堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第23話:作戦会議

 

 

 

 

 

 六日目の夕方。

 

 夕日が無人島を赤く染め始めた頃、綾小路と櫛田が情報収集から戻ってきた。

 

 堀北は、洞窟の入り口で二人を出迎えた。

 

 

 

「二人とも、お疲れ様。どうだった?」

 

「各クラスのリーダーが特定できたよ」

 

 

 

 櫛田が、明るく報告する。

 

 その顔には、達成感が浮かんでいた。

 

 

 

「本当? 二人ともさすがね」

 

「ほとんど櫛田の手柄だけどな」

 

 

 

 綾小路が、素っ気なく言う。

 

 

 

「そんなことないよ。もう、綾小路くんってば」

 

 

 

 櫛田は謙遜しているフリをするが、綾小路は意に介していない。

 

 三人は、洞窟から少し離れた木陰に移動した。

 

 誰かに聞かれないように、小声で話し合う。

 

 

 

「まずAクラス。リーダーは森下藍だ」

 

 

 

 綾小路が、報告を始める。

 

 

 

「え? 葛城くんでも、戸塚くんでもなくて?」

 

 

 

 堀北は、かなり驚いた。

 

 葛城は、Aクラスの実質的なリーダーだ。

 

 戸塚は、葛城の側近として知られている。

 

 それを差し置いての、まさかの森下。

 

 確かに目立ちはしない生徒だが、まったくの予想外だった。

 

 

 

「葛城は目立ちすぎる。それに、あいつは堅実な男らしいからな。自分や側近がリーダーだと読まれるリスクを避けるはずだ」

 

「でも、どうして森下さんだと分かったの?」

 

「スポット占有のパターンを観察した」

 

 

 

 綾小路が、説明を続ける。

 

 

 

「Aクラスは、定期的にスポットを占有している。一日三回。その時、必ず森下が単独で森に入っていく」

 

「それだけじゃ分からないわよね」

 

「ああ。だがもう一つ、決定的な証拠がある」

 

 

 

 綾小路が、声を潜める。

 

 

 

「森下がスポットから戻ってきた時、葛城に小声で何かを報告していた。読唇術で読み取ったところ、「三番と七番、占有完了しました」と言っていた」

 

「読唇術……」

 

 

 

 堀北は、綾小路の多才さに改めて驚いた。

 

 観察力だけでなく、読唇術まで使えるとは。

 

 

 

「リーダーでなければ、スポット占有の報告はしない。森下がキーカードを持っているのは間違いない」

 

 

 

 堀北は、頷いた。

 

 スポットを占有できるのは、キーカードを持つリーダーだけ。

 

 森下が占有を行い、葛城に報告しているなら、リーダーは森下で間違いない。

 

 

 

「それと、私がAクラスの子と少し話したんだけど」

 

 

 

 櫛田が、補足する。

 

 

 

「森下さんは、葛城派でも坂柳派でもないんだって。どちらにも属さない、中立的な生徒らしいよ」

 

「なるほど……派閥争いに巻き込まれていないからこそ、リーダーとして適任だと判断されたのかしら」

 

 

 

 櫛田の補足情報も、堀北の記憶と相違ないはず。

 

 若干違和感があるが、リーダーと断定出来るほどの材料は揃っている。

 

 

 

「なかなか思い切った人選ね」

 

「ああ。恐らくオレ達じゃなければ分からなかっただろう」

 

 

 

 堀北は、二人の分析に感謝した。

 

 

 

「次にBクラス。リーダーは網倉麻子」

 

「網倉さん? スポット占有していたのは神崎くんじゃなかったかしら」

 

 

 

 堀北は、自分の観察を思い出した。

 

 二日目に偵察した時、神崎がスポットの近くを動いているのを見た。

 

 

 

「神崎は囮だ。ついでに一之瀬も囮だ。あいつらのどちらかがリーダーだと思わせて、実際は網倉がキーカードを持っている」

 

「どうやって分かったの?」

 

「これは、私と綾小路くんが、お互いの視点から特定したの」

 

 

 

 櫛田が、説明する。

 

 

 

「まず、私がBクラスに接触したんだけど、一之瀬さんと話してる時に、網倉さんが金田くんを警戒していたんだよね。それで、怪しいなって」

 

「それを受けて、オレがBクラスのスポット占有を観察した」

 

 

 

 綾小路が、続ける。

 

 

 

「一之瀬は頻繁にスポットの近くに行くが、実際に占有作業をしているのは網倉だった」

 

「占有作業……よく見破れたわね」

 

「ああ。一之瀬はスポットの前で他のクラスメイトと談笑しているだけで、実際にキーカードを使っている様子がない」

 

 

 

 綾小路が、さらに説明を加える。

 

 

 

