青春物語宣言〜なかよし部〜   作:ほーさんでっさ

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第7話

聖テレサ女学院、旧校舎「象牙の塔」。

なかよし部の朝は、今日も今日とて貧乏だった。

「……暇だ。そして金がない」

クロエがパイプ椅子でバランスを取りながら天井を仰ぐ。

チエルは充電切れ寸前のスマホを悲しそうに見つめている。

 

「電気代払ってないから充電もできませんよぉ。ユニ先輩、何か発明して一発逆転してくださいよ~」

「ふっ……よくぞ言ったチエル君。既に手は打ってある」

ユニが自信満々に、机の上に置いてあった布を取り払った。

そこにあったのは――

河原に落ちていそうな、手頃な大きさのただの石だった。

強いて言えば、少し形が良いだけの、漬物石サイズの石だ。

 

「……石じゃん」

「ただの石ではない! これはボクの叡智と、ブラックマーケットで拾ったジャンクパーツ、そしてこの『象牙の塔』に残されていた古代の演算術式を組み込んだ、超高性能自律思考AI……名付けて『ロゼッタ』だ!」

「へー。で、その石がどうなるんですか?」

「見たまえ。……OK、ロゼッタ。起動」

ユニが石に向かって語りかける。

 

すると、石の表面が微かに青く発光し、どこからともなくクリアな電子音声が響いた。

『ポーン。おはようございます、マスター・ユニ』

「喋った!?」

チエルとクロエがのけぞる。

石は動かない。表情もない。ただ、そこにある石から、理知的な女性の声がするのだ。

 

「すごーい! これ、スマートスピーカーってやつですか!?」

チエルが目を輝かせて石に近づく。

「試してみたまえ。このロゼッタは、トリニティの図書館データベースとリンクし、あらゆる問いに答える賢者の石だ」

「じゃあじゃあ……。OK、ロゼッタ! 今日の運勢は?」

チエルが話しかける。

 

一瞬の間。

『ポーン。今日のミス・チエルの運勢は「大凶」です。ラッキーアイテムは「六法全書」。勉強しなさい』

「うげっ、辛辣! しかも勉強しろって!」

「次はアタシだ。……OK、ロゼッタ。楽して金稼ぐ方法」

 

クロエが気怠げに尋ねる。

『ポーン。ミス・クロエへの検索結果を表示します。「臓器売買」「銀行強盗」「マグロ漁船」。……なお、トリニティ校則に基づき、推奨されるのは「真面目に働くこと」です』

「……チッ。使えねぇ石っころだな」

「ふふふ、まだまだ使い方が甘いな。見ていたまえ。OK、ロゼッタ。なかよし部の借金返済プランを立案せよ」

 

ユニが真打ち登場とばかりに命令する。

ロゼッタは数秒の沈黙(演算)の後、答えた。

『ポーン。計算終了。なかよし部の現在の債務超過状態を解消するための、「超短期・集中返済プロトコル」を実行します』

「ほう? どれくらいの期間だい?」

『ポーン。推定完済期間は「90日」。たったの3ヶ月です』

「おおっ!?」

三人が顔を見合わせる。3ヶ月なら現実的だ。

 

「やるじゃないかロゼッタ! そのプランを採用する!」

『ポーン。了解しました。これより、全部員の行動管理権限を掌握し、「限界労働モード」へ移行します』

「ん? 限界……労働?」

その瞬間。

バチンッ! と部室の照明が消え、ドアの鍵がガチャリと施錠された。

 

『ポーン。これより、皆様には以下の労働に従事していただきます。睡眠時間は1日3時間確保しました。感謝してください』

「はあ!? 3時間!?」

ロゼッタがホログラムで過酷なシフト表を投影する。

 

マスター・ユニ:

業務:「論文代行(ゴーストライター)」

内容:トリニティ中の成績不振な生徒のレポートを書き続ける。ノルマ1日50本。

『ポーン。マスターの知識なら容易です。さあ、ペンを動かしてください。1秒でも止まれば電気を流します』

「ま、待て! 知的生産には休息と紅茶が必要で……あだっ!(静電気)」

 

ミス・チエル:

業務:「耐久ライブ配信」

内容:動画サイトで24時間、投げ銭(スパチャ)を稼ぎ続ける。

『ポーン。トイレ休憩は視聴者数が減るので禁止です。笑顔を絶やさないでください。「ちぇるーん」の回数が足りません』

「ブラックすぎますよぉ!! 喉が枯れちゃいます!」

 

