中央暦1639年1月24日 午前6:20
私の名はイーネ、イーネ・コルメス、クワ・トイネ公国公爵家コルメス家の令嬢であり、総勢3000名*1からなるマイハーク防衛騎士団の騎士団長を勤めている。
公爵家と言っても王を「戴かない・戴かず」を伝統とするクワ・トイネ公国では諸侯・有力者選挙によって首相を選出する事が基本である為、他国と比べると名族意識は乏しいらしい。
父からは縁談の申し込みがあると矢継ぎ早だが、文句はロウリア王国に言って貰いたいものだ。ロウリア王国の息が掛かったと思われる海賊船がマイハーク近海迄進出して来ており、マイハーク駐留の海軍第2艦隊司令や飛竜基地司令とは防衛計画における打ち合わせを幾度となく行っていると言うのに⋯。
午前6:30
「夜が一瞬昼間の様に見えた」、1週間程前の不可思議な現象を夜警任務を終えて眠そうにしている騎士団の部下達が噂し合っているのを横目に見ながらパンとスープの朝食を食堂で摂っていると、従卒の1人が慌てて食堂内へ駆け込んで来るのが見えた。
「騎士団長!此方に居られましたか!」
「騒々しいぞ、どうした?」
「飛竜基地から緊急魔信!赤い丸を描いた正体不明の飛竜がマイハーク方面へ東北東の方角から接近中!なお、発信者は第六飛竜隊飛竜士*2マールパティアより、との事」
マールパティア、第六飛竜隊に属するベテラン飛竜士だ、だが東北東?ロウリア王国とは逆方向だが⋯。
「ロウリアの飛竜ではないのだな?」
「はい、飛竜の倍以上の速度で引き離された為、追跡は不可能との報告が追加で飛竜隊基地に送られたと」
定期哨戒は飛竜の疲労を考え、陸上から100〜150kmと定められている。東北東海上から陸地伝いにマイハークへ接近するなら、1時間前後でマイハーク上空へ来るという事だ。
「即応中隊*3は市壁四隅の防衛塔へ急げ!その他中隊は市街地にて市民の混乱に備えろと伝えよ。復唱はいらない。直に!」
「は!」
午前7:00
騎士団長部屋で従卒から弓矢矢筒を受け取り、最も海側へ近い防衛塔へ走る。市内はまだパニックになっておらず、市中見回りの中隊所属騎士・兵士が走り回っている。急がねば。
防衛塔へ続く城壁階段を登っていると、矢束を抱えた顔見知りの騎士キース*4が城壁下の倉庫群から出て来るのが見えた、声をかける。
「団長!」
「敬礼はいらない、状況は?」
「即応中隊の防衛塔配置は完了しています、何時でもやれます」
各防衛塔に常備されてある騎士団旗が振られている。準備よしの知らせだ。
ロウリア王国の侵攻近しとの事で増やされていた緊急事態における集合訓練、どうやら無駄ではなかった様だ。
防衛塔最上部へ上った私は、25名の部下達が既に矢筒一杯の矢を用意しているのを見て嬉しく思う。本当ならバリスタ・大石・大木・油壺等の守城兵器*5が必要なのだが、相手との時間的制約から間に合う筈もない。
ふとゴォォーという、聞き慣れない音が耳に入る。
「あれはなんだ!?」
「なんだこの音は!?」
「おい、持ち場を離れるな!」
浮足立つ部下を尻目に、自身の矢筒から矢を取り出し目一杯弦を引き絞り対象へ放つ。駄目か、あれだけの高度と速度の相手では当たる筈もない。
「無駄か⋯」
「団長!南西の方角から我が軍の飛竜です!」
マイハーク南方飛竜基地に属する第六飛竜隊か、此方では打つ手が無い、頼むぞ。
「導力火炎弾だ!」
「いいぞ!やっちまえ!」
威勢良く部下達が言うが、導力火炎弾を第6飛竜隊が放つ前に信じられない上昇力を以って急上昇し、飛竜すら及ばない高天にまで上ってしまった。
「あの竜は交戦する意思がなかった、そもそも戦意すら無かったと言うのか?」
困惑しなからも浮足立つ部下を纏め、各中隊から送られてきた伝令に市内駐屯の各中隊は臨戦体制で持ち場に待機せよと命令する。
