堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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 感想・評価・お気に入り登録ありがとうございます。
 第22話は描きたいことを詰め込んだ結果、情報量が多くなっちゃいました。
 読みづらかったら申し訳ないです。


第22話:情報戦

 

 

 

 

 

 無人島に、新しい一日が始まった。

 

 堀北は、洞窟の入り口で空を見上げていた。

 

 青い空。白い雲。穏やかな天気だ。

 

 天気と呼応するかのように、堀北の気分も比較的穏やかだった。

 

 そんな中で迎えた、無人島六日目の朝。

 

 今日と明日で、この試験の勝敗が決まる。

 

 龍園の妨害、ルールの変更、クラスメイトの離反。ここまでは全てが、想定外の出来事だった。

 

 とはいえ、ポイント的なダメージはそんなに受けていない。

 

 だからこそ、今日は重要な一日だ。

 

 情報を集め、試験を有利に進める。

 

 そして、明日の最終日に勝負を決める。

 

 堀北は、まず櫛田のもとへ向かった。

 

 櫛田は、女子グループの中にいた。

 

 いつものように、明るい笑顔でクラスメイトと談笑している。

 

 その姿は、誰からも好かれる「理想のクラスメイト」そのものだった。

 

 

 

「櫛田さん、少しいいかしら」

 

 

 

 堀北が声をかけると、櫛田は笑顔のまま振り返った。

 

 

 

「あ、堀北さん。どうしたの?」

 

「二人だけで話したいの。ついてきてくれる?」

 

「うん、いいよ」

 

 

 

 櫛田は、女子グループに軽く手を振って、堀北についてきた。

 

 二人は、洞窟から少し離れた木陰に移動した。

 

 

 

「それで、何かな?」

 

 

 

 櫛田が、首を傾げる。

 

 その仕草は愛らしく、誰もが好感を抱くだろう。

 

 だが、堀北は知っている。

 

 この笑顔の裏に、何が隠されているのかを。

 

 

 

「お願いがあるの。今日、他クラスの偵察をしてほしいのだけど」

 

「偵察?」

 

「ええ。各クラスのリーダーを特定するために、情報を集めてほしいの」

 

 

 

 櫛田の目が、僅かに光った。

 

 それは、好奇心とは違う、別の何か。

 

 

 

「リーダーを特定……。それって、リーダー指名のためだよね?」

 

「そうよ。他クラスのリーダーを当てれば、+30ポイント。三クラス全て当てれば、+90ポイントになる」

 

「なるほどね。でも、どうして私なのかな?」

 

 

 

 櫛田が、小首を傾げる。

 

 

 

「あなたは、他クラスの生徒とも仲がいいでしょう? 直接話して、情報を引き出せるのは、あなたしかいないわ」

 

「……」

 

 

 

 櫛田は、少し黙った。

 

 その沈黙の間、櫛田は頭の中で計算していた。

 

 

 

(堀北が、また私に頼みごと……)

 

 

 

 櫛田桔梗には、二つの顔がある。

 

 一つは、誰にでも優しいクラスの人気者。

 

 もう一つは、人気者でいるために、ストレスを溜め込んでいる本当の自分。

 

 そして、ストレスを溜め込んでいる原因は、目の前の堀北鈴音にもある。

 

 同じ中学出身の女。暴かれたくない過去を知ってるかもしれない女。

 

 そんな女が、入学当初からクラスの中心にいる。

 

 成績は優秀。リーダーシップもある。クラスメイトからの信頼も厚い。

 

 それが、櫛田には面白くなかった。

 

 

 

(私だって、みんなに頼りにされたい。みんなに必要とされたい)

 

 

 

 承認欲求。

 

 それが、櫛田を突き動かす原動力だった。

 

 誰かに頼られるのは、好きだ。

 

 だが、同時に櫛田にはプライドもあった。

 

 誰かにいいように利用されるのは、好きじゃない。

 

 

 

(でも……)

 

 

 

 櫛田は、状況を分析した。

 

 今、堀北はクラスメイトからの信頼を失いかけている。

 

 キャンプ荒らしの件で、クラスは混乱した。

 

 須藤たちは離反しかけているし、女子グループも堀北に批判的だ。堀北自身もダメージを受けているように見える。

 

