頼まれたので親友に後輩を紹介する話。   作:北原春希

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003.趣味趣向

「おじゃまー」

「おかいもー」

 

今日も今日とてバイトから帰ってきた光一を自室で迎える。

時刻は20時、外はもう日が落ちて真っ暗だ。

 

「ほらよ、牛丼」

「サンキュー」

 

光一が差し出した袋を受け取ってそれを机に並べる。

今日は比較的早めに帰ってくるということで夕食のお持ち帰りを頼んでおいたもの。

さっきまで出していたプリントを汚さないように避けると、光一がそれに気付いて視線を向ける。

 

「優、それなんだ?」

「んー、バイト」

 

俺は今まで書いていた紙ではなく、未記入の新しい紙を光一に渡す。

 

「『好きな異性の髪型』『好ましい異性の性格』『自身が今ハマっていること』……、なんだこれ?」

「知り合いに頼まれたアンケート。ゼミの研究で使うんだと」

「こんなの研究になるのか?」

 

「しらんけどなるんじゃね? 心理学やってる研究室とか。この前だってよくわからんゲームやらされるバイトあったろ?」

「あー、あったあった。あれに比べたらまだこっちのほうが理解できるな」

 

大学では色んな分野を研究してる人間がいるので、そこでアンケートとかサンプルと取るためにバイトを集めることがよくある。

んで心理学っていうと、名探偵がエスパーするようなイメージが強いかもしれないが、ビジネス書とか社会人向けの新書に書かれるような内容もその範囲に含まれている。

なのでこういうアンケートがあってもおかしくはない。

 

「んじゃ、光一もアンケよろしく」

「結構質問多くて書くの面倒そうなんだが」

「この前レポート手伝ったろ? もしあれが出せてなかったら今頃単位は危うかっただろうな〜」

 

「はい、アンケート協力させていただきます……」

「よろしい。んでもま、その前に牛丼食おうぜ」

「おう、生卵取ってくるわ」

「俺のもよろしくー」

 

明日も講義はあるけれど、大学生の夜はこんな感じでゆるく過ぎていく。

 

 

 

「おじゃましまーす」

 

今日も今日とて阿智が、大学を終えたあとに俺の部屋を訪れていた。

 

「はい」

「いや、はいってなんですか。おじゃましますって言ったんですから、そこはいらっしゃいって言ってくださいよ」

 

なんてどうでもいい話はスルーして、部屋に入って腰を下ろした。

 

「つーわけで、はい」

「なんですか、これ?」

「光一の好み」

「わっ」

 

紙を受け取った後輩がそれに熱心に視線を向ける。

 

「これ私が見ちゃってもいいんですか?」

「そもそもそのアンケート自体が捏造だしな」

 

用紙の一番上には大きな文字で【自己の性質・経験と恋愛的理想像の相関に対する研究】なんて書いてあるけれど、そもそもそのアンケート自体が俺がテキトーにでっち上げたやつである。

一応、自身の心体のデータと異性の好みに有意な関係があるかという調査であることは読み取れるような質問内容で作ってはあるが、本題はただの光一に対する好みの調査だ。

 

中には光一のプライバシー的な部分も含まれるけれど、まあ彼女ほしいって言ってた本人の手助けだと思えば許容範囲だろう。

きっと、たぶん。

 

「ありがとうございます、佐久穂センパイ」

「どういたしまして」

 

アンケート内容捏造するのもわりと手間だったのでこれはうまく活用したいところだ。

 

「ちなみにこれ、センパイのもあるんですか?」

「まあ一応」

 

光一にアンケートが捏造だと気付かれないための工作として、俺も書いていたので全問回答済みの用紙が手元にある。

研究の調査として真面目に回答してもらうために、俺自身も真面目に回答を書いていたのでおふざけは無しのやつだ。

 

「えいっ」

「あっ、おいっ」

 

その用紙を奪った後輩が、ニヤニヤしながらそれを眺める。

 

