魔都? 多分グルメ界とか裏のチャンネル   作:柚子檸檬

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和倉優希=小松


魔都? 多分グルメ界とか裏のチャンネル

 魔都、それは人を食べる怪物『醜鬼』が生息する異界。

 そこに人が迷い込んだりそこから醜鬼が現世に現れることを人は『魔都災害』と呼ぶ。

 

 そんな魑魅魍魎が跋扈する世界に何かの間違いで異物が生まれ落ちてしまった。

 その名はトリコ(自認)。

 

 トリコ(自認)も元はただ『トリコ』という漫画が好きなだけのオタクというだけだった。

 しかし、あろうことか様々なイレギュラーとその見た目の相まって、『あれ? この見た目トリコじゃね?』『俺はトリコ?』『まさかここはグルメ界の何処か?』『よっしゃ! 食って食って食いまくって強くなってやるぜ!』というグルメ時代脳を発病してしまい、トリコ世界の常識に適応してしまった。

 それこそ全く無関係な事柄でさえトリコに結びつけてしまう程に。

 

 彼は今日も魔都(グルメ界)で醜鬼という名の猛獣の群れを相手に狩りを始める。

 

「猛獣たちよ、俺を喰いてえか!!」

「俺もお前たちを喰いてえ!!」

 

 トリコにとっての狩りは生きる糧を得る行為であり、自らをより高みに近づけるためのもの。

 何せトリコ世界はインフレが激しいのもあって、トリコも似たような強さの猛獣ばかりに物足りなさを感じていた。

 

(今までの連中は精々捕獲レベル3ってところか。グルメ界にしてはレベルが低いな……もうちょっと調べてみるか。ついでに桃もすくなくなって来たから取りに行って、それから……)

 

 

 魔都(グルメ界)の旅の途中で見つけた桃のような見た目の果物で味も豊潤で甘く、接種出来るカロリーもかなり多かった。

 トリコも10個食べて腹いっぱいになってしまった。

 

 トリコのくせに頼りない食欲だ

 

 とはいえ食べた際に己のグルメ細胞がかなり強化されたような感覚があったので、もしかしたらジュエルミートやセンチュリースープのようにグルメ細胞の壁を破れる食材だったのかもしれない。

 

 とはいえまだまだより美味な食材がいる。

 

 彼は鼻を頼りに未知の食材を求めて旅を続ける。

 今日は一体どんな食材と巡り合うことやら。

 

 

 

 

 

 一方その頃、魔都を二人の少女たちを乗せた軍用車と異形に乗る少女が走る。

 魔防隊という組織に属する少女たちは皆、醜鬼と戦う為に鍛え上げた精鋭が勢揃い。

 その中でも彼女たちは魔防隊7番組という羽前京香隊長を中心に活動している。

 

『皆さん、この先に男性一名が醜鬼の群れに襲われています!』

「一人!? くっ、急ぐぞ優希!」

「はい!」

 

 羽前京香は後方支援をしている大川村寧の声に優希と呼んだ異形を急がせた。

 一般人一人が醜鬼の群れに襲われて生き残る可能性なんてそうそうない。

 ここは時間の勝負だ。

 

『あっ、男の人が……えっ!?』

「どうしたの寧ちゃん!?」

『……なんか男の人が凄く怖い顔をしながら醜鬼を素手で殴ったり真っ二つにしたりしてます』

「「んん??」」

 

 一般人の、しかも男に醜鬼をどうにか出来るわけがない。

 それはプロレスを齧っていても醜鬼に対して何も出来なかった優希自身がよく理解していた。

 

 

 

 

 

「あむっ……んん〜〜ッ! んめぇぇーーッ!!」

 

 二人が着いた時にはもう全てが片付いていた。

 というか大男が醜鬼を素手で切ってそのままだったり焼いたりして食っていた。

 

「「いやどういうこと?」」

 

 少し遅れて到着した副隊長の日万凛と組員の朱々もその光景に困惑気味。

 この魔都で、火を起こして、醜鬼を美味そうに食ってる男なぞきっと今後お目にかかることはないだろう。

 そして彼女たちが出会った男こそ脳みそグルメ界のトリコだった。

 彼もまたその嗅覚で彼女たちの存在に気づく。

 

