堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

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第27話:未来の共有

 

 

 

 

 

 九月初旬。

 

 放課後。

 

 綾小路は、女子寮の廊下を歩いていた。

 

 堀北の部屋に向かっている。

 

 女子の部屋に入るのは、初めてのことだ。

 

 だからだろうか。

 

 綾小路は、少し緊張していた。

 

 普段は何も感じない心臓が、僅かに速く脈打っている。

 

 自分でも、不思議な感覚だった。

 

 ホワイトルームで育った綾小路にとって、緊張という感情は馴染みがない。

 

 どんな状況でも、冷静に対処できるよう訓練されてきた。

 

 だが、今は違う。

 

 堀北の部屋に入る。

 

 それだけのことに、緊張している自分がいる。

 

 

 

(……変わったな、オレも)

 

 

 

 綾小路は、心の中で呟いた。

 

 堀北と出会ってから、自分の中で何かが変わり始めていた。

 

 感情という不必要なものが、少しずつ芽生えている。

 

 それが良いことなのか、悪いことなのか。

 

 まだ分からない。

 

 だが、悪い気はしなかった。

 

 堀北の部屋の前に着いた。

 

 扉をノックする手が、少しだけぎこちない。

 

 コンコン。

 

 

 

「入って」

 

 

 

 堀北の声が聞こえた。

 

 綾小路は、ぎこちない動きのまま扉を開けた。

 

 部屋の中は、質素だった。

 

 必要最低限の家具と、少しの本。

 

 綾小路の部屋と、あまり変わらない景色だ。

 

 初めて入る女子の部屋に緊張していたが、見慣れた景色に拍子抜けしてしまう。

 

 

 

「お前の部屋も、殺風景だな」

 

「必要なものしか置いてないだけよ」

 

 

 

 そう答える堀北も、いつも通りの堀北だった。

 

 それも良いことなのかどうか分からないが、緊張は一瞬でほぐれてしまった。

 

 彼女が、椅子を勧めてくる。

 

 恐らく、ベッドには座って欲しくないのだろう。

 

 綾小路は、勧められた通り窓際の椅子に座った。

 

 堀北は、ベッドの端に腰を下ろす。

 

 

 

(……なるほど。これが、普通の距離感か)

 

 

 

 綾小路は、心の中で納得した。

 

 ホワイトルームでは、男女の距離感など教わらなかった。

 

 だが、堀北の態度から、自然と学んでいる気がする。

 

 

 

「それで、今日は何を話すんだ?」

 

「各クラスのキーパーソンについて。前回の記憶で知っていることを、全て伝えるわ」

 

 

 

 堀北が、深呼吸をした。

 

 その姿を見て、綾小路は思った。

 

 彼女は、自分に全てを話そうとしている。

 

 前回の記憶という、誰にも信じてもらえないかもしれない秘密を。

 

 それを、自分に打ち明けようとしている。

 

 

 

(……信頼、か)

 

 

 

 信頼というものも、綾小路には馴染みがなかった。

 

 ホワイトルームでは、感情と同じく不必要なものだった。

 

 他人は、利用するか、排除するか、どちらかだと。

 

 だが、堀北は違う。

 

 彼女は、綾小路を信頼している。

 

 そして、綾小路もまた――彼女を信頼し始めていた。

 

 

 

「まず、Aクラス」

 

 

 

 堀北が、語り始めた。

 

 

 

「坂柳有栖さん。彼女は、策略家よ。頭脳戦を得意として、常に複数の罠を張り巡らせている」

 

「杖をついてる生徒か」

 

「ええ。身体的なハンデはあるけど、その知性は脅威。前回の記憶でも、彼女には何度も苦しめられたわ」

 

 

 

 堀北は、坂柳のことを思い出しているようだった。

 

 その表情には、僅かな苦い記憶が浮かんでいる。

 

 

 

「それと彼女は、あなたに執着しているかもしれない」

 

「オレに?」

 

「ええ。前回の記憶では、坂柳さんはあなたと何らかの因縁があったようなの。詳しいことは分からないけど、彼女はあなたを特別視していたわ」

 

 

 

 綾小路は、少し考え込んだ。

 

 坂柳有栖。

 

