日本国召喚 ~物語の裏にて~   作:帝国兵

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前書き

グラ・バルカス帝国が本土ごと新世界に召喚された時期は作中に明言されていないが、中央暦1639年1月時点でクワ・トイネ公国首相カナタ氏がグラ・バルカス(第八)帝国の活動を大まかに知っている為、少なくとも日本国の召喚より以前に召喚されていたと思われます。

読者視点では「ムー大陸西方海域海戦」に勝利したグラ・バルカス帝国戦艦グレート・アトラスターがレイフォル国首都レイフォリアを壊滅させた回が彼等の初出だが、パガンダ王国の一件以前から勢力拡張自体はしていた事から、その空白期間を想定した外伝となります。


第一章外伝 太陽が昇る前
外伝2 「覇道の裏にて悩む者達」前編 帝国陸海軍本部長サンド・パスタル 中央暦1638年3月2日


 

帝国陸海軍統合参謀本部長サンド・パスタル大将 中央暦1638年3月2日

帝都ラグナ 陸海軍統合参謀本部*1 会議室

 

ケイン神国との最後の結を決めるべく陸海軍の主力を集め出動命令を待っていた刹那に発生した天変地異から漸く行う事が出来た会議にて、偉大なる帝国を統べるルークス陛下が入室する。

「陛下、皆様揃いまして御座います」

「うむ」

 

「皆、今日の会議を滞り無く行えた事を忠勇なる帝国陸海軍将兵並びに文官諸氏に感謝する」

続けて言葉を発する。

 

「昨晩余は我が帝国本土東方に出現した⋯(いやこの場合は我々が移って来たと言った方が正しいな)、未知の東方大陸において行っていた軍事作戦の第1段階が終了したと伝えられた」

「上陸第2陣の輸送船団*2に同乗した臨時科学団*3の報告では、手付かずの資源が眠り、そして耕作に適する平野・丘陵地帯の存在が確認されている」

我が帝国臣民*4の人口は約1.1億人、だがそれは転移前の事だ。帝国本土以外が消え去った事で殖民地在住の帝国臣民が消え去った為、転移前の本土人口1億人に縮小してしまっている。

 

皮肉な事だが、本土港湾に存在する巨大サイロ群に膨大な殖民地領向けの穀物類が存在していた幸運もあり、配給制を以て備蓄期間を何とか2年前後に延ばすと共に新たなる食料供給源・資源採掘地帯を確保する必要に迫られた。

 

「パスタル君、詳しい状況を皆に知らせてくれ」

「は!」

まさかケイン神国への最終決戦に向けた軍政仕事を任されると思いつつ任じられた役職が、自国生存権を確立する為の仕事を熟す事になるとは。

 

「未知の東方大陸…我が方の名称では【ビフレスト大陸】、海軍偵察機からの暫定的な推測ですが、帝国本土の凡そ2倍程の面積を有する大陸となります」

「この航空写真*5では中央にかなり高い山があるな」

「はい。帝国本土最高峰である標高1226mのヴァーガル山*6と比べた場合、少なくとも3000m以上は御座います」

 

沿岸部の海岸線は大陸全体に存在するが、少し内陸部には低い丘陵地帯に鉱物資源が眠る山脈群が複雑な地形を成している。

「現地人国家の情勢は?」

「沿岸部に存在した国家群は程度の差はあれ我が帝国への服属を申し出て来ましたが、内陸部の部族らしき者達は未だ抵抗を続けています」

 

「陛下、ただ気になる事が」

「構わん、申してみよ」

「交渉役を行っている外務省現地派遣団から伝えられた情報によると、どうやら内陸部の部族と沿岸部の国家群は我々が転移する前から長年争っていた様で、彼等が主張する国家領域と抵抗する部族との境界線域には【防手線*7】と呼ばれる木柵や空溝からなる封鎖線が設けられていたと報告が上がって来ています」

 

帝国海軍東方艦隊の長を務める、民間での通称帝国三将の1人カイザル海軍大将が口を挟む。

「現地人達の紛争に我々が介入する格好になったか⋯」

「非文明国の未開人に思考能力が無い等と言う愚者より余程逞しくはあるがな、此方の力を認め、対応しようとする者達だ」

皇帝左隣へ座っている帝室分家の当主ハイラス様*8が言う。

 