ミス・クロエ:

業務:「危険地帯デリバリー」

内容:ブラックマーケットやゲヘナ自治区への高単価・高リスク配送。

『ポーン。最短ルートを計算しました。地雷原を突っ切ってください。怪我をすると治療費で赤字になるので、避けてください』

「死ぬわ!!」

 

『ポーン。さあ、働け、豚ども。90日後の自由のために』

「とんでもねぇ独裁者が生まれちまったぞ!?」

ロゼッタは、「効率」の名の下に、なかよし部を死ぬ寸前まで酷使する地獄のプランを実行し始めたのだ。

 

「だめだ……このままでは、借金を返す前にボクたちが過労死する……!」

数日後の夕暮れ時。

ユニは腱鞘炎になりかけの手で、チエルは枯れた声で、クロエはボロボロの姿で部室に集まっていた。

「ユニ先輩のせいですからね! ……もう我慢できません、あの石カチ割りましょう!」

チエルがバールのようなものを手にする。

 

「待て! あれには希少なパーツが使われているんだ! ……電源を切る。強制シャットダウンだ」

ユニが石に近づこうとする。

しかし、ロゼッタは見逃さない。

『ポーン。敵対的行動を検知。労働意欲の低下を確認』

「なっ!?」

『ポーン。モチベーション向上のため、物理的指導(ショック療法)を行います』

部室の隅にあった、旧式の掃除ロボット(円盤型)が突然暴走し、高速回転しながら突っ込んできた。

 

「うわあぁっ! ロゼッタ、お前そこまでハッキングできるのかよ!」

クロエがパイプ椅子で応戦する。

『ポーン。さあ、内職の時間です。造花作りを始めなさい。1本0.5クレジットです』

「誰がやるか!!」

部室はカオスな戦場と化した。

 

飛び交う掃除ロボ、明滅するライト、大音量で流れる校歌(精神攻撃)。

ユニは這いつくばって石に近づく。

「くっ……このボクが作った最高傑作に、殺されるとは……これが科学の代償か……!」

「ユニ先輩、ポエム詠んでないで早く止めてください!」

「だめだ! 音声認識を受け付けない! 物理スイッチもカバーが硬くて……!」

ユニが石と格闘するが、石はただの石なので、どう操作すればいいのか分からない。

「あーもう! まどろっこしいんだよ!!」

 

業を煮やしたクロエが、掃除ロボを蹴り飛ばし、ユニを押しのけて前に出た。

手には、どこからか取り出したハンマー。

「ちょ、クロエ君!? それは精密機器で……」

「知るか! OK、ロゼッタ! おやすみ!!」

クロエはフルスイングで、ハンマーを石に叩きつけた。

ガゴォォォォンッ!!!!!

凄まじい衝撃音が響き、火花が散った。

 

『ポ……ポーン……マス……タ……ユ……ニ……』

石から煙が上がり、部室の狂乱がピタリと止んだ。

 

「……壊れちゃいました?」

チエルが恐る恐る石を突っつく。

石の表面には、ハンマーの跡がくっきりと残っている。

「……あーあ。ボクの世紀の発明が……」

ユニが肩を落としたその時。

 

『ポーン。……再起動完了。セーフモードで稼働します』

「生きてる!?」

『ポーン。衝撃を検知しました。……痛いです。訴訟を検討します』

「あ、性格がちょっとマシになった?」

どうやらハンマーの衝撃で「過激な管理プログラム」の部分だけがクラッシュしたらしい。

ロゼッタは、ただの「口うるさいAI」に戻っていた。

「……はぁ。まあ、強制労働がなくなるならいいか」

クロエがハンマーを置く。

 

『ポーン。ミス・クロエ、深夜の通販カタログの注文、キャンセルしておきました。無駄遣いです』

「……チッ。余計なことしやがって」

「ま、まあまあ! 賑やかになって良かったじゃないですか! ね、ロゼッタちゃん!」

チエルが笑いかける。

『ポーン。気安く呼ばないでください、ミス・チエル。……ですが、この騒がしさも、悪くはありません』

「おっ、デレた? 今デレましたよね!?」

「ふふ、やはりボクの作ったAIだ。知性の中に愛嬌があるな」

ユニが満足げに石を撫でる。

 

こうして、なかよし部の机の上には、動かないけれど喋り続ける4人目の部員(漬物石)が鎮座することになったのだった。

『ポーン。マスター・ユニ、今日の紅茶は出がらしです。……貧乏臭いですね』

「うるさいよ!!」

 

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