「うんめぇぇぇぇぇ!!」
釘チョコは食べても釘は食べない、その男の名はトリコ(自認)。
今し方仕留めた
魔防隊はどうしてるかって?
(今、指パッチンで火を着けなかったか?)
(なんか凄い勢いで食べてるんだけど……)
(えぇ……これ私たち食べ終わるまで待つ感じ……?)
待機する他無かった。
軍用車でも運ぶには馬力が足りないし、この中で唯一運べそうな巨大化出来る駿河朱々でも10tオーバーの肉を持って拠点まで帰るには体力が足りない。
ならトリコごとここに捨てていけ?
放置したら今度は何やらかすか不安なので無理です。
「おーい! あんたらも一緒にどうだ!?」
トリコもトリコなだけあって独り占めせずに分け合おうと何度も誘っているが、魔防隊員たちは中々応じない。
何せ醜鬼である。
何度でも繰り返そう、人類の敵であり未だ謎の多い怪物こと醜鬼である。
普通は食べようとは思わない。
でも美味そうだった。
宝石のようにキラキラとした霜降りで、焼いた際に落ちる脂はまるで星のような輝きを放つ。
それをトリコが美味い美味いと頬張る姿に腹が減る。
故に━━━━
「よし、行って来い優希!」
「えっ」
「そ、そうね! あの男と一番仲良いのは優希だし!」
「えっ!?」
「一番槍はユッキー任せた!」
「ええっ!?!?」
「あ、あのぉ……」
「おっ、やっと来やがったな小松ゥ!」
「だから俺は和倉優希で……もういいや」
諦めた優希に差し出されるのは巨大な骨付き肉、少年なら心踊るマンガ肉。
優希とて醜鬼の肉だと知らなかったらこんな深刻な気分にはならなかった。
でも脳に直撃する猛烈な肉の匂いに彼の食欲は刺激される。
「あの、これ本当に食べて大丈夫なやつなんですよね……?」
「安心しな。IGOに提出する分はちゃんと残すからよ」
「そういう意味で言ったんじゃないんですが。…………い、いただきます」
京香たちが注目する中、ええいままよと清水の舞台から飛び降りる勢いで骨付き肉に齧り付く。
「━━━━ッ!?」
口に入れた瞬間、肉の旨みが爆発した。
触覚が、嗅覚が、そして味覚が、その味の本流に飲まれていく。
この味をなんと例えていいか分からない。
それでも言えることは確かにあった。
「う、うま……い……!」
「ほ、本当か……!?」
「はい!」
「だろ?」
そのまま二口目、三口目と夢中になっている姿にトリコは笑顔になった。
他三人も優希一人に食わせておいて自分は食わないというのは筋が通らないとマグマの海に飛び込む勢いで齧り付いた。
「口の中で、解けた……?」
「や、柔らかっ。A5の霜降り肉だってここまでじゃないわよ……?」
「こんなお肉生まれて初めて食べた……」
皆は途中から醜鬼の肉というのも忘れて夢中になって食べた。
その中でもトリコから小松認定された優希は料理人として考える。
(直火で焼いただけでこれだけ美味いなら、きちんと料理したらどれだけ美味くなるんだ……?)
食べて食べて食べて━━気がついた頃にはもう尻尾の部分しか残っていなかった。
といっても食ったのは殆どトリコだった。
「ごちそうさまでした……う〜まかったぁ!」
「ケフッ、ちょっと食べ過ぎた……」
「お腹苦しい……」
「ファ〜眠い……」
「……一応言っておくがまだ仕事中だからな?」
そう、忘れがちだがここは醜鬼が跋扈する魔都で、業務上仕方なく食ってたというだけで、現在は休憩時間でもなければ休日でもない。
とはいえこの有様ではすぐには動けないので京香はこの時間を使ってトリコの取り調べをすることにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Q.改めて名前を教えて欲しい。
A.俺はトリコ、美食屋トリコだ。
Q.出身は?
