生徒(黄昏接触済)に転生したけど何とか原作以上の結末を目指します。   作:冴月冴月

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転生前から厄ネタに突貫してた件

 

 

 

 私が座敷で目覚めてからそう経たずして。私は二人に案内されて、広い座敷に通されていた。

 

「はい、どうぞぉ」

 

「あ、ありがとう、ございます…」

 

 私の前にお茶を置いたシュロは、畳に軽い足音を響かせながら四角いちゃぶ台の向こう側に戻って行き、コクリコ様の横にちょこんと座った。細身ですらりと背が高い彼女と並ぶことで、見事にその小柄さに拍車が掛かっている。パッと見だけなら親子と見紛いそうだ。

 

 コクリコ様はお茶を一口啜ると、話を切り出した。

 

「まずは自己紹介からするとしようかねぇ。我が名はコクリコ。風流を求める小さな部の部長さ。そして隣のやつはシュロ、まだ少し鈍臭い部分はあるけど、愛いやつなんよ」

 

 己の自己紹介の後に隣のシュロの紹介まで軽くするコクリコ様。優しい目をしている。確か登場してすぐは『シュロ見捨てそう』だ『第二のベアおば』だ言われていたけれど、百花二章でむしろ溺愛気味だと判明したのだったか。

 そんなコクリコ様に促され、シュロも軽く背筋を伸ばす。

 

「ご紹介に預かりました、手前は箭吹シュロと申しますぅ。言っておきますが、手前さんが眠っている間、傍で様子を見てたのは手前なんですよぉ。よく感謝して下さいね?」

 

「あ、はい…その節は、ありがとうございました」

 

 挨拶をしつつも、じとりと赤い目を細めて此方を睨むシュロ。その面白くなさそうな表情が、申し訳ないが可愛い。百花二章であんなにも愛らしい部分を見てしまったせいで、今はシュロのどんな顔も振る舞いも微笑ましく見えてしまうのは仕方がないと言うべきか。あぁ、初登場時はあんなに強キャラ感を漂わせていたというのに。

 

 尤も、そこまで本気で睨んでいない事からして、私を嫌っているというわけでは無さそうである。もしやいきなり面子が増えて、大好きなコクリコ様が取られるとでも思っているのだろうか。それならそれで可愛い。コクリコ様が愛いやつだと可愛がるのも理解できる。

 

 さて、相手から正式な自己紹介が成された。これでうっかり名乗られていない名前を呼んでしまって怪しまれる、なんて知識持ち特有のミスを起こす心配は無くなった。ここまで内心で何度も二人の名前を呼んだけれど、それを間違えて口に出さないように気張るのは中々骨が折れた。出来れば暫くやりたくない。

 

「さて、では本題に入るとしようかねぇ」

 

「あ……はい」

 

 挨拶が済んだ所で、コクリコ様が少し真面目な声色になる。本題とは、私の記憶喪失(嘘)についてだろう。

 正直話題に入る前から嫌な予感がしている。まず、先程半ば現実逃避的にこれは夢だと思おうとしたが、今見ているこの光景は現実だと思う。━━━━━どのように確信したのかと言えば。

 

 ……この座敷に通される前に、廊下で一度転んで思い切り頭をぶつけてしまったのだ。死ぬほど痛かったし死ぬほど恥ずかしかった。今もまだジンジン額が痛い。この身体は、少しばかり運動神経が悪いと判明した。*1

 夢なら痛みは感じないとは古い考えかもしれないけれど、ここまで精巧に痛みを再現出来る夢ならそれはそれで非現実的というか別の問題なので、一先ずは現実という前提にしておこう。でないと話が進まなくなるし。

 

 話を戻して、私が実際にキヴォトスに転生したのだとしたら、怖いのは転生した時点から先んじて原作崩壊していることだ。

 

 自分の知っているキヴォトスではないとなれば、原作知識も役に立たない。先を読んで行動を起こすことも出来なくなる。

 自分が干渉してより良い結末に導くことにもその可能性は着いて回るが、まだそれは自分で関わるか静観するかを選べるので救いはあるだろう。だが元からズレていては選択権すらない。下手すれば本編では何事も無かった場面で詰む。

 転生した以上はこの世界をハッピーエンドにしたいのに、来た瞬間から未知の(世界線)に足が向いているのは嫌である。

 

 そして目覚めた直後の私に対してシュロが口にした『黄昏』、これはガッツリとブルアカ本編に関わってくる単語だ。

『黄昏』といえば百花繚乱編にて、百花繚乱紛争調停委員会委員長こと七稜(ななかど)アヤメが失踪する原因となった、謎の多い現象の一つ。

 

