が、日本国へと向かう途上及び到着前後のエピソードは存在しない為、この期間を埋める補完的な話となります。
以下は書籍2巻の記述
前書きにて、この物語の叩き台を再確認。
(1)
ムー国内で最も航続距離の長いレシプロ旅客機「ラ・カオス」(巡航速度280㎞/h、航続距離7000㎞)を調達、同盟国連絡用のムー専用空港を使用し、3回の中継地を経て日本へ向かう。
(2)
中継地では迅速な給油を行い、すぐに飛び立つが、日本までは最低5日掛かる。
(3)
日本の領空近くになれば、日本の戦闘機が護衛に付く。西側の都市、福岡市の空港へ着陸する。
(4)
ムーの観戦武官の到着前に、日本国民救出作戦が行われる可能性がある旨が日本国政府から通達されている。我が国もそれを了承している。
本話で補足する案件一覧
(1)
ムー専用空港のある中継地及びその周辺情勢の簡易な説明
(2)
中継地ムー空港におけるモブ職員含む会話交じりの説明
(3)
ムー旅客機「ラ・カオス」の説明及び機内会話
(4)
ムー民間航空会社達(これ等はオリジナル設定を採用)
(5)
第三文明圏方面におけるムー国の海運事情
原作書籍版における世界地図には島の名前も島内国家の名称も不明な場所があり、ムー大陸南東の大小群島海域、第一文明圏南方からアニュンリール皇国外交窓口がある島【ブシュパカ・ラタン】の間に存在する島嶼群、ロクな設定が無いベスタル大陸、第一文明圏と第三文明圏間のベリアーレ海島嶼群、多過ぎるとしか言い様がありません。
中央歴1640年1月22日
首都オタハイトよりムー国鉄東部鉄道線でマイカルへ到着したのが昨日、手配されたホテルに一泊して明朝始発のオセロンガ中央駅へ到着、そして空港を結ぶ乗り合いバスにて漸くアイナンク空港へ到着した。去年の10月に日本国使節団を迎えて以来2度目の来訪だ。
管制塔を組み込んだ三階建てのベトン剥き出しのビル正面門エントランスの待合い場に見知った顔をした人物がいる。
「ラッサン大尉か!」
「マイラス少佐!技術士官と共に赴任する様命令を頂いたのですが、彼方でしたか」
軍服は着用していないから必要ないのだが、咄嗟にムー式敬礼*1をしてしまうのは癖の様なものだろう。
彼の名はラッサン・デヴリン、ムー陸軍士官学校を首席で卒業した秀才と目される人物だ。私と違い卒業後はずっと現場部隊に赴任しており、一時期は租界地の警備防衛を担当する歩兵大隊長を務めていたらしい。このままいけば旅団参謀や師団参謀を務める少佐への昇進も近いだろう。
「第三文明圏の更に東へ行けと聞かされた時は左遷にでもあったのかと部下達から言われてしまいましたよ」
「まぁ、それが基本的な反応だな」
唯でさえ第三文明圏等文明圏面した田舎者の群れと蔑む傾向は有触れている。それに加えパーパルディア皇国が行う覇権主義への反感が合わさり、ここ数年は皇国への態度も厳しい。
「最新鋭の大型旅客機に乗れるのは嬉しくもあるんですが」
「我が国初の冷房に与圧付き旅客機だからな、以前の旅客機じゃとても眠るなんて出来ない騒音が機内に撒き散らされていたから体も少しは休まるだろう」
ムー国専用空港がある文明国や文明圏外国周辺ではラ・カオスを【ムーの巨竜】と呼ぶ者もいるそうだ、横幅30m近いから彼等が見慣れた火喰い鳥やワイバーンより大きいしな。
「マイラス氏にラッサン氏、丁度御付きになられましたか」
横からスーツ姿の外務省職員に声を掛けられる。
「貴方は?」
「申し遅れました、私はムー外務省列強担当部に属する者です」
ラッサンが怪訝な顔をする。文明圏外と思っている国へ行くのに対応する課が列強担当と言われれば、まぁ当然か。
「列強担当部ですか?」
「はい。半月程前までは日本国へ既に赴任しているムー駐日大使ユウヒ・マリーニ閣下の下で働らいていたのですが、新たに赴任するお二方への対応として急遽本国へ戻る様オーディグス・リュック閣下から辞令が下ったのです」
「それは…とんだUターンですね」
「パーパルディア皇国ムー租界地から高速客船の【バロン・ブラン号*2】を仕立てて頂き、日本国沖縄県那覇空港までは日本国の定期航空便の旅客機で向かいましたので、そこ迄大変という訳ではなかったのですが」
ん?日本国の旅客機?