A.人間界の外にあるグルメ界、それが俺の生まれ故郷さ。
Q.……魔都の桃のことは本当に知らなかったのか?
A.ああ、まさか第0ビオトープで管理、栽培してるもんだとは知らなくてな。今持ってる分は返すし、これからも獲らないようにするさ。
Q.…………そういえばさっき桃を食べたと言ってたな? 身体に異常はないか?
A.お陰でグルメ細胞が進化したぜ。おそらくあの桃はジュエルミートやセンチュリースープのようなグルメ細胞の壁を破る食材だったのかもしれねえな。
Q.………………そのグルメ細胞というのは何だ?
A.グルメ細胞ってのは深海に生息しているグルメクラゲから発見された細胞……つーかIGOの職員ならそれくらい知ってるもんじゃねえのか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
(IGOとか第0ビオトープって何だ!? 私は知らない内にそんな謎の組織に所属してることになってるのか!? それにグルメクラゲとか聞いたことないんだが!? いや、クラゲを医療技術に活かそうみたいな話は聞いたことあるが……はぁ、こんなのどう報告書に書けば良いんだ……?)
苦悩する京香。
トリコに関しては優希の姉である青羽の時のように匿ったり隠蔽したりする義務はない。
何なら普通に密猟者として突き出してスッキリしたい気分なのだが、じゃあトリコの証言をそのまま報告書に書いて提出してもいいものかと思えば頭が痛くもなる。
「何イライラしてんだ? 腹減ってんのか?」
(お前のせいだお前の!! それについさっきたらふく食ったんだから減ってる訳ないだろうが!!)
ストレスフリーならトリコを見て怒りのボルテージを上げる京香だった。
「皆さんお帰りなさい! ちょっと遅かったですけどお怪我とかはありませんでしたか?」
トリコ+ガララワニの尻尾を連れて帰投した京香たちを迎えたのは小学生くらいの少女、名を大川村寧という。
まだ小さいが立派な魔防隊員だ。
ちなみにちょっと遅れた原因はトリコが道中で『おおっ、ポキポキキノコが生えてるじゃねえか!』『ウッヒョー! バナナきゅうりとベーコンの葉が一緒に生ってるとか奇跡か!?』『どわーっ、小さいがBBコーンが生えてるぞ! 流石グルメ界だな!!』と騒いで寄り道を何度もしたせいである。
「ああ、全員無傷だ」
「その大きい人は保護した人ですよね……?」
「保護したというか……連れて来ざるを得なかったというか……」
「???」
京香としても何と言っていいか不明瞭。
対して寧は遠目で見ていた筋肉モリモリマッチョマンを間近で見て少々圧倒されている。
「あ、あの……お怪我とかは大丈夫ですか?」
「おう、問題ないぜ! ほら、さっき採ったキノコプリンだ」
「あ、ありがとうございます……(これ何だろう?)」
「……にしても、まだ小さいのにグルメポリスとは立派じゃねえか。索敵とかの後方支援タイプか?」
「(グルメポリス……?)は、はい」
先程まで穏やかに話していたトリコに急に衝撃走る。
話していた寧も突然過ぎて驚いた。
「お前……まさか……! そうか、そういうことだったのか……!」
「あ、あの……?」
「まさかお前がグルメポリスとはな。随分と変わったじゃねえか四天王一の問題児ゼブラよ」
「……は?」
トリコからしたらまるで旧友と久し振りに会ったかのような気安さに変わっている。
しかし、この場にいる誰一人として言っている意味が分からない。
寧からしてもこの2mを超える野生のヒグマにも劣らない体格の巨漢とは完全に初対面で何と返せばいいのか戸惑ってしまった。
「ゼブラ……?」
「……これまさか優希の時と同じパターンか!?」
「だとしても何で
「というかゼブラって本当にシマウマのこと言ってる……?」
ヒソヒソとまではいかなくても小声で喋る4人。
