堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第20話:孤立

 

 

 

 

 

 無人島特別試験、四日目。

 

 試験が進むにつれ、Dクラス内部に不協和音が生じ始めていた。

 

 三日目の朝に起きたキャンプ荒らし事件。

 

 その後、堀北は警戒を強化した。

 

 夜間の見張りを行うことにした。二人一組で、交代制の見張りを敷く。深夜も、誰かが必ず起きているようにした。

 

 食料の保管場所を分散させた。一箇所にまとめて置くのではなく、複数の場所に小分けにして隠す。全てを一度に奪われないように。

 

 他クラスの動向を探る偵察も強化した。AクラスとBクラスももちろんだが、特に注意したのはCクラス。

 

 Cクラスは大半がリタイアしたようだが、どこかに潜んでいるであろう龍園に注意し、二次的な被害を生まないように努めた。

 

 だが、それがクラスメイトの負担になっている。

 

 四日目の夕方。

 

 洞窟の中で、不満の声が上がり始めた。

 

 

 

「なあ、見張りって本当に必要なのか? 寝不足でキツいんだけど」

 

 

 

 池が、目の下に隈を作りながら言った。

 

 昨夜、深夜の見張り当番だったらしい。昼間は暑くて寝られるはずもなく、疲労の色が濃くなっている。

 

 

 

「必要よ。また荒らされたら、もっと大変なことになるわ」

 

 

 

 堀北は、毅然とした態度で答えた。

 

 

 

「でもさぁ……」

 

 

 

 池が、不満そうに顔を歪める。

 

 

 

「堀北ちゃんの指示通りにやってんのに、全然うまくいかねぇじゃん」

 

 

 

 山内が、池に同調した。

 

 

 

「てゆーか犯人特定するのが先だろ。誰がやったのかも分かってないのに、見張りとか偵察とか。意味あんのか、これ」

 

「意味はあるわ。そのためにやっているのだから」

 

「別にそんな面倒なことしなくても、怪しそうな奴を問い詰めた方が早いだろ」

 

「それは……」

 

 

 

 堀北は、言葉に詰まった。

 

 そうしたいのはやまやまだが、肝心の怪しい奴が簡単に見つかれば苦労はしない。

 

 

 

「そもそも、お前の作戦がダメなんじゃねぇの?」

 

 

 

 山内が、遠慮のない言葉を投げつける。

 

 その言葉が、堀北の胸に突き刺さった。

 

 彼らの言う通りだ。

 

 前回の記憶を頼りに立てた作戦は、ことごとく外れている。

 

 龍園の妨害を予測できなかった。前回は、こんな直接的な攻撃はなかった。だから、対策も立てていなかった。

 

 ルールの変更にも対応しきれていない。前回の戦略が通用しないと分かっていながら、新しい戦略を立てることができていない。

 

 結果として、クラスは混乱し、疲弊している。

 

 それは、堀北の責任でもある。

 

 

 

「もういいだろ、堀北に任せるのは」

 

 

 

 須藤が、苛立たしげに立ち上がった。

 

 

 

「俺たちで勝手にやった方が、マシなんじゃねぇか。どうせ龍園の仕業だろうしな」

 

「須藤くん、それは……」

 

 

 

 平田が、なだめようとする。

 

 

 

「今はみんなで協力しないと……」

 

「協力? してんじゃねぇか。堀北の指示に従って、見張りもやって、偵察もやって。でも、全然うまくいってねぇ」

 

 

 

 須藤が、堀北を睨む。

 

 その目には、失望と苛立ちが浮かんでいた。

 

 

 

「俺はもう、堀北の指示には従わねぇ。自分で考えて動く」

 

 

 

 須藤が、洞窟を出ていく。

 

 その背中を、堀北は呆然と見つめていた。

 

 

 

「あ、俺も」

 

 

 

 池と山内が、須藤について行った。

 

 

 

「ちょっと、待ってよ……」

 

 

 

 平田が、三人を追いかけようとする。だが、彼らは振り返らなかった。

 

 残されたクラスメイトたちは、気まずそうに堀北を見ている。

 

 誰も、何も言わない。

 

 だが、その視線が全てを物語っていた。

 

 「堀北についていっても、うまくいかない」

 

 「この試験、大丈夫なのか」

 

 女子グループも、堀北に懐疑的な視線を向けている。

 

 

 

「……堀北さん、なんか最近おかしくない?」

 

「確かに。入学した頃は頼りになると思ったけど……」

 

「この試験、大丈夫なのかな……」

 

 

 

 その言葉が、堀北の耳に入った。

 

 胸が、締め付けられるように痛んだ。

 

 堀北は、孤立しつつあった。

 

