織斑一夏誘拐事件後の数ヶ月はエマ率いる部隊と共に行動していた。
この部隊は亡国機業(ファントムタスク)とは別系統の独立した部隊"モノクロームアバター"という名前だった。
無論、この部隊の上部組織は亡国機業だが、もう1つ秘匿組織が存在している事を知った。
部隊の傘下は亡国機業が直接指示を送る実働部隊が複数存在し、それぞれが独立して行動しているぐらいだった。
つまり、亡国機業から私達に指示をするときもあれば傘下に直接指示しているとの事。
現在、織斑千冬は目論み通りドイツで軍のIS部隊の指導官をしているがISの現役は引退した。
そして、篠ノ之束の研究所で面会が叶う日が来た。
了承理由は定かではないが普通になんでも話して構わないとの事だった。
資料では身内以外ではなかなか話を聞かないとか冷酷非情というのにわからない…。
「始めまして、私は青木花蓮です。篠ノ之束さん」
初対面だったが今まで気を張って過ごしてきたおかげで緊張を感じないで平然と凛とした声が自然と出た。
服装はスーツが良いとか言ってたけど私は話をするだけだからといたって普通の私服(ワンピース)だ。
「ふ~ん?君がね~」
篠ノ之束はウサミミみたいなカチューシャとエプロンドレス?を着ている。
興味津々な様子で私の体を舐め回すように見ていた。
子供みたいな雰囲気に感じ呆れてしまって思わず額に手を当てて溜息をついてしまった。
「あはは~。ちーちゃんみたいな雰囲気もっているねぇ。どんな人かなぁって思ったけど。かー…う~ん…それだとおかしいから花蓮ちゃんでいいやぁ」
前言撤回。無邪気に笑って子供みたいな口調だ。
私の呼び方…名前を伸ばすとかーちゃんだからそれだと変だ…でも普通に呼んだ?
普通に呼ぶことは妹の篠ノ之箒しか居ないという情報だったのに…。
「はぁ…それで良いですが、篠ノ之束さんに聞きたい事がある」
溜息まじりで本題を先に聞きたかった。
篠ノ之束はムッとした表情になった。
「束さんで良いよ。花蓮ちゃんが聞きたい事は束さんは知っている」
束はムッとした表情のまま悟ったような口癖に私は厳しい目つきになった。
「何を知っている?」
「……ISが兵器かどうかってね。花蓮ちゃんはあの施設で人を殺したのは束さんは監視カメラで見ていたよ。でも花蓮ちゃんはISを乗り続けた。それは何故かな?」
私の質問に答える束はさっきの無邪気から一変して雰囲気が真剣に感じる。
これは一体…。
「そう、私は明日香を殺した。あの時ドス黒い闇、罪悪感が心に来た。それを必死に耐えた。ISが兵器であり、人を殺す行為がこれほど簡単に単純だったのか罪と共に背負うと決めた。あのドス黒い闇の感覚を他の皆には誰にも味あわせない、汚したくないからISを利用し乗り続けた」
過去の記憶を力強く言う言葉に束は椅子に座って背を向けて黙って聞いていた。
「そうなんだ。ISの恐ろしさ気づいてくれる人が居てくれた。束さんはね。ず~~と間違えているんだぁ。そのせいでいっくんやちーちゃんを悲しい事に巻き込ませちゃった」
それは束の後悔と反省…懺悔にも思える言葉で悲しそうにとても小さな声だった。
ずっと間違えているってこの人はもしかして…。
「束さんはもしかして、自分の行動を抑えられない?欲望に身を投じてしまっているということ?」
私は思ったことを率直に言うと束は背を向けたまま天井を見上げた。
「ぴんぽ~ん。束さんは世界のみんなにISがすごいって褒められるのが楽しくてずぅ~と繰り返している。そのせいで束さんの大事な大事なちーちゃんが傷ついた…ね~。教えて、ちーちゃんがいっくんを助けた時のこと、花蓮ちゃんは傍に居たよね?束さんはあの現場見れなかったからわからない」
私の話を返す束の姿が身を小さくしたかのような雰囲気だ…。
だから私は話をした。
織斑千冬が泣き、絶叫するまでのあの現場を、私は全てを記憶し同じ立場として語る事が出来るから包み隠さず全てを話す。
「――で、その闇と罪の重圧、罪悪感の重圧に心が耐えられなくて泣いて絶叫した。そして現役引退もそれが影響していると私は推測している。本人に聞かないと理由ははっきりしないけど、あの重圧に耐えた私でも今も重くこの体に纏わりついている。それほど心に重い」
私の心は強いのか思い出しても気持ちは動じずありのままに力強い口調で話をした。
話を聞き終えた束は天井から顔を下ろして椅子を回して私へ向いた。
「ちーちゃん…ISが人を殺す事が軽い事に気づいちゃってダメになっちゃったんだ…」
顔を俯かせて悲しい表情と小さい声で言う束。
それにしても普通に話する事は困難な篠ノ之束が私とここまで親身に話するのは何故?