 聞いたことのない名前だが、オレに因縁がある。

 

 もしかしたらホワイトルームと、何か関係があるのかもしれない。

 

 だが、今は分からない。

 

 

 

「……なるほど」

 

「心当たりがあるの?」

 

「いや。ただ、注意しておく」

 

 

 

 綾小路は、それ以上は語らなかった。

 

 堀北には、まだホワイトルームのことを話していない。

 

 いずれ話すことになるだろう。

 

 だが、今はまだその時ではない。

 

 

 

「葛城康平くん。彼は、無人島で見た通りの堅実なリーダーよ。派手さはないけど、着実に結果を出す」

 

「あの試験でも、Aクラスは安定していたな」

 

「ええ。でも、坂柳さんとの派閥争いでクラスが分裂している。それが、Aクラスの弱点ね」

 

「派閥争いか」

 

「坂柳派と葛城派。どちらが主導権を握るかで、常に争っているの。無人島試験では坂柳さんが不参加だったから、葛城くんが指揮を執っていたけど」

 

 

 

 綾小路は、頷いた。

 

 堀北の記憶は、自分の分析とも一致している。

 

 

 

「そして、橋本正義くん。彼は要注意よ」

 

「あの、葛城の側近みたいな奴か」

 

「表向きはね。でも、彼は二重スパイ的な動きをしているわ。葛城派に属しながら、坂柳さんに情報を流しているはず」

 

「信用できない、ということか」

 

「ええ。彼の言葉は、鵜呑みにしないほうがいいと思うわ」

 

 

 

 堀北は、Aクラスの説明を終えた。

 

 綾小路は、堀北の話を聞きながら、不思議な感覚を覚えていた。

 

 こうして、誰かと情報を共有する。

 

 誰かと、一緒に考える。

 

 ホワイトルームでは、ありえなかったことだ。

 

 あそこでは、全てが競争だった。

 

 他者は、蹴落とすべき敵でしかなかった。

 

 だが、堀北は違う。

 

 彼女は、綾小路の味方だ。

 

 一緒に戦ってくれる、仲間だ。

 

 

 

(……仲間、か)

 

 

 

 その言葉を、心の中で繰り返した。

 

 悪くない響きだった。

 

 

 

「次に、Bクラス」

 

「一之瀬のクラスだな」

 

「ええ。一之瀬さんは、カリスマ的リーダーよ。誰にでも優しく、誰からも慕われている。Bクラスの結束力は、全クラスの中で一番だわ」

 

「無人島試験でも、そう感じた。クラス全員が、一之瀬を中心にまとまっていたな」

 

「そうね。そんな彼女を補佐する神崎隆二くんは、冷静で分析力が高い」

 

「一之瀬と神崎。この二人を抑えれば、Bクラスを抑えられるということか」

 

「簡単ではないかもしれないけど、その認識で間違いないわ」

 

 

 

 堀北が、少し言い淀んだ。

 

 

 

「それと……一之瀬さんには、「過去の秘密」があるの」

 

「秘密?」

 

「ええ。詳しいことは、まだ言えない。でも、その秘密が明るみに出れば、一之瀬さんは大きなダメージを受けるわ」

 

 

 

 綾小路は、堀北を見た。

 

 

 

「言えない、というのは?」

 

「……その秘密を、利用したくないの。少なくとも、私は」

 

 

 

 堀北が、目を伏せた。

 

 その横顔を、綾小路は見つめた。

 

 一之瀬の秘密を、武器にしない。

 

 それが、堀北の選択だった。

 

 勝つためなら、手段を選ばない。

 

 それが、ホワイトルームの教えだった。

 

 だが、堀北は違う。

 

 彼女は、勝つためだけに生きていない。

 

 自分の信念を、曲げない。

 

 

 

「お前は優しいな」

 

 

 

 綾小路は、思わず呟いていた。

 

 

 

「そう? これが普通だと思うのだけど」

 

「いや。オレには、そういう感覚がよく分からない」

 

 

 

 綾小路は、淡々と言った。

 

 だが、その声には、どこか自嘲の響きがあった。

 

 ホワイトルームでは、優しさなど教わらなかった。

 