「へー、佐久穂センパイって黒髪でクールな人が好きなんですねー」

「そうだな、後輩とは真逆だな」

「ちょっと、どういう意味ですかー」

 

阿智が怒ったような顔を見えるがそのままの意味だよとしか言えないのであった。

 

「んじゃ、改めて光一の好みでも見るか」

 

俺の用紙は後輩から没収してから、改めて光一の用紙をテーブルに置く。

友人の女の趣味を分析するのも不思議な感じだが、恋愛的に落とすのを目標とするなら役に立つ情報だろう。

 

「阿智はこの女優知ってるか?」

 

指さしたのは解答欄の一つ。

そこには好きな芸能人というとてもポピュラーな設問の答え。

 

「もちろん、知ってますよー。このまえ映画の主演してましたよね」

 

俺がPCに繋いだモニターに表示したその女優を見て後輩が答える。

歳は24だったか、見た目的にはさほど年上に見えないからあいつがさほど年上趣味ってわけじゃないだろうけど。

今年で21歳と24歳じゃ大して差もないしな。

 

「っていうかあたしと似てません?」

「……、どこが?」

「えー、雰囲気とか似てるじゃないですかー」

 

後輩が陽キャな雰囲気があるのに対して、モニターに映る女優は表情が柔らかくて人当りよさそうな雰囲気がある。

髪も後輩が茶髪なのに対して彼女は黒髪だし。

 

「やっぱどこが?」

「もういいですっ、センパイにどう思われても関係ないですからねー」

 

まあそうだけど、それはそれとして客観的に確認するべきなのではと思わなくもない。

どっちにしろ今この場ではできないけどさ。

 

「次行くぞ。アンケートの答えとは離れるが、これは光一がやってるアプリの推しキャラだ」

 

モニターを切り替えて表示したのは三人の二次元キャラ。

どれもJKからJDくらいに見える女の子。

ちなみにこれはアンケートの答えじゃなくて、俺が光一がスマホで遊んでるアプリを見て知っていたものだ。

 

「光一先輩ってこういうゲームもやるんですねー」

「引いたか?」

「そんなことないですよ、今時は普通ですし」

 

確かに今どきガチャから女の子を集めるゲームをやっていても珍しくはないか。

なので実際には光一が元々やってたのは美少女要素が薄いパズルゲームとかで、こういうのは俺が始めさせたということは黙っておく。

 

「さてこのサンプルの共通点だが、まず黒髪ストレート、長さは肩に届くくらい」

「一人赤のインナーカラーの娘がいますね」

 

後輩の言う通り後ろ髪の内側だけ赤くなってるキャラがいる。

最近見かける機会が増えた髪色だが、リアルでも再現できるんだろうか。

 

「見た目の歳は十代後半から二十代ちょい、身長は年齢なりで高くもなく低くもなく、あと胸はそこそこだな」

 

貧乳キャラというほどではないが、昨今の二次元界隈を考えれば巨乳というほどでもない、リアルでいうとEかFくらいのカップ数だろうか。

リアルにいたら十分巨乳側だとか言われても困る、文句なら最近の二次元キャラの傾向に言ってくれ。

なお後輩の胸部は……、言及すると貧乳イジリとか言われて叩かれそうだからやめておこう……。

 

「センパイのヘンタイ」

 

俺の思考を読んだわけではないだろうが、後輩はジトっとした視線をこちらに向けてくる。

 

「誰が変態だ」

 

胸のサイズの話をしたくらいで変態認定されたら、世の中の男は全員変態だろ。

なんなら女でも大体変態になりそう。

 

「ってか、んなこたどうでもいいんだわ。重要なのは光一の好みの話だろ」

 

俺は無理やり話しの流れを矯正する。

別に俺は阿智と楽しく話をするためにここにいる訳じゃないので、反論は認めない。

 

「んじゃアンケートに戻って、次は趣味だな」

「うわっ、聞いてる音楽が全然わからないです……」

「マイナーなロックバンドが混ざってるしな」

 

