堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第18話:偵察

 

 

 

 

 

 無人島特別試験、二日目。

 

 初日の滑り出しは、上々だった。

 

 ベースキャンプの設営も終わり、みんなで夕食を囲みながら、試験の擦り合わせも行った。

 

 今日は朝から、クラスメイトが各自割り振られた役割をこなしている。

 

 水や食料を確保するグループ、料理や洗濯などの家事を行うグループ、スポット占有に関わるグループ等、いくつかのグループに分かれて動き出していた。

 

 そんな中、堀北は、綾小路と共に各クラスの様子を偵察に出た。

 

 敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。

 

 孫子の言葉だ。

 

 他クラスの状況を把握することは、この試験において極めて重要。

 

 

 

「Aクラスは、川辺にキャンプを設営しているわね」

 

 

 

 森の中から、Aクラスのキャンプを遠目に観察する。

 

 川沿いの開けた場所に、整然とテントが並んでいる。

 

 葛城康平が中心となって、クラスメイトに指示を出している。合理的で、無駄がない動き。

 

 

 

「洞窟を取られたから、次善の策として川辺を選んだんだろうな」

 

 

 

 綾小路が、分析する。

 

 

 

「水の確保が容易で、周囲の見通しも良い。悪くない選択だ」

 

「葛城くんらしいわね。リスクを避け、確実な方法を選ぶタイプ」

 

「ああ。リーダーは、おそらく葛城自身か、信頼できる側近だろう。堅実な選択をするはずだ」

 

「坂柳さんは不参加だから、そうなる可能性が高いでしょうね」

 

 

 

 堀北は、Aクラスのキャンプをもう少し観察した。

 

 葛城の周りには、何人かの生徒が常についている。

 

 戸塚弥彦、橋本正義……前回の記憶で、彼らの名前を覚えている。

 

 リーダーは、葛城本人か、あるいは……

 

 

 

「……次に行きましょう」

 

 

 

 堀北は、思考を切り替えた。

 

 まだ情報が足りない。

 

 次に、Bクラス。

 

 森の中に、キャンプを設営している。

 

 木々に囲まれた小さな広場。川からは少し離れているが、近くに湧き水があるようだ。

 

 一之瀬帆波が中心となって、クラスメイトをまとめている。

 

 和気あいあいとした雰囲気。笑い声が聞こえる。

 

 

 

「Bクラスは、相変わらず仲が良いわね」

 

「ああ。一之瀬の人望は本物だな。クラス全体があいつを中心にまとまっている」

 

 

 

 綾小路が、感心したように呟く。

 

 

 

「おかげでリーダーが絞りづらい。一之瀬本人か、あるいは誰か別の人物か……」

 

「確かにそうね。Bクラスは、クラスの結束力が高いから、誰がリーダーでもおかしくない」

 

 

 

 堀北は、Bクラスのキャンプを観察し続けた。

 

 一之瀬の周りには、神崎隆二や柴田颯といった生徒がいる。

 

 彼らも、リーダー候補として考えられる。

 

 最後に、Cクラス。

 

 浜辺に、派手なキャンプが設営されていた。

 

 

 

「……あれは」

 

 

 

 綾小路が、興味深そうに観察している。

 

 Cクラスは、まるでリゾートのように過ごしていた。

 

 パラソル。ビーチチェア。豪華な食事。冷えた飲み物。

 

 ポイントを惜しみなく使って、贅沢三昧。

 

 サバイバル試験とは思えない光景だ。

 

 

 

「龍園は、リタイアする気なのか」

 

「……」

 

 

 

 綾小路の分析に、堀北は感心していた。

 

 堀北がこの光景を見るのは2回目だが、綾小路は初見だ。それにも関わらず、龍園の狙いを既に見破っているのは、さすがとしか言えない。

 

 堀北は、感心しながら前回の記憶を思い出していた。

 

 前回も、龍園はこの戦略を取った。

 

 最初に大量のポイントを使い、豪華な生活を送る。そしてポイントを使い切ったら、クラス全員でリタイアしたフリをする。

 

 だが、実際には数人が無人島に潜伏。他クラスの情報を集め、リーダー指名を狙う。

 

 狡猾な戦略だ。

 

 

 

「龍園くんは、ポイントを守ることには興味がないのかもしれないわね。リーダー指名で一発逆転を狙っている」

 

「だとすると、情報収集に力を入れてくるはずだ。警戒した方がいい」

 

「ええ……」

 

 

 

 堀北は、考え込んだ。

 

 龍園の作戦は読めている。だが、それを止める手段はない。

 

 前回と同じように、龍園がリーダーなら話は簡単だが、そうとは限らない。

 

 そして、龍園が堀北を警戒していることも分かっている。

 

 須藤の事件を未然に防いだ時から、龍園は堀北を「要注意人物」として認識している。

 

 何か、仕掛けてくるかもしれない。

 

 

 

「綾小路くん。龍園くんと話をしてきてくれない?」

 

「オレが?」

 

「ええ。あなたなら、怪しまれずに近づける。龍園くんが私をどう思っているか、探ってきてほしいの」

 

 

 

 綾小路は、少し考えた。

 

 そして、頷いた。

 

