生徒(黄昏接触済)に転生したけど何とか原作以上の結末を目指します。   作:冴月冴月

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吉兆の雲と共に一歩

 

 

 

 姿見で己の姿を見て真っ先に浮かんだのは、『ケモ耳だぁ……』という感想だった。頭頂部に揺れる耳は見た感じ狼か犬のように見える。触ってみたらもふもふだったが同時にぞわりと鳥肌が立ったのですぐやめた。

 

 それ以外にも、藍鼠色に黒のインナーが入った、前世からは考えられない奇抜な髪色や、パッキリと二色に別れた、黄色と灰色(いや、金色と銀色?)の瞳など、モブにしては特徴的過ぎる容姿にかなり戸惑った。

 

 制服は黄昏に触れた影響か薄暗い灰色で、ボトムスは暗い赤紫色の袴のようにも見えるロングスカート、ネクタイやリボンの類はしておらず、代わりに腰元に結び目があるのがスカートの袴感を増長している。

 そして羽織だが、どうしても前世動きやすい服を着ていた私には鬱陶しくて、つい先程脱いでしまった。制服と同じような色合いで、少し私にはオーバーサイズなのか袖が余っていたのが印象に残っている。

 

 百鬼夜行といえば和服なのは分かるが、こんな動きづらい制服で嫌にならないのだろうか。

 ちなみに羽織の下の制服も着物のような長い袖になっていた。なんか袖がモコモコしていると思ったらお前の仕業か。思い切って袖を捲りたくなったが踏み留まった。一応制服なのだから変に折り曲げれば跡がつくだろうし。

 

 そして最後に肝心のヘイロー。

 シュロやコクリコ様と似た赤紫色。アヤメのもこの色になっていたし、黄昏に触れたら皆こうなるのだろうか。

 私のものは普通に頭上に浮かんでおり、鏡越しならその形がよく見える。四つの楕円が輪を描くように綺麗に並んで、花のようだった。色も相まって不気味さと綺麗さが混在した良いデザインだと思う。

 

 さて、己の姿を確認できた事だし、気を取り直して。

 黄昏に触った状態の生徒という前代未聞のキヴォトス生スタートになったが、まずはどのように本編に関与するかを考えよう。

 全てのストーリーに関わるなら先生に接触は必須だろう。先生とは別の方からアプローチするのも不可能では無いかもしれないが、やはり限界がある。それに、エデン条約編のように先生が命の危機に晒される場面だってあるのだから、近くに付いて守れた方がいい。

 

 ならばシャーレに所属するのが最適だろうか。今の私は所属不明、ならいっそ初っ端から先生と交渉して直属のシャーレ職員になってしまうのも一手………………、

 

 ━━━━━うん? 待て、今何か一番大切な事を忘れていなかったか。

 

 ……先生と接触する絶好のタイミングをチュートリアルであるシャーレ奪還の時だとして、何処かいい感じのタイミングで戦闘に介入するなりして先生に話し掛けて、そのまま自己紹介して………

 

 自己紹介…して………、

 

 ……………………………。

 

 今の私、転生後の自分の名前知らなくない?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「五分ぶりです失礼します、コクリコ様」

 

「おや早かったねぇ、どうしたのかえ」

 

 すみませんもっと掛かると思ってましたよね。

 静かに廊下を猛ダッシュして来たので息を切らしながら、そっと襖を閉める。

 

「あの、もう一つ質問なんですが…コクリコ様、私の名前って、ご存知ですかね?」

 

「悪いんやけど存じないねぇ」

 

「存じないかぁ………」

 

 素晴らしいテンポ感。こんな即答で返ってくると思わなかった。

 

「……って、それはそうですよね、コクリコ様は黄昏に触れた私を拾っただけですからね」

 

「そういうことよぉ、なんだい、名前のことが気になるのかえ」

 

「あ、はい。よく考えたら名前も分からないな、って今気づきまして」

 

 よくよく考えればそれもそうだ、先程コクリコ様は、黄昏に触れて気を失っていた私を拾ったのだと言っていたではないか。本編アヤメのように直接連れて帰った訳ではないのだから、知る由もないのは当然である。

 

 ……ふと思ったが、そう考えたらこの屋敷で目覚める前の私のことは、誰も知らないということになるのでは?