インディーズも含む、そっちに興味がなければ名前を知る機会もないようなバンドたちだ。

 

「佐久穂先輩はわかるんですか、これ?」

「わかるっていうか、あいつが部屋で流すから知ってる、くらいだな」

「ふーん……」

「まあこの辺は知らなくてもいいと思うぞ」

 

むしろ知ってる方が不自然まであるし。

 

「でも、この辺の話題がわかればきっと盛り上がりますよね」

「それはそうだな」

 

マイナーな分、趣味があう人間とは話は盛り上がるという流れは十分ありうる。

 

「うわべだけ取り繕ってるのがバレたら逆に一気に冷めるだろうけどな」

「そこは上手くやりますよ」

 

自信ありといった様子でにやりと阿智が笑う。

対人コミュニケーションの能力なら間違いなく俺よりあるだろうし、その辺の空気読みは任せればいいか。

 

「ちなみにセンパイはどういう音楽をよく聴いてるんですか?」

「んー、こういうのかな」

 

俺がPCを操作して再生ボタンを押すと、スピーカーから流麗な語り口が聞こえてくる。

 

「ってこれ落語じゃないですか!」

「いいだろ、寝るときに流してるとかなり落ち着くぞ」

「睡眠導入に落語流す人嫌すぎるんですけど……」

「なんでだよ、作業用のBGMにも最適だぞ」

「センパイと分かり合えないことだけは分かりました」

「そうかいそうかい」

 

まあそんな話はそうでもいいんだが。

 

「あとは好きな映画、ドラマ、ゲーム、お笑いコンビ他。大抵はネット使えれば見るには問題ないが……。後輩、ゲームハードかPCは持ってるか?」

「持ってないです」

「だろうなあ」

 

「買ったほうがいいですか?」

「一緒に遊べるならそれに越したことはないだろうけど、安い買い物じゃないからな」

 

一緒にゲームをやって仲が深まるなんていうのは想像しやすい流れではあるが、それでも数万単位の出費は安易には勧められない。

 

「そうですね、ちょっと考えてみます」

 

実際に一緒にゲームを遊ぶという流れが生まれるか、生まれた後にそれが好感にどれくらい繋がるかが不明だしな。

単純に俺が大金に対する責任を取りたくないって話もあるけど。

 

「趣味の話はこれくらいでいいか。とりあえず、趣味が合うっていうのは恋愛的にもアドバンテージになるはずだ。心理学的に言うなら類似性魅力理論ってやつだな」

「なんですか、それ?」

「『人間は自分と似た特徴を持つ他者に対して好意を抱きやすい』って理屈」

 

「へー、そんなのがあるんですね」

「実際には趣味や価値観が一緒だと安心感が生まれるとかそんな理屈があるんだが、詳しいことは面倒だから省くぞ。気になるなら自分で調べておけ」

 

理論を証明する為の根拠とその実証は詳しく知っておくと役に立ちそうではあるんだけど、そのまで座学してたら時間がいくら有っても足りないので今は割愛。

 

「なんで、とりあえず光一がやってるアプリ入れるぞ」

「はーい」

 

同じアプリを遊んでるというところから親しくなる、ここまで難しい理屈をこねたりもしたけど、やっぱりシンプルにこれが一番効くんだね。

 

 

 

後輩にアプリを入れさせた翌日、交換していた連絡先からメッセージが着ていたの気付いてそれを開く。

 

『センパイ、どうですか?』

 

なんてメッセージと一緒に阿智から送られてきた一枚の画像。

文面だけ見れば色っぽい雰囲気もありそうなメッセージだが、俺が添えられた画像を見てとても驚いていた。

 

「こいつ、マジか……」

 

メッセージと一緒に送られてきた後輩の自撮りは、昨日まで茶髪だった髪色が黒に染まって、赤のインナーカラーが入っていたのだった。

 

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