IS~Lost Memory~   作:竜太

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4話『深い罪悪感の行く末』

市街地―某所―4年前

 

作戦概要は移動中のワゴン車で聞かされた。

その言葉を聞いたときは施設の勉学で知っていた人物の家族だった。

 

 

『織斑一夏の誘拐』

 

 

――任務内容――

最初の実行役として指定場所まで織斑一夏を誘い込む事。

 

具体的な内容は私に任されたが14歳の私が11歳の織斑一夏と歳が近い事を利用するのが適切だからと私が呼ばれた。

 

 

「誘拐か……」

私はそうぼやきながら、資料を見ていた。

織斑一夏、織斑千冬の弟。現在11歳。

織斑千冬はISをスポーツとした世界大会第1回モンド・グロッソ優勝者であり、現在実施中の第2回モンド・グロッソでは準決勝進出。

 

「理不尽と思えるだろうがこれはただの誘拐ではない。いろいろと道理がかなっている」

エマはそう言うと別の書類を見せてきた。

作戦の理由、全容だった。

 

 

 

織斑千冬が第2回モンド・グロッソを連覇で優勝した場合、世界はさらなる女尊男卑社会へと加速するだろう。

我々は女尊男卑へ世界が加速する事を望まない。

よって第2回モンド・グロッソの参加を棄権にさせなければならない。

既に大会参加への棄権の説得はしたが本人が頑なに拒否した為に失敗に終わっている。

しかし、織斑千冬の弟である織斑一夏を誘拐するだけでは大きなニュースになる事は我々は望まない。

そこで手段を探した所ドイツではIS部隊の育成が行き詰っておりIS指導に適した人材を探している。

そのドイツへIS指導官として織斑千冬を差し向け国際取引をさせる事でニュースになる事も無くなる。

以上。

 

 

 

「………何故、これを私に教えた?」

作戦の全容を見て私は理解した。

理不尽ではなく道理がかなっている。

今の世界の女尊男卑のパワーバランスの変化はさらなる混乱を深める。

訓練所で男の指導官が指導するんじゃなく、ただ見守るだけで女である私が指導するというおかしな現象が世界規模で当たり前になる可能性がある。

でも何故、この事情を教えたのか疑問だったからエマに質問した。

 

「我々は亡国機業(ファントムタスク)ではあるが、また違った我々だ。我々は世界の歪みを深めたくないから行動をしている。亡国機業自体はただ織斑一夏を誘拐し織斑千冬を世界大会の参加を棄権にさせる目論見だけだ。その目論見通りに当たるとしたらニュースとなり結局は織斑千冬は有名人になる。その意味は花蓮なら理解してくれるだろうと我々は思った」

エマの説明に私は理解した。

裏組織が今ここに2つ同時に存在している。

1つはただ織斑千冬を棄権にさせる為に一夏の誘拐を指示した亡国機業。

もう1つが、目の前に居るエマの裏組織、誘拐したあとの今後の行方さえも見通して手を回している。

それ以外の選択肢を考えてみたが、織斑千冬は有名だから騒動が起きないようにするには弟の織斑一夏を誘拐するしか他が無さそうだ。

 

「わかった。これぐらいしか方法は見つからない。で、誰も気づかない?何故ローレンが居るッ!!」

「「「っ!?」」」

私はこの車内に居ないはずの人物を見て大声で怒鳴った。

エマもエイミーも車を運転している人ですら驚いて車がガクっと揺れた。

ここまで誰も気づかないほど気配を消すの得意すぎるだろう…。

 

「す、すみません…」

「ビックリしちゃったわ…ローレンは花蓮が心配だからってここまで来る必要はないわ…」

いつもの申し訳ない表情で謝るローレン。

冷や汗をかいたのかエイミーは額を手でぬぐいながら言っている。

エマは呆然としてから、笑みを浮かべた。

 

「はは、はっはは。これは驚いた。ローレンという子は隠密活動に適している人材だ。花蓮が気づくまで誰も気づかなかった、私は気に入った。このまま一緒に行動を共にしようではないか」

「あ、ありがとう、ご、ごさいます…」

エマは笑いながら言うと、ローレンは微笑みながら頭を下げた。

口下手は相変わらずだけど行動力と気配を消すのは隠密の役割としては適していた。

 

 

「ではそろそろ時間が近い。花蓮はその格好では人目につくから着替えは用意してある」

そう言うエマは袋を手渡してきた。

中を良く見ると洋服と紐のようだった。

 