 誰がやったのか知らないが、櫛田にとっては嬉しい出来事だった。

 

 

 

(堀北が弱ってる今こそ、チャンスかも)

 

 

 

 ここで偵察を成功させれば、クラスでの地位を確たるものに出来る。

 

 「櫛田さんのおかげで勝てた」と、みんなに言ってもらえる。

 

 堀北ではなく、自分が。

 

 

 

(それに、堀北に恩を売っておくのも悪くない)

 

 

 

 櫛田は、計算高い。

 

 今は堀北に協力する。だが、それは堀北のためではない。

 

 自分のためだ。

 

 

 

「……分かった。引き受けるよ」

 

 

 

 櫛田は、笑顔で答えた。

 

 

 

「ありがとう。助かるわ」

 

「ううん、クラスのためだもん。当然だよ」

 

 

 

 櫛田の笑顔は、完璧だった。

 

 誰も、その裏にある打算には気づかないだろう。

 

 堀北ですら。

 

 いや、堀北は気づいているのかもしれない。

 

 櫛田の事を、警戒してる節がある。

 

 だが、それでも櫛田に頼らざるを得ないのだろう。

 

 それが、今の堀北の状況だった。

 

 

 

「綾小路くんも、偵察に出てもらうわ。あなたは「接触」担当。他クラスの生徒と話して、情報を集めて。綾小路くんは「観察」担当。遠くからキャンプを監視して、行動パターンを分析してもらう」

 

「なるほど。役割分担ってことだね」

 

「ええ。二人の強みを活かせると思うの」

 

「分かった。任せて」

 

 

 

 櫛田は、胸を張って答えた。

 

 

 

(見てろよ、堀北。私の方が、クラスに貢献できるってこと、証明してやる)

 

 

 

 内心では、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 朝の点呼が終わった後。

 

 

 

「綾小路くん、櫛田さん。準備はいい?」

 

 

 

 堀北は、二人に声をかけた。

 

 

 

「ああ。いつでもいける」

 

 

 

 綾小路が、頷く。

 

 

 

「うん。私も大丈夫だよ」

 

 

 

 櫛田が、明るく答える。

 

 

 

「じゃあ、お願いするわね。出来れば各クラスのリーダーを特定してきてほしいけど、無理はしなくていいから」

 

「ああ」

 

「任せて」

 

 

 

 綾小路と櫛田は、それぞれ別の方向へ歩き出した。

 

 堀北は、その背中を見送った。

 

 

 

(櫛田さんの本音は、分かってる。でも、今は協力してくれるなら、それでいい)

 

 

 

 堀北は、櫛田の打算を理解していた。

 

 だが、それでも櫛田を使う。

 

 偵察を引き受けてくれたところから察するに、退学を狙われるほど、目の敵にされてるわけではないらしい。

 

 利用し合う関係。

 

 それが、今の二人の距離感だった。

 

 堀北自身は、クラスの再建に集中する。

 

 昨夜の話し合いで、綾小路と決めたことだ。

 

 クラスが分裂したままでは、今後に支障をきたす。

 

 まずは、クラスメイトの信頼を取り戻さなければ。

 

 堀北は、クラスメイトを集めた。

 

 洞窟の前に、櫛田と綾小路以外の全員が集まっている。

 

 須藤、池、山内も、渋々ながら参加していた。

 

 彼らの目には、まだ不信感が残っている。

 

 当然だ。堀北の作戦は機能せず、クラスは混乱した。信頼を失うのは当たり前のことだ。

 

 だからこそ、ここで取り戻す。

 

 

 

「みんな、聞いてほしいの」

 

 

 

 堀北は、クラスメイトの前に立った。

 

 全員の視線が、堀北に集まる。

 

 

 

「今まで、私の作戦が上手くいかなくて、みんなに迷惑をかけたわ」

 

 

 

 堀北は、深く頭を下げた。

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 クラスメイトたちが、驚いた顔をしている。

 

 堀北が謝罪するのは、珍しいことだ。

 

 入学以来、堀北は常に毅然とした態度を崩さなかった。失敗しても、弱さを見せることはなかった。

 

