堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない 作:ほりきたすずね
無人島試験で獲得したポイントの詳細を載せておくので、興味のある方はご覧ください。
【1位】Dクラス:290
初期ポイント残り:80
スポット占有ポイント:120
リーダー指名成功:90
リーダー指名失敗:0
他クラスからの指名:0
【2位】Aクラス:230
初期ポイント残り:250
スポット占有ポイント:160(無効)
リーダー指名成功:30
リーダー指名失敗:-20
他クラスからの指名:-30
【3位】Bクラス:40
初期ポイント残り:150
スポット占有ポイント:90(無効)
リーダー指名成功:0
リーダー指名失敗:-20
他クラスからの指名:-90
【4位】Cクラス:0
初期ポイント残り:0
スポット占有ポイント:0(無効)
リーダー指名成功:30
リーダー指名失敗:-20
他クラスからの指名:-30
無人島試験の結果を受けて、クラスポイントはこのようになりました。
Aクラス:1270
Bクラス:790
Cクラス:590(Aクラスとの契約により、毎月一人2万PP)
Dクラス:490
いや~、Dクラスがいい感じに迫って来ましたねぇ。
この勢いに乗って、船上試験でも大暴れしてやるぜ!
試験が、終了した日の夕方。
堀北は、デッキで一人、海を眺めていた。
夕日が、水平線を赤く染めている。
潮風が、髪を優しく揺らす。
船は学校へと向かわず、その場に停泊したままだ。
生徒たちは、試験から解放されて、自由気ままにはしゃいでいる。
その様子を眺めていると、無人島での七日間が、まるで夢のように感じられた。
龍園の妨害、クラスの分裂、そして――仲間との和解。
様々なことがあった。
だが、全てを乗り越え、Dクラスは見事一位を獲得した。
結果は前回と同じだが、内容はクラスにとって、より意義のあるものとなった。
堀北は、静かに海を見つめながら、次の試験のことを考えていた。
前回の記憶では、無人島試験の後に、船内でも特別試験があったはずだ。
「優待者」を探る人狼ゲーム。
無人島試験とは一味違った、難しい試験。
生徒同士が疑心暗鬼になり、人間関係に亀裂が入る。
ただし、ポイントが大量にもらえる試験でもあった。
優待者の法則さえ分かってしまえば、試験を優位に進めることも出来る。
試験のからくりを理解している堀北にとって、こんなに美味しい試験もない。
「よお」
声がして、振り返る。
龍園が、立っていた。
夕日を背に、不敵な笑みを浮かべている。
「龍園くん」
「随分とやってくれたな、鈴音」
「気安く名前で呼ばないで」
ほとんど初対面だというのに、相変わらず馴れ馴れしい。
堀北は嫌そうな顔をするが、龍園は気にした様子もない。
むしろ、その反応を楽しんでいるようだった。
「まさか俺の罠を見破るとはな。大したもんだぜ」
龍園が、堀北の隣に立つ。
船の手すりに寄りかかり、海を見つめる。
「……あなたの性格を考えれば、当然の結論よ」
「そうかよ。他の連中は全員騙されたってのにな。Aクラスも、Bクラスも、まんまと引っかかった。だが、お前だけが俺を読み切った」
龍園が、自嘲するように笑う。
「伊吹と真鍋には、わざと「聞かせる」ように会話させた。誰かが盗み聞きしやすいような場所で、わざとな」
「知ってるわ。だから、あなた自身がリーダーだと判断した」
「クク……俺は、誰も信用しねぇ。クラスの命運を握るリーダーなんて、他人に任せるはずがねぇ。お前は、そこまで読んだってわけか」
「ええ。あなたほど疑り深い人間なら、当然そうするでしょう」
龍園は、しばらく堀北を見つめていた。
その目には、値踏みするような光がある。
獲物を見定める、獣のような目だ。
そして――笑みを深めた。
「お前は面白い女だ、鈴音。俺の獲物として、最高だぜ」
「私は、あなたの獲物じゃないわ」
堀北は、真っ直ぐに龍園を見返した。
もう、怯えない。
この男の罠を見破り、完全勝利を収めた。
仲間と協力すれば、どんな相手にも対抗できる。
それを、無人島試験で証明した。
「ハッ、言うじゃねぇか」
龍園が、一歩近づく。
その威圧感は、相変わらず凄まじい。
だが、堀北は一歩も退かなかった。
「だが、勘違いするなよ。今回は、お前の勝ちだが、次は俺が勝つ」
「楽しみにしてるわ」
堀北は、真っ直ぐに龍園を見据えた。
龍園は、その視線を受け止めて、さらに笑みを深めた。
「いい目だ。ますます気に入ったぜ」
龍園は、それだけ言って踵を返した。
だが――
「最後に、一つだけ聞かせてちょうだい」
堀北は、龍園を呼び止めた。
「Dクラスのキャンプを荒らしたのは、あなたなのよね?」