 

 ならそもそも私という存在は、今さっき転生によってキヴォトスにインストールされたばかりの完成したての生徒の可能性はないか。所謂本作メインヒロインこと、砂狼(すなおおかみ)シロコのような。彼女だって記憶喪失の状態でいつの間にかアビドスに居て、小鳥遊 ホシノに拾われてアビドス生となった、身元の分からない謎の生徒だ、有り得なくは無い。

 

 この世界に転生後、その身体に宿る私の意識が覚醒するより前に黄昏に接触してしまった、と考えれば辻褄は合う。

 確認の術がない以上なんとも言えないが、可能性のひとつとして頭の隅には置いておこう。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

「うーん、でも、この先困りますよね、名前が分からないと」

 

 キヴォトスではどうやら『名前』は重要視されるものらしい。それが無いままでは何か、変な弊害が起きそうだ。…確証は無いが。というか、それ以前に呼ばれ方に困る。

 

「なら自分で決めてしまえばええんやないかえ?」

 

「えっ?」

 

 そんなことを考えていたら、コクリコ様からそんな提案が飛んできた。

 名前を自分で決める……確かに分からない以上そうなるのか。

 

「これからこの世界で、お前さんがお前さんとして生きる為に、名前は必須。難しく考える必要は無いんよ、頭に浮かんだものでええ」

 

「それは流石に適当過ぎるんじゃ…?」

 

「そうでもないさ。名は己の指針。お前さんが何でありたいか、思い浮かべながら考えてみるんよ。さすれば自ずと、適した名は見つかるさ」

 

 縁側にでも掛けて考えてみなさい、一面の銀世界で綺麗だよ。と話すコクリコ様に言われるがままに、座敷から廊下に出て、縁側に腰を下ろす。

 ゲーム内で描写されていた通り、辺り一面真っ白な雪に覆われている。陽の光を反射しているからか、かなり眩しくて地面から目を逸らした。

 

 名前を決める……そんなこと今までしたことは無い。ペットを飼ったことは無かったし、年下の弟妹も居なかった。誰かの名付けに立ち会う機会が、今まで皆無だった私が、一から名前を、それも自分自身に付けることになるとは思いもしなかった。

 

「……名前、かぁ」

 

 暫くぼーっと遠くを見ながら考えてみるが、一向に浮かばない。

 いっそ前世の名前をそのまま使うか? 苗字は正直、このキヴォトスでは埋もれてしまいそうな平凡さだったので流石に変えたいが、下の名前は使っても良いかもしれない。何より呼ばれ慣れている。変に前世から離れた名前を名乗って、呼ばれた時に反応出来なかったら不審に思われるだろうし。

 そうなると残るは苗字だが……独特なものやかっこいいものが多い中で、埋まらずにいられる苗字なんてそう思いつかない。

 

 出来ればホシノの『小鳥遊(たかなし)』やイオリの『銀鏡(しろみ)』みたいな、少し難しい読み方をするものがいい、なんて贅沢なことを思ってしまったりする。

 

「んー……難しいな」

 

「何がです?」

 

「いや、名前を忘れちゃったから考えてるんだけど苗字がちょっと難しくて………。………って、んん?」

 

「そうですかぁ、名前まで綺麗さーっぱりド忘れしちゃうなんて、手前さん可哀想ですねぇ」

 

 いつの間にか私の独り言に入ってきていた声に振り返ると、シュロが私の後ろに立っていた。

 

「……わぁあシュロさん!?」

 

「そんな風にびっくりされるとちょっとイラッとしますねぇ……まるで手前がお化けみたいな反応しないで下さいよぅ」

 

 シュロは私のオーバーリアクションに不服な表情をしている。

 

「あ、ごめんなさい…集中してて反応が遅れちゃったんです」

 

「……はぁ。で、苗字決めでしたっけ? 下の名前はもう決まったんです?」

 

 溜め息ひとつ吐いて、私の謝罪はスルーし話の続きをしながら隣に腰掛けるシュロ。私と違い頼りない包帯に覆われただけの、足袋も何も履いていない寒そうな素足を遊ばせながら、空を見上げる。

 

 そういえばシュロの苗字は『箭吹』だったか…これも中々趣ある苗字だと思う。ちなみに私は、この苗字を初見時に自力で読むことは出来なかった。漢字弱者。

 