「パスタル殿、これで何とか食料・資源の目処は付いた形になる。今後におけるビフレスト大陸における作戦は如何なさるおつもりか?」

「正直に申し上げると、大陸の完全制圧には兵力が足りません。現状我が陸軍は殖民地軍を含め150万人に膨れ上がっておりますが、その内ケイン神国侵攻用第1陣計20万を10万✕2の2個軍に分け大陸西部・南部に投入しています。ですが本気でこの大陸中央部まで制圧する前提の場合、40万は必要でしょう」

冗談じゃない!そう目で訴えかけて来る陸軍幹部を尻目に話を続ける。

 

「ユグドにおいて我々が有していた殖民地軍なら兎も角、本国陸軍はケイン神国との最終決戦に備え動員を進め、訓練・編制を行って来たのです。何れは民業へ戻さなくてはなりません」

「完全制圧は無理と?」

この会議に出席している国会議員の1人、ギーニ・マグリス氏が言う、⋯何故この男が居るのだ?

 

ギーニ・マグリス、帝国議会*9において「日の白十字団*10」を率いる人物だ。日頃の過激な主張で同じ過激派からも煙たがられる事もあるが、考えをその日の内に翻したり急に謙遜したりと掴み所の無い演技派だ。正直私も好ましくは思っていない。

 

「正式な命令とあらば、その為の筋道を付けるのが私の責務です。しかし実行した【後】の事を考えて頂きたい」

少しムスくれた顔をするが、それはそれとして自分の話に真剣に聞き耳を立てて来る、よく分からん御仁だ。

 

「仮に完全制圧したとしましょう。それを以て現地民が抵抗活動を止めればよいのですが、高地地帯において抵抗活動が止まぬ場合一定数の守備隊を残す必要があります」

「どの程度か?」

「帝国通常歩兵師団*11であれば10個師団及び検討段階にある独立警備隊*12、合わせて20万前後は必要です」

自分で言っておいて何だが、今現地に派遣している戦力と変わらんではないか!

 

「それ程必要なのか⋯」

「付け加えますと、【最低限で】この兵数です。整備予定である海軍の軍港を担任する根拠地隊*13は入れていません」

会議室が静まり返る。

 

カイザル大将含めて軍関係者は絞り出す様に言う。

「無理、だな」

「我等海軍もケイン神国侵攻と此れ迄の戦で只管膨張を繰り返して来た為、300万を越える規模にまで膨れ上がってしまった。今後の事を考えると艦艇・人員含めた大幅な軍縮も考えなくてはならん」

「陸軍部隊輸送用として現在徴用している民間貨客船も永久に借りられる訳ではありませんし」

 

「【市場】を作る事から始めねばならんとは」

物があろうが、それを購入する消費者が居なければ話にもならん。

「では、どうする?」

ルークス陛下が質問して来る。

 

「制圧を沿岸部と鉱物資源・農業用地として期待出来る丘陵地帯に制限すれば必要兵力の削減は可能です、沿岸部の航空基地が十全に機能すれば航空機による警戒も可能ですので」

「どの程度か?」

「凡そ10万」

「ふむ…」

 

現地住民を殖民地軍兵士として採用、我が方の旧式兵器を与え治安維持任務に充てる他、人口薄弱故に所有者不明地が広大にある地へ希望者を入植させ、入植地警備の一部を住民民兵*14を以て対応する案が出されている。

 

やれやれ入植地住民による民兵とはな。

出された案を見た時は時代が100年戻った様に思えたぞ。

「分かった、陸海軍共によくよく協議する様に」

「ははー!」

 

 

「続きましての報告は、海軍省からです」

 

「カイザル・ローランドです、現在海軍はビフレスト大陸派遣軍への支援としてケイン神国侵攻艦隊より抽出し臨時編成した2個艦隊*15を以て陸軍の支援にあたっています」

「燃料の問題が無ければもう1個艦隊を交代用として派遣したい所だが、止むを得まい」

帝国本土にも幾つか油田はあるが、転移前でさえ必要量の5割にも及ばない需要しか満たせていなかった、残りは殖民地からの輸入だ。

 