「んっ、誰だ?」

「あっ、んんっ! しょっ、食事中に済まない。私は魔防隊7番組組長羽前京香だ。遭難者は君だけか?」

「俺は放浪はしてるけど遭難はしてないな……それよりどうだ? 一緒に食わねぇか?」

 

 トリコ持っていた醜鬼の肉を何の躊躇いもなく京香へ渡す、

 自認とはいえ彼もトリコ、食糧を独り占めせずに分け合って一緒に食べるという心構えは忘れていない。

 というか彼もこの魔都で会った初めての人間と話がしたかっただけに食糧など惜しむ気などない。

 そして彼女の隣にいる巨大な異形もテリーやキッスのようなパートナーアニマルだと思って特に気にしてない。

 

「いや、あの……仕事中で……」

「気にすんなって、ホラ。グルメポリスだって腹が減ったら仕事になんねぇだろ?」

「グル……何て?」

 

 当たり前だが仕事中云々は建前である。

 本音はただこんなゲテモノを食いたくないだけである。

 そもそも彼女からしたら何で醜鬼を美味しく食べてるのか謎である。

 おまけに謎の単語が出て来て更に困惑している。

 

「もしかして肉は好きじゃねえのか?」 

 

 トリコ的には気を遣った方なのだが、京香からしたら「違う、そうじゃない」。

 

 そんなトリコは袋からとあるものを取り出して京香に差し出した。

 

「果物ならどうだ? この桃みてえのも美味いぞ」

 

 桃だった。

 

 しかもただの桃じゃない、この魔都にだけ実る特殊な桃だった。

 

「……お前を連行する」

 

 トリコは密猟者扱いで捕まった。

 

 

 

 

 トリコは捕縛されて軍用車に乗せられて魔都を走る。

 トリコがデカいせいで後ろにいる優希と朱々がとても窮屈そうだ。

 何処に向かっているかは彼のみが知らない。

 

「えっ、あの桃勝手に食ったら駄目なのか……もしかしてここはグルメ界じゃなくてIGOの『庭』だったのか? だったら勝手に入って取っちまって悪かったな。グルメ細胞が進化したから捕獲レベルの高い新種の食材だと思ってたんだよ」

「あ、あーはいそうなんですよ」

 

 魔防隊の少女たちには自分たちが謝罪されていること以外はやれグルメ界だのグルメ細胞だのIGOだの捕獲レベルだのと意味不明過ぎる単語が矢継ぎ早に出されて何一つ理解出来ない。

 しかし、無視するわけにもいかないので、トリコの相手は人間の姿に戻った優希に丸投げすることに決めた。

 哀れである。

 そしてトリコもあの異形が人間に戻っても人間でありながらグルメ細胞の悪魔でもある暴獣二狼を知っているのでそういうもんかと納得しているので特に大きなリアクションはない。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はトリコ、美食屋トリコだ」

「和倉優希です。美食屋って?」

「ああ! 未知の食材を探し出して捕獲する職業さ」

 

 優希はそんな職業がこの世にあること自体が初耳だった。

 というか捕縛されているのに全く気にしてい無さそうなのが恐ろしい。

 

「クンクン……お前、料理人? いや、クオリティは高いがこれなら趣味の範囲か」

「えっ!? あ……ハイ……店で働いてるわけじゃないけど料理自体はします……ん? 何で分かるんですか?」

「お前の手から食材の香りがプンプンするんだよ。毎日食材に触ってるんだろうが……まあ、この濃さなら店勤めじゃあねえだろうなと思ってな」

 

 優希は身の上なんて何一つ話していないというのに、目の前の大男はそれを匂いという手がかりだけであっさりと言い当てたことに驚きを隠せない。

 それもそのはず、トリコの嗅覚は警察犬をも凌ぐ。

 

(うん? 待てよ、料理人だと……?)

