1話『全ての始まり』
IS学園―1年4組教室―
朝の教室は騒然としている。
早朝から起きていたアリーナ区画の閉鎖に伴う話題だった。
「ねー!今朝早くに空に飛んでたの見た!?」
「え~?何が飛んでたの?」
「私もそういうの見なかったけどどうかしたの?」
岡崎が大声をあげて2人の生徒の元へと駆け寄っていた。
「ISよ!IS!見た事ないカラーリングだったけどビューンって空高く飛んでヒューンってアリーナの中へと下りてったのよ!」
「それ、どういう擬音使っているのよ…」
「んん~?岡崎さん、それって飛行テストか何かする為にアリーナのほう閉鎖されてたのかな?」
「多分そうよ!だって……更識さん、秋葉さん知らない?」
岡崎の席の真後ろ、朱音の席を見たがまだ教室に来ていなかった。
隣の席の簪は席についていたから話しかけた。
「ううん。私は、知らない。でも途中までは、一緒だったよ…?」
「うーん…どうしたんだろ?」
簪は首を振って答えたが岡崎は首をかしげて困った表情をしていた。
第1アリーナでは途中まで一緒だった簪でもまだ来ない朱音に首をかしげて困惑していた。
…。
……。
………。
朝の第1アリーナから更衣室でISスーツを脱ぎ制服に着替え直した所で朱音は頭痛を訴えて、保健室まで楯無に連れられていた。
「…楯無…つきあわせて…ごめんなさい…」
「別に大丈夫よ。新しい感覚に頭が追いつかなかったかもね。システムアシストとか言ってた奴ね」
ベッドに仰向けになって寝かされ、苦しそうに小さな声で謝る朱音の顔色は血の気が引いたかのように色白になっていた。
そんな朱音の姿を見て楯無は心配したが、首を振って優しい声で言う。
朱音の頭痛の原因は霞桜のIS起動時に思わず口に漏れた多段階瞬時加速のシステムアシストのせいかと楯無は考えて寝れば直るだろうって思っていた。
「私は授業があるからこれで失礼するけど、朱音ちゃんはゆっくり休みなさいね」
「そう…しますね…」
楯無は優しい声と顔を浮かべて退室していった。
この頭の頭痛はさっきからズキンズキンしていて気持ち悪い…。
霞桜に乗っている時はなんともなかったのに更衣室に来てから突然頭痛が来て…。
それから……なんだか気が遠くなって…今もそうこんな感じに気が遠く……。
………。
朱音は目の焦点が合わなくなって、寝るように眼を閉じた。
…………。
………。
……。
…。
―unknown―
これは…夢?
いやこれは…そう…今から8年前……。
たしか私が10歳の時の記憶だ。
両親はどんな仕事しているかは私にはわからない。
ただ、この記憶は家で両親とくつろいでいるときだった。
全ての始まりのきっかけ…そう…。
『ねー。ISをまなんでみたい』
私の両親に告げた言葉に眼を点にして驚いていた。
急にそんな事を言い出すから最初は両親は驚き戸惑っていたけど今後の進路を決める為に先にIS適性があるかどうか調べてもらおうってなった。
そして、数日後にはとある施設へと連れて行ってくれた。
どうしてこんな研究所みたいな所を見つけて連れて行ってくれたのかは私は何も考えてなかった。
「それじゃあ、花蓮ちゃん。そこのベッドに横になってね」
看護婦に促されるまま、私はベッドに横になる。
心電図みたいな電極を体中に付けられる。
初めての経験で私は不安と恐怖を感じて眼が潤んでいた。
「花蓮。何も心配しなくても大丈夫だからね?ママ達はすぐ傍に居るからね」
「そうだぞ。ただ適性を調べるだけだから何も怖くはないからな」
すぐ傍で見守るように居る私の両親は優しい声をかける。
私はそれを聞いて頷いた。
「ッ!?こ、これは…?」
IS適性検査の装置をコントロールしている部屋から男の人の驚きの声が聞こえて、何か電話をかけている様子が私でも見えた。
両親も何事かと険しい表情で首をかしげて見ていた。
「申し訳ありませんが花蓮ちゃんは私達のほうで保護させていただきます。ご両親の方には退室をお願いします」
電話をかけ終えた男の人はそう言った。
私は何?って不思議に思い困惑していた。
「ちょっと待ってください!それはどういう事ですか!保護って!」
「そ、そうだ…いきなりそんな…ッ!」
両親は戸惑いながらもママは大声をあげて怒鳴っていた。
そこへ部屋のドアから黒服の男達が来て両親を部屋の外へと連れて行った……。
両親の私の名前を呼ぶ叫び声が聞こえる。
突然の事で私は声を上げれず見ていることしか出来なかった。
両親の声を聞いたのは"これが最後"だった。
それから私は注射か何かによって気を失ったか眠らされた。
「……ここは?」
次に目が覚めた時には真っ白な部屋に真っ白な服を着せられていた。
テーブルと机、ベッドと布団だけが置かれていた。
でも周りを見渡しても私しか居なく孤独で不安にかられた。
『おはよう。目が覚めたかね?』
「……?」
突然部屋のスピーカーから年配の男の声が聞こえた。
私は驚きながらも不思議に思って天井を見上げていた。