「日本国にも旅客業をする航空会社が?」
「我が国に複数ある航空会社とは比べ物にならない規模ですし、大使館員達も日本国内の視察ではよく使っています」
「その…庶民層まで日常的な利用を?」
「ええ」
我がムー国でも増えつつある旅客航空だが、まだまだ庶民層には高根の花だ。
一般的な庶民層はムー国鉄三等客車や貨客船の三等客室を使う、私が此処に来るまでに乗った客車列車は二等客車だったしな、正直雑魚寝は慣れない人は受け付けないかもしれない、スリや窃盗の問題もある。
「バロン・ブラン号と言えば、ムー国北方にかつて領地を有していたラ・ムー国王陛下のムー王統に連なるムー・トネクルー*3男爵殿下が経営するマドーラ造船所*4が社運をかけて建造した東方航路専用の大型客船ではありませんか」
「ええ、流石に時間的に間に合わないのでは?と辞令を受けた時は思いましたが、エストシラント港まで最大船速で突っ走ってくれた為週一の租界地定期航空便に間に合う事が出来ました」
何とも無茶をさせる…何か重大な案件でも発生したのだろうか?
「待ってくれ、ムーの大型客船が入れる港があるのか?その…ナハコウとやらに」
「泊8号岸壁というバロン・ブラン号すら小型船に見える程の岸壁*5に横付けし乗り込みました。船が珍しいのか数百人単位の見物客が港ターミナル*6に詰めかけましてね、ちょっとした騒ぎになったそうでして」
*日本国民側から見れば石炭炊きで黒煙をモクモク吐き出す大型船舶は珍しい通り越して絶滅種である。
ムー国の誇る大型客船が小型船?一体どれだけ大きい港なんだ?
そんな中、空港職員が此方に向かってくる。
「通達にあったムー外務省とムー統括軍の御歴々ですね?」
職員を表す制服と被っていた円筒帽を脇に抱えつつ話す。
「はい、外務省が依頼した臨時便搭乗者です」
「あと1時間程で機体整備と燃料・食料品等の積み込みが終わります故、最後の打ち合わせを行いたいと」
「分かりました、向かうのは隣接する空軍のデポ・ハンガー*7で?」
「はい」
漸くか、まぁ2万㎞以上も飛行しなければならないから整備は厳重にやってもらわなければな。何せ付近に島嶼が無い海域を横断しなければならないし、文明圏外国沿岸への海難航空事故で遭難した乗客・乗員が命を落とした例もある。
ターミナルビルを出て歩いていると、300m程先に空軍用格納庫として使われている大型木製ハンガーの列がある。
「あれじゃないか?」
ラッサンが言う。
前後の扉が開け放たれており、中に空軍で主力爆撃機として運用されている複葉爆撃機【ボンバルデTB-32*8】が2つある発動機を取り外された状態で駐機している。
「相変わらずデカいな、この機は」
「我々ムー国が始めて開発出来た【ワイバーンの追い付けない高速爆撃機】だからな」
300km/hの高速性能とマリンを組み合わせた戦爆連合編隊を以て侵攻軍後方の兵站拠点や都市を叩く構想の基になった機体だ。登場時期は当時はマリンの前型である【】が主力を務めていたが。
ハンガー横の扉が開き、ムー航空のパイロットが着る制服を着用した者が声を掛けてくる。
「お待ちしていました、マイラス少佐にラッサン大尉ですね?」
「はい、お世話になります」
「では日程に関する内容をお伝えします、中へどうぞ」
多少古く感じるものの、良く言えば年季の入った洒落た酒場風の内装にカウンターに椅子が並んでいる。
カウンター上に置かれた大型黒板の前にパイロットが立つ。
「では、これより日程に関する事をお話します。私はムー航空でパイロットを務めているジョン・ブラウン*9と申します。今回の臨時便の機長を務める様言われた者です」
「東方空路機は副機長とのペアで運航されていると聞いておりますが⋯」
「今回の便は前例の無い強行軍ですので、後2人が予備パイロットとなり交代で操縦にあたる予定です」
定期空路に就く旅客機は夕方や薄暮前に空港に着陸し明日に備えるのが基本だ、特に島すら無い第一文明圏南方空路の夜間飛行は危険過ぎる。
「正直に話します、同僚パイロットや会社上層部には夜間飛行は危険過ぎると今回の依頼を拒否する者もおりました」
「それは⋯止むを得ない事かと」
「給油を迅速に行うにしても、それに合わせた整備も限られた時間で入念に行わなければなりませぬ、無論我々も社運を掛け全力を尽くしますが、事故が絶対に発生しないとは確約出来ません」