ついさっき優希が小松という人物扱いされているのでこの短時間にまた同じ事態が起こってしまったのかと戦々恐々としている。
「すいません、ゼブラって……?」
「俺と同じ美食四天王の一人にして一番の問題児でな。チョーシに乗ってるやつをこの上ないくらい嫌っていて、気に入った獲物やムカつく奴がいると、その種が絶滅するまで食い尽くしちまうんだ。その結果26種類もの生物を絶滅させちまってよ」
「一体何処の蛮族だ!?」
「寧ちゃんに1ミリも掠ってないじゃないですか!?」
普通に考えれば虫も殺せなさそうな幼女とトリコよりも大きくて厳ついアラサーの男に共通点など無いに等しい筈なのだが、トリコ(自認)はこの二人の共通点を感じ取っていた。
寧は能力によって遠くを視ることが出来て探索や索敵も思いのまま。
ゼブラもまた自身の聴覚と声の反響を駆使して探索や索敵を可能としている。
何より、ゼブラは厳つい見た目をしているが絶滅させたのが生態系や環境に悪影響を与える有害な生物だったり、その声で仲間たちをサポートしたり、クッキングフェスティバルで敵が攻めて来た際には非戦闘員の避難を優先させたりと見た目に反して寧のように優しい男なのだ。
よって大川村寧=ゼブラという認識が成立してしまった。
最も、そんな暴論が展開されていることなどトリコ以外の人間に知る由はない。
「……ん?」
そんな中、勘のいい京香はあることに気がついてしまう。
「さっき四天王と言ったな。ということはまだ二人いるのか?」
「いるぜ、ココとサニーってのがな。毒舌家だったりナルシストだったりするけど頼もしいやつらだぜ」
「コッ……!?」
(余計なことを言うなっ!)
余計なことを言いいそうになった優希の口は京香によって物理的に封じられた。
何という偶然か、つい最近銭函ココという人物と会っているのだ。
彼女は魔都で桃を食べたことで人型の醜鬼となってしまい、色々あって優希の姉と行動を共にしていた。そして更に紆余曲折あって八雷神なる謎の連中に捕まってしまい、現在行方不明になっている。
その際にもう一人捕まった人型醜鬼である湯野波音。
彼女は「美しい」「美しくない」を口癖にしている長髪の女性で、まるでサニーのようだ。
━━何という偶然か、これで美食屋四天王が揃ってしまったではないか。
「当たり前だがお前の姉たちの事は絶対にトリコには言うなよ。探しに行くとかだけならまだいいが、最悪新種の猛獣として狩ろうとか言い出しかねん」
「流石にそれはない……と思いたいです……」
「お前ら何喋ってんだ?」
今まで見てきたトリコを印象からそれはないとはっきりと言い切る自信が優希にはなかった。
果たしてトリコがその二人に会うのがいつになるのか、それは会ってみないと分からない。
「それで、俺はどうすればいい? アンタらの拠点の近くでキャンプでもして処罰が決まるまで待ってた方がいいか?」
「……一先ずはそれで頼む」
「食材の調達したい場合はどうすればいい?」
「済まないがそれに関してはちょっと待っててくれ!」
京香としては優希と違って得体の知れないトリコを寮に入れるわけにもいかないのでトリコからの申出はとてもありがたい。
トリコとてそれに対しては理解があったし仕方ないとも思っているが、食材の調達に関しては別だ。
原作トリコのように新種の食材をたくさん発見したいトリコとしてはジッとしてるわけにもいかない。
それと折角落ち着けそうな場所があるのなら原作トリコのようにお菓子の家を建てたい(建築士資格無し)のでその為の食材を探しに行きたい。
「遅かったみたいだけど何かあっ……」
「随分と苦戦したようだな? 情けないのう日万凛……」
まだどう報告したらいいか考え中な京香に救いの声が聞こえた。
そしてやって来た二名の視線は一様に
「「……デカッ!?」」
(ん? グルメポリスの別動隊か?)
今ここに
次回 天花、トリコに節乃と認識される