最初は前後編での投稿を予定していましたが、思ったより筆が進んでしまい前中後編への3分割へ手直ししての投稿となります。
「続きましては農商省*1よりの報告となります」
「現在帝国議会において緊急の採決を行った【緊急事態における食料品目等臨時統制令】によって配給制となっている国内食糧事情ですが、やはり小麦類は数年単位での統制を継続しなければなりません」
だろうな、我がグラ・バルカス帝国は長粒種*2・小麦類*3・芋類*4を主食としている。
米芋は兎も角小麦は1ha辺りの収穫量が少ない、止むを得んだろうな。
「目下国内農家に対しては小麦類から根菜への転作を推進しています」
「だが急に転作といっても出来るのか?種芋は?」
「幸い、貿易商社を通じて殖民地向けとして保管されていた作付け用の種芋の確保に成功いたしました。並びに緊急事態ですので味より量を優先し、アルコール及び工業向けの芋である【帝国1号*5】を食用としてある程度の量を流通させる予定です」
…味は期待出来そうもないな。
その後副食・調味料等の市中調査が報告され、ある意味将兵達になくてはならぬ物の報告に入る。
「ふむ、煙草*6か」
「煙草に関しては戦費調達とヤミ煙草撲滅を目的として既に【煙草専売法】が施行され【煙草専売局】が販売を管理していたが、現在の状況はどうなっているのだ?」
カイザル大将を始めとして、ここに居る面々は誰もが程度の差はあれ喫煙者だ、ある意味全員が当事者だからな。
「既に帝国専売局指定の煙草類*7は御座いますが、やはり本土の煙草農家のみでは需要を満たす事は無理と言わざるを得ません」
頭では分かってはいたがなぁ…。
「どうにかならんか?」
ならないから困っているのだ!
「…君、アレを」
「宜しいので?」
「仕方あるまい」
会議室のドアを空け、御付きの官僚が何かを受け取る。
「皆様、此方は供給が逼迫した状況に備え専売局の方で転移現象前より試作していた【簡易煙草】のサンプルとなります」
何だこれは?紙巻き煙草としては紙が薄く葉の量も半分以下ではないのか?
「まさに【簡易】であるな」
「は、何とか需要だけでも満たす為に煙草葉の量、巻く紙の厚みを半分以下にまで落としてありますが、フィルターだけは既存製品と同等としております」
皆試しに吸ってみるが。
「これは、流石にな…」
「恥ずかしながら、唯一の利点は値段を従来製品1箱20本に対して凡そ2/3程に抑えられた事です」
「余り質を落とし過ぎると以前問題となったヤミ煙草問題がまた再燃しかねんしな」
「煙草に限らず、商品作物は転移前から統制が強かった事もある為、新たなプランテーション*8を確保しない限り統制を緩めるのは現状では無理です」
「止むを得ん、まずは臣民の飢えを防がねばならんからな。ただ人は忍耐だけでは困難を乗り越えられぬ、特に戦地の将兵はな」
煙草は現在軍へ優先的に納入されているが、今後の事を考えると他の娯楽も考えねばならんか、頭の痛い事だ。
「農商省として最後の報告となります、【嗜好品】に関してです」
「ふむ、帝国本土では栽培出来ない品目もあった故仕方あるまい」
ルークス陛下の嘆きに農商務省農務局長が答える。
「は、砂糖用の馬鈴薯は帝国本土でも作付けは可能ですが、コーヒー豆を採取するコーヒノキは元々帝国本土南方の殖民地ギムレー*9を中心に栽培されていましたので」
ギーニ議員が発言する。
「緊急事態故覚悟はしていたがな、既に市中では代用コーヒー*10も流通しておるし、コーヒーは諦める他無いか」
帝国内では中産階層以下で人気があるコーヒーだが、紅茶を好む上層階層でも飲まれていない訳ではない。
「幸いビフレスト大陸は温暖な気候故、種木を植えた試験的な栽培を検討しています」
「おお、上手く行く事を願っているぞ」
ルークス陛下が言う。
「報告はこれで全てだろうか?」
「は」
「では世からも1つ質問したい事があるが、良いかな?」
「なんなりと」