午前10:45 第2艦隊司令室
第2波の可能性を考え全防衛騎士団の臨戦体制を完了させたと同時に、クワ・トイネ海軍第2艦隊司令ノウカ氏が居るマイハーク港海軍基地へ御付きとして引っ張って来たキースと共に向かう。
「ノウカ司令!」
「おお、イーネの嬢ちゃんか」
ノウカ、マイハーク及び公国北部海域の海上防衛を担うクワ・トイネ海軍第2艦隊司令を務める公国中部男爵家当主*6である、普段の勤務態度からあまり上からは評価されていないとの噂があるが、公国北部沿岸で暴れる海賊船退治では確確たる戦果を上げている癖の強い人物だ。
「防衛騎士団の方は暫く臨戦体制を維持しますが、第2艦隊とは連携を密にしなければと思い此方へ来ました」
「なら丁度良かった、今ウチのミドリが率いるガレー船隊*7が正体不明の大型船を発見したと魔信で言って来てな、それによると【日本国】という転移国家で、領空侵犯の謝罪を公式に行いたいって言って来たんだ」
「転移国家ですか、第二文明圏のムーが転移国家であるという神話を持っていると以前本で読んだ事はありますが⋯」
「まぁ真相は兎も角、とりあえず頭の片隅に入れておいてくれ。それに、君もアレに戦意が無かったのは薄々気付いてただろう?」
口元に笑みを浮かべながら言う。
「急に臨戦体制を解けば部下達も訝しがるでしょう、先ずは警戒体制へ下げ、その後でという事にしましょう」
「此方もそうする、俺の方はひとっ走り公都へ行って来る」
はて?ここから公都へは馬や陸鳥*8を替えて行っても2〜3日は掛かる距離だが。
「おいおい、こんな時こそ【火喰い鳥*9】の出番だろう?」
既に飛竜へ戦力の座を譲った彼等だが、民間運送ギルド*10・軍の連絡用*11として未だ運用されている。主に要人輸送や魔信を使えない機密文書輸送用としてだが。
「じゃ、ちょっとばかり行って来る。副司令、後は計画通りにな」
「は!」
副司令の敬礼に敬礼で返し、ノウカ司令は出ていってしまう。
「団長、我々も」
「うん、忙しくなるなこれは」
その後何があったのかは私の立場からは分からないが、マイハーク港へ正体不明の大型船が来る事になり、見物に殺到する群衆相手に四苦八苦するのだが、それは別の話である。
如何でしたか?クワ・トイネ公国の政治的決定に関われない立場から見た人物達から見た飛竜こと「P3‐C哨戒機」との接触から続く日本国の所謂大型船「いずも」のマイハーク訪艦によって作中の出来事へ続きます。
幕末における「黒船来航」を一般民衆目線で描かれた「黒船来航風俗絵巻(埼玉県立歴史と民俗の博物館蔵)」の様に、見物へ訪れる人々でマイハーク港や周辺の海岸線が賑わっている有様が目に浮かびます。
下記では私的補完設定に関して幾つかピックアップして今回から此方で説明いたします。
(1) 防衛騎士団兵数
イーネ騎士団長率いるマイハーク防衛騎士団の人数は原作を基にした推測です。クワ・トイネ公国正規軍が予備役含め5万人とされ、内西部方面騎士団が3,500名、ノウ将軍麾下の公国軍主力とされる西部方面師団が3万名とされている事を考慮しての兵数となっております。
(2) ノウカ司令と火喰い鳥
コミカライズ版を下地に、彼が余りにも早く公都政治部会所「蓮の庭園」に到着した事に辻褄を合わせる事の他、「輸送用として今も使われている」設定に肖った。なお、無印火喰い鳥で全長20m・大型火喰い鳥で30mとされ、前者がWW2「B‐17爆撃機」、後者が「B‐29爆撃機」並みの大きさとなります。
(3) 以外に情報通?新世界住民
遥か2万㎞西方の彼方に存在する第二文明圏におけるグラ・バルカス帝国(第八帝国)の情勢を大雑把ながら把握してムー国の飛行機械(マリン)を閣僚含め知っていたり等、作品中に出て来る所謂「文明圏外国」は各国の落差が激しい存在となっています。