「沿岸部の制圧が順調に進んだ為、既に陸軍部隊の内陸部進出線は25kmを超えております。これ以上は艦砲による援護が出来ない故、今は陸軍が上陸していない北部・東部の沿岸地域に水雷戦隊より分派した巡洋艦を遊弋させ警戒と威圧にあたっています」

 

ギーニ議員が質問する。

「報告の中に軍艦数隻が損傷(小破)とあるが⋯」

「現地人曰く【海魔】と呼ばれている害獣…生物に深夜停泊中に襲撃を受けた結果に御座います」

報告にあった魔法に加え人間を襲う巨大海洋生物か、御伽噺染みた話をせねばならんとはカイザル大将は先達とは言え同情するぞ。

 

「今の所犠牲者は居ませんが今後の事を考えると、ビフレスト大陸で軍港を作る際は港出入口に対潜網を巡らす等の工夫が必要かと」

既に軍港設営に必要な機材や浚渫船*16の手配は済んでるとは言え、建設中にこの様な生物の襲撃を受ければ作業員が萎縮しかねん。

 

「転移直前に話題を呼んだ映画*17の様な出来事が現実の世界とはな、勘弁して欲しいものだ」

その場の総意を陛下が唸る、ああ見えて陛下は話題好きな所があるからな。

 

「して、その化物は?」

「全て仕留める事に成功しています。臨時科学団に属する魚類学者曰くイカ・タコに近い【軟体生物】である事が判明している為、艦砲や爆雷による攻撃が有効だろうと判断しております」

科学団からの報告書では硫黄臭が強いとあったが、胴体部で40mに全長100mとはな、海軍の駆逐艦に匹敵するぞ。

 

「目下停泊中の軍艦の安全を確保する為、近代港湾の早急なる設営を参謀本部に要請しております」

唯でさえ本国の軍用港湾群に溢れかえる艦船の整理と定期修繕で手一杯の状況なのだ、一部の艦船の修理を中小造船会社が有するドックに入れなければならない程に、そのせいで今度は民間船舶の修繕に遅れが出始めている。

 

「パスタルよ、可能なのか?」

「既に必要機材と浚渫船の手配は済んでいますので、本土東部のヨトゥン港*18より何時でも出航させる準備は整えております」

「だが先程の海魔の件がある、余程の事がなければ作業員の保全を第一に考えよ」

「は!」

 

その後も会議は続く。

*1
市ヶ谷参謀本部に似たコンクリート製3階建て

*2
民間から戦時徴用した貨客船・貨物船他、グラ・バルカス帝国がユグド統一戦争向けに建造した戦時標準船(第1次戦時標準船1A型に相当)

*3
グラ・バルカス帝国本土に存在する民間大学群へ緊急の勅命で結成を要請した専門チーム、現役教授から大学内の変わり者、若手の有望株迄を地位に関係なく集めた【帝国始まって以来の専門家集団】

*4
帝国市民権を有する者に限定した人口

*5
グラ・バルカス帝国ではカラー写真は未だ希少な存在であり、市井や軍では白黒写真が主流

*6
オリジナル地名 北欧神話において狼を意味する言葉 【狼山】

*7
清朝~日本統治時代の台湾において東部平野部へ移住した客家系漢人が設営した対台湾原住民封鎖線【隘勇線】がモデル

*8
Wab「特典3‐2 罪深き王国パガンダ」のみに登場する人物                          グラ・バルカス帝国の皇族とされているが、皇帝グラ・ルークスとの関連性は不明。彼の処刑はルークスが激怒する程であったとされる為、帝室分家の当主という解釈

*9
原作でも国会議員は出てくるので国会自体は存在する模様、【帝国】を付けた。

*10
モデルは戦間期にフランス共和国に存在した団体「火の十字団」、団体名は書籍版におけるアンタレス07式艦上戦闘機の機体に描かれている「赤い丸に白の十字」から

*11
1万5000名編制 3個歩兵連隊+1個砲兵連隊+1個工兵大隊+1個輜重兵連隊を基幹に編制

*12
地域警備専門部隊 800~1000名の人員を中心に軽火器主体

*13
占領地における軍港港務を担当する部隊                                    編制は艦隊司令部に準拠し、司令官(少将)の下に参謀長、参謀、副官が置かれる

