堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第16話:ルール変更

 

 

 

 

 

 豪華客船が、無人島の沖合に停泊していた。

 

 青い海。白い砂浜。生い茂る木々。

 

 潮風が、髪を揺らす。

 

 美しい景色だ。だが、堀北の心は重かった。

 

 試験の説明で配布されたマニュアルを、何度も読み返している。

 

 ルールが、前回と違う。

 

 細かい変更が多数あり、その全てが戦略に影響を与えていた。

 

 

 

 【無人島特別試験ルール】

 

 ①基本ルール ※()内に、前回のルールを記載

 ・試験開始時、各クラスに試験専用の250ポイントを配布(300ポイント)

 ・配布されたポイントを使用して物資などを購入し、無人島で一週間自由に過ごす(変更なし)

 ・試験終了時の残りポイントをクラスポイントに加算(変更なし)

 

 ②リーダー関連

 ・試験開始時、クラス内でリーダーを設定(変更なし)

 ・スポット占有に使用されるキーカードを使用できるのはリーダーのみ(変更なし)

 ・リーダーの変更は禁止(正当な理由があれば可能)

 ・最終日に行われるリーダー指名の対象は「試験開始時に登録したリーダー」となる(最終日、最終点呼時のリーダー)

 

 ③リーダー指名のポイント

 ・他クラスのリーダーを的中:+30ポイント(50ポイント)

 ・他クラスのリーダーを間違えた場合:−20ポイント(−50ポイント)

 ・言い当てられたクラス:−30ポイント(50ポイント)

 ・リーダー指名は必須参加。最低1クラスは指名しなければならない(任意参加。リーダー指名をしなくてもいい)

 

 ④スポット占有

 ・無人島内にはスポットと呼ばれる地点があり、占有したクラスのみ使用可能になる(変更なし)

 ・1度の占有につき1ポイントを得る。占有したスポットは自由に使用できる(変更なし)

 ・スポットの占有権は8時間しか効力を持たず、更新しないと自動的に権利が切れる(変更なし)

 ・リーダー指名を的中させられた場合、スポット占有で得た全てのポイントが無効となる(変更なし)

 

 ⑤ペナルティ

 ・体調不良・大怪我でリタイア:−40ポイント(−30ポイント)

 ・環境汚染:−20ポイント(変更なし)

 ・他クラスのスポット無断使用:−30ポイント(−50ポイント)

 ・点呼不在:1人につき−10ポイント(-5ポイント)

 ・暴力・略奪・器物破損:即失格+プライベートポイント全没収(変更なし)

 

 

 

 以上が、今回のルールだ。

 

 特に重大な変更点は三つ。

 

 第一に、リーダー指名の対象が「試験開始時に登録したリーダー」に固定されている。

 

 前回は「最終日時点のリーダー」が対象だった。だから、最終日にリーダーを変更すれば、他クラスのリーダー指名を外させることができた。

 

 綾小路が実行したその戦略は、見事に成功した。

 

 だが今回は、その手が使えない。

 

 試験開始時に登録したリーダーが、そのまま判定対象になる。途中で何が起きようとも、最初の登録が全てを決める。

 

 第二に、リーダーの変更が禁止されている。

 

 前回は「正当な理由」があれば変更可能だった。その曖昧な条件を利用して、最終日に変更するという戦略が成り立った。

 

 今回は、完全に禁止。いかなる理由があっても、リーダーを変えることはできない。

 

 これは、リーダー指名の公平性を保つための措置だろう。変更できてしまえば、リーダー指名自体が意味をなさなくなる。

 

 第三に、リーダー指名が必須参加になっている。

 

 前回は任意だった。確実に当てられる相手だけ指名すればよかった。リスクを避けて、何も指名しないという選択肢もあった。

 

 今回は、最低一クラスは必ず指名しなければならない。消極策が取りにくくなった。

 

 他にも、初期ポイントが300から250に減少。リタイアのペナルティが−30から−40に増加。点呼不在のペナルティが一人−5から−10に増加。

 

 全体として、ポイント管理がシビアになり、戦略の自由度が下がっている。

 

 いずれにしろ、前回の戦略「リーダーを、入れ替える」は、完全に封じられた。

 

 堀北は、マニュアルから目を上げた。

 