 

 

「分かった。行ってくる」

 

 

 

 綾小路は、一人でCクラスのキャンプに向かった。

 

 浜辺で、龍園翔がビーチチェアに座っている。

 

 サングラスをかけ、冷えた飲み物を片手に、優雅にくつろいでいる。

 

 周囲には、石崎大地やアルベルトなど、龍園の側近たち。

 

 綾小路は、自然な様子で近づいた。

 

 

 

「ちょっといいか」

 

「ああ? 誰だ、お前」

 

 

 

 龍園が、サングラスを少しずらして綾小路を見る。

 

 その目には、僅かな警戒が浮かんでいる。

 

 

 

「Dクラスの綾小路清隆だ」

 

「Dクラス? ……ああ、あの堀北のクラスか」

 

 

 

 龍園の口元に、笑みが浮かぶ。

 

 獰猛な、獣のような笑み。

 

 

 

「何の用だ? 堀北の使いか?」

 

「いや、別に。ただ、各クラスの様子を見に来ただけだ。随分と豪華なキャンプだな」

 

 

 

 綾小路は、周囲を見回すフリをした。

 

 パラソル、ビーチチェア、豪華な食事。確かに、他クラスとは比べ物にならない豪華さだ。

 

 

 

「当然だろ。せっかくの夏休みだ。楽しまなきゃ損だぜ」

 

 

 

 龍園が、冷えた飲み物を一気に飲み干す。

 

 見せつけるように。

 

 

 

「で、お前のクラスはどうなんだ? 堀北がリーダーか?」

 

「さあ。オレは、そういうことには興味がない」

 

「クク、そうかよ。でも、お前、堀北とよくつるんでるらしいじゃねぇか」

 

 

 

 龍園の目が、鋭く光る。

 

 観察するような、値踏みするような目。

 

 

 

「あの女は面白ぇ。入学初日からSシステムの裏を見抜いて、クラスをまとめて。まるで、全部知ってるみてぇな動き方してやがる」

 

「……そうか? オレには、普通に見えるが」

 

「普通? ハッ、お前も大概だな」

 

 

 

 龍園が、声を上げて笑う。

 

 だが、その目は笑っていない。

 

 

 

「堀北鈴音。確かに警戒はしてる。あの女は、普通じゃねぇ。何か「知ってる」目をしてやがる」

 

「……」

 

「だがな、所詮は女だ。オレの敵じゃねぇよ」

 

 

 

 龍園が、不敵に笑う。

 

 

 

「面白い女だとは思うぜ。遊びがいがありそうだ。だが、それだけだ。本気で相手にするほどじゃねぇ」

 

 

 

 綾小路は、龍園の言葉を聞きながら考えた。

 

 龍園は、堀北を警戒している。

 

 だが同時に、完全に下に見ている。

 

 「面白い女」「遊びがいがある」程度の認識。

 

 本気で脅威とは思っていない。

 

 それは、良いことなのか、悪いことなのか。

 

 

 

「じゃあな。せいぜい頑張れよ、Dクラス」

 

 

 

 龍園が、追い払うようなジェスチャーを見せる。

 

 綾小路には、興味がないようだ。

 

 「普通の生徒」として、完全に見落とされている。

 

 それを確認した綾小路は、その場を離れた。

 

 堀北と合流し、報告する。

 

 

 

「龍園は、お前を警戒している。だが、同時に見下している」

 

「見下している?」

 

「ああ。「面白い女」「遊びがいがある」程度の認識だ。本気で脅威とは思っていない」

 

 

 

 堀北は、複雑な表情を浮かべた。

 

 

 

「……それは、良いことなのかしらね」

 

「分からない。だが、龍園が油断しているなら、こっちとしては好都合だ」

 

「そうね……」

 

 

 

 堀北は、考え込んだ。

 

 龍園は、堀北を警戒しつつも、見下している。

 

 それは、チャンスかもしれない。

 

 だが、龍園の言葉を額面通りに受け取ってはいけない。

 

 龍園は狡猾だ。相手を油断させるのも、作戦のうちかもしれない。

 

 いつ、何を仕掛けてくるか分からない。

 

 

 

「とりあえず、今日は拠点に戻りましょう。明日からに備えて」

 

「ああ」

 

 

 

 二人は、ベースキャンプに戻った。

 

 夕日が、島を赤く染めている。

 

 クラスメイトたちが、洞窟の外で夕食の準備をしている。焚き火の匂いが漂ってくる。

 

 穏やかな光景だ。

 

 だが、堀北の心は穏やかとはいえない。

 

 龍園。葛城。一之瀬。

 

 敵は多い。

 

 そして、何より――自分自身の「秘密」が、最大のリスクだ。

 

 前回の記憶に頼りすぎれば、足をすくわれる。

 

 かといって、完全に無視することもできない。

 

 そのバランスが、難しい。

 

 

 

「堀北さん、ご飯できたよー」

 

 

 

 軽井沢の声が、堀北を現実に引き戻した。

 

 

 

「……ええ、今行くわ」

 

 

 

 堀北は、焚き火の方へ歩いていった。

 

 夜が、更けていく。

 

 三日目の朝、異変が起きることを、堀北はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

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