堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第24話:結果発表

 

 

 

 

 

 七日目。

 

 無人島試験、最終日。

 

 朝日が、島を照らしている。

 

 堀北は、洞窟の入り口で深呼吸をした。

 

 今日で、全てが決まる。

 

 六日間の努力が報われるか、それとも水の泡になるか。

 

 全ては、リーダー指名の結果次第だ。

 

 

 

「櫛田さん、じゃあお願い」

 

「うん! 最終日だけど、みんなも気を引き締めていこうね!」

 

 

 

 櫛田は、クラスメイトに声をかけた。

 

 

 

「おう!」

 

「任せて!」

 

「絶対勝つぞ!」

 

 

 

 クラスメイトたちの表情は、六日前とは全く違っていた。

 

 疲労は見えるが、目には闘志が宿っている。

 

 一度は崩れかけたクラスが、再び一つにまとまった。

 

 それが、堀北には嬉しかった。

 

 午前中は、最後のスポット更新と点呼、それからリーダー指名の話し合いを行った。

 

 その結果、満場一致で答えは決まり、リーダー指名も既に済ませた。

 

 そして、午後。

 

 全クラスが、試験開始時の浜辺に集合した。

 

 初日に試験の説明を受けた、あの浜辺だ。

 

 Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラス。

 

 四クラス全員が、砂浜に整列している。

 

 ただし、Cクラスは人数が少ない。

 

 ほとんどの生徒がリタイアしたため、残っているのは伊吹、真鍋、金田の三人だけだった。

 

 そして、沖合には客船が停泊している。

 

 その甲板に、龍園の姿が見えた。

 

 やはり、彼はリタイアしていたらしい。

 

 龍園は、甲板の手すりに寄りかかり、浜辺を見下ろしている。

 

 その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

「これより、無人島特別試験の終了を宣言する」

 

 

 

 拡声器を持った真嶋が、浜辺の中央に立っていた。

 

 真嶋は、Aクラスの担任教師だ。

 

 この試験では、全体の進行役も務めている。

 

 

 

「同時に、リーダー指名の結果発表を行う」

 

 

 

 会場がざわめく。

 

 前回の記憶では、リーダー指名の結果発表は行われなかったはずだ。

 

 だが、今回は行われるらしい。

 

 やはり、細部が違う。

 

 

 

「まず、各クラスのリーダーを公開する」

 

 

 

 真嶋が、手元の書類を確認する。

 

 全員の視線が、真嶋に集中した。

 

 

 

「Aクラスのリーダーは……森下藍」

 

 

 

 会場がざわめいた。

 

 

 

「森下? 誰だよ、それ」

 

「葛城じゃないのか?」

 

「橋本だと思ってたんだけど……」

 

 

 

 各クラスの生徒たちが、驚いた顔をしている。

 

 葛城は、表情を変えなかった。

 

 だが、その目には、僅かな満足感が浮かんでいるように見えた。

 

 自分の人選が正しかったことを、確認したのだろう。

 

 堀北は、綾小路を見た。

 

 綾小路は、小さく頷いた。

 

 

 

「予想通りだな」

 

「ええ。森下さんは中立的な生徒。派閥争いに巻き込まれていないからこそ、リーダーとして適任だったということね」

 

 

 

 綾小路の分析は、完璧に正しかった。

 

 

 

「Bクラスのリーダーは……網倉麻子」

 

 

 

 こちらも会場がざわめいたが、森下の時とは反応が違った。

 

 

 

「一之瀬じゃなかったんだ?」

 

「まあ、分かってたけどね」

 

 

 

 予想外といった声が半分、予想通りといった声が半分くらいだろうか。

 

 Bクラスの生徒たちは、少し表情が硬い。

 

 そんな中で、一之瀬は、隣に立つ網倉の肩を叩いた。

 

 

 

「麻子ちゃん、お疲れー」

 

「帆波ちゃんこそ。色々と大変だったでしょ?」

 

「ううん、楽しかったよ」

 

 

 

 二人は、笑顔で言葉を交わしている。

 

 堀北は、その光景を見て、改めて一之瀬の人望の高さを実感した。

 

 クラス全員が協力して、リーダーを隠す。

 

 結果がどうであれ、それができるのは、Bクラスだけだろう。

 

 

 