こりゃ外務省の列強担当部と相当にやりあった様だな、日本国への赴任以前に五体満足で第三文明圏東へ横断出来るかどうか⋯。
「パンフレットによると、本来中継地は5ヵ所とありますが」
「はい、どれも現地国家の認証の下に建設したムー国飛行場をムー航空を始めとした民間航空会社が間借りする形で使用しています」
「私を始め民間航空のパイロットは元軍人が中心ですので、気心も知れた仲ですが、それでも事故で命を失う者は出ております」
「毎回命を掛けた冒険をしている様なものですな」
「飛行場近くの酒場の噂では我々パイロットを【空の冒険者】と言う者もおります」
皮肉なのか羨望なのか⋯。
「なので、会社上層部は此方の誓約書を書いて頂く事を条件に承諾致しました」
そう来たか⋯此方としては命令だから拒否権は無いが、会社としても必要以上のリスクは負えないという訳なのだろうな。
「(小声)遺書でも書いておくべきだったでしょうかね?」
宮仕えの辛さとはこういう事か⋯。
「分かりました」
半ばやけくそ気味にサインを行う。
「有難う御座います、では早速日程をお教えします」
既に黒板には大雑把な世界地図*10が書かれている。
「アイナンク空港を出発した後は南東方向に進路を取り、ここ大洋州諸島*11の中央島にあるムー租界地【ナーカル*12】に着陸します。到着時刻は薄暮近くとなっている為、現地にて一泊して頂きます。ああ御心配無く、宿泊施設は既に御用意しておりますので問題なく眠れるはずです」
となると、問題は2日目以降か…。
「それなりにかかりますね」
「定期航空便による日程は7日ですので、これでも短縮はしております。最新鋭のラ・カオスさまさまと言ったところでしょうか」
「定期航空便は乗客の乗り換えや手続き、機体整備と色々と業務があるから、その手間を考えるとそれ位は掛かるか」
「最初は外務省から3日でと無理難題を要求して来ましたので、我々も交渉を重ねこの日数となっております」
「…(言わなきゃよかった)」
「ラ・カオスの航続距離を基に単純な割り算しておられた様ですが、机上の計算をそのまま実務に当てはめるのはやめて頂きたいもので⋯」
第三文明圏が2万km先だから7000kmの航続距離を持つ機なら3日で行けるだろうと言われたなこれは⋯。
黒板にチョークで線を書く。
「まぁ此処で言っても始まりません、2日目の日程となります。我々以外の機体が優先されるので、ナーカル出発は正午頃となるでしょうか」
ああ、迅速に(他の機体を優先しないとは言っていない)か。
「ナーカル租界地はムー航空会社だけでなく、ミリシアル帝国の天の浮舟、旅客型ゲルニカも定期空路で飛来します。1本しかない滑走路は過密状態である為、どうしても出発が遅れ気味になるのです」
「その⋯滑走路を増やすというのは」
「地形の問題は現地で見て頂ければ分かるかと」
「ナーカル空港出発後は第一文明圏が存在する中央世界の陸塊南側の沿岸域を夜間含め低速で飛行して中央世界南方諸島の島(*13)に存在するムー租界地【チャーチワード航海王子*13】の飛行場へ着陸します。これで3日目となります」
「直進した方が早いのでは?」
「飛行方位計*14だけで何もない海上を只管飛行するのは方向感覚を失う危険があります。我々も天測航法を習ってはいますが、万一のトラブル時に陸地へ退避出来なければ海魔が出現する夜間の海へ墜落する事になりますな」
パンフレットの飛行経路がどれも島伝いや大陸沿岸伝いに飛行するのはこれが理由か…。
「そして4日目にシオス王国ゴーマ空港に着陸する予定です」
「何故東方空路で一番大規模とされているアルタラス王国のルバイル空港ではないんだ?」
「それに関しては私から宜しいでしょうか?」
ラッサンが言った後に少し遅れ、列強担当部の職員がアイスコーヒーをカウンターに置いて横から話してくる。
「アルタラス王国は去年11月末頃にパーパルディア皇国の侵攻により滅亡しています」
「それは知っているが、ルバイル空港周辺は我がムー国が使用するれっきとした租界地だ。いくら最近傲岸不遜を隠さない皇国だからといって手を出すとは考え辛いだろう」
「…此処に居る皆様以外には他言無用でお願いします。さる1月18日、フェン王国の都市ニシノミヤコがパーパルディア皇国軍によって陥落、その地に居た日本人観光客が多数捕らえられ処刑されたと在日本大使ユウヒ閣下から緊急の無線連絡が入りました」