龍園が、足を止める。
振り返らない。
しばらくの沈黙。
潮風だけが、二人の間を吹き抜ける。
「……さあな」
龍園は、とぼけるように曖昧に答えた。
そして、振り返ることなく去っていった。
その背中が、夕日の中に消えていく。
堀北は、その背中を見送った。
彼が犯人だという証拠はない。
だが、恐らく間違いないだろう。
龍園翔。
この男との戦いは、まだ始まったばかりだ。
「大丈夫か」
声がして、振り返る。
綾小路が、立っていた。
いつからそこにいたのか。
相変わらず、気配を消すのが上手い。
「ええ。大丈夫よ」
「龍園と何を話していたんだ?」
「試験の話よ。少しだけだけど」
「そうか」
綾小路が、堀北の隣に立つ。
二人で、夕日に染まる海を眺める。
「龍園は、お前を狙ってくるだろうな。これからも」
「分かってる。でも、怖くないわ」
堀北は、綾小路を見た。
「あなたがいるから」
綾小路は、少し驚いた顔をした。
その表情は、いつもの無表情とは違う。
僅かに、困惑しているようにも見えた。
そして、小さく笑った。
「……そうか」
二人は、並んで夕日を眺めた。
潮風が、心地よく頬を撫でる。
波の音が、静かに響いている。
「次は、船上試験ね」
堀北が、呟いた。
「船上試験? 前回はあったのか?」
「ええ。無人島試験の後に、船内で特別試験があったの。人狼ゲームのような試験がね」
「……二つ目の特別試験、それも人狼ゲームか」
綾小路は、少し考え込んだ。
「今度は、ルールが変わってないといいな」
「そうね。でも、あまり期待はしていないわ」
堀北は、海を見つめた。
夕日が、水平線に沈もうとしている。
空が、茜色から紫色へと変わっていく。
「これからは、何が起こってもおかしくない。前回の記憶に頼ることは、もうできない」
「……不安か?」
「少しね。でも、それ以上に――」
堀北は、微笑んだ。
それは、いつも以上に、晴れやかな微笑みだった。
「解放感があるの」
「解放感?」
「ええ。もう、「前回はこうだった」と縛られなくていい。自分で考えて、自分で決めて、自分で戦える」
堀北は、深呼吸をした。
潮風を、胸いっぱいに吸い込む。
「前回の私は、ずっと一人で戦っていた。兄を追いかけることしか考えていなくて、クラスメイトのことなんて、ほとんど見ていなかった」
「……」
「でも、今回は違う。私には、仲間がいる。一緒に戦ってくれる人たちがいる」
堀北は、綾小路を見た。
「あなたも、その一人よ」
綾小路は、少し黙った。
そして、頷いた。
「……そうか」
「もう、前回の知識に頼らない。これからは、今の私として、今の仲間と一緒に戦っていく」
堀北は、決意を新たにした。
「だから、怖くないわ。未来が変わっても、私たちは前に進める」
「……それなら、いいんじゃないか」
綾小路が、小さく笑った。
「お前は、どんどん変わっていくな」
「そうかしら?」
「ああ。入学した頃のお前とは、また別人のようだ」
「……そうね。私も、そう思うわ」
堀北は、微笑んだ。
前回の堀北鈴音は、孤高の存在だった。
でも、今回は違う。
綾小路がいる。
須藤がいる。
軽井沢がいる。
平田がいる。
無人島試験を乗り越えた、クラスメイトがいる。
みんな、一緒に戦ってくれる仲間だ。
「これからも、色々あるだろうな」
「そうね。でも、乗り越えられるわ」
堀北は、夕日を見つめた。
「今度こそ、Aクラスに昇り詰める。そして、兄さんに認めてもらう」
「お前なら、できるだろう」
「一人では無理よ。でも、みんなと一緒なら」
堀北は、綾小路を見た。
「ねえ、綾小路くん」
「何だ?」
「これからも、一緒に戦ってくれる?」
綾小路は、少し戸惑っていた。
だがすぐに、小さく笑った。
「……ああ。約束する」
「ありがとう」
夕日が、水平線に沈んでいく。
空が、紫色から藍色へと変わっていく。
星が、一つ、二つと輝き始める。
特別試験を一つ、乗り越えた。
だが、高校生活はまだ続く。
乗り越えるべきことは、山ほどある。
前回の知識は、もはや完全に通用しない。
でも、一人じゃない。
仲間がいる。
信じられる人がいる。
堀北は、そう思いながら、星空を見上げた。
新しい未来が、始まろうとしていた。
一週間後。
船は、学校に到着しようとしていた。
堀北は、再びデッキに立っていた。
遠くに、学校の建物が見える。
「……何もなかったわね」
堀北は、呟いた。
この一週間、船内では何も起きなかった。
生徒たちは、豪華客船を満喫するだけの日々を過ごした。
プールで泳ぎ、レストランで食事を楽しみ、娯楽施設で遊びつくした。
まるで、本当のバカンスのように。
そして――船上試験は、行われなかった。