 既に試験は始まっている。いつまでも、モタモタしてるわけにはいかない。

 

 

 

「堀北さん、作戦はどうしようか?」

 

 

 

 Dクラスの生徒たちが集まり、平田が代表して問いかける。

 

 堀北は、考えを整理しながら答えた。

 

 

 

「……基本方針は変わらないわ。リーダーの正体を隠し、スポットを占有してポイントを稼ぐ。ただし、細部は臨機応変に対応する必要がある」

 

「リーダーは誰にする?」

 

「……まだ決められないわ。少し時間をちょうだい」

 

 

 

 本当は、前回の記憶では「最終日に変更するから、スポット占有に向いた生徒なら誰でもいい」と思っていた。

 

 だが今回は違う。

 

 リーダー指名の対象が固定されている以上、「誰をリーダーにするか」が極めて重要になる。

 

 スポットを占有するにはキーカードが必要で、それを使えるのはリーダーだけ。体力があり、島中を動き回れる生徒が望ましい。

 

 だが、須藤のような目立つ生徒を選べば、すぐに見破られてしまう。

 

 島中を動き回れるだけの体力があって、目立たず、かといって怪しまれない程度の存在感がある生徒。

 

 そんな都合の良い人物がいるだろうか。

 

 

 

「分かったよ。じゃあ、まずはベースキャンプの設営から始めようか」

 

 

 

 平田が、クラスメイトをまとめ始める。

 

 クラスは、前回よりもまとまっている。それは確かだ。

 

 一学期の間に築いた信頼関係が、ここで活きている。平田との協力、軽井沢との関係改善、須藤の信頼獲得。全てが、この瞬間のためにあった。

 

 だが、不安は消えない。

 

 前回の知識が通用しない。

 

 ルールが変わった以上、記憶に頼ることはできない。

 

 実力で、この試験を乗り越えなければならない。

 

 

 

「堀北」

 

 

 

 声がして、振り返る。

 

 綾小路清隆が、隣に立っていた。

 

 

 

「何かしら」

 

「リーダー、オレでいいぞ」

 

「え?」

 

 

 

 堀北は、少し驚いた。

 

 綾小路が、自ら名乗り出るとは。

 

 

 

「目立たないし、他クラスから警戒もされていない。適任だろう」

 

 

 

 確かに、綾小路自身は目立たない。

 

 入学以来、ずっと「普通の生徒」を演じてきた。成績は平均、運動能力も平均、存在感は薄い。

 

 他クラスから見れば、「Dクラスの地味な男子生徒」程度の認識だろう。

 

 だが、最近は堀北と一緒に行動することが増えている。

 

 その姿を見ていた生徒は、少なくないはずだ。

 

 

 

「……ありがとう。でも、もう少し考えさせて」

 

「分かった。いつでも言え」

 

 

 

 綾小路は、それ以上追及せずに離れていった。

 

 堀北は、マニュアルを読み返しながら考えた。

 

 リーダー指名のポイントは、前回より下がっている。

 

 的中で+30ポイント。前回は+50だった。

 

 間違いで−20ポイント。前回は−50だった。

 

 言い当てられたら−30ポイント。前回は−50だった。

 

 リスクは軽減されているが、リターンも減っている。

 

 そして、リーダー指名は必須。最低一クラスは指名しなければならない。

 

 

 

「情報戦が、より重要になるわね……」

 

 

 

 堀北は、呟いた。

 

 他クラスのリーダーを探る。自クラスのリーダーを隠す。

 

 その駆け引きが、この試験の鍵になる。

 

 誰がリーダーなのか。

 

 誰がリーダーではないのか。

 

 嘘と真実が入り混じる、心理戦。

 

 堀北は、覚悟を決めた。

 

 前回の記憶に頼るのは、もうやめよう。

 

 今回は、今回として戦う。

 

 仲間と一緒に、自分の力で乗り越える。

 

 それが、二度目の高校生活で学んだことだ。

 

 

 

「堀北さん、準備できたよ。キャンプ地を探しに行こう」

 

 

 

 平田の声が、堀北を現実に引き戻した。

 

 

 

「ええ。行きましょう」

 

 

 

 堀北は、クラスメイトと共に歩き出した。

 

 無人島試験が、始まった。

 

 

 

 

 

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