 だからこそ、この謝罪は意外だったのだろう。

 

 

 

「私は、自分一人で全部やろうとしていた。それが間違いだった」

 

 

 

 堀北は、顔を上げた。

 

 

 

「今までの経験から、自分なら全部分かると思い込んでいた。でも、それは傲慢だった。現実は、私の予想通りにはいかなかった」

 

「……堀北さん」

 

 

 

 平田さえも、少し驚いた顔をしている。

 

 

 

「これからは、みんなの意見を聞きながら動く。一人で決めないわ。……だから、もう一度だけ、私を信じてほしいの」

 

 

 

 沈黙が、洞窟の前に広がった。

 

 誰かが何かを言おうとするが、同調圧力で口を開けない。

 

 蝉の鳴き声だけが、うるさく響いている。

 

 そんな中で、意外な人物が最初に口を開いた。

 

 

 

「……私もさ」

 

 

 

 軽井沢だった。

 

 彼女は、少し気まずそうに髪をいじりながら、言葉を続けた。

 

 

 

「正直、堀北さんのこと、よく分かんないなって思ってたんだよね。なんか一人で勝手に決めて、勝手に動いて。私たちのこと、信用してないのかなって」

 

「……」

 

 

 

 堀北は、黙って聞いていた。

 

 

 

「でも、こうやって頭下げてくれるなんて、思わなかった。堀北さんも、ちゃんと悩んでたんだよね」

 

 

 

 軽井沢が、小さく笑う。

 

 

 

「私も、ちょっと冷たかったかも。ごめん」

 

「軽井沢さん……」

 

 

 

 堀北は、驚いた。

 

 軽井沢から歩み寄ってくるとは、予想していなかった。

 

 前回の記憶では、この時期の軽井沢と堀北の関係は良好とは言えなかった。むしろ、距離があった。

 

 だが、今回は違う。

 

 一学期を通じて、少しずつ関係を築いてきた。その成果が、ここで現れたのかもしれない。

 

 軽井沢の発言をきっかけに、空気が変わった。

 

 

 

「……チッ、女子に先越されたな」

 

 

 

 須藤が、照れくさそうに頭を掻く。

 

 

 

「俺も、悪かった。あの時は苛立って、ガキみてぇなこと言っちまった」

 

「須藤くん……」

 

「お前が一人で抱え込んでたなんて、知らなかったんだ。マジで悪かったな」

 

 

 

 ばつが悪そうにしながらも、その目は真剣だった。

 

 

 

「俺も最後まで付き合うぜ。だから、お前も俺たちをもっと頼れ」

 

 

 

 須藤が、ニカッと笑う。

 

 池と山内も、須藤に続いて口を開いた。

 

 

 

「俺らも、まあ……悪かった。言い過ぎた」

 

 

 

 池が、気まずそうに目を逸らす。

 

 

 

「堀北ちゃんがあんなに頑張ってたの、分かってたのにさ。八つ当たりみたいになっちゃって」

 

「最後までやってみようぜ。まだ試験は終わってねぇし」

 

 

 

 山内も、少し反省した様子で頷く。

 

 クラスメイトたちの表情が、少しずつ和らいでいく。

 

 女子グループも、敵意のある視線は向けていない。

 

 篠原や佐藤も、小さく頷いている。

 

 完全に信頼を取り戻したわけではない。

 

 だが、最悪の事態は回避できた。

 

 そして、何より――クラスメイトたちが、自分から歩み寄ってくれた。

 

 それが、堀北には嬉しかった。

 

 

 

「ありがとう、みんな」

 

 

 

 堀北は、小さく微笑んだ。

 

 その笑顔は、いつもの堀北らしからぬ、穏やかなものだった。

 

 

 

「じゃあ、残り二日間の作戦を説明するわ。異論がある人は、遠慮せずに意見を言ってちょうだい」

 

 

 

 堀北は、クラスメイトに作戦を共有した。

 

 

 

「私たちの目標は、リーダー指名でポイントを稼ぐこと。そのために、今日は情報収集に集中する」

 

「情報収集?」

 

「ええ。他クラスのリーダーを特定するの。綾小路くんと櫛田さんが、偵察に出てくれているわ」

 

