「……と、そういうことがあってな」
「ふ、ふうん。大変だったんだね」
「ああ、大変だったよ……」
なんじゃこのデカい一枚肉は!?
ベーコンの葉だな、そのままでも食えるがちょっと炙っても美味いぞ!
これお野菜なんですか? それともお肉なんですか?
こう見えて緑黄色野菜だぜ。
「問題はトリコのことをどう上に報告するかなんだが……」
「見たままを報告書に書いて出せばいいんじゃない?
「簡単に言ってくれるな」
むっ、このきのこ。見た目は邪悪だが食感がポキポキしててプ◯ッツみたいじゃな!
さっきもらったきのこはプリンみたいに甘くて美味しいです!
ポキポキキノコにプリンキノコだな!
他には!? 他には何がある!? 菓子類とかあったら食ってやらんこともないぞ!
菓子かぁ。BBコーンをポップコーンに出来たらいいんだが……。
(何であいつらもう仲良くなってるんだ!?)
京香のジト目の先には元凶のトリコが八千穂や寧に先程捕獲した食材の数々を説明をしながら一緒に食べていた。
流石はフォーストコンタクトで喧嘩腰だったゾンゲといつの間にか仲良くなってたコミュ力の持ち主だ。
「魔都で見つかった新種の食材ねぇ。桃以外にもこんなのがあったんだ」
六番組組長出雲天花はさくらんぼというには大きくりんごにしては小振りな果物のチェリンゴを掴んで興味あり気に眺めている。
魔都の桃と比べると不自然に光ってもいないし美味しそうに見える。
「はむっ……ん〜♪甘酸っぱぁ〜い♪」
口に入れれば瑞々しい甘酸っぱさが口の中いっぱいに広がって思わず笑顔になる。
それを見た京香は思う。
そういうのがあるなら自分たちもいきなり醜鬼の肉じゃなくてもっと段階を踏んで欲しかったと。
「はーい、焼けましたよー!」
「ウッヒョー! 待ってたぜ小松ゥ!」
「「???」」
トリコが優希のことを小松と呼んだその瞬間、天花と八千穂の頭上にハテナマークが浮かんだが説明したら長くなりそうで料理が冷めると判断した(決して説明するのが面倒なわけではない)優希はそのままトリコ、寧、天花、八千穂の前に皿を並べる。
皿の上には焼かれたガララワニの肉と付け合わせがのっていた。
「お肉はちょっと火入れを工夫してみて、付け合わせはチェリンゴのソテーにしてみました」
「美味しそー! ……あれ? 私たちだけ? 京香たちは食べないの?」
「……腹が減ってないのでな」
(というか何であんなに食べてたトリコさんまで食べる気満々なんだろう)
疲れてヤケになった京香はもう天花のアドバイス通りに今日あったことをそのまま報告書にして提出した。
そしてそれを読んだ総組長山城恋は、宇宙を背負った。
「━━━━━━」
生命の極み 山城恋
地球の答え 山城恋
霊長類最強 山城恋
そんな異名で恐れられる彼女もとうとう宇宙を背負う時が来たのである。
嘘である。
「…………はっ!? 疲れてるのかしら」
自分は幻覚を見たのだと言い聞かせるかのように一度顔を洗いに行き、タオルで拭いた後、目元を軽くマッサージ。
「━━━━━━」
もう一回報告書を読んだが幻覚じゃなかった。
「はぁ……」
自分以外誰もいない空間だから遠慮なくため息も吐ける。
和倉優希は男にしては特別だがそれも羽前京香の能力【
だがトリコは違う。
トリコの醜鬼を倒せる戦闘力は個人で成り立つものな上、あの男はよりにもよって魔都の桃を食べて力を付けている。
下手を打てば現在の女性優位な社会が根底から覆るなんてことも十分有り得る。
(後これよね)
件のガララワニと呼ばれた醜鬼の肉。
優希が保存が効くようにと塩漬けにした後に乾燥させ、燻製にした一品。
それを軽く焼いたものが皿にのっている。
『というか醜鬼って倒したら跡形もなく消滅しなかったっけ?』と頭の中で疑問に思いながらも、それにナイフ(トリコの技ではない)を入れれば驚くほど容易く切れた。
一切れの肉を口に放り込む。
すると塩味と肉の旨みが口の中で爆発した。
(何……これ……!?)