「【殖産興業】とでも言うべきか、市場を一から作るのは止むを得んが、その産業を担ってくれる企業は現状どの程度いるのか?」
「殖民地向け貿易商社を中心にした、現状では20社程となります」
書類を巡り目で文章を追いつつを
「自社製糖工場を丸ごと失った商社もいるな」
「は…このままでは倒産は必至故、危険な大陸へ赴くのを躊躇している場合ではないと農商省の方に社長自ら直談判を行った商社も御座います」
「だが、人だけ送り込んで終わりという訳にも行くまい?我が帝国の威光を知らしめる為には相応の建築物が必要だろうが、今の状況で可能か?」
「それなのですが…。その、カバル殿下から提案された各種図面が御座いまして」
また何をしているのだあのお方は、ここ最近珍しく話題が無いと思っていたら。
「竹筋コンクリート*11?普通は鉄筋であろう?」
「臨時科学団の報告書内に竹に似た植物がビフレスト大陸に豊富に存在する事を知ったカバル殿下が、これ等を利用した建築物を提案しておりまして」
渋面を隠さず陛下が言う。
「しかしなぁ、あやつの思い付きではないのか?」
「竹筋コンクリートによる建築技術自体は、帝国建築工学において10年以上前から発表と技術提案自体はされていたのです」
「む?余が把握していなかったという事は、学会の反対にあっておったのか?」
「は、急場凌ぎの建築なら兎も角、既に豊富に存在する鉄筋コンクリート建築工法の改良で十分と見なされまして」
強度上の不安はあるが、建築資材を全て帝国本土から送り込むのはコスト面で宜しくないのは確かだ、一部でも現地で賄う事が出来れば負担が減る。
「征討府等の官舎は威光を出す必要性がありますが、倉庫・事務局・兵舎・工場等は装飾を考えず、大量に、素早く建築せねばなりません。この状況であれば竹筋コンクリートを採用するメリットは十分にあると農商省の方では判断しております」
「理解した、工事を請け負う建設会社の選定は公平を期す様に」
「は」
これで殆どの報告は終了した、後は我が統合参謀本部による軍政面での報告だな、気が重い事だ。
如何でしたか?
本編と比べると若干帝国首脳陣の態度が紳士的ですが、これはパガンダ王国における一件、一応は列強とされたレイフォル国に対して容易く勝利した事で組織全体に慢心が蔓延する前段階であるという事を前提としてお読み下さい。
何時頃からかは不明ですが、ケイン神国以外を征服しグラ・バルカス帝国一強となる前のユグド世界グラ・バルカス帝国殖民地領から帝国本土へ送られていた主食・嗜好品を中心とした農産品の話題を中心に入れてみました。
(1)帝国の食糧事情
広大な殖民地を有していたとされる帝国では、食糧生産地たる各殖民地から送られる米麦芋が階層問わず満遍なく主食として食されているという設定としています。
(2)嗜好品事情
現実では健康被害等で喫煙率が下がりつつある煙草ですが、グラ・バルカス帝国内では【大人の嗜み】として、世間話における贈呈品(煙草1本)として普通に吸われている設定としています。
(3)大陸開拓
グラ・バルカス帝国で言う所の【文明化】と一大生産地への変貌を企図した内容とし、合わせて内陸部と沿岸を結ぶ鉄道・道路を始めとしたインフラを順次伸ばして行き殖民地開拓を開始すると思われます。
殖民地向け官僚を育成する官民問わない機関は地球世界の旧列強国では普遍的に存在し、大日本帝国では現在も名を遺す【拓殖大学】も明治33年の設立当時は外地(殖民地)において行政・実業を担当する殖民地官僚を育成する為の【台湾協会学校】と名乗る教育機関でした。
参照
大阪産業大学リポジトリ 加藤道也
「植民地官僚の統治認識 ―大内丑之助を手掛かりとして―」
nii.ac.jp(国立情報学研究所/National Institute of Informatics)
陳,穎禎
「台湾阿里山における植民地産業開発にともなう地域・都市・集落の再編に関する研究」
「国策記録映画 東京シネマ商會【南進台湾】昭和14年(1939年)」