「え!?辞令にはその様な事は書いてありませんでしたが」
この場に居る全員の顔が強張る。
「申し訳御座いません、この事は皇国と外交関係を結んでいる外務省としては軽々に伝える事が出来ない為、本国外務省の他はムー統括軍上層部と在皇国大使のムーゲ閣下、そして在日大使ユウヒ閣下等からなる少数の人間にのみ現在は伝えられています。間違いなく、少なくとも我々の常識からすれば皇国と日本国は確実な戦乱常態となりましょう。その為、皇国占領下のルバイル空港では何が起こるか分からない為、シオス王国のゴーマ空港経由となっています」
「では、我々の任務は…」
「はい、実質的な観戦武官です」
【ムーは勝利する側にしか観戦武官を派遣しない*15】、少なくとも他国からはそう思われている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。考えが追い付かないが、我が国は日本国側が勝利すると思っているって事か?」
「ムーゲ閣下やユウヒ閣下を始め、日本国を知る者達はそう考えています。マイラス氏もそうなのではないでしょうか?」
顔を此方に向けて意味深に言う。
「ほ、本当か?」
「さあて、ね」
去年日本国外交団に対応した時の事を思い出し微笑む。
「それは…一介のパイロットである私が聞いてよい事なのでしょうか?」
「何れ全国に知れ渡るでしょうから特に問題はありません。“あの”皇国の事ですから仮に戦端が開き敗北する様な事があれば何をするかなど想像がつきます」
まるで皇国の敗北を確信している様な物言いに益々事態が逼迫している事が分かる。
出入り口からムー航空の制服を着たパイロットが入ってくる。
「ブラウン機長!全ての整備と点検、食料の積み込みが終わりました」
「御苦労。これで出発の準備は整いました。色々と質問したい事はありますが、皆様を第三文明圏まで送り届けましょう」
「「「宜しく頼みます」」」
ボンバルデTB-32を横目に見つつ滑走路側のハンガー出入口から出て、旅客機が駐機する場所まで歩く。
「想像以上にでかいなぁ」
「ええ、横幅30m近くになる巨人機です。ですが操縦は素直で良い機体ですよ」
4つある発動機は既に轟音を挙げ、力強く嘶いている。
「確か、空冷9気筒1290馬力*16でしたか?」
「はい、これ迄の数百馬力発動機とは全く出力が違います。それでいて安定性や整備性も在来機に劣ってはおりません」
空港職員が手押し式のタラップを機体機首の出入り口に付ける。
「足元に御注意下さい」
「おお、こりゃ贅沢だ」
ラッサンが興奮した様に言う。
「俺達にとっては高値の花すぎるなぁ」
「落ち着かないか?」
「いいや、思ったより騒音も酷くないし、その気になれば寝られそうだ」
ムーの旅客機は精々20~30人程の乗客を乗せられる縦2列座席が主流だ、その気になれば縦4列も可能なんじゃないか?
「見ろよ、座席を覆ってるのはシオス産の更紗*17じゃないか?」
「背もたれのシーツも特注品だな…ん?この席は籐*18なのか」
ムー国鉄の一等客車に勝るとも劣らない豪華さだ、ホテル並の設備を機内に作ったのか。
スチュワード(客室添乗員)が声を掛けて来る。
「皆様の席は後方客室となります」
「これは…まさか厨房?」
「はい、我がムー国旅客機史上初の空中厨房で専門の料理人も同乗致します」
おいおい、俺達は王様貴族様じゃないんだぞ。
「これ、多分報告書に宣伝用売り文句とか書く様に命じられるんだろうなぁ」
「何しろ東方空路に就役して日が浅い故ムー国内でもまだ知られていない機体ですので、今回の旅路で是非国民の皆様方にも知って貰いたいのでしょう」
ああ、機長以外は今回の目的を知らされていないからなぁ。
「で、此方はトイレか」
軍の輸送機や爆撃機に付いているトイレは所謂【垂れ流し式】だ。
機外と直通しているから蓋を開けると小穴から喧しい風切り音を吹く有様で、高高度過ぎると排泄物や尿が凍り付く事もある。これでもマシな方で、双発機黎明期は機内のバケツにそのままするという個人的には拒否る事請け負いの所業を行っていたと聞く。
「これ…水洗式なのか」
「これも本機が初の採用となる航空機用機内トイレです、今までとは比べ物にならないでしょう?」