「質問がある。束さんはなんで私とこんなに話を…親身になってしようとしている?」
質問した途端に束の顔が不敵な笑みのように微笑んだ。
そして束の雰囲気と気配が変化したのを感じた。
「私と境遇が似ているから、私は子供のころ大の大人、男達に囲まれて過ごした。それがとっても嫌だった。でも才能を認められて褒めてくれたから私は嫌でも我慢してきたよ」
雰囲気の変化は言葉遣いまで変化する…って束はころころと変化するほど心が安定してないのか?
どっちが本当の束なのかわからない…。
でもこの境遇は明らかに似ている。
「私が訓練所で才能を認められ皆と違う扱いを受けた。男が見守る中で私が指導と共に一緒に皆と訓練していたのと状況が似ている…だから境遇が似ているからこうして話が出来る?」
私の話に「そうだよ」って束は一言だけ言って頷いた。
「それともう1つ。人間の関係を理解してない人は私は大っ嫌い。でも花蓮ちゃんはあの施設で優遇された扱いをされても、それを利用して弱い人を助けている姿は凛々しくて真っ直ぐな所に私は興味がそそられたよ。花蓮ちゃんなら私の間違いを正してくれるって…私は今もずっと選択を間違えてる。私は私の欲望を止められない」
束はまた椅子を背に向けて表情はわからない。でも声は悲しみを帯びているように感じて小さい。
束は間違いを続ける気…後からそれをわかってしまう…。
後悔と反省を繰り返してもなお、その行動を正しくできないで間違え続けている…。
欲望…それはISが褒められることかな…話を聞いてて私はそう感じた。
「あのね。花蓮ちゃん。私はISを発表したとき、今まで私の才能を認めて褒めていた男達は手のひらを返して批判をした。花蓮ちゃんならわかるよね?そのせいでちーちゃんみたいになっちゃった」
束の話を聞いて絶句と唖然の両方を感じた。
これはISの発表と登場の裏側だ。
私ならはっきり言わなくてもわかる。
1を聞いて10を知るように、私の経験と知識から憶測と推測の両方が出ている。
束はISを発表し、それを聞いた人達はISを認め、褒め称えると思っていた。
それは間違いで手のひらを返してISを批判して認めなかった。
認められなかった束はその悲しみから嘆き悲しんだ。恐らく絶叫もしただろう。
それによって心が壊れて不安定に、今みたいに言葉遣いと雰囲気がころころ変わるように行動と心が定まらなくなった。
そしてISを認めてもらう為にあれをした『白騎士事件』
それによってISは認められ褒められたから、褒められ続けたいが為に今もISを作り続けている……。
「だったら、私は束さんの間違ってきた事を正す。ISによって狂わされた運命を正す。今の世界のバランスをこれ以上歪ませない。私は歯車となって、世界の運命を正す。そう、『運命の歯車』となる為に私はここに来る運命だった」
私は真剣に力強い言葉で決意を部屋に響くぐらい言った。
それを聞いた束は椅子を回して私に向かって鋭い目つきをしていた。
「出来る?私がばら撒いた種だよ?沢山あるんだよ?世界はそんなに甘くないよ」
束は冷徹な気配で鋭く強い言葉で私に向けて言う。
でも私は何も動じない。訓練所を通してここまできた私の心はその程度ではもう何も感じない。
「全部を正すなんて無理な話はわかっている。世界は平等な関係にできていない。でも少なくても誰かの歪んだ運命を正すぐらいはやろうとすれば出来るでしょう?そういう事をしたい。それと今の世界のバランスもISのせいで歪んでいるけどそれは束さんの行動次第じゃない?例えばコアの生産を止めればこれ以上ISが増える事はなく大きなISの軍隊が出来る可能性はなくなる。違う?」
言葉を言いすぎた気がするけど私の口は止まらなかった。
考えれば考えるほど言葉が溢れ出てくる。
「あはは~。そうだよね。わかっていたね~束さんがこれからやろうとしている事まで見通しちゃっているなぁ。感心しちゃうなぁ…コアの生産制限はもうやろうと思っていたところなんだよ」
束は微笑みながら、子供っぽい声をあげていた。
反省し正しい行動はなんとなくまだ出来るんだ…。
でも選択を間違え続けて反省と後悔を繰り返し続けていると心はいずれ壊れる…。
心が壊れたら束を誰が止める…?