彼女は魔防隊総組長という立場上、上流階級からの接待で一般人では行くことが叶わないようなお高い店で食事することは珍しくない。
故に当然舌も肥えている。
そんな彼女も舌を巻く味わいだった。
彼女は不覚にも夢中になって食べた。
肉汁も無駄にしてはならないとばかりにパンで皿を拭くように付けて食べた。
気がつけば肉片どころか汁の一滴も残っていない綺麗な皿が目の前にあった。
「はぁ、美味しかった……」
こんなに食事で満足したのは久し振りかもしれない。
しかし、この味をもう一度と思わずにはいられない。
報告書によれば他にも美味なる食材があるという。
魔都の産物とはいえ興味はある。
あるのだが、トリコという核兵器級の爆弾が必須になるのではないかと彼女の第六感が囁いていた。
(どうしよ……?)
一先ず今から彼女がやるべきことは。
報告書の最後にある『うちには優希がいるので十番組で引き取ってもらえますか?』に対して却下することだった。
一方その頃、張本人であるトリコはというと。
「さて、今日はどんな食材に巡り会えるか」
今日も元気に食材の捕獲に繰り出している。
「今回は何を捕獲するの?」
「グルメ界はまだ未知な場所も多いからなぁ……」
しかも出雲天花を伴って。
トリコとしては
そこでトリコの同伴者を買って出たのが自称既に親族への挨拶を終えた婚約者こと出雲天花。
単純に未知の食材とやらに興味がある。
それと「あれ? 私が調達した食材を優希君が調理するって良くない?」と思い至ったのは秘密だ。
「ねぇ、美食屋と料理人……だっけ? そのコンビって夫婦でやったりすることもあったりする?」
「あるぞ。俺の両親がそうだからな」
天花は思わずガッツポーズ。
それと同時に優希をコンビだと自称しているトリコを厄介に思う。
なお、このトリコがアカシアとフローゼから産まれたかどうかは謎。
(同性なら精々友情止まり……だと思いたいけど油断は出来ないわよね。女性に囲まれてるのに全くそれらしい反応ないし、女性優位な社会になってから男同士のカップルが増えてるなんて話を聞いたことあるし)
実際のところ、トリコはリンと結婚したくらいなのでノーマル。
ただ色気より食い気というだけである。
「ちなみに両親って……━━ッ!?」
大音量の足音が聞こえる前に空気が変わったのが肌で感じ取れた。
醜鬼の集団がこちらにやって来る。
それを一掃すべく天花は構えた。
(……様子がおかしい?)
こちらを襲いに来たというより何かから逃げた結果自分たちに出会したように見えた。
『ヴロロ』
そう、この醜鬼たちは自分たちよりも上位の捕食者から必死になって逃げていた。
後方から醜鬼の群れを蹂躙しながら現れたのは巨岩の怪物が三体。
「あれは……まさかロックドラムか!? 海岸沿いに生息してるやつらが何故内陸に……?」
「(魔都に海岸なんてあったっけ?)あの怪物の特徴は!?」
「肉は珍味だぞ!」
「味を聞いてるんじゃないんだけど!?」
ロックドラムたちはまるで子どもが遊ぶように醜鬼を叩き潰して口の中へと放り込んでいる。
「やつらの全身を覆う甲殻は超硬タンパク質の表皮に美炭酸カルシウムが付着していて、加工することで世界一硬いとされる完美大理石へと生まれ変わる」
「……そ、そう。要は硬いってことね!」
急に専門家みたいなこと言い出して戸惑ったがとりあえずロックドラムは見た目通り硬いと天花は即座に判断した。
果たして完美大理石は一体何処の誰が加工してくれるのか。
醜鬼の群れを根絶やしにしたロックドラムたちは次の獲物として二人を見据える。
『ヴォオオオ』
隕石とも見間違うロックドラムから振り下ろされた拳を天花はギリギリまで待つ。
それは一重にこの男の力量を見るために。
「5連……釘パンチ!!」
力を込めたトリコの拳がロックドラムの拳を押し除けるどこらか弾き飛ばし、そのまま吹っ飛んだ。
(この調子なら10連……いや、もっといけそうだぜ!)