*14
要するに屯田兵 明治7年の制度制定では1兵村に対して200~240戸、1戸に対して凡そ5haの土地が支給された

*15
其々オリオン級戦艦2隻、ペガスス級航空母艦1隻、タウルス級重巡洋艦3隻、レオ級巡洋艦4隻、キャニス・ミナー級駆逐艦8隻、スコルピウス級駆逐艦4隻で構成

*16
土砂の流入によって水深が浅くなる河川、港湾において海底を浚う作業船

*17
アメリカ合衆国においてワーナー・ブラザースが1937年に公開したコメディ・ミステリー映画「Sh! The Octopus」に相当

*18
北欧神話 モデルは霜・丘の巨人族が住まう世界ヨトゥンヘイム




後書き
前編、投稿終了になります

如何でしたか?
書籍版地図においてムー大陸西方に存在する見切れた大陸はグラ・バルカス帝国本土ではなく、ムー大陸とグラ・バルカス帝国本土との間にある別の大陸とされており、この大陸の更に西方に帝国本土が存在する模様です。

グラ・バルカス帝国はパガンダ王国・レイフォル国を滅亡させる前段階において周辺国への侵攻を行っていたとされている為、この大陸もクラ・バルカス帝国に侵攻されたものと推測した外伝回となります。

クワ・トイネ公国とクイラ王国という友邦を早期に得られた日本国と違い、彼等は独力での確保を行わなければならず、元世界を制覇する勢いだった故に【友邦を得る】という考えも乏しい為、条件は日本国以上に厳しかったものと推測できます。


(1) 未知の東方大陸(ビフレスト大陸)
 書籍版の地図においてムー大陸西方に僅かに見切れている謎の大陸。グラ・バルカス帝国本土と誤解している読者がいるかもしれないが、本編の遥かなる過去を扱った外伝1巻地図でもこの大陸は存在している。
反対に本編時間軸で存在するムー大陸が無い。

 ネタ元は北欧神話において神々の国アースガルドと人間世界ミッドガルドを繋ぐ虹の橋。
大陸内陸部の丘陵・山岳地帯に多数存在する岩陰や洞窟群周辺の地層が日の光で美しく反射していた現象(遺物包含層)から、現地軍将兵達が知らぬ間に言い始めた事で名前が付けられた。


(2) ムー大陸との関連性
 本編設定において「ムー大陸に存在しているムー国以外の国は、かつての侵略者の末裔」という設定があります。ムー国の領土変遷は不明だが、現在のムー国がムー大陸北西部を中心とした大陸の半分程を保持している事を前提に推測した場合、この【魔法文明の侵略者】は西側、つまりこの大陸から来襲したと思われます。

 ムー大陸への侵略に参加しなかった、又はムー大陸へ行ったが当大陸へ出戻った集団の末裔で構成されているとこの作品内では設定しています。モデルは東はイースター島・西はマダガスカル・北東はハワイ諸島まで広がったオーストロネシア語族。

参照
Kings and Generals 台湾オーストロネシア語族
「Indigenous People of Taiwan - Austronesian Origins DOCUMENTARY」

バーチャル台湾人・敏度
「台湾山岳界の名付けたがる癖をボロボロ日本語で語る」


(3) サンド・パスタル氏の役職変更
 原作では単に「本部長」としか言われていない上に軍の作戦会議では全く登場しない人物である為、軍政方面のトップである陸海軍統合参謀総長及び大将へ肩書を変更し階級を付与。君主として軍権を有する皇帝グラ・ルークス直属の軍事顧問である為、陸海軍の直接的な作戦指揮権は有してはいないという設定。

 帝国議会を通じた予算・機材の取得への助言、国防における脅威度の評価から陸海軍間の協調促進を促す事も彼の責務の範囲に入っており、設定した階級【大将】は統合参謀長へ任命された時点における昇進である為、カイザル・ローランド大将他大将に任じられている人物達や何故か名前や階級が全く出てこない陸軍上層部からは評価されつつもやや軽く見られていたという解釈をしています。
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