 

 トリコに電流走る。

 彼のトリコ(自認)としての勘が優希という少年を捉えた。

 捉えてしまった。

 

「小松ゥ! 来てくれたのかァ!?」

「さっき和倉優希だって自己紹介しましたよね!?」

 

 小松はアラサーでまだ17歳の優希とは似ても似つかない。

 しかし彼は姉が行方不明になり、再会した時には強大な力を得た代償に見た目ですぐに気づけないくらい変わり果てた姿になっていた。

 小松もまた修行仲間の大竹が行方不明になり、再会した時には強大な力を得て変わり果てた姿になっている。

 勿論そんな事情があるかトリコは知らないが、このような細かな共通点をなんとなく感じ取った結果トリコは『小松≒優希』だと判断してしまったのだった。

 

「……知り合いだったの?」

「違います! 初対面です!」

「そうだな。コンビを組むかどうかはお前の腕を見せてもらわなきゃな」

(ユッキーがまた変なのにロックオンされてる……)

 

 出雲天花といい山城恋といい、変なのに好かれるフェロモンでも出てるのではと朱々は思う。

 最も彼女も下手したらその『変なの』の枠組みに入る可能性があるのだが。

 

「隊長さん、俺はグルメ刑務所にでもぶち込まれんのか?」

「自己紹介の時にも言ったが、私は隊長ではなく組長だ。刑を決めるのは私ではないから断言は出来ないが、塀の中は免れんだろう。後、態々グルメを付ける意味はあるのか?」

「組? ってことはグルメ騎士(ナイト)なのか?」

(また知らない単語が出てきた……何が『ってことは』何だ? 私はこの質問にどう答えればいいんだ?)

 

 トリコと出会ってまだ一時間も経っていない京香だが、早くもトリコとの会話に挫けかけていた。

 この男は会話のキャッチボールをする気はあるのだが、京香視点だと投げ返す際に捕球不可の魔球を投げて来るので会話を成立させるのが凄まじく困難で、こいつと話すくらいならもう一回一本角に、今度は自分一人で戦った方がマシかもしれないと思えるレベルだった。

 

 

 ちなみにどうでも良い話だが、トリコが彼女を隊長と呼んだのは、グルメポリスに所属する特別グルメ機動隊の隊長を務めるトール隊長のことを覚えていたからである。

 

『み、皆さん気を付けてください! こちらに巨大な醜鬼が近づいてます』

「何っ!?」

(この匂いは……!?)

 

 京香たちは寧の声で、寧の声が聞こえないトリコは匂いでソレの出現を察知した。

 

 そいつは8本足で大きな口を持ったワニのような見た目をした醜鬼。

 しかしその全長は推定20メートルと大きさだけなら一本角よりも巨大で重さは10トンを優に超えるだろう。

 その分厚い皮膚は生半可な刃物では決して傷つけることは出来ないだろう。

 仮に兵器が通用したとして、グルメ戦車を持ち出しても倒せるかというレベルの化け物だ。

 

「な……なんだこの醜鬼は……」

「……最早鬼というより恐竜だな」

 

 その圧倒的な存在感に()()()()()()一同は圧倒される。

 鬼というよりも恐竜や怪獣と呼称する方が相応しい。

 

 しかし彼女たちも魔防隊。

 即座に臨戦態勢へと移行した。

 

(ガララワニだと? バロン諸島に生息しいているはずのこいつが何故ここにいるんだ?)

 

 一方でトリコもこんな海に面していない場所にガララワニのような見た目の猛獣がいることに驚きを隠せない。

 確かに海水でも淡水でも適応した猛獣だがいくらなんでもこんな水気のない場所にいるのはおかしい。

 生態系に何かしらの異常があったとしか思えなかった。

 

「やるぞ優希!」

「はい!」

 

 奴隷化してこの巨大な敵と戦う、そう思った瞬間彼に後ろから待ったをかける声があった。

 

「さがってな小松……成程、俺を連行したのは建前。このガララワニの討伐させたかったってことか」

「だから俺は小松じゃない……というか危ないのはそっちで──」

「さがってろって小松よ」

 

 トリコだった。

 彼は意味不明なことを喋りながら悠然と歩いて巨大なワニ型醜鬼(ガララワニ)の前に出る。

 大きさではトリコが劣っているはずなのにまるで二頭の恐竜が睨み合うかのような光景。

 