陶器製の洗面台に全身を映せる大型鏡、水道蛇口は真鍮製だと?しかも温水も出るのか。
色々と驚きつつも後部客室まで移動するが、客室後方に何やら積み上げられている茶色のカートン*19が見える。
「そちらは各租界へ届ける医薬品と郵便物になります」
「東方空路は旅客よりこうした郵便や貨物が主体でしたね」
「船舶と比べてかなり割高ですが、鉄道・船舶では不可能な“速達”が出来ます。特に郵便事業はムー航空他の航空会社でも仕事は取り合いの状態でして」
今すぐは無理だろうが、そう遠くない未来に鉄道と競合する旅客業で凄まじい商売競争になりそうだな。
「皆様」
顔を機首方向へ向けると、機長が居た。
「これより本機は大洋州諸島中央島のムー租界地【ナーカル】へ向かいます。私、機長ブラウンに加え、3人のパイロットによって本機は操縦致します。何卒宜しくおい願いします」
紹介が終わると、機長は機種の操縦席へ向かう。
「お、動き出したか」
「2号滑走路に向かうみたいだな」
アイナンク空港は3本の滑走路で構成されたムー国初のベトン製滑走路を持つ飛行場だ。これまでは未舗装滑走路の脇の草原に機体を駐機する事も多かったが、悪天候時の事故や機体の大型化を踏まえ将来を見据えた新型飛行場のテストベットに選ばれた。
前方機首方向から機長の声が聞こえる。
「これより離陸致します!」
発動機が唸りを上げ、1000馬力級大型発動機がその出力を開放する。
滑走路から機体が離れ、ゆっくりと上昇して行く。
スチュワードが。
「皆様へ、本機は高度4000mを維持*20しナーカルへ向かいます。快適な空の旅をお楽しみください」
愈々か、是非行きたいと思っていた日本国へ向かえるとは何とも幸運だ。自分の推測に間違いがなければ日本国は皇国には敗れ様がないだろうし、観戦武官としての任が終わればそのまま日本国内に駐留する事になるだろう。期待と旅路の不安が綯い交ぜになりながら、背後に太陽を背にしたラ・カオス3番機「ラパ・ヌイ*21号」は銀翼を輝かせムー大陸南東海上へと向かう。
如何でしたでしょうか?
旅客機の中継地に関する例では、冷戦中の1970年代における日米間太平洋横断路線はアラスカ州アンカレッジ(北回り路線)・ハワイ州ホノルル(南回り路線)を中継地として運行されており、当時のアンカレッジ空港には【うどん店】が繁盛していた話が残っています。
この他「ハンドレページ H.P.42」を調べる過程で機内設備や旅客機史の方も調べましたが、この機体は僅か10機の生産にも関わらず、その機内設備は現代旅客機の祖と言える要素を有する先進的な機体として生み出されました。
Youtube【British Pathé】
『Giant British Air Liner(1930)』
コミカライズ版ラ・カオスのモデルとなったイギリス・ハンドレページ社「ハンドレページ H.P.42」。モデルとなった機体と決定的に異なるのは【航続距離】、805kmに対して7000㎞という10倍近い違いがあるが、最大航続距離7,000kmを達成する為には搭乗人員を10名に削減し巡航速度を220km/hへ制限するという前提が必要との事。
推測だが操縦士を2名+予備操縦士2人とすると、マイラス氏&ラッサン氏で計6名。
加えて御客様対応の客室乗務員1名で7名、モブとして登場した外務省職員を加えて計8名となる。
Youtube【NASS】
『1920s - London To Paris By Air in Color [60fps, Remastered] w/Sound Design』
イギリス国際ニュース映画会社「British Pathé」アーカイブ映像をカラー復元&高画質化した映像。ロンドン南方のクロイドン空港(1958年廃止)からパリへ向かうインペリアル・エアウェイズ社の旅客機による空の旅路をドキュメンタリー化した内容となっており、手荷物検査から機内での新聞閲読から機内で紅茶を嗜む人々が映っている。
防衛研究所 工藤信弥氏
『日中戦争期の日本政府及び軍による民間航空機の活用』
1920年代には航空後進国に甘んじていた大日本帝国は、僅か10年足らずの期間で北は満州北端、南は国連委任統治南洋群島、南西はフランス領仏印インドシナ・ハノイを中継地にタイ王国バンコクへと向かう広大な民間航空路線を有した。(大日本航空社史刊行会編『航空輸送の歩み』)