 触れた者を怪異やそれに似た存在に変えたり、身体の一部を持ち去ったりするらしく、ここだけ見れば触れた者の神秘を反転させる『色彩』と類似点が多い。その為か『黄昏』に関する考察もそれなりの数があった記憶がある。

 

 アヤメは『黄昏』により服装などの姿の一部に加えてヘイローの色まで変貌し、ストーリー終盤では『ヒトツメ』と名付けられた怪異と融合して異能を使ったりもしていたけれど……花鳥風月部であるシュロが口に出した以上、やはりその『黄昏』なのか。

 

 本編の根幹そのものである『黄昏』に私が関わっているとしたら、それこそ先程長々と話した『先んじた原作崩壊』になりかねない。

 『黄昏』となると『百花繚乱編』が壊れる可能性大だ。

 

 偽物でも、演技だとしてもいい、みんなを守る為ならば、演じ続けてみせる。

 そんなナグサの覚悟と、背負い過ぎて潰れてしまったアヤメを救い出す話が、私は好きなのだ。

 二人のぶつかり合いを近くで見て、時には手助けだってしたい。

 

 だから頼む、私という存在が、この世界(キヴォトス)に変な影響を及ぼしていないでくれと心底願う。

 願いながら、これからの事に目を向けるべく内心気合いを入れた。

 

「━━━━━ということなんよ。何か疑問に思うこととか、聞きたいことはあるかえ?」

 

「━━━━━え? あっ……」

 

 ……気合いを入れた時には全部終わった後だった。

 要するに今までの話全部聞き流した。馬鹿。阿呆。間抜け。不誠実。ありったけの言葉で今の己を罵倒した。この間約1秒。

 これ、今の相手から私への心象最悪なのでは? 私は訝しんだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「まさかですが手前さん、今までのコクリコ様のお話ぜぇんぶ聞いてなかったんですかぁ? 人の話はちゃんと聞け、って学校で習わなかったんですかねぇ…」

 

「これ、おやめシュロ。長い眠りから醒めたばかりなんやし、色々と混乱や困惑もあるんよぉ、見逃しておやり」

 

「…はい、ごめんなさいコクリコ様」

 

 正直に話聞いてませんでしたと白状した。そしたらシュロにジト目で詰められた。残当(ありがとうございます)

 

 コクリコ様に窘められてすぐに引いてくれたが、この当たりの強さはいつ解消されるのだろうか。面識を持ったばかりで警戒されているだけだと信じたい。

 

 

 それはさておき、改めてコクリコ様が私の身に起こったことについて説明してくれた。

 

 「お前さんはね、雪原で黄昏に触れて気を失い、今日まで眠っていたんよ。おおよそ1ヶ月ぐらいやね。その記憶喪失も、おそらくは黄昏の影響だろう」

 

「我がそんなお前さんを保護して連れ帰り、この屋敷で休ませていたのさ。まぁ、その間の面倒見はシュロに任せていたけどねえ」

 

 今度はちゃんと話に耳を傾けつつ、私はまた思案する。

 ……コクリコ様から告げられた事実には、案の定『黄昏』が関与していた。

 それも触れたらしい。私自身が、本編のアヤメのように。

 道理で、服装が灰色っぽいとは思った。

 

 しかしこれでは、先程のお祈りが盛大な前フリである。

 やはり初手から持ちうる知識が全部崩壊した状態で始めなければならないのだろうか。折角好きなブルアカの世界に来られたのにこの仕打ちはかなり辛い。

 

 だって、ブルーアーカイブは『透き通る世界観で送る学園RPG』と銘打ってこそいるが、拳より先に銃弾が飛ぶ銃社会だ。銃が規制された安全な日本で育った者の感性ならば、好き好んで転生したいとはとても思えないと私は考えている。

 それでも転生した時に喜べるのは、本編で酷い目に遭った生徒を先んじて救えるかもしれないという希望があるから。ならばそれが消えてしまえば、ただ銃弾や爆弾が飛び交う世界に投げ出されただけである。絶望的なのは想像に難くないだろう。

 

 これからどうするか、不完全な知識で本編に介入するか、大人しく静観するか。この世界が己の知識と違うかもしれないのに、知識の方を信じて介入するのはどうも心許ないが……

 

 ……! いや、まだ黄昏に接触してしまったという事実だけなら原作崩壊と決めつけるのは早い!

