IS~Lost Memory~   作:竜太

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6話『並みを捨てた果てに』

―某所―2年前

 

私とエイミーはとある人物に任務じゃないのにホテルの一室に呼び出された。

呼び出すのはまだ良いけど何故エイミーなのかと疑問が浮かんだ。

 

「で、なぜ私だけでなくエイミーもなんですか?」

「そうですよ。私はただの隊員ですよ?花蓮は部隊長だからまだわかるけど…」

私とエイミーは同じ疑問だったのか同じ事を言った。

呼び出した人物は微笑んでいた。

 

「私はあなた達の境遇を知っているから同情心って奴かしらね。可哀想って思ったから」

そう言うのはスコール・ミューゼル…亡国機業の幹部の1人であり、ある1つの実働部隊の隊長もしている。

豊かな金髪で任務だろうと私服だろうといつもドレスを着ているというか雰囲気通りにセレブ生活しているという。

恐らくスコールは亡国機業に入っていたから私やエイミーといった訓練所出身じゃないから人並みの感覚で言えば同情、可哀想と思うんだろう…。

しかし、それだけでは私とエイミーだけが呼ばれた理由はわからない。

 

「そこまでわかっていながら、だからなぜ私とエイミーなんですか?」

「花蓮。私にはちょっとわかる気がする…」

私の話の後に言う隣のエイミーはしょんぼりした表情だった。

何故だと私は困惑する。

 

 

「花蓮は裏社会の闇を背負いすぎたせいで人にあるはずの感情を無くしているわね?そこのエイミーに花蓮がない物を持たせようとがんばり続けたせいと思った所ね」

スコールの話を聞いて、1を聞いて10を知る私は全てを察し理解した。

束の時に発覚した時、私の体が何も感じない動じないのと合わせて私の心は並みの人…常人の感情、心を失っている。エイミーと居ると心安らぐ気持ちまでも失っている事に気づき知った。

以来、それを悟られないように過ごしてきた。

でもそれでも寂しさは感じなかった。まだエイミーが傍に居たからだ。

エイミーが傍から離れたとき私は…それを想像する事も理解も出来ないほどに心が麻痺している…。

 

「はぁ…並みの人を知っているからこそわかるものというわけか…私はあの訓練所で並みの人を捨ててきたから…」

「花蓮。私は知っているから…感謝しきれないわ…」

溜息を吐いてから私が言うと、エイミーが横から抱きしめてきた。

訓練所から出るときもエイミーにこうされた時はまだ心安らぐ気持ちを感じたが、今は何も感じない動じない…。

エイミーの女らしい言葉遣い、髪型もころころ変えている事は私は知っている。

服装もそうだ…私は部隊長の役柄もありパンツスーツを常に着用しているがエイミーは女らしいキャミソールというオシャレをしている。

そして、訓練所を通して学んだ知識からエイミーは私に好意を持っていることも知っていた。

だが、私にはその好意という感情の意味がわからない。

顔が赤くなるのは好意があるとか恥ずかしいとかそういう意味は知っているが私自身がその感情が沸かないしわからない。

エイミーはそれを持っている…並みの人として私が庇い続けてきたからだ。

現に抱きついているエイミーは少し顔が赤い。

 

「スコールがしたい事はわかった。私はその感情、感覚は無くしている。何されても動じない私の代わりにエイミーに全てを託してしまったから、だからエイミーに味あわせたいということなら私は構わない」

「花蓮、ごめんなさいね…私は花蓮の事が好き…あなたのおかげで好きという感情を持たせてくれたわ…」

淡々と言う私の言葉にエイミーは顔を真っ赤にして囁くように言う、好きという気持ち、感情を。

だけど私には好きという言葉を聞かされても感情が沸かず心は動じず、答えられる事は無かった…。

1を聞いて10を知る私だけに、気持ちを感じず答えられない事は好意を寄せるエイミーに対してどんなに残酷な事か理解している。

みなまで考えなくても良いか…。

 

「いいのよ。私も似たようなものだから、似た者同士よ」

微笑みながら言うスコールの言葉に理解した。

スコールもまた私と同じで感情を感じないが向こうから好意を寄せる者が居るという事だ。

 