「そういや、点呼の後から二人とも見てねえな」

 

 

 

 須藤が、周囲を見回す。

 

 

 

「あいつら、大丈夫なのか?」

 

「櫛田さんがいれば問題ないわ。それに、綾小路くんも結構しっかりしてるから」

 

「まあ、それもそうだな。綾小路はともかく、櫛田がヘマをするわけねえしな」

 

 

 

 須藤が、感心したように頷く。

 

 綾小路を軽視するのは許せないが、櫛田を持ち上げるためにも、ここは我慢しなければいけない。

 

 

 

「とにかく、今日中に他クラスのリーダーを絞って特定する。明日の最終日に、リーダー指名で勝負を決めるわ」

 

「分かった。俺たちは何をすればいいんだ?」

 

「通常通り、スポットの占有と生活の維持をお願い。あと、他クラスの動きに注意して。何か気づいたことがあれば、報告して」

 

「おう、任せろ」

 

 

 

 クラスメイトたちが、それぞれの役割に戻っていく。

 

 堀北は、彼らの背中を見送った。

 

 第一段階は、クリアした。

 

 あとは自分も動きながら、綾小路と櫛田の報告を待つだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、綾小路はAクラスのキャンプを観察していた。

 

 川辺のキャンプを、遠くの茂みから監視する。

 

 葛城が中心となって、クラスを指揮している。

 

 派閥争いしていても、いちおう指示には全員従っているらしい。

 

 組織的で、無駄がない動き。さすがはAクラスだ。

 

 スポット占有の様子を観察すると、興味深いパターンが見えた。

 

 葛城自身は、キャンプから離れることが少ない。指揮に専念している。

 

 戸塚や橋本といった生徒たちも、葛城の周りにいることが多い。

 

 では、スポット占有を行っているのは誰か。

 

 何人かの生徒が、スポット占有していそうな雰囲気があるが、どれも特定できるような材料がない。

 

 かといって、迂闊に近づくわけにもいかない。

 

 綾小路は、遠目からの距離を維持したまま、さらに観察を続けた。

 

 すると、意外な人物が浮かび上がった。

 

 森下藍。

 

 目立たない生徒だ。

 

 情報はほとんどないが、あとで櫛田に確認すれば何かしら分かるだろう。

 

 彼女が、単独で森に入っていく様子が見えた。

 

 綾小路は、森下の動きを追った。

 

 森下は、時折奇妙な動きを見せながら、森の奥にあるスポットに向かっていた。

 

 そして、何かを操作している。

 

 キーカードを使っているのかもしれない。もしくは使っているフリか。

 

 しばらくして、森下はキャンプに戻ってきた。

 

 そして、葛城に近づき、小声で何かを報告している。

 

 綾小路は、読唇術でその内容を読み取った。

 

 

 

「葛城康平。三番と七番の占有完了しました」

 

 

 

 スポット占有の報告だ。

 

 何故か葛城をフルネームで呼んでいるが、間違いない。

 

 リーダーでなければ、そんな報告はしない。

 

 

 

「森下藍……か」

 

 

 

 綾小路は、森下をリーダー候補として確定した。

 

 葛城は、自分や側近をリーダーにせず、あえて目立たない生徒を選んだ。

 

 堅実な判断だ。

 

 これで、Aクラスのリーダーは特定できた。

 

 次は、Bクラスだ。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、櫛田はBクラスのキャンプに接近していた。

 

 森の中のキャンプ。

 

 木々に囲まれた小さな広場に、ハンモックが並んでいる。

 

 一之瀬が中心となって、クラスメイトと談笑している。

 

 和気あいあいとした雰囲気だ。

 

 

 

「一之瀬さーん!」

 

 

 

 櫛田が、明るい笑顔で声をかける。

 

 

 

「あ、桔梗ちゃん! どうしたの?」

 

 

 

 一之瀬が、笑顔で振り返る。

 

 二人は、以前から友好的な関係を築いていた。

 

 

 

「気分転換にお散歩してたら、Bクラスのキャンプが見えたから。みんな元気そうだね」

 

「うん、おかげさまで。Dクラスの方はどうかな?」

 

「もう大変だよ。キャンプ荒らしにあっちゃって」

 

