堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第26話:再会

 

 

 

 

 

 九月一日。

 

 夏休みが明け、二学期が始まった。

 

 堀北は、教室へ向かう廊下を歩きながら、一学期の終わりを思い返していた。

 

 無人島試験の勝利。

 

 龍園との対峙。

 

 そして――船上試験の消失。

 

 豪華客船での帰りの一週間、堀北はずっと待ち続けていた。

 

 次の特別試験が始まるのを。

 

 ルールが変更された場合に備えて、綾小路と綿密に作戦も練っていた。

 

 だが、試験は始まらなかった。

 

 一週間が過ぎ、船は何事もなく港に着いた。

 

 ――私の記憶が間違っていたの?

 

 そう疑いたくなるほど、堀北は困惑していた。

 

 恐らく、これもバタフライ効果の影響なのだろうけど、正直答えは分からない。

 

 だが、一つだけ確かなことがある。

 

 これからは、本当の意味で「今」を生きなければならない。

 

 未来は、全くの未知数なのだから。

 

 堀北は、深呼吸をした。

 

 そして、教室の扉を開けた。

 

 

 

「おはよう、堀北さん」

 

 

 

 平田が、笑顔で挨拶してくる。

 

 

 

「おはよう、平田くん」

 

 

 

 堀北も、笑顔で挨拶を返した。

 

 教室の中は、既に賑やかだった。

 

 夏休み明け特有の、浮かれた雰囲気がある。

 

 だが、それ以上に――無人島試験の勝利を経て、クラス全体が以前より明るくなっていた。

 

 

 

「おー、堀北じゃん。おはよう」

 

 

 

 須藤が、手を挙げて挨拶してきた。

 

 以前なら考えられない光景だ。

 

 無人島試験の前までは、気軽に声をかけてくることはなかった。

 

 そこまでの関係性が、築けていたわけではなかった。

 

 だが、今は違う。

 

 あの試験を通じて、信頼関係が生まれていた。

 

 

 

「おはよう、須藤くん」

 

「夏休み、何してたんだ?」

 

「特に何も。勉強していたわ」

 

「マジかよ。夏休みまで勉強とか、お前らしいな」

 

 

 

 須藤が、呆れたように笑う。

 

 だが、その笑顔には敵意がない。

 

 

 

「須藤くんは?」

 

「俺はほとんど部活だな。あと、ちょっとだけ勉強もした」

 

「勉強? 須藤くんが?」

 

「悪いかよ。赤点取りたくねーし」

 

 

 

 須藤が、照れくさそうに頭を掻く。

 

 堀北は、小さく微笑んだ。

 

 須藤も、成長している。

 

 

 

「堀北ちゃん、おはよー」

 

 

 

 池と山内も、近づいてきた。

 

 

 

「おはよう」

 

「夏休み、どっか行った?」

 

「いいえ。ずっと寮にいたわ」

 

「えー、もったいねー。せっかくの夏休みなのに」

 

「私は、そういうのに興味がないの」

 

「相変わらずだな、堀北ちゃんは」

 

 

 

 池が、肩をすくめる。

 

 だが、その態度にも敵意はない。

 

 無人島試験では、池も山内も、堀北に対して批判的だった。

 

 だが、今は普通に話しかけてくる。

 

 完全に信頼を回復したとは思っていない。

 

 だが、少なくとも敵意はなくなった。

 

 それだけでも、大きな進歩だ。

 

 

 

「堀北さん、おはよ」

 

 

 

 軽井沢が、声をかけてきた。

 

 

 

「おはよう、軽井沢さん」

 

「夏休み、ゆっくりできた?」

 

「ええ、まあ」

 

「そっか。私はみんなと遊びまくってたよ。でも、もうちょっと休みたかったなー」

 

 

 

 軽井沢が、あくびをしながら言う。

 

 彼女も、堀北と軽く会話を交わすようになっていた。

 

 無人島試験で、軽井沢は最初に堀北に歩み寄ってくれた。

 

 その縁もあって、二人の関係は以前より良好になっている。

 

 

 

「堀北さん、おはよう!」

 

 

 

 櫛田が、明るい笑顔で挨拶してきた。

 

 

 

「おはよう、櫛田さん」

 

 

 

 堀北は、表面上は普通に返す。

 

 だが、内心では警戒を緩めていない。

 

 櫛田の本音は、未だに分からない。

 

 無人島試験では協力してくれた。

 

 だが、それが本心からなのか、打算からなのか。

 

 恐らく、後者だろう。

 