『申し訳ないが君はIS適性値がSだったのだよ。だから保護する為にこうしてしまった。だが何も心配する事はない。君はこれからISの事だけを学んでもらいたい。理解できるかな?』
「………うん」
男の話を聞いて頷くしかなかった。
とても不安で孤独感に支配されていたから、それしか私には判断する事ができなかった。
それからしばらくすると、女性が部屋に来てISの基礎知識、操縦方法など、本を交えて教えてもらった。
ISの事ばかりそれだけを覚えるだけの日々だった。
部屋の中では時計が無く時間の感覚は私にはわからなかった。
ただ飲食などはお願いすれば用意してくれるぐらいでISの事を勉強し寝るだけの日々で私には何も自由なんて無かった。
それでも私自身が孤独感からか部屋の外に出るつもりも無く不満を訴える事はしなかった。
それからISの基礎知識、運用、操縦方法様々な事を頭に覚え、しばらく経った日には部屋の外と連れられた。
最初はどうなるんだろうって疑問と不安と恐怖で感情が入り混じっていた。
廊下を歩き続けてしばらくすると外へと出た、周りの景色はどこかわからない森の中、空は晴天で暑かった。
それでも保護という名の真っ白な部屋に閉じ込められてから初めて外の空気を吸った瞬間で気持ちはすっきりとした。
そして、目の前には鎮座するようにISの機体が1機置かれていた。
「では、あのISに乗ってくれたまえ。まずは君の覚えたISの知識だけで動かしてごらん」
傍に居たのは最初の時にスピーカーから話してきた年配の男で長老みたいな雰囲気の人だった。
私は無言のまま頷き、ISに乗った。
それからISの起動から歩行動作、覚えた知識の通りに動かした。
私はこのときから覚えた知識だけでISを体の一部のように身軽に動かせた。
「すばらしい…君の才能は見立て通りだ。適性Sだけでなく飲み込みの早さに驚かされるばかりだ」
男は感動したような表情で頷きながら言っていた。
そして私は褒められた事で嬉しくて微笑んでいた。
でも、それはほんの些細な時間でしかなかった。
《警告!所属不明IS接近》
突然のシステムアナウンスと同時に爆音が鳴り響いた。
凄まじい爆風が辺りにたちこもり、周りに居た人は衝撃で倒れかけていたけど生きてはいた。
私はこれは攻撃を受けたんだと直感で思った。
『やぁぁと見つけたぜぇ!こんなちんけな所に居るなんてなぁ!』
ドスの効いた声だけど若い女の声だった。
ズドォンという衝撃音と共に私の目の前にISが地面に降り立った。
そのISに乗っている女の顔を見たら声とは裏腹に幼さが残る若い女だった。
その女は不敵な笑みを浮かべて私を見てから目の前に居る施設の人たちを見た。
「く…貴様は亡国機業かっ!」
長老のような男の人が膝をつき、顔を歪ませながらも襲ってきた相手を知っているのか声をあげた。
「知っていて光栄だぜぇ。そうだ!俺様が!………あぁ。熱くなりすぎちまったなこりゃ。ま、この女の子を連れて帰るってのが私の仕事だから邪魔すんじゃねぇぞ」
相手は何か大声で名乗り出ようとした所で通信が来たのか間が空いた所で言い放つと建物に向けてISのライフルで射撃を行った。
爆音と爆風が起き建物の側壁が崩れながら、そのライフルの銃口を私のほうへ向けた。
私は両親の時と同じでただ何もせず放心するように黙って見ているだけだった…。
ライフルの解き放つ光を見た途端にISの絶対防御によって私は気を失った。
―――。
その頃朱音が眠っている間では…。
IS学園―特別医療室―
IS学園では大学病院並の医療施設がある区画がある。
その区画の中で1人部屋である特別医療室。
ベッドの上では朱音が寝かされ点滴等が繋がっていて窓の外の景色は日が既に沈んで暗くなっていた。
他に室内に居るのは楯無と簪、そして千冬と真耶だった。
「織斑先生…朱音ちゃんはあれから目が覚めないっていくらなんでもただの頭痛じゃあ…」
「私も、心配です…朝はなんとも、無かったのに…」
楯無と簪は心配するような表情でベッドに眠る朱音を見ていた。
2人は見ているだけで心配な気持ちが沸いてきてしまう。
「私にもわからない。だが考えられる事は…山田先生、説明を頼む」
険しい表情で首を振って言う千冬は傍に居る真耶に向けて合図をした。
「はい。秋葉さんの精密検査の結果は体に異常は特に見られませんでした。しかし頭部脳波がとても活発に動いている事が判明いたしました」
「活発に…というと朱音ちゃんは夢を見ているのかしら…」
真剣な表情で事務的口調で言う真耶の話を聞いて楯無は神妙な面持ちで朱音の顔を見つめる。
「そうです。記憶喪失で思い出せない記憶を夢という形で思い出しているから目覚めないと私達はそう考えております」
「いつ目覚めるかはわからない。だが何も心配するな。直に目覚めるがそれまで見守る事だけだ」
「わかりました…」
真耶と千冬の話を聞いて、ただ小さい声で頷きながら楯無は返事をした。
楯無らは朱音がいつ目覚めるかわからない途方もない不安に駆られながらも胸の内に抑え込んだ。