 他者を思いやる気持ちなど、持つことを許されなかった。

 

 だから、堀北のような感覚は、理解できない。

 

 だが――

 

 

 

「でも、お前といると――学べる気がする」

 

 

 

 その言葉は、自然と口から出ていた。

 

 堀北が、綾小路を見つめた。

 

 彼女の目は、少し驚いているようだった。

 

 だが、すぐに柔らかい表情になった。

 

 

 

「……ありがとう」

 

「礼を言われることじゃない。オレが勝手に学んでいるだけだ」

 

「それでも、嬉しいわ」

 

 

 

 堀北が、小さく微笑んだ。

 

 その笑顔を見て、綾小路は思った。

 

 彼女を、守らなければいけない。

 

 そう思っている自分がいる。

 

 ホワイトルームでは、誰かを守るなど、思ったことがなかった。

 

 守るべき対象など、存在しなかった。

 

 だが、今は違う。

 

 堀北鈴音という女が、目の前にいる。

 

 この女を、一人にしてはいけないような気がした。

 

 

 

(……これが、人間らしさ、というやつか)

 

 

 

 綾小路は、心の中で呟いた。

 

 悪くない気分だった。

 

 

 

「最後に、Cクラス」

 

 

 

 堀北が、話を続けた。

 

 

 

「龍園くん。彼については、もう分かっているわよね」

 

「ああ。暴力と恐怖で支配する。評判通りに、狡猾で、厄介な男だったな」

 

「ええ。それに、知性も高い。無人島試験でも、彼の罠に引っかかりそうになった」

 

 

 

 堀北は、龍園のことを思い出しているようだった。

 

 

 

「彼は、勝つためなら手段を選ばない。そして、他人を信用しない。無人島試験で、それは証明されたわ」

 

「リーダーを自分にして、わざと罠を仕掛けた」

 

「ええ。彼は、強い相手に興味を持つ。私のことも、「獲物」として認識しているみたいね」

 

「面倒な相手に狙われたな」

 

「そうね。でも、怖くはないわ。彼の弱点も、分かっているから」

 

「弱点?」

 

「Cクラスは、部下の忠誠心が薄いの。恐怖で縛っているだけだから、いざという時に裏切られる可能性がある。龍園くんに反発心を持っている生徒も、きっと少なくないはず」

 

 

 

 綾小路は、頷いた。

 

 

 

「なるほど。利用できる可能性があるな」

 

「ええ。でも、慎重にね。龍園くんは、裏切りには敏感だから」

 

 

 

 堀北が、各クラスの説明を終えた。

 

 綾小路は、しばらく黙って考え込んでいた。

 

 堀北の情報は、非常に有益だ。

 

 

 

 

「お前の情報と、オレの分析が一致する部分は多い。信憑性は高そうだ」

 

「そう言ってもらえると、助かるわ」

 

「だが、疑問もある」

 

 

 

 綾小路が、堀北を見た。

 

 

 

「坂柳がオレに執着している、というのは気になるな。オレと坂柳に、何の接点があるんだ?」

 

「分からないわ。前回の記憶でも、詳しいことは分からなかった。ただ、彼女はあなたを特別視していた。それだけは確かよ」

 

「……そうか」

 

 

 

 綾小路は、それ以上追及しなかった。

 

 坂柳との因縁。

 

 恐らく、ホワイトルームが関係している。

 

 だが、今はまだ確証がない。

 

 いずれ、分かる時が来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 別の日。

 

 今度は、ケヤキモールにある飲食店の個室で、情報交換を行っていた。

 

 クラスポイントが少ないので、贅沢はできない。

 

 それでも、月に数回外食するくらいの余裕は生まれていた。

 

 綾小路は、堀北と向かい合って座っていた。

 

 テーブルの上には、美味しそうな和食が並んでいる。

 

 こうして、誰かと一緒に外食をする。

 

 それも、ホワイトルームでは経験したことのないことだった。

 

 あそこでは、食事は栄養補給でしかなかった。

 

 味わう余裕などなかったし、そもそも外食などできなかった。

 

 だが、今は違う。

 

 堀北と一緒に、食事を楽しんでいる。

 

 

 

(……これが、普通の生活か)

