堀北鈴音は二度目の高校生活を諦めない   作:ほりきたすずね

28 / 29
第28話:体育祭に向けて

 

 

 

 

 

 九月中旬。

 

 放課後の教室。

 

 Dクラスの生徒全員が、席についていた。

 

 黒板には「体育祭作戦会議」と大きく書かれている。

 

 教壇に立っているのは、櫛田桔梗だった。

 

 

 

「それじゃあ、体育祭の作戦会議を始めるね!」

 

 

 

 櫛田が、明るい笑顔で宣言した。

 

 堀北は、自分の席から櫛田を見つめていた。

 

 進行役を櫛田に任せたのは、堀北の判断だった。

 

 櫛田は人気者だ。彼女が進行すれば、クラス全体がスムーズにまとまる。

 

 そして、もう一つ理由がある。

 

 櫛田に重要な役割を与えることで、彼女が安易に裏切れないようにする。

 

 クラスの中心にいる以上、裏切ればすぐにバレる。

 

 綾小路と相談して決めた、一種の牽制だった。

 

 ついでに言えば、参加表の締め切りも今日中。

 

 こんなギリギリに作戦会議を始めたのも、情報流出を警戒しての事だ。

 

 そのため今までは、全員参加の個人競技にのみ、練習時間を費やしていた。 

 

 

 

「まず、体育祭のルールをおさらいするね」

 

 

 

 櫛田が、黒板に向かった。

 

 

 

「私たちDクラスは、Aクラスと一緒に紅組。敵は、Bクラスの一之瀬さんたちと、Cクラスの龍園くんたち」

 

「龍園か……。また何か仕掛けてきそうだな」

 

 

 

 須藤が、腕を組んで呟いた。

 

 

 

「だからこそ、しっかり準備しないとね。それと、学年別のクラス順位で1位になれば50クラスポイント獲得。4位だと−100ポイント。紅白戦で負けたら、さらに−100ポイント」

 

「負けたら相当ヤバいよな」

 

 

 

 池が、顔を青くした。

 

 

 

「そう。だから、絶対に勝たないといけないの」

 

 

 

 櫛田が、真剣な表情で言った。

 

 その表情の奥では、何を考えているのかは分からない。

 

 だが、今この瞬間、彼女はクラスのために動いている。

 

 

 

「じゃあ、参加メンバーを決めていこう。平田くん、スポーツテストの結果、持ってきてくれた?」

 

「うん。ここにあるよ」

 

 

 

 平田が、書類を取り出した。

 

 

 

「みんなのデータをまとめてある。これを参考にして、各競技の担当を決めていこう」

 

 

 

 櫛田と平田が、黒板に競技一覧を書いていく。

 

 

 

【全員参加・個人競技】

 ・100メートル走

 ・ハードル競走

 ・障害物競走

 ・200メートル走

 

【全員参加・団体戦】

 ・棒倒し(男子限定)

 ・玉入れ(女子限定)

 ・男女別綱引き

 ・二人三脚

 ・騎馬戦

 

【推薦参加】

 ・借り物競争

 ・四方綱引き

 ・男女混合二人三脚

 ・3学年合同1200メートルリレー

 

 

 