「それ、聞いたよー。大変だったね……」

 

 

 

 一之瀬が、同情の表情を浮かべる。

 

 その目には、純粋な心配が浮かんでいる。

 

 

 

(相変わらず、お人好しだな)

 

 

 

 櫛田は、内心で思った。

 

 一之瀬帆波。Bクラスのリーダー的存在。

 

 誰にでも優しく、誰からも好かれる。

 

 ある意味、櫛田と似たタイプだ。

 

 だが、決定的に違う点がある。

 

 一之瀬の優しさは、本物だ。

 

 櫛田の優しさは、演技だ。

 

 

 

(でも、だからこそ利用しやすい)

 

 

 

 櫛田は、笑顔を崩さなかった。

 

 さりげなく周囲を観察した。

 

 一之瀬の周りには、神崎や柴田といった生徒がいる。

 

 いつものBクラスの光景だ。

 

 だが、しばらく会話を続けていると、少し離れた場所に、気になる二人の生徒の姿を見つけた。

 

 一人は、網倉麻子。

 

 一之瀬の親友だ。

 

 彼女は、一之瀬たちの輪には入らず、なにやらそわそわしてる様子だった。

 

 

 

「あ、網倉さんだ。なんか様子が変だけど、どうしたのかな?」

 

 

 

 櫛田が、何気なく聞く。

 

 

 

「麻子ちゃん?……うーん、なにしてるんだろうねー」

 

 

 

 一之瀬が、とぼけるように言葉を濁した。

 

 だが櫛田は、なんとなくその状況を察することが出来た。

 

 何故なら、網倉の視線の先に、この場にいるべきではない生徒がいたからだ。

 

 網倉の視線の先にいたのは、Cクラスの金田悟。

 

 堀北からの情報だと、金田がBクラスにスパイとして潜んでる可能性がある、という話だった。

 

 そして網倉は、明らかにその金田を警戒しているようだった。

 

 

 

「金田くんって、Cクラスの生徒だよね? どうして彼がBクラスにいるのかな?」

 

 

 

 櫛田は、何も知らないフリをして一之瀬に疑問を投げかける。

 

 

 

「なんかCクラスで意見の食い違いがあって、龍園くんから追い出されちゃったみたい。だからウチで面倒を見てあげてるんだ―」

 

「そうなんだ。どこのクラスも大変なんだね」

 

(ビンゴ)

 

 

 

 櫛田は、心の中でガッツポーズをした。

 

 堀北の情報通り、金田はスパイとしてBクラスにいるらしい。

 

 どう考えても怪しい他クラスの生徒を匿うなんて、この試験においては自殺行為だろう。

 

 だが、聖女のように優しい一之瀬はそれを受け入れた。

 

 櫛田は、その馬鹿げた判断に眩暈がしそうになったが、なんとか笑顔を張り付ける。

 

 いずれにしろ、金田はどう考えても怪しい生徒でしかなく、その金田を網倉は警戒している。

 

 これは有益な情報だ。

 

 それ以降は、特に目新しい情報は得られなかった。

 

 一之瀬との会話を楽しみながら、適当なタイミングで切り上げる。

 

 

 

「あっ、そろそろ帰らなきゃ。また後でね、一之瀬さん」

 

「うん、またねー!」

 

 

 

 櫛田は、笑顔で別れた。

 

 そして、次の目的地に向かう。

 

 Cクラスのキャンプ跡地だ。

 

 浜辺に着くと、キャンプはすでに撤収されていた。

 

 堀北から聞かされていた通り、ほとんどの生徒がリタイアしたらしい。

 

 パラソルもビーチチェアも、跡形もない。

 

 だが、金田のように、まだ残っている生徒がいるとも聞いている。

 

 櫛田は、森の中を歩き回った。

 

 しばらく探し続けると、二人の女子生徒の姿を見つけた。

 

 伊吹澪と真鍋志保だ。

 

 二人は、木の陰で小声で話している。

 

 周囲を警戒している様子だが、櫛田の存在には気づいていない。

 

 櫛田は、物陰に隠れて、会話を盗み聞きした。

 

 

 

(堀北の指示に従うのは癪だけど……)

 

 