 突如、その巨大さからは想像もつかないスピードで飛び掛かる。

 大きな顎で噛みつこうとしたワニ型醜鬼(ガララワニ)をトリコはターンしながら回避、そしてその横顔に拳を叩き込む。

 通常の醜鬼なら四散するような一撃をも耐えたワニ型醜鬼(ガララワニ)はそのまま尻尾での攻撃に移行し、トリコの胴体に叩き込む。

 

「おう!? ……ぬぅりゃあああああああああ!!」

 

 推定10トンオーバーの重さが乗った渾身の横薙にさしものトリコも呻き声を上げるも、そこは美食屋トリコ。

 すぐさま尻尾を掴むとワニ型醜鬼(ガララワニ)を振り回して地面に叩きつけた。

 

「きょ、恐竜が二頭いる……」

「なにこれ……怪獣映画……?」

「あれから目を離すなよ。もしあの男がダメなら私たちであのワニ型醜鬼を討つのだからな」

 

 何だか倒せてしまいそうな空気だが京香は組長として万が一があってはいけないと気が緩み始めた二人に喝を入れる。

 そんな警戒を怠らない彼女もこの戦いにどう割って入ればいいか決めあぐねていた。

 下手に参戦してトリコの邪魔になってこの場にいる者たちが全滅にでもなったら笑い話にもならない。

 

 投げ飛ばされ、それでも即座に立ち上がったワニ型醜鬼(ガララワニ)に対してトリコは歓喜した。

 この世界に産み落とされてから戦った中で間違いなく最強だろう。

 そしてトリコという作品が始まって最初のボスでもあるのだから感動もまた格別。

 

「何故バロン諸島の王者であるお前がこんなところにいるかはあえて問うまい! だが、王者に相応しいその風貌に敬意を表し、俺も見せよう……人間の武器(フォークとナイフ)を」

 

 この日初めてトリコは臨戦体制に入る。

 瞬間、後ろにいた者たちはそれを肌で感じた。

 今までのはトリコにとって準備運動だったと。

 

 ワニ型醜鬼(ガララワニ)の逃走を止めたものは王者としてのプライドではなく、命の危機を味わったことのない無知さだった。

 両手を構えたその瞬間、トリコが背負うオーラが具現化する。

 それはまるで鬼……否、鬼神。

 これこそトリコのグルメ細胞に宿る悪魔の姿。

 

「この世のすべての食材に感謝を込めて……いただきます」 

 

 手を合わせた合掌。

 トリコの動作を何かわからんがくらえとばかりにワニ型醜鬼(ガララワニ)は襲う。

 その体格差を生かしたプレス攻撃に絶体絶命かと思われた。

 

「フォークッ!」

 

 フォークを象った左手がワニ型醜鬼(ガララワニ)の分厚くて頑丈な皮膚を破って突き刺さり、その凄まじい怪力で持ち上げた。

 

「ナイフッ!」

 

 宙に浮いて身動きが取れなくなったワニ型醜鬼(ガララワニ)に今度はナイフを象った右手がズバッと音を立てて切り裂き、頭は胴体から切り離された。

 

「ごちそうさまでした」

 

 大きな音を立てて地面に落ちたワニ型醜鬼(ガララワニ)の頭と胴体をバックに、トリコはまた合掌。

 きっと京香たちはこの光景を忘れることはないだろう。

 

「さあ皆で食べよーぜ!」

 

 まるで般若のようだったトリコの黄金のように眩い笑顔に皆は安堵。

 狂人とはいえこの男もちゃんと人間なのだと。

 

 しかし、彼女たちは知らない。

 これで終わりではなく、ここからが全ての始まりなのだと──。

 

 

 

 

 誰かが言った──魔都には全身が舌の上でとろけてしまう肉質の醜鬼が生息していると。

 

 全ての果物の特徴を兼ね備えた虹色に輝く実が生る森があると。

 

 洞窟の奥には上質なブランデーやワインが湧き出る泉があると。

 

 世はグルメ時代。

 未知なる味を探求する時代!

 

 

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