「そんな中で、一之瀬とクラスメイトに囲まれながら、網倉はさりげなくキーカードを操作していた。あいつらは囲めばバレないと思ってたんだろうが、木に登って上から観察していれば、すべてが丸見えだった」

 

 

 

 堀北は、その光景を想像した。

 

 まず、神崎が単独でスポット占有しているフリをする。

 

 一方で、一之瀬は別のスポットをクラスメイトと囲んで、網倉を隠しながらスポットを占有する。

 

 悪くない囮作戦だ。

 

 だがその全てを、綾小路は高い位置から観察していた。

 

 

 

「網倉さんは、一之瀬さんの親友だからね。信頼関係は厚いし、リーダーを任せるなら自然な選択だよ」

 

 

 

 櫛田が、補足する。

 

 

 

「なるほど……一之瀬さんも、考えてるのね」

 

「Bクラスは結束力が高い。だからこそ、囮作戦が成立する。誰がリーダーでもおかしくない状況を利用して、クラス全員で網倉を隠している」

 

 

 

 堀北は、一之瀬の人望の高さを改めて実感した。

 

 クラス全員が協力して、リーダーを隠す。

 

 それができるのは、Bクラスだけだろう。

 

 

 

「最後にCクラスだね。これが一番の収穫だったかも」

 

 

 

 櫛田が、得意げに言う。

 

 

 

「ああ。伊吹と真鍋の会話から判明した」

 

 

 

 綾小路が頷く。

 

 

 

「Cクラスのリーダーは真鍋さんだよ」

 

 

 

 櫛田が、自信を持って答える。

 

 

 

「どうして分かったの?」

 

「私が盗み聞きしたの。伊吹さんと真鍋さんが森の中で話してて、真鍋さんが「私がリーダーなんだから、ちゃんとやらないと龍園に殴られる」って言ってた」

 

 

 

 堀北は、目を見開いた。

 

 

 

「本人がそう言っていたのね……」

 

「うん。二人とも、まさか誰かが聞いてるとは思ってなかったみたい。油断してたみたいだね」

 

 

 

 櫛田が、くすくすと笑う。

 

 

 

「それと恐らくだが、龍園はリタイアした。これも真鍋からの発言らしいが、島にいる気配が全くないところから考えても、間違いない情報だろうな」

 

 

 

 堀北は、黙って頷いた。

 

 龍園が、リタイアした。

 

 前回とは違う展開だが、堀北はもう驚かなかった。

 

 その可能性はあると踏んでいたからだ。

 

 三日目の襲撃以降、龍園の足取りをずっと探っているが、その痕跡すらも見つかっていない。

 

 堀北自身も空いた時間に探したし、この二人が見つけられなかったなら、それはもうリタイアしたと判断していいだろう。

 

 

 

「分かったわ。ありがとう」

 

 

 

 堀北は、情報を整理した。

 

 Aクラス:森下藍(スポット占有の観察と、葛城への報告から特定)

 

 Bクラス:網倉麻子(占有パターンから特定)

 

 Cクラス:真鍋志保(本人の発言を盗み聞きして特定)

 

 

 

「これで、リーダー指名の準備はできたわね」

 

「ああ。三クラス全て当てれば、+90ポイント。現在の残りポイントと合わせれば、かなりの上積みになる」

 

「でも、他クラスも私たちのリーダーを狙ってくるわ」

 

「そこは心配いらない」

 

 

 

 綾小路が、自信を持って言った。

 

 

 

「お前が選んだリーダーは、予想しづらい人物だ。それに特定できるような材料もない」

 

「そうかもしれないわね。洞窟付近のスポットしか占有していないし、私達が警戒を強めてるせいで、安易に近づくこともできないでしょうから」

 

「そうだ。それに加えて、櫛田が印象操作もしてくれた」

 

「うん。堀北さんのリーダーシップが気に入らなくて、クラスが崩壊しかけてるって言っておいたよ」

 

 

 

 櫛田が、満面の笑みで笑っている。

 

 みんなに見せる、いつもの笑顔だ。

 

 きっと心の中では、声を上げて大笑いしているに違いない。

 

 でも、こうして今は協力してくれている。

 

 それでいい。

 

 

 

「印象操作の狙いは、よく分からないクラスだという印象を相手に与える事。どうやらクラスが崩壊してるらしい、でも試験のリーダーが堀北かどうかは分からない、という余計な情報が相手を惑わす」

 

「これで、リーダー指名される確率自体も下げれるね」

 

「ああ。一クラスは必ずリーダー指名しなければいけない以上、よく分からないクラスの指名は、どこも避けるだろうからな」

 

「そうね。二人とも、本当にありがとう」

 

 

 

 堀北が、素直に感謝を述べる。

 

 

 

「いいのいいの。クラスのためだもん」

 

「明日の最終日、リーダー指名で勝負を決めるぞ」

 

「ええ。頑張りましょう」

 

 

 

 三人は、頷き合った。

 