魔都の桃を食べてグルメ細胞が進化した影響か、今のトリコはリーガルマンモス編で5連が限界だったトリコよりも強くなっている。
もしかしたらベジタブルスカイ突入前くらいの実力はあるのかもしれない。
それを見た天花は負けじと残りのロックドラムたちを見据えた。
「あんな硬そうなのを吹っ飛ばせるなんてすっごいパワー! まあ、私には硬さとか関係ないけど」
この瞬間、彼女の真価が発揮される。
「
出雲天花の能力【
それは空間を自在に操るという規格外の力。
遠距離のワープさえも可能にし、それを戦闘に転用すれば防御無視の空間攻撃が敵を襲う。
「ロックドラムが……!」
硬い甲殻を持つロックドラムもほらこの通り。
(この能力……間違いねぇ! セツ婆!)
この男、よりにもよって推定JDの人気キャラクターを500歳超えの老婆と同一人物だと認識するという暴挙に出た。
しかし、全く検討外れとも言い切れない。
彼女はその能力故に移動手段にされることも少なくない。
それに対して節乃も自分が所持しているリムジンクラゲのせいかアイスヘルからの帰還以外にもアニオリなどで移動手段によくされている。
他にも天花は人気投票で2度も1位を獲る程人気(3連番は惜しくもならず)があり、節乃も系列店前にカーネル◯ンダースおじさんのように人形が置かれるくらい人気がある。
もしかしたら出雲天花は美食人間国宝節乃と同一人物なのかもしれない。
「……ってあーーっ!?!?」
「な、何!? もしかして新手!?」
「ロックドラム消滅させてどうすんだよ!!」
「……あっ」
天花はいつもの殲滅する感覚で空間を抉っていたことに今になって気がついた。
「ごめん、いつもの癖でつい……」
「頼むぜせつのん」
(せつのん……?)
この男にも一応年頃の少女をセツ婆呼ばわりしない程度の配慮はあったらしい。
とはいえ天花からしたら意味不明なことに変わりないのだが。
「猛獣によっては雑に仕留めると味が落ちるのもあるからな」
「えぇ……」
天花であれば単騎で捕獲レベル90を超えるサラマンダースフィンクスでも仕留められるだろう。
しかし、メロウコーラは手に入れることは出来ない。
強いだけでは美食屋は務まらないのが辛いところだ。
「まっ、一体は残ってるからあいつをノッキングして……」
ズドォォォォンッ
まるで地震とも間違える轟音。
何者かによってロックドラムの腹は無惨にも踏み潰されて上半身と下半身が泣き分かれとなった。
『ゴフ……グフ……』
「あれは……マジか……!!」
「何あれ? 象? それとも熊?」
ロックドラムよりも二回りは巨躯。
象のように長い鼻と牙。
だがその体は白い体毛に覆われていて熊のよう。
「象熊。通称マンモスベアー。一生の大半を穴の中で休眠して過ごし、数年に一度しか地上に現れない幻の熊だ。こいつの恐ろしいところはその獰猛性と目覚めている間に周囲の土地の生物が全て死滅するまで食い尽くす食欲だな」
(わーそんなのが魔都災害で出て来たら大変だ)
読切版や映画ではラスボスを務めた程の猛獣でその捕獲レベルは何と測定不能(といっても劇場版だと小松に会う前のトリコが倒していた)。
トリコも腕と腹が鳴って仕方ない。
「……ちなみにロックドラムとどっちが美味しい?」
「さあな、ちょうどどっちもあるんだから食べ比べすればいいんじゃね?」
これより壮絶な戦いの火蓋が切られた。