 

 

 

 綾小路は、心の中で呟いた。

 

 悪くない。

 

 むしろ、心地良い。

 

 

 

「今日は、今後の試験について話すわ」

 

 

 

 堀北が、ノートを開いた。

 

 前回の記憶を整理して、書き留めたものらしい。

 

 

 

「まず、体育祭。これは、ホームルームで茶柱先生から通知があったから、確定ね」

 

「一か月後、だったな」

 

「ええ。紅組がAクラスとDクラス、白組がBクラスとCクラスに分かれて競う」

 

「つまり、Aクラスとは協力関係になる」

 

「そうよ。個人競技とチーム競技があって、合計ポイントで勝敗が決まる」

 

 

 

 堀北が、ルールを説明した。

 

 

 

「前回は、龍園くんの妨害工作で酷い結果だった。櫛田さんに裏切られて、作戦が漏れたり。私が怪我をさせられたり」

 

「妨害工作か。龍園らしいな」

 

「今回は、それを防ぐ必要がある。だから、櫛田さんの動きには注意が必要ね。試験当日は、須藤くんや高円寺くん、それからあなたの運動能力が鍵になるわ」

 

 

 

 綾小路は、頷いた。

 

 

 

「次に、ペーパーシャッフル試験。これは十二月頃」

 

「ペーパーシャッフル?」

 

「クラス間でテストを入れ替える試験よ。詳細は曖昧なの。前回の記憶が薄くて……」

 

 

 

 堀北が、少し苦い顔をした。

 

 

 

「一月頃には、混合合宿があったと思う。これも詳細は曖昧ね」

 

「これも覚えてないのか……だが、概要くらいは分かるだろ」

 

「確か、全校生徒が一緒に合宿をする試験だったと思うわ。でも、はっきりとは覚えていない」

 

 

 

 綾小路は、堀北の話を黙って聞いていた。

 

 堀北は、自分のために、必死に記憶を掘り起こしている。

 

 曖昧な記憶を、少しでも役立てようとしている。

 

 その姿を見て、綾小路は思った。

 

 この女は、本気だ。

 

 本気で、Aクラスを目指している。

 

 本気で、未来を変えようとしている。

 

 そして、自分を信頼している。

 

 

 

(……オレも、本気で応えなければならないか)

 

 

 

 綾小路は、心の中で呟いた。

 

 

 

「そして、三月頃にクラス内投票がある」

 

 

 

 堀北の声が、少し硬くなった。

 

 

 

「クラス内投票……」

 

「クラスメイトの中から、必ず一人を退学させる試験よ」

 

 

 

 綾小路の目が、僅かに細くなった。

 

 

 

「とんでもない試験だな」

 

「ええ。クラス全員で投票して、最も票を集めた生徒が退学になる。理不尽極まりない試験だったわ」

 

 

 

 堀北は、その試験のことを思い出しているようだった。

 

 その表情には、苦い記憶が浮かんでいる。

 

 

 

「これが、最も避けたい試験よ。誰も退学させたくない」

 

「……出来るのか?」

 

「基本的には、無理ね。だから、今から対策を考えておく必要があるわ」

 

 

 

 堀北が、ノートを閉じた。

 

 

 

「最後に、選抜種目試験。これが、一年生としての最後の試験ね。特殊なルールがあるけど、詳細は覚えていない」

 

「前回の記憶は、後半になるほど曖昧なんだな」

 

「ええ。それに、船上試験がなくなったように、これらの試験も変わる可能性がある。だから、参考程度にしかならないわ」

 

 

 

 綾小路は、頷いた。

 

 

 

「それでも、心構えができるのは大きい。何も知らないのと、可能性を知っているのでは全然違う」

 

「そうね。少しでも、有利に進められればいいのだけど」

 

 

 

 そこからしばらく、二人は黙っていた。

 

 黙って、食事を続けていた。

 

 口に運ばれた料理の咀嚼音だけが、脳内に聞こえてくる。

 

 だが、そんな静かな時間さえも心地よく思えた。

 

 普通の生活を求めていた綾小路にとって、これ以上の贅沢は考えられなかったからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 

 全ての情報共有が終わった後。

 