「Cクラスのリーダーは……龍園翔」

 

 

 

 会場が、大きくどよめいた。

 

 

 

「龍園!?」

 

「でも、あいつリタイアしたんじゃ……」

 

「リーダーなのにリタイアって、ありなのか?」

 

 

 

 混乱の声が、あちこちから上がる。

 

 真嶋が、補足説明を加えた。

 

 

 

「リーダーの変更は禁止されている。試験開始時に登録されたリーダーが、そのまま判定対象となる。龍園はリーダーのままリタイアしたため、判定対象は龍園本人だ」

 

 

 

 客船の甲板では、龍園が不敵な笑みを浮かべていた。

 

 浜辺を見下ろしながら、勝ち誇った表情を見せている。

 

 

 

「やはり、龍園くん本人だったわね」

 

 

 

 堀北は、小さく呟いた。

 

 隣で綾小路が頷く。

 

 

 

「お前の読みが当たったな」

 

 

 

 伊吹と真鍋の会話は、やはり罠だった。

 

 龍園は、誰かが盗み聞きすることを想定していた。

 

 むしろ、わざと聞かせていたのだろう。

 

 隠れて会話してるように見せかけて、真鍋に「私がリーダー」と言わせることで、他クラスを騙そうとした。

 

 

 

「Dクラスのリーダーは……松下千秋」

 

 

 

 Dクラスのクラスメイトたちが、驚いた顔をしている。

 

 

 

「え、松下?」

 

「マジかよ、知らなかった」

 

 

 

 松下が、少し照れた顔で立ち上がる。

 

 

 

「えへへ……私がリーダーでした」

 

「松下さん、お疲れ様」

 

 

 

 堀北は、松下に声をかけた。

 

 

 

「ううん、私は何もしてないよ。みんなのおかげだよ」

 

 

 

 松下が、照れくさそうに笑う。

 

 堀北は、小さく頷いた。

 

 松下をリーダーに選んだのは、正解だった。

 

 彼女は目立たず、かといって影が薄すぎない。

 

 絶妙なバランスの人選だった。

 

 他クラスは誰も、松下がリーダーだと予想できなかっただろう。

 

 

 

「次に、各クラスのリーダー指名の結果を発表する」

 

 

 

 真嶋が、書類をめくる。

 

 

 

「Aクラスの指名……Bクラス・網倉麻子。正解。+30ポイント」

 

 

 

 Aクラスも、Bクラスの戦略を見抜いていたらしい。

 

 

 

「Aクラスの指名……Cクラス・真鍋志保。不正解。−20ポイント」

 

 

 

 葛城の顔が、苦々しくなる。

 

 真鍋は囮だった。龍園の罠に、まんまと引っかかったのだ。

 

 

 

「Bクラスの指名……Cクラス・真鍋志保。不正解。−20ポイント」

 

 

 

 Bクラスも、龍園に騙されていた。

 

 一之瀬が、残念そうな顔をしている。

 

 

 

「うーん、龍園くんにしてやられちゃったね……」

 

「仕方ない、一之瀬。あの情報じゃ、真鍋だと思うのが普通だ」

 

 

 

 神崎が、一之瀬を慰めている。

 

 AクラスとBクラスは、リスクを冒してまで、積極的なリーダー指名を行わなかった。

 

 堅実な彼ららしいやり方だが、情報戦を制することは出来なかった。

 

 確証の持てるリーダーのみを指名したはずが、龍園にまんまと嵌められた形だ。

 

 そして、綾小路の予想通り、Dクラスは指名すらされなかった。

 

 

 

「Cクラスの指名……Bクラス・網倉麻子。正解。+30ポイント」

 

 

 

 客船の甲板で、龍園が得意げな笑みを浮かべる。

 

 

 

「クク……まあ、当然だな」

 

 

 

 Cクラスは、Bクラスのリーダーを正確に把握していた。

 

 金田が、Bクラスに潜り込んで情報を集めていたのだろう。

 

 

 

「Cクラスの指名……Dクラス・堀北鈴音。不正解。−20ポイント」

 

 

 

 Cクラスは、堀北がリーダーだと踏んでいたらしい。

 

 だが、外れた。

 

 

 

「チッ、外したか……」

 

 

 

 答えを外したCクラスだが、龍園はそんなに悔しそうにしていない。

 

