああ。この世で一番うるさい悪霊と、しつこい勧誘員にな」

クロエはポケットを探る。

 

そこには、いつの間にかねじ込まれていた一枚の紙が入っていた。

『正義実現委員会・入部届(推薦者:羽川ハスミ)』。

「(……勘弁してくれ)」

クロエはそれをくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱へと投げ捨てた。

そして、窓の外の白み始めた空を見上げ、心の中で一句詠んだ。

(静寂は、硝煙の匂いと共に去りぬ。……字余り)

彼女の魂の叫びが掲載されるかどうかは、編集部のみぞ知る。

 

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