 勝利への道筋が、見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 クラスメイトたちが眠りについた後、堀北と綾小路は二人だけで話し合っていた。

 

 洞窟の外、岩場に座り、小声で会話する。

 

 

 

「綾小路くん。Cクラスのリーダーについて、確認したいことがあるの」

 

「……何だ?」

 

「真鍋さんが「私がリーダー」と言っていたのは、本当に信用できるのかしら」

 

 

 

 堀北は、綾小路を真っ直ぐに見た。

 

 櫛田と綾小路の偵察については、なにも疑う余地はない。

 

 二人そろって嘘でもついていない限りは、偵察で得た結果が、そのまま答えになるだろう。

 

 前回の記憶が通用しない以上、森下でも、網倉でも、真鍋でも、誰がリーダーだったとしてもおかしくはないのだから。

 

 だが、Cクラスのリーダーについては、どうにも納得できない部分があった。

 

 

 

「龍園くんは、狡猾な人間よ。わざと偽情報を流している可能性はないの?」

 

 

 

 堀北は、その疑念を正直に伝えた。

 

 それを聞いた綾小路は、少し考え込んでいた。

 

 

 

「……確かに、その可能性はある」

 

「でしょう? 龍園くんは、他人を信用しない。クラスの命運を握るリーダーを、他人に任せるとは思えない」

 

「だが、龍園はリタイアした。島に残っていないなら、リーダーになれないはずだ」

 

「リーダーの変更は禁止されている。つまり、試験開始時に登録したリーダーが、そのまま判定対象になるわ」

 

 

 

 堀北は、続ける。

 

 

 

「龍園くんが試験開始時にリーダーとして登録して、その後リタイアした場合……リーダーは龍園くんのまま、ということになるわよね」

 

 

 

 綾小路の目が、僅かに見開かれた。

 

 

 

「なるほど。そういうことか」

 

「真鍋さんの発言は、罠かもしれない。わざと「私がリーダー」と言わせて、盗み聞きした人間を騙す」

 

「龍園なら、やりかねないな」

 

 

 

 綾小路が、顎に手を当てる。

 

 

 

「だが、確証はない。龍園本人がリーダーなのか、真鍋がリーダーなのか、もしくはそれ以外か、判断材料が足りない」

 

「……そうね」

 

 

 

 堀北は、考え込んだ。

 

 三つの可能性がある。

 

 一つ目は、真鍋がリーダー。龍園はリタイアして、真鍋に全てを任せた。

 

 二つ目は、龍園がリーダー。真鍋の発言は罠で、龍園本人が判定対象。

 

 三つめは、そのどちらでもない。

 

 どれが正しいのか。

 

 確証が持てないのなら、リーダー指名を見送るのも手だ。

 

 むしろ、それが最善なのだろう。

 

 恐らく龍園の狙いは、他クラスに誤ったリーダー指名をさせる事だろうから。

 

 だがこの試験で、Dクラスは龍園に振り回され続けてきた。

 

 彼の思惑通りに、試験を終わらせたくない。

 

 龍園に一泡吹かせてやりたい気持ちと、でも慎重にいかなければという気持ちが、心の中でせめぎ合っている。

 

 堀北は考え、そして決断した。

 

 

 

「みんなに決めてもらいましょうか。私の意見を櫛田さんに伝えて、みんなだけで話し合ってもらうの」

 

 

 

 綾小路は、少し黙った。

 

 月明かりの中、彼の表情は読み取りにくい。

 

 そして、頷いた。

 

 

 

「……分かった。お前の決断を信じる」

 

「ありがとう」

 

「だが、リスクはある。もしリーダー指名して間違えた場合、−20ポイントだ」

 

「分かってるわ。でも、私たちだけで勝手に決めて、判断を間違えるよりはマシよ」

 

 

 

 堀北は、この試験を思い返していた。

 

 前回の記憶に縛られすぎて、判断を鈍らせていた自分。

 

 一人で勝手に動いて、クラスメイトを蔑ろにしてしまった自分。

 

 どちらも、自分が間違っていた。

 

 同じ失敗は、もう繰り返さない。

 

 みんなで、試験を乗り越える。

 

 それが、正しい答えだと信じて。

 

 

 

「明日で、この試験も終わりね」

 

 

 

 堀北は、海を見つめた。

 

 月明かりが、波間にきらめいている。

 

 

 

「もう遅いから、私たちも寝ましょうか」

 

「ああ。そうだな」

 

 

 

 二人は、立ち上がった。

 

 そして、洞窟へと戻っていった。

 

 明日は、最終日。

 

 全てが決まる日だ。

 

 堀北は、眠りにつきながら、明日のことを考えていた。

 

 みんなは、どんな答えを選択するのだろうか。

 

 そして、その選択によって、どんな結末が待ち受けているのだろうか。

 

 答えは、明日分かる。

 

 堀北は、静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

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