「あ、花蓮のその長髪はまとめたほうがいいわ。私がしてあげよっか?」

「…エイミー。お願い」

紐を見て何をどうしようか思い悩んだ私にエイミーが微笑みながら声をかけた。

今までこの長髪をまとめるとかした事がなくストレートのままでやり方は知っていなかったから了承した。

その後、綺麗な洋服に着替え、髪は後ろに一本にまとめられてポニーテールになった。

 

「では我々は車で待機している。後は花蓮、頼んだ。指定場所さえ間違えなければ後は別働隊がしてくれる」

「がんばって花蓮」

「い、いって、らっしゃい」

「それじゃ、行ってくる」

エマは真剣な表情で話をし、エイミーとローレンが心配そうな顔をしている。

ローレンの口下手はいつまでたっても直らないなと場違いな考えをしながら車から降りた。

 

 

 

 

「………」

歩きながら思考をめぐらせる。

織斑一夏の現在の行動は把握されている。

しかし、どうやって接触したらいいのか思い悩んだ。

人見知りではないけど長い間を訓練所で過ごしたからどう話しかけたらいいのかわからなかった。

 

 

ドンッ――

考えすぎたのか前を見てなくて人にぶつかってしまった。

その拍子で私は地面に倒れた。

 

 

「前を見てないとあぶねーよ…大丈夫か?」

「え?…あ、大丈夫です」

私は顔をあげてぶつかった相手を見たら呆気にとられて反応に遅れた。

そのぶつかってしまった相手こそ『織斑一夏』だった。

 

「…道に迷ったのか?」

「えーと…この場所に行こうかと思っていて…」

起き上がりながら、手に紙を持っている事に一夏は気づいて聞いてきた。

私は頷きながら、紙を一夏に見せる。

紙には任務である指定された場所の名前と簡単な地図しか書かれていない。

 

「あー。今から俺が行こうとしてた所の近くだ。ついてこいよ」

「え…ありがとうございます…」

どうしてここに行こうとしたのか理由を何も聞かずにただそう言うと一夏は歩きだした。

初対面にも関わらずこの態度に、私は素直に礼を言うだけだった。

この一夏の行動に私は唖然とし、この先に何が起きるのか知っているのについていくように見るだけで何も言えなかった。

 

 

 

 

指定場所に着くと私は再度一夏に礼を言って別れた。

私と一夏が見えなくなった所で別働隊の男達が一夏を取り押さえて車に押し込んで連れ去った。

そして、とある某所の建物に一夏を監禁し外のちょっと離れた所で男達が見張るだけ。

私の役目はもう終わったが、かなり遠い所で双眼鏡で一夏を監禁した建物を眺めている。

 

 

「それで、これからどうする気?私の任務は終わったのに何故ここに来た?」

双眼鏡で見ながら、まだ何故ここに居るのか疑問に思って傍に居るエマに聞いた。

 

「我々は最後まで見届ける必要がある。織斑千冬がISで飛び出したと報告されたからだ…まさかISで向かうとは予想外になった」

険しい表情で説明するエマ。

それを聞いて私も違和感と疑問を感じた。

大会を棄権にするだけの事、織斑千冬がわざわざISで飛び出す必要はない。

見張りの男達なんか『武器を持たせていない』織斑千冬の武術なら倒せれるほど捨て駒だ。

それほど、こちらは甘い状況だから車で向かえば良いのにこれは…嫌な予感が私の脳裏をよぎった。

 

―――ISは兵器だ。人を殺す兵器だ―――

 

織斑千冬はそれを知っていない?

私だけがこれを知っていると?

明日香を殺したときのドス黒く深い闇と罪の重圧が起きる事を織斑千冬は知っていないと感じた。

人の命の重さ、それを知らないと……でも私達には知らせる方法はない。

一夏の監禁場所をドイツに秘匿で流してドイツが何かの方法で織斑千冬に知らせるという計画だから私達は織斑千冬にメッセージを送る事が出来ない。

 

「………」

私は黙って睨むように空を見ていた。

深い闇と罪の重圧の重さを知っていながら、また私は見ている事しか出来ない事に苛立ちが募るばかりだ…。

両親、施設からの連れ去り、織斑一夏…そして今起きるかも知れない事に…。

私は見ていて何もしなかった事が多すぎる。

それに気づいて自身への怒りに歯をかみ締めていた。

 

 