 余裕の笑みを浮かべたままだ。

 

 恐らく、Dクラスのリーダー当てなど、ただの遊びでしかないのだろう。

 

 リタイア作戦を決行したからには、それなりの成果をすでに得ているだろうから。

 

 そして、Dクラスの番。

 

 会場の空気が、張り詰める。

 

 

 

「Dクラスの指名……Aクラス・森下藍。正解。+30ポイント」

 

 

 

 会場がどよめいた。

 

 

 

「えっ、当たった!?」

 

「Dクラスが、Aクラスのリーダーを当てたのか!」

 

「すげぇ……」

 

 

 

「Dクラスの指名……Bクラス・網倉麻子。正解。+30ポイント」

 

 

 

 さらにどよめきが大きくなる。

 

 

 

「二つ目も正解!?」

 

「マジかよ……」

 

「Dクラス、どうやって特定したんだ……」

 

 

 

「Dクラスの指名……Cクラス・龍園翔。正解。+30ポイント」

 

 

 

 会場が、静まり返った。

 

 一瞬の、完全な静寂。

 

 そして――

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 客船の甲板から、龍園の声がかすかに聞こえた。

 

 驚愕と困惑が入り混じった、信じられないという声。

 

 龍園の顔から、余裕の笑みが消えていた。

 

 代わりに浮かんでいるのは、純粋な驚き。

 

 

 

「俺の罠を……見破っただと……?」

 

 

 

 龍園が、堀北を凝視する。

 

 その目には、信じられないという感情が浮かんでいた。

 

 Aクラスも、Bクラスも、龍園の罠に引っかかった。

 

 真鍋がリーダーだと思い込み、龍園本人を指名する者はいなかった。

 

 だが、Dクラスだけが違った。

 

 Dクラスだけが、龍園の裏をかいた。

 

 三クラス全て、的中。

 

 +90ポイント。

 

 一瞬の静寂の後、Dクラスから歓声が爆発した。

 

 

 

「全部当たったぁぁぁ!!」

 

「うおおおおお! 最高だ!」

 

「おっしゃー! 龍園ざまぁみろ!」

 

 

 

 須藤が、拳を突き上げる。

 

 池と山内が、抱き合って喜んでいる。

 

 女子グループも、歓声を上げている。

 

 

 

「龍園くんの罠、見破ったね!」

 

「私たち、やったんだ!」

 

 

 

 クラスメイトたちの喜びが、浜辺に響き渡る。

 

 その歓声の中心にいたのは、櫛田だった。

 

 

 

「やったね、櫛田さん!」

 

「Cクラスも指名して正解だったな!」

 

「櫛田ちゃん、最高すぎるぜ!」

 

 

 

 クラスメイトたちが、櫛田を称賛している。

 

 櫛田は、照れくさそうに笑っていた。

 

 

 

「えへへ……私だけじゃないよ。みんなで話し合った結果でしょ?」

 

「まあ、そうだけどさ。メインは櫛田ちゃんだろ? さすがだぜ」

 

 

 

 クラスメイトたちの賞賛は、ほとんどが櫛田に向けられていた。

 

 綾小路は、いつも通り目立たない位置にいる。

 

 そして、堀北の名前は、ほとんど出てこなかった。

 

 それでいい。

 

 堀北は、そう思った。

 

 櫛田に手柄を譲る。それが、綾小路と決めた作戦だ。

 

 表向きは櫛田の功績。だが、龍園の罠を見破ったのは、堀北自身の判断だ。

 

 それを知っているのは、綾小路だけでいい。と、勝手に思っていた。

 

 もちろん、そんな事になるわけもなく、客船の甲板で、龍園は堀北を睨んでいた。

 

 その目には、再び獰猛な笑み、そして――明らかな興味が浮かんでいる。

 

 

 

「クク……」

 

 

 

 龍園が、低く笑い始めた。

 

 最初は小さな笑い声だったが、次第に大きくなっていく。

 

 

 

「クククク……クハハハハハ!」

 

 

 

 龍園の笑い声が、浜辺に響く。

 

 周囲の生徒たちが、困惑した顔をしている。

 

 

 

「やるじゃねぇか、堀北鈴音」

 

 

 

 龍園が、堀北を見下ろしながら言った。

 