 

 ネガティブな方へ持っていかれそうになった思考を引き戻す。

 あくまで、今わかるのは『自分は黄昏に触れた』という事だけ。それによって原作が崩れる危険があるのは、私が『ネームドの部活』に属していた場合である。

 

 百花繚乱、修行部、お祭り運営委員会、陰陽部etc。

 

 本編に登場する部活に私が居ないのならば、ネームドの彼女らにとって私が黄昏に呑まれたことは単なる画面外の事。

 何か重大な改変は起こらない筈だ。

 

「さて、今度こそ聞いていたね? 何か聞きたいことはあるかえ」

 

 話し終えて此方を見るコクリコ様に、質問を投げ掛けた。

 

「……では一つ…私が所属していた学園や部活などについては、何かご存知ですか?」

 

 ここで『百花繚乱』の名前などが出てくれば終了である。私は瞬間全てを諦めるだろう。

 知識など投げ捨ててどうなっても知らんの精神で本編に加わることはできない。本編でも匂わされている通り、ブルーアーカイブは数多くバットエンド√が存在するのだから、軽はずみな選択で世界ごと道を踏み外しかねない。

 

 運命の分かれ道とでも形容すべきか。コクリコ様は何処か思案するように目線を動かし、少しの間の後に口を開いた。

 

「……残念やけど、我もお前さんの所属は知らないんよ。確認出来る物も持ってはいないねぇ。けど、これと言った部に属してはいないはずよ、多分やけどね」

 

「…分からなくとも問題は無いさ、お前さんは好きに、自由に過ごせばええ。黄昏に触れたのは一つの転換点、今までの学園に縛られず、思うがまま生きなされ」

 

 コクリコ様はそう言って柔らかく笑った。何だか激励のようなものを貰ってしまったし、私自身納得してしまった。

 兎も角、大きい組織に属していないであろうことは確認できた。

 それなら改変に向けて、忘れない内に知識の整理などを行った方がいいだろうか。

 

 憂慮していた事が消えた途端にそのような思考が湧いてくる。単純なのは自覚していたけれどまさかここまでとは、と自身に呆れつつも、思考を止めることはしない。

 

「……色々と教えてくれて、ありがとうございました…整理したりする時間が欲しいので…一度、失礼しても良いですか?」

 

「構わんよぉ。ゆっくり休んで、考えるんよ」

 

 お言葉に甘えて席を立つ。行きで経路は覚えていたので、私が眠っていた部屋まで一人で戻る。

 

 突然ブルーアーカイブの世界に転生した上に、私の意思が介入出来ない所で黄昏に接触していたりと波乱から始まってしまったが、案外上手く行きそうだ。

 

 一先ず自分の見た目すらも見られていないから、部屋を出る時にちらりと視界に映った姿見で確認するとしよう。

 

 

 

 

 そうして姿見の前に立ち、自身の容姿とヘイローの存在を確認して、改めて現実だと思うと途端に冷静になってしまい、何故か上がっていたテンションが急降下して冒頭に戻る。

 

 現実逃避して最悪を想像して勝手に沈み、最悪は免れたと感じるや否や安心しそしてまた冷静になる。

 

 あまりの乱高下で酷く疲れた数十分であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……良かったんですか? コクリコ様」

 

「おや、何がかねぇ、シュロや」

 

「……それ、あの人に渡さなくて」

 

 二人きりになった座敷にて、シュロがコクリコに唐突に問うた。シュロの視線が向かう先はコクリコの白い手元。

 その手には、一枚の小さな紙切れを持っていた。

 

「ええんよぉ。あの子に言った通り、黄昏に触れたことは通過点にして転換点。記憶を失くしたならそれもいい、全て忘れて、やりたいことをやる時間が、今のあの子には必要なのさ」

 

 そう言いながら、コクリコもその紙に目を落とした。

 

 

 

 

 その紙は、見るに誰かの学生証のようだった。

 

 紙に貼られた写真には、藍鼠色の髪に獣耳の生えた生徒が写っている。

 

 写真の横に記載された所属欄には

 

 

 

 

━━━━━『百花繚乱紛争調停委員会』

 

 

 そう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

*1
決して私自身が鈍臭い訳ではない






 読む前に何か挟まるとアレかなと思い後書きに纏めて書くことにしました。飛ばしても多分大丈夫です。

 どうも、暫く読み専をしていました冴月冴月(さえつき さつき)です。名前は最近変えたばかりです。そして適当です。

 性懲りも無くブルアカモノを書き始めてしまいました。一話目は短くなってしまいましたが、これからは大体この程度の長さで切って行こうと思います。

 一話目から間が空いたのはシンプルにリアルの忙しさとブルアカ復帰による死ぬ気の石貯めに勤しんでいたからです。ちなみに辛うじて臨戦リオは引けましたがそれ以外は爆死です。何故かすり抜けでドヒナが来ました。嬉しいのよ。けど今じゃない()

 ショックで魂抜けてましたがなんとか執筆に戻ってこられました。これからもこんなペースでの投稿ですが生暖かい目で読んでくださると助かります。

 冴月でした。

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