「ふぅ…慣れない事をするわけだけど、それを私が感じる事は出来ない。だけどエイミーが私の事が好きなのは理解しているから、エイミーは何も悲しまないで」

「えぇ。わかっているわ…花蓮がそうなったのも全部私は知っているから…」

溜息をついてから言う私に頷くように言うエイミー。

私達を見るスコールは微笑んでいた。

 

「ふふ…そういう事よ。元々花蓮の容姿は良い女になれるのにもったいないって思ってたから良い機会だわ。着て欲しいものはもちろんドレスだけどね?」

微笑みながら言うスコール。

何をするかと思ったけどドレスをいつも着ているからそういう事か。

 

「ふっ。スコールの事だからそうだと思った。まあ、興味が無かったわけじゃないけど仕事ばかりで考える暇は無かった」

「私も…興味があったけど恥ずかしくて出来なかった…」

苦笑しつつもエイミーは顔を真っ赤にして俯かせて言っている。

背負いすぎた闇と罪で恥ずかしいという感情は苦笑になっているのか…私にうんざりする…。

 

「それじゃ、いくつかあなた達に合いそうなドレスはここに用意されているから、後は楽しみなさいね。それじゃあね」

スコールが指差した部屋の奥にはドレスがいくつかかけられて用意されていた。

そして、有無を言わさず部屋から退室して去っていった。

ふぅ…着させる事も楽しませる気か…。

 

「そういう事か…エイミー、後はお願い」

「ふふ。久しぶりに腕がなるわ」

「それ、いつの事だ…」

「花蓮のあの日以来ね…」

頬を赤らめながらもエイミーと話して気づいた。

あの日以来…織斑一夏を誘拐するときに髪をまとめてくれたのはエイミー…そのときも顔が赤かった気がする…。

もう大分前から好意を寄せていたのか…自覚できない私の感情に苛立ちを感じる…。

今は苛立ちは捨てておく…私が失ったもの全てはエイミーが持っているから、並みの人であるエイミーが楽しめれば私はそれで良い…安心だけはまだ感じるから。

 

 

 

 

「ね…花蓮。私よく考えたんだけどね」

「エイミー。何?」

私はドレスに着替えるとか髪をまとめるとかエイミーに任せて楽しそうにやっているとふと囁くように声をかけてきた。

 

「花蓮がね。訓練所に来たばかりの私の傍に寄って話してくれたじゃない?あの時はとっても嬉しかった。あれは私が泣いてたからかなって思ってたけど、泣かなくなってからもずっと私と傍に居たよね?……あれって花蓮が私の事好きなのかな?って思ってたわ…そこの所どうなのかしら?」

「…………」

エイミーの囁くような話と問いに私はすぐに理解したが答えられない。

訓練所のエイミーとの最初の出会いとそれからの事。

だがあの時はエイミーの事が心配であのままじゃまずいって思ったからでそ、ば、に…………。

否、第三者から見たら私からエイミーに寄っているじゃないか…今更気づくとか情けないね…。

だけど、エイミーに出会った時から私は並みの人では無くなっていたみたいだ。

過去を振り返ってもなぜあの時傍に居続けた理由と感情がわからない。

それでも言える事はある。

 

「エイミー。私は出会った時からもう並みの人じゃなかった。だからその答えと理由は昔の私も今の私も持ち合わせていないから答えられない。でも1つだけ言える事は出会った時からエイミーと傍に居るのは心安らぐからずっと傍に居た。でも今の私はその心安らぐ感情すら失ってしまった。でも傍に居て欲しいという気持ちだけは残っている」

エイミーに包み隠さず昔と今を私は教えた。

淡々という言葉がエイミーに対してどんな気持ちに与えるかなんて想像したくない。

しかし、語り癖のおかげで言葉がすらすらと出てしまったしそんなの癖だから止められない。

 

「そっか…訓練所から出た時に花蓮の並みの人の感情は全部あそこに置いてきちゃったんだね…いつか並みの人の感情を取り戻せたら良いわね…」

「だから悲しまないでエイミー。これは私の心の問題。運命の歯車を全うするまで背負い続けなければいけない。でも、エイミーが私の事を好きなのは理解しているし私はそれに答え続けたいという想いはある。感情を無くしても想いは変わらない。それは離れていても同じ、いつか運命の歯車によって離れ離れになるかもしれないときは覚悟してエイミー」