 

 櫛田は、唇を歪めた。

 

 

 

(こういう悪巧みは、嫌いじゃない)

 

 

 

 それに、ここで成果を上げれば、自分が一番になれる。

 

 「櫛田さんのおかげで勝てた」

 

 みんなに、そう言ってもらえる。

 

 そっちの方が重要だ。 

 

 

 

(願ってもないチャンス)

 

 

 

 櫛田は、虎視眈々と獲物を見据えていた。

 

 息を殺し、耳を澄ませる。

 

 

 

「……龍園は、もうリタイアしたんだろ?」

 

 

 

 伊吹の声だ。

 

 

 

「うん。体調不良ってことにして、客船に戻ったみたい」

 

 

 

 真鍋の声。

 

 

 

「じゃあ、私らだけでやるしかないわけか」

 

「そうよ。私がリーダーなんだから、ちゃんとやらないと龍園に殴られる」

 

 

 

 櫛田は、息を呑んだ。

 

 真鍋が「私がリーダー」と言った。

 

 これは、決定的な情報だ。

 

 櫛田は、そっとその場を離れた。

 

 足音を立てないように、慎重に。

 

 二人に気づかれることなく、森を抜けた。

 

 

 

「やった……」

 

 

 

 櫛田は、小さくガッツポーズをした。

 

 Cクラスのリーダーは、真鍋。

 

 これで、全クラスのリーダー候補が揃った。

 

 

 

(これで、私の手柄ね)

 

 

 

 櫛田は、満足げに微笑んだ。

 

 堀北に頼まれた仕事を、完璧にこなした。

 

 いや、堀北の予想以上の成果を出した。

 

 

 

(堀北より、私の方が優秀だってこと、証明してやる)

 

 

 

 櫛田のプライドが、満たされていく。

 

 承認欲求と、プライド。

 

 その二つが、櫛田桔梗を突き動かす原動力だった。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 

 綾小路と櫛田は、ベースキャンプで合流した。

 

 洞窟の近くの木陰で、二人だけで話し合う。

 

 

 

「お疲れ様、綾小路くん」

 

「ああ。そっちはどうだった?」

 

「バッチリだよ。いい情報が取れた」

 

 

 

 櫛田が、笑顔で報告する。

 

 

 

「Bクラスは、網倉さんが怪しいと思うんだよね」

 

「やはりそうか。オレの観察とも一致する」

 

 

 

 綾小路が、頷く。

 

 

 

「オレもBクラスを観察したが、クラスメイトに囲まれながら、網倉がキーカードを操作している様子を確認した。一之瀬や神崎は囮で、実際のリーダーは網倉だろう」

 

「さすが綾小路くん。あと、Cクラスなんだけど、伊吹さんと真鍋さんの会話を盗み聞きしたよ」

 

「何を話していた?」

 

「真鍋さんが「私がリーダーなんだから」って言ってた」

 

 

 

 綾小路は、少し考え込んだ。

 

 

 

「真鍋が自分でそう言っていたのか」

 

「うん。伊吹さんとの会話で、はっきりと。「私がリーダーなんだから、ちゃんとやらないと龍園に殴られる」って」

 

「なるほど……」

 

 

 

 綾小路は、情報を整理した。

 

 Aクラス:森下藍(スポット占有の報告を目撃)

 

 Bクラス:網倉麻子(行動パターンから)

 

 Cクラス:真鍋志保(本人の発言から)

 

 

 

「三クラスとも、リーダー候補が特定できたな」

 

「綾小路くんのおかげだよ。私一人じゃ、ここまで分からなかったもん」

 

「いや、お前のおかげだ。Cクラスの情報は、かなり大きい」

 

 

 

 綾小路が、珍しく櫛田を褒める。

 

 櫛田は、嬉しそうに微笑んだ。

 

 だが、その笑顔の裏では、別のことを考えていた。

 

 

 

「じゃあ、私の手柄として、みんなに報告するね」

 

「ああ」

 

 

 

 二人は、ひとまず堀北のもとへ向かった。

 

 情報収集は、成功した。

 

 あとは、この情報をどう活かすか。

 

 明日の最終日が、勝負の時だ。

 

 

 

 

 

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