「あのさぁ…花蓮ちゃん。お願いがあるんだけどさ。もし、もしもだよ?束さんが選択を間違えておかしな行動をとっても…運命を変えてくれる?特に箒ちゃんやいっくんやちーちゃん…」
お願いするかのように小さい声で言う束。
束のお願いは篠ノ之箒、織斑一夏、織斑千冬のこと…。
世界を正すとか歪んだ世界を正すとか、大それた事を言っているけど結局は私1人ができる事は限界がある。
それはわかっているけど希望、理想を言うのは人の自由だから。
でも具体的な例はあげなくてはいけない。
「束さんのお願いなら聞きますよ。歪んだ運命が待っているなら私はそれを否定し正しい運命へと歯車を直す。さっきも言ったけど全てを正すのは無理。でも1人1人は何か出来る事があるはずだから、私はそれを精一杯やる」
なんか語ると話が長くなる癖があるのかな?
強い口調のまま言葉がすぐ出てくる。
束はそれを聞くと無邪気な顔で微笑んでいた。
「うふふ~。やっぱり花蓮ちゃんは束さんの見立て通りちーちゃんに負けない強さをもっているね~…もう時間だね。またいつか話しましょう。花蓮ちゃん」
「もうそんな時間ですか…わかりました。失礼します」
束と話するのに決められた時間になっていた。
「じゃね~」という束の言葉を聞きながら私は部屋から退室し研究所から去った。
私と束が面会してから半年後には束は世界から行方をくらました。
しかし、私の過去の記憶は続く。
―unknown―3年前
あれから私はモノクロームアバターの部隊長をしていた。
何故、部隊長までいったかというとエマがその部隊長をしていたのを譲らされたから。
理由なんて私のほうが強かったとしか無かった。
今ここはみんなで借りている共用の家みたいな所。
まあ大分広い家なので部隊の皆の寝泊りとかは余裕で過ごせる。
「はぁぁぁぁ…で、どうしてここに居るんですかッ!」
私は深い溜息ついてから苛立ちを隠せず怒鳴った先は篠ノ之束。
テレビのニュースでは行方不明、失踪といわれて大騒ぎの束が私の目の前に『ここに居る!』
殴って追い返そうと思ったけどエイミーに止められた。
「えぇ~。だってぇ行く所ないんだもん~。しばらくの間でいいからさーここに居させてよ~」
恐らく愛用の椅子であろうそれだけを持参した束は背もたれまでずっしり座りながら無邪気な笑みで言っている。
それだけならまだ良い……。
「申し訳ございません。行き先のあてが見つかるまでよろしくお願いします」
この子はクロエ・クロニクル…詳細不明の歳も不明だけど幼女のような背が小さい少女、いや幼女だ…束曰く娘と言っている。
小さい割にメイドのような立ち振る舞いが印象的というか服装もメイドみたいな感じだ。
「花蓮、良いじゃない。賑やかなほうが楽しいわ」
「いや、でも束さん…これでも私達は亡国機業に属しているんだけど大丈夫ですか?」
微笑むエイミーの言葉に私はガックシとうな垂れながらも疑問を口にすると束は、んーって顔をしていた。
「いっくんを誘拐した亡国機業は嫌いだよ。それだけだよん。花蓮ちゃんはただいっくんに道案内してもらっただけだもん。誘拐犯じゃないでしょ?でしょ?現場を見ていたのもたまたま~、気になって見てたからだよねー?それにー属してはいてもねぇ花蓮ちゃんのところは亡国機業の人とは独立して動いてるんだもん。関係ないよ~」