悲しそうな声で言うエイミーに私は話を返したが語り癖のせいで要らない事まで言ってしまった…。

離れ離れなんて考えられない。でもそれがどれだけ寂しく悲しい事かなんて私だって知識で理解している。その感情を感じる事ができない私自身が腹立たしい…。

『くそがああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ』って心の中で叫んでおこう…そのほうが落ち着ける。

 

 

「うぐ…えぐ…花蓮…私は……離れ、たくないよ…」

「ごめん、エイミー…私の口が滑ってしまった…良い。今は泣けるだけ泣いて良い…」

エイミーを泣かせてしまった…だから出来る限り優しい声で言うしかない。

この涙がどんな意味かなんて無感情の私にさらに嫌気が指した…だが今はただエイミーの気が晴れるまで身を任せるしかない…。

 

 

 

 

 

 

ザザザザザッ――

 

 

――おい。まだ夢から覚めないのか?

 

――いい加減起きろ。この馬鹿者が

 

――な…この声は織斑千冬!?

 

 

 

夢を見続ける花蓮は驚愕した。

その声の主が織斑千冬の声だった。

だが制御する事が出来ない夢を見続ける花蓮にはどうする事もできなかった。

 

 

 

 

…。

……。

………。

…………。

 

 

 

現在。

―IS学園地下特別区画―

 

薄暗い一室で石像のようなオブジェクトの前に織斑千冬は居た。

 

「はぁ…これで秋葉が起きると思うのは夢幻も良い所だな…暮桜の片割を受け継いでる霞桜を介して声が送れたらとか何を考えているのだろうな…」

やれやれといった表情で独り言を言う千冬。

 

「束め。名前だけ受け継いでも何があるというのだ?気になるのだ。私が居ない間に束と秋葉の間に何があったのか…いい加減起きろ。この馬鹿者が」

千冬の独り言はたしかに未だ眠り続ける秋葉朱音こと青木花蓮の元へと届いていた。

 

 

 

…………。

………。

……。

…。

 

 

ザザッ――

 

 

―IS学園近郊市街地―?ヶ月前

 

数ヶ月前、私はIS学園近郊にある市街地のホテルに居た。

 

「ふぅ…久しぶりかな。スコールはともかく…そっちは見たことあるんだけど」

ホテルの一室のソファーに座りながら、スコールともう1人の女性を見て私は呟くように言った。

 

「うぉぉお!?私を忘れただとぉ!?7年ぶりだろがぁ!ってまぁ…一度しか会ってねーし名乗れなかったから無理もねぇか…」

「相変わらず元気そうね。オータムは気にしないでこれ、いつもの事だから」

オータムが見たことあると思ったら私を保護という名の白い施設から連れ去ったときの少女か…。

ドスの効いた言葉が昔と変わらないのが口癖なんだろう。

いつもの事とスコールに言われて、頭をかきながらバツが悪そうな顔をしているオータム。

この2人がIS学園強襲の任務に出ているなんて誰も思わないだろう。

あ、役職で言えば私も部隊長しているから人の事言えない。

 

「で、オータムのせいで更識家に行動がばれているんだけど?追突した男に思わず『悪の組織』とか『機業』がどうとか叫んでしまったと言うから私達がわざわざ来たわけですが」

私は資料の書類を眺めながら、言うとオータムはさらにバツが悪そうに頭を下げていた。

言葉の通り私が来た理由は任務を行う為にミスをさせない為である。

 

「いやほんと、すまねぇ…つい熱くなっちまって…しかしあの時のガキ…じゃない女の子がなぁ…偉くなったもんだなぁ」

オータムの性格はスコールから事前に聞いていた。

自分より目上の人には敬意を払う、目下の人には暴言を吐くという典型的である。

私を連れ去ったときガキと言ってなかったからあれは7年前はオータムもそうだったから言えなかったんだろう。

その辺は私は気にしてないからどうでもいいけど。

しかし任務やスコールの前では礼儀正しい言葉遣いが出来るというが…。

私が居るせい?と疑問を感じても聞く気はない。

 