 一学期をかけて築いた信頼関係が、崩れ始めている。

 

 須藤の信頼。池や山内との関係。女子グループとの距離。

 

 全てが、砂の城のように崩れていく。

 

 

 

「堀北さん……」

 

 

 

 平田が、心配そうに声をかけてきた。

 

 

 

「大丈夫だよ。みんな、疲れてるだけだから。少し休めば、落ち着くと思う」

 

「……ええ」

 

 

 

 堀北は、力なく頷いた。

 

 だが、心の中では分かっていた。

 

 これは、疲れのせいだけではない。

 

 堀北自身の失敗が、招いた結果だ。

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 

 洞窟の中は、重苦しい空気に包まれていた。

 

 クラスメイトたちは、それぞれのグループに分かれて過ごしている。

 

 須藤、池、山内は、洞窟の入り口付近で焚き火を囲んでいる。堀北から距離を置くように。

 

 女子グループは、洞窟の奥で固まっている。時折、こちらを見ては、ひそひそと話している。

 

 平田は、あちこちを回って、クラスメイトたちと話をしている。分裂を食い止めようとしているのだろう。

 

 綾小路は、いつもと変わらず、静かに佇んでいる。

 

 堀北は、誰とも話さず、一人で座っていた。

 

 孤独だった。

 

 入学以来、堀北はずっとクラスの中心にいた。

 

 リーダーとして、みんなをまとめてきた。

 

 Sシステムの警告、中間・期末試験の勉強会。

 

 全てで、堀北が中心になって動いた。

 

 その結果、クラスメイトからの信頼を得た。

 

 「堀北さんについていけば大丈夫」

 

 そう思われていた。

 

 だが、今は違う。

 

 予想外のトラブルに対して、後手を踏んだ。クラスは混乱し、疲弊している。

 

 「堀北についていっても、うまくいかない」

 

 そう思われ始めている。

 

 信頼は、築くのに時間がかかるが、崩れるのは一瞬だ。

 

 堀北は、立ち上がった。

 

 

 

「……少し、外の空気を吸ってくるわ」

 

 

 

 誰に言うでもなく、洞窟を出た。

 

 夜の森。

 

 月明かりが、木々の間から差し込んでいる。

 

 堀北は、洞窟から少し離れた岩場に座った。

 

 膝を抱え、空を見上げる。

 

 星が、瞬いている。

 

 美しい夜空だ。

 

 だが、堀北の心は、暗く沈んでいた。

 

 

 

「私は……間違えた?」

 

 

 

 声に出して、呟いた。

 

 前回の記憶に頼りすぎた。

 

 未来を知っているという過信が、臨機応変な対応を妨げている。

 

 「前回はこうだった」

 

 「前回はこうすれば上手くいった」

 

 「前回の知識があれば、今回も上手くいく」

 

 その思考が、足かせになっている。

 

 今回の試験は、前回とは違う。

 

 ルールが違う。リーダー当ての方式が変わった。リタイアのペナルティが増えた。

 

 状況が違う。堀北が前回と違う行動を取ったことで、敵の行動も変わった。

 

 敵が違う。龍園は、前回よりも早く、激しく攻撃を仕掛けてきている。

 

 なのに、前回の成功体験に固執した。

 

 「前回はこうだったから、今回もこうすればいい」

 

 そう思い込んでいた。

 

 その結果、新しい状況に対応できなかった。

 

 龍園の妨害を予測できなかった。

 

 クラスメイトの疲労を考慮できなかった。

 

 新しい戦略を立てることができなかった。

 

 全ては、堀北の失敗だ。

 

 前回の記憶という「武器」に頼りすぎた結果だ。

 

 

 

「どうすれば……」

 

 

 

 涙が、頬を伝った。

 

 堀北は、声を殺して泣いた。

 

 悔しかった。

 

 情けなかった。

 

 一学期、あれだけ頑張ったのに。

 

 クラスメイトとの関係を築いて、信頼を得て、Aクラスを目指して。

 

 その全てが、一瞬で崩れようとしている。

 

 前回の失敗を繰り返さないために、やり直したはずなのに。

 

 結局、また失敗している。

 

 

 

「……私は、何のためにここにいるの……」

 

 

 

 タイムリープした意味は、何だったのか。

 

 前回の記憶があっても、結局同じ失敗を繰り返すなら、意味がない。

 

 むしろ、前回の記憶があるせいで、余計に苦しんでいる。

 

 堀北は、膝に顔を埋めた。

 

 悔しさで、情けなさで、胸がいっぱいになった。

 

 風が、髪を揺らす。

 

 波の音が、遠くから聞こえてくる。

 

 一人ぼっちの夜。

 

 堀北は、ただ泣いていた。

 

 

 

 

 

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