 櫛田は、堀北を良く思っていない。

 

 それは、間違いない。

 

 だが、今は敵対してるわけでもない。

 

 表面上の協力関係を維持している。

 

 それでいい。

 

 今は、それ以上を求めない。

 

 堀北は、自分の席に着いた。

 

 窓際の席。

 

 外を見ると、青い空が広がっている。

 

 夏の終わり、秋の始まり。

 

 二学期が、始まった。

 

 

 

「よお」

 

 

 

 後ろから、声がした。

 

 振り向くと、綾小路が立っていた。

 

 いつも通りの、無表情な顔。

 

 だが、堀北にはその奥にある僅かな感情が読み取れる。

 

 

 

「おはよう、綾小路くん」

 

「ああ。おはよう」

 

 

 

 綾小路が、隣の席に座る。

 

 二人は、しばらく無言で窓の外を見ていた。

 

 そして、綾小路が小声で言った。

 

 

 

「放課後、オレの部屋に来れるか?」

 

「……ええ。分かったわ」

 

 

 

 堀北は、頷いた。

 

 無人島試験で、二人の関係は変わった。

 

 堀北は、綾小路に「前回の記憶」のことを打ち明けた。

 

 綾小路は、それを信じてくれた。

 

 そして、二人で協力することを約束した。

 

 今日から、その約束を実行に移す。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 堀北は、綾小路の部屋の前に立っていた。

 

 ノックをした後、扉を開けて、中に入る。

 

 綾小路は、窓際に座り、夕日を眺めていた。

 

 

 

「待たせたかしら」

 

「いや。ちょうどいいタイミングだった」

 

 

 

 綾小路が、振り返る。

 

 堀北は、椅子に座った。

 

 しばらく、沈黙が流れる。

 

 夕日が、部屋をオレンジ色に染めていた。

 

 

 

「……結局、二つ目の特別試験はなかったな」

 

 

 

 綾小路が、口を開いた。

 

 

 

「ええ。残りの夏休みで何かあるのかとも思ったけど、そんなこともなかった」

 

 

 

 堀北は、静かに答えた。

 

 

 

「前回は、確かにあったはずなの。「優待者」を当てる特別試験が……」

 

「だが、今回はなかった」

 

「ええ。試験が丸ごと消えてしまった」

 

 

 

 堀北は、窓の外を見つめた。

 

 

 

「正直、まだ動揺してるわ。ルールが変わるならまだしも、試験自体がなくなるなんて、想定していなかった」

 

「お前の記憶自体が、どこまで信用できるか分からなくなった、ということか」

 

「……そうね。これから先、何が起きるかまったく分からない。面倒なことになったわ」

 

 

 

 堀北は、小さくため息をついた。

 

 

 

「でも、だからこそ――」

 

 

 

 堀北は、綾小路を見た。

 

 

 

「あなたには、全てを話すべきだと思った」

 

「全て?」

 

「前回の記憶で知っていること。今後起きるかもしれない試験。各クラスのキーパーソン。あなたの未来。全てよ」

 

 

 

 堀北は、綾小路を真っ直ぐに見た。

 

 

 

「一人で抱え込むのは、もうやめる。あなたと、情報を共有したい」

 

 

 

 綾小路は、少し黙った。

 

 その目には、僅かな驚きが浮かんでいた。

 

 

 

「……お前の記憶が通用しなくなっても、共有する意味があるのか?」

 

「あるわ。私の記憶が完全に正しいとは限らない。でも、参考にはなる。そして、何より――」

 

 

 

 堀北は、にこやかに笑った。

 

 

 

「一人で抱え込むより、二人で考えた方がいいでしょう? あなたなら、私が見落としていることにも気づけるかもしれない」

 

 

 

 綾小路は、しばらく堀北を見つめていた。

 

 そして、小さく笑った。

 

 

 

「……分かった。オレも、その方がいいと思う」

 

「定期的に、情報交換をしましょう。二人で、今後の戦略を練っていく」

 

「ああ。異論はない」

 

 

 

 二人は、握手を交わした。

 

 その手は、温かかった。

 

 船上試験の消失は、堀北に大きな衝撃を与えた。

 

 前回の知識が、完全に通用しないことを思い知らされた。

 

 だが、同時に気づいたこともある。

 

 一人で抱え込む必要はない。

 

 信じられる人がいる。

 

 一緒に考えてくれる人がいる。

 

 彼の手のぬくもりは、本物だ。

 

 それが感じられるだけで、今の堀北には十分だった。

 

 

 

 

 

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