「まあ、起きてしまった事は仕方がない。隠密の情報収集はこっちでやります。ローレン、後は任せました」

「は、はい…い、いって、きます」

私の側に居たローレンに言うと口下手の相変わらずの返答をして退室していった。

しかし、口下手なだけで隠密と情報収集、訓練所で鍛えた武術は並みの人なら返り討ちに出来るというしっかり者だ。

余談だけどエマやエイミー他部隊員は置いてきた。少数の行動が今回は良いからね。

 

「ローレンという子は気配を消すのが得意みたいね。花蓮が言わなかったら忘れている所だったわ」

「あぁ…私も気づかなかったなぁ…存在そのものがいねぇみたいでよぉ…」

関心を示すように2人は言った。

長い間、私達と共に居ても私にしかローレンの気配が感じないし、私ですら失念していると後ろに居るから相変わらず驚かされる。

 

 

「さて…専用機がこれだけ居るなんてね…」

IS学園に在籍している専用機の情報が書かれている資料を見ながら私は呟いた。

多すぎるの一言。

2年生は2機、3年生は1機の専用機があるのに対して1年生は6機…軍隊でも作る気?とISの恐ろしさを知っている私が率直に思った。

織斑一夏のせいと安易に考えれるけど束から教わった独自理論と知識を持っている私からしたら、データ収集だけでどうにもなる案件ではないが公言する事も出来ない。

それにISを使った喧嘩が起きたら想像したくないがどうやら織斑千冬が指導しているから今は学園外ではトラブルを起こしていないが学園内ではISの無許可使用が連発している噂で…先が思いやられる。

 

「えぇ。白式を回収する任務なのですがそれを持つ織斑一夏には常に誰かしら専用機を持つ女の子が居ますわ」

「念の為に確認しておくけど、たとえ街の中で1人で居てもISを使った行為は私は認めないから」

スコールから話を聞いて、確認させるように強い言葉をかける。

せめて私が居る限りはそんな事はさせたくない。

だから部隊長という権限を利用しているからこの言葉をかけている。

 

「わかりましたわ」

スコールは頷きながら言う。

亡国機業の幹部でも部隊内の上下関係はこっちが上というね。

スコールは大変な役回りしていると思える。

 

「それじゃ、作戦内容はそっちで考えて、実行役が考えないと意味ないからこの任務。もう行って良いよ」

これは私の経験…織斑一夏を誘拐するときどうやって声をかければいいかわからなかったから。

実行役にやる事を考えさせるという意味でもある。

 

「わかりました。オータム行くわよ」

「お、おう。失礼いたします」

私の話を聞いた2人は返事を返して退室していった。

オータムの言葉遣いは練習すれば大丈夫そうと感じた。

 

 

 

「…それにしてもこれは…束さんは…」

1人になった一室で私は1つの資料を眺めて呟く。

IS"赤椿"操縦者篠ノ之箒、篠ノ之束の妹。

第4世代の赤椿は同じ第4世代の白式でさえ上回る機動力、攻撃力、単一仕様能力(ワンオフアビリティ)の性能ははっきりいって化け物だった。

白式の単一仕様能力は使うとエネルギーがなくなるから一回しか使えないのがまだ良い。

だが赤椿の単一仕様能力は使うとエネルギーが全回復するというものだった。

燃料切れをしらないIS……無限に等しい。

現時点で連続使用は困難となってはいるが、無限使用が可能になって暴走したら…それは誰にも止められない…。

これを知った私は絶望と不安が入り混じった。

 

 

 

 

 

 

 

 

pr.......

そこへ1つのメールが届いてきた。

秘匿を介してのメールだ。

内容は『正して』とたった一言。

なぜこの一言なのかそれを私を知る人物しかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく…後から後悔するタイプは繰り返してもなお…」

私は決意を胸に秘めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――私が運命に抗う運命の歯車なんだからやるしかない―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、『ごめん。エイミー』と胸の内で謝るしかなかった。

 

 

 

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