「はい、下の名前はもう。あとは苗字だけなんですよねー…」

 

 シュロに倣って私も空を見上げてみる。

 すると、晴れた空に不思議な雲が浮かんでいた。

 紫を初めとした色とりどりの光で虹色にたなびいていて、神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

「わぁ…綺麗な雲」

 

「…おや、紫雲(しうん)じゃないですかぁ。吉兆のシンボルですよ、あれ」

 

「そうなんですか?」

 

 物珍しそうにシュロもその雲を目を細めて凝視している。

 曰く、太陽や月の光が雲によって屈折することで見られる珍しい雲らしい。

 

「はい、よく呼ばれるのは瑞雲(ずいうん)ですが、他にも彩雲とか慶雲とか、色んな呼ばれ方するみたいですねぇ……もしかしたら、近い内にいい事あるかもしれないですよ?」

 

 吉兆の雲が今見られるとは……なんだか、私の悩みを晴らす為に現れてくれたかのようだ。都合の良過ぎる解釈だとは思うが。

 

「………なるほど、決まりました」

 

「はい?」

 

「苗字、良いの見つかりました」

 

 私は、この世界を元よりも更に笑顔の溢れる展開にしたい。

 傍にいることで安心させてあげられるような、皆にとっての『吉兆』でありたいから。

 

「『紫雲(しうん)ミハナ』これがこの世界での、私の名前です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

━━━『とある生徒』side━━━

 

 

 

 

 

 

 

 一面広がる銀色の世界。冷たく乾いた風が吹き抜け、薄着の私は思わず立ち止まって身を震わせる。

 寒いのには比較的強い自分でも縮こまってしまうような極寒の地━━━━━百鬼夜行の外れにある『雪原』に、私は立っていた。

 

 肩に掛けた青い羽織と、右手に握る紺青の長いライフルが、今は酷く重く感じる。

 

 遂に逃げ出してしまった。私を引っ張ってくれた『幼馴染』は目覚めなくなった(・・・・・・・・)。私を支えてくれた『友達』は行方不明………『二人』が私の傍から居なくなってしまって、支えがなくなった途端、私は恐怖に耐えきれなくなって、気付けば全て放り出して雪原にいた。

 

 渡された『証』も今は手元に無い。私なんかには扱える訳がないから。

 きっともうバレてしまった。あの気丈な副委員長はただの化けの皮で、本当の『私』は単なる臆病の弱虫だということは。

 

 百花繚乱の子達にはどう思われているだろうか。大嘘つきだって失望されただろうか。

 

 委員長の代わりとして、私がしっかりしなければならない事は分かっているのに。

 

 

 

 寒さか、恐怖か。

 私は身体の震えを止めることが出来なかった。

 

 

 

 

 







ユ ズ と エ イ ミ 来 ち ゃ っ た よ (絶望)


石なさすぎて反転()、どうも冴月冴月です。冴月(苗字)でも冴月(名前)でも冴冴(略)でもお好きなようにお呼びくださいませ。

今回はオリ主のお名前決定回。色々情報が渋滞し過ぎて名前分かんない事に中々気付けないオリ主がポンコツ。そして三話目にして既に難産気味です。この先やってけるかな私(不安)
伏線とか上手く散りばめつつしっかり物語を構成して尚且つ投稿を続けている方々が眩しいです。私も願わくばそうなれますように…(祈祷)

それから、この話を書くのと並行してオリ主のお姿のイメージイラストを描いてみたので良ければご覧下さい。





【挿絵表示】





どうでしょう、中々上手く描けたと思ってます。
色合いはアヤメからスポイトして少し調整して塗ってます。ブルアカに絵柄を寄せるのは実力不足の為断念しました。
作中で邪魔くさくて脱いだ羽織にがっつり百花繚乱の柄入ってますね。いくら色が変わってるとはいえ気づきそうなのに気づかないオリ主はポンコツ。それどころか己を砂狼 シロコと同じような存在と迷推理するという。この勘違いが果たしてどう作用するのやら。

そして最後の視点の人は、先生方なら分かりますね。なんか既におかしい部分の片鱗が見えてるけど今は気にしないでおこう。


また書け次第ぼちぼち不定期に更新しますので良ければこれからもよろしくお願いします。それじゃ。


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