 その声には、悔しさよりも、むしろ喜びが混じっているようだった。

 

 

 

「俺の罠を見破ったのは、お前だけだ。Aクラスも、Bクラスも、まんまと引っかかりやがった。だが、お前だけは違った」

 

 

 

 龍園が、口の端を吊り上げる。

 

 

 

「面白ぇ。最高に面白ぇぜ」

 

 

 

 堀北は、龍園の視線を真っ直ぐに受け止めた。

 

 逃げない。怯えない。

 

 この男と、対等に渡り合う。

 

 

 

「今回は、お前の勝ちだ。認めてやる」

 

 

 

 龍園が、堀北に向かって言った。

 

 

 

「だが、次は俺が勝つ。楽しみにしてろよ、鈴音」

 

 

 

 その言葉を最後に、龍園は甲板から姿を消した。

 

 周囲の生徒たちは、状況を理解しておらず、全体的にざわついている。

 

 堀北は、龍園が去った方向を見つめていた。

 

 龍園翔。

 

 前回も、今回も、手強い敵だ。

 

 だが、もう怖くない。

 

 彼の罠を見破り、完全勝利を収めた。

 

 仲間と協力すれば、どんな相手にも対抗できる。

 

 それを、今回の試験で証明できた。

 

 

 

「静かにしろ。結果発表はまだ終わっていない」

 

 

 

 真嶋が、龍園によって乱された場を収める。

 

 

 

「これより、無人島特別試験の最終結果を発表する」

 

 

 

 そして、全員の注目を集める。

 

 

 

「第一位……Dクラス」

 

 

 

 Dクラスから、再び歓声が上がった。

 

 

 

「よっしゃあ!」

 

「一位だ! 一位!」

 

「Dクラス最高!」

 

 

 

 須藤が、堀北の方を見て親指を立てる。

 

 池と山内も、笑顔で手を振っている。

 

 軽井沢や他の女子生徒たちも、大はしゃぎしている。

 

 

 

「第二位……Aクラス」

 

 

 

 葛城が、難しい顔をしている。

 

 その顔からは、僅かな焦り。それから、納得のいっていない様子が伺えた。

 

 

 

「第三位……Bクラス」

 

 

 

 一之瀬が、苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「うーん、負けちゃったね。でも、Dクラス、すごかったなー」

 

「ああ。だが、次は負けない。そうだろ、一之瀬」

 

 

 

 神崎が、隣で言う。

 

 

 

「うん、次こそは!」

 

 

 

 一之瀬が、笑顔で答える。

 

 

 

「第四位……Cクラス」

 

 

 

 Cクラスの三人――伊吹、真鍋、金田――は、無表情だった。

 

 もともとポイントを使い切っていたのだから、最下位は想定内だったのだろう。

 

 

 

「以上をもって、無人島特別試験を終了する」

 

 

 

 真嶋が、拡声器を下ろした。

 

 

 

「客船に乗船してください。回収していた貴重品を、順次渡していきます」

 

 

 

 生徒たちが、浜辺から動き始める。

 

 客船へ向かう列が、ゆっくりと形成されていく。

 

 

 

「やったな、堀北」

 

 

 

 綾小路が、声をかけてきた。

 

 

 

「ええ。でも、あなたと櫛田さんのおかげよ」

 

「いや、Cクラスの判断はお前の読みだ。オレは真鍋がリーダーだと思っていた」

 

 

 

 綾小路が、珍しく素直に認める。

 

 

 

「龍園の性格を読み切ったのは、お前だけだ。やはり、お前がやってきたことは無駄じゃなかったな」

 

「……ありがとう」

 

 

 

 堀北は、微笑んだ。

 

 前回の知識は、ほとんど通用しなかった。

 

 ルールが変わり、龍園の行動が変わり、全てが想定外だった。

 

 だが、それでも勝てた。

 

 新しい仲間の力と、自分自身の判断で、乗り越えることができた。

 

 それは、前回とは違う、新しい勝利だった。

 

 

 

「帰りましょう。帰って、みんなでお祝いしましょう」

 

「ああ」

 

 

 

 堀北と綾小路は、並んで客船へ向かった。

 

 二人を笑顔で眺めている、クラスメイトに囲まれながら。 

 

 

 

 

 

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