 二人は、学校の屋上にいた。

 

 風が、心地よく吹いている。

 

 綾小路は、堀北の横に立っていた。

 

 彼女は、空を見上げている。

 

 その横顔を、綾小路は見つめた。

 

 堀北鈴音。

 

 彼女と出会って、自分は変わった。

 

 感情が、芽生え始めた。

 

 誰かを守らなければと、初めて思うようになった。

 

 それが、良いことなのか、悪いことなのか。

 

 まだ分からない。

 

 

 

「……これが、お前の知っている「未来」か」

 

 

 

 綾小路が、呟いた。

 

 

 

「ええ。でも、もう変わり始めてる。船上試験がなかったように、これからも変わる可能性がある。だから参考程度にしかならないわ」

 

「それでも、大きなアドバンテージだ。何も知らないのと、可能性を知っているのでは全然違う」

 

 

 

 綾小路が、堀北を見た。

 

 

 

「お前は、よくこれを一人で抱えてきたな」

 

 

 

 その言葉に、堀北は少し目を伏せた。

 

 

 

「……少し辛かったわ。誰にも言えないから」

 

 

 

 堀北は、正直に答えた。

 

 

 

「未来を知っているのに、それを証明することもできない。信じてもらえるとも思えなかった。だから、ずっと一人で抱えていた」

 

「……」

 

「でも、あなたは信じてくれた。それが、本当に嬉しかった」

 

 

 

 堀北が、綾小路を見た。

 

 その目には、感謝の気持ちが浮かんでいた。

 

 綾小路は、その目を見つめた。

 

 彼女は、自分を信頼している。

 

 抱えていた秘密を、全て打ち明けた。

 

 ならば、自分も――応えるべきなのだろう。

 

 

 

「状況的に、信じるしかなかったからな。いずれにしろ、今のお前には、オレがいる」

 

 

 

 綾小路が、静かに言った。

 

 その言葉は、淡々としている。

 

 だが、その奥には、確かな温かみがあった。

 

 自分でも、驚いていた。

 

 こんな言葉が、自然と出てくるなんて。

 

 ホワイトルームでは、考えられなかったことだ。

 

 

 

「ええ。あなたがいる」

 

 

 

 堀北が、微笑んだ。

 

 それは十五歳の少女らしい、純粋な笑顔。

 

 忽然とした普段の態度からは、想像もつかないほど柔らかいものだった。

 

 そして最後に、堀北から自分の未来を伝えられた。

 

 三年の始めには、綾小路は堀北から離れてしまうと。

 

 クラス移動という形で、Dクラスを去ることになると。

 

 それを聞いた綾小路は、少し黙り込んだ。

 

 クラス移動。

 

 2000万プライベートポイントを支払って、クラスを自由に移動できる権利。

 

 前回の自分は、どうやらそれを行使したようだ。

 

 どうしてそうなったのか堀北も分からないらしいが、綾小路には、なんとなくその原因が分かる気がした。

 

 入学時のDクラスを見ていれば、間違いなく自分ならクラス移動しただろうなと。

 

 だが――

 

 

 

「今回は、そうはならないだろうな」

 

 

 

 綾小路は、静かに言った。

 

 その言葉には、確信めいたものがあった。

 

 前回の綾小路は、堀北から距離を置いていたらしい。

 

 誰とも関わらず、一人で生きようとしていたらしい。

 

 だが、今回は違う。

 

 堀北と出会い、変わってしまった。

 

 誰かを守ろうなんて、自分らしくない。

 

 

 

(だから――今回は、そうはならないだろうな)

 

 

 

 最後まで、一緒にいる事になるだろうと。

 

 心の中の言葉を、そのまま伝えた。

 

 堀北は、その言葉に安堵したようだった。

 

 

 

「ありがとう、綾小路くん」

 

 

 

 今日は、堀北から手を差し出しされた。

 

 綾小路は、その手を見つめた。

 

 小さな手だ。

 

 だが、その手には、強い意志が込められている。

 

 綾小路は、その手を握り返した。

 

 温かい手だった。

 

 新しい協力関係が、始まった。

 

 そして、二人の絆は、さらに深まっていくことになる。

 

 

 

 

 

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