無邪気な顔と声で言う束の話に私は唖然として言葉を失った。
第三者から見たら私はただ一夏をあの場所まで道案内してもらっただけ、しかも一夏が理由を聞かないで行っただけに…。
ただそれだけの事だから誘拐自体には関わっていない。
束はそれをわかっていて私の所に来ている…。
そしてこのモノクロームアバターは独立して動いている。
亡国機業からの指令から道理になるように行動し、人を傷つけないように可能な限り動いている。
「まあ…束さんがそこまで知っていてここに来ているならもう聞く事はありません…」
「うふふ。花蓮ちゃんはやさしいねぇ~うりゃぁ!……あれれ?」
私は額に手を当ててやれやれとした表情で言うと、束が子供みたいな顔をして私の体に飛びついた。
反射的に身をかわしても良かったがそのまま受け入れたけどハテナが束の頭に浮かんでいる。
「ん?どうしたんですか?束さん?」
「花蓮…あなた……」
「束さんのこれに花蓮ちゃんは……」
だから何?と思う。
エイミーまでもハテナというか絶句したような表情だったから、とりあえず抱きついた束の体を見た。
……原因が判明した。
私の体は束に胸やお腹を触られても何も感じない、触られているという感覚が無い。
クロエまでも言葉を失って呆然と見ていた。
ただ自分で触る分は触ったという感触はするから体の不具合ではない。
「私の体はどうやらそれほど闇と罪を抱えすぎたようですね。動じない気持ちで居続けたからだと私は推測できる」
自分で言いながら溜息をつきつつ、家のソファーにずしっと身を沈めた。
全ての闇と罪を背負い続けて、何も動じないように接してきた日々によって私の体は感覚が鈍感というか感じなく動じなくなっていた。
「束さんは、ビックリでショックだよぉ…ちーちゃんでも反応するのにさぁ…」
「私でもその感覚は感じます。花蓮様は人としての感覚が…」
「それが花蓮がいう運命なのかな…並みの人じゃなくなったから…」
「みなまで言わなくていい。これは私があの日に耐えたから、背負い続けなければいけない。しかし、ここまで無感覚とは思わなかったけど」
悲しそうな顔して皆は言うから私は力強く言った。
忘れる事なんて出来ないあの記憶は強烈だから…。
私が腰掛けるソファーの後ろからエイミーが抱きついてきたけど、改めてわかった。
深い闇と罪を纏いすぎて体は何も感じない動じなくなっていた。
あれさえも感じない……。
「んん~。束さんのISならすぐに直せるけど~。こればかりはナノレベルまで分解して調べてみる必要が…」
「それは断る。そもそも束さんの得意分野じゃないでしょう。これは私の心の問題だから」
束の話を聞いて私はムッと険しい表情で強く言うと「そうだったぁ」と束は言ってガッカリとうな垂れていた。
それからクロエの言った通りしばらくの間は束とクロエは私の家を隠れ家にしていた。
移動式ラボをここで作り上げ、立ち去るその日まで。
でも時間があれば束しかもっていないISの独自の理論や知識を話だけしてくれた。
私の知識の飲み込みの早さは1を聞いて10を知るという甲斐もあってか質疑応答で話が返せる私に束は嬉しそうに自慢げに繰り返し話し語ってくれた。
束の欲望の意味、自慢という事を私はこのとき理解した。
もし、束の自慢、欲望に拍車がかかって止まらなくなった時、私は束をどうすれば止めれるか、たまに考えるようになった。