「花蓮、収音機だ。気になるだろう?これから何が起きるか起きないのか」

「……ありがとう」

収音機、ハイパーセンサーを参考に作られた遠くの音をよく聞こえるようにする機械。

それをエマが悟ったように私に手渡してくれた。

私は耳に当て、音の調整をした。

 

 

どのくらい時間が経ったかは定かではないがISを身に纏った織斑千冬が上空を飛んでいる姿が見えた。

私はこの現場をこの眼で見て耳で聞いて、背負わなければいけない。

全てを背負う覚悟でここまで生きて過ごしてきた。

だから一夏の誘拐、そして今起きようとしている事を見届け背負わなければいけない。

 

 

――私が見た光景は言葉に言い表せれない地獄絵図だった――

 

 

 

 

『――――――――――――』

『これ…は…わた、しは……』

織斑千冬はやってしまった。

ISが兵器を知らなかった。

ISが兵器であり、人を殺める行為がこれほど簡単に単純だったのか全てを終えてから我に返って気づいた様子で織斑千冬は地面に両膝をついた。

 

私は双眼鏡と収音機によって全てを見届けた。

男達の断末魔、絶望、絶命の声…。

織斑千冬は全ての男達を殺しきるまでISの武器を無我夢中に振りかざしてしまった。

男は『命乞いまでしていた』のに織斑千冬は止まらなかった。

まさに復讐心に燃える狂った人のようだった。

 

とっても重たい闇と罪、罪悪感の重圧を知るべきではなかった。

知ってしまった以上は私はドス黒い心の闇を耐えてくれと願い続けた。

私が明日香を殺したときと同じかそれ以上かも知れないドス黒い闇を織斑千冬は耐えて欲しい。

あれを知っている私には願うしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………―――――』

 

 

 

 

 

 

 

…………織斑千冬は耐えれなかった。

心が支配されるようなドス黒い闇と罪悪感に耐えられず泣き崩れるように力の限り絶叫をしてしまった。

ドス黒い闇と罪悪感に私は耐えたが織斑千冬は耐えられなかった。

叫んだ後はどうなるかなんて私には理解できないし織斑千冬しかわからない。

 

叫び終えた織斑千冬は地面に両膝をついたまま放心したかのようにしばらくは動かなかった。

どのくらい経ったのかわからないが、織斑千冬は体を震わせながら立ち上がった。

そして少し離れた所にある一夏を監禁していた建物の壁を破壊して救出し、織斑千冬は一夏を連れて帰った。

 

 

 

「…織斑千冬は闇と罪悪感に耐えられなかった。絶叫をしてしまった。でもそれが一体どうなるかなんて私にはわからない。エマ、エイミー…織斑千冬と同じ事をした私にはあれに耐えた…」

全てを見届けた私は双眼鏡と収音機をエマに返しながら自然と口から言葉が出てきた。

 

 

「あの時の花蓮の姿は私はよく覚えているわ。とても力強く真剣な顔だった。でも織斑千冬は泣き叫んだ…その差なんて誰にもわからないわ」

眼を閉じたまま気持ちを落ち着かせているのか優しい声で言うエイミー。

 

「予想外だったが…私でも残酷な光景と思える…裏社会に身を置きながら人が逝く所を見るのは気分は良くないな」

エマは険しく鋭い目つきで空を眺めて言っていた。

 

「…………」

ローレンは青ざめた表情のまま放心し言葉を失っていた。

私は地獄を味あわせない為に今まで訓練所でかばい続けていたからあの地獄絵図の光景は知っていない。

見ているだけならドス黒い闇は来ない…でも見てただけでもこれだ…私はその姿は見たくない…。

 

そして私は1つの決意をした。

 

 

「私は、全ての元凶である篠ノ之束に会いたい。私やエイミーそして訓練所の皆の運命を狂わせたISの生みの親に私は会って問いたい『ISを何故作り続けているのか』」

私の力強い言葉を聞いたエマは頷いた。

ISが兵器でありドス黒い闇を知っている私だからこそ会って本人に直接聞きたかった。

いとも簡単に人を殺める事が出来るISを未だに作り続けている。

ISが登場以前の兵器ならまだそうなる理由があり本人の希望で兵器を使いそこに居る。

でもISは本人の希望の有無に関係なく人を殺めてしまうんだ。

殺めてしまっては取り返しのつかないドス黒い闇によって人の運命を左右してしまう。

それがISであり、それが全ての元凶だと私は改めて気づき思った。

 

 

 

「手配しよう。篠ノ之束に会う手段を探っておく」

エマから返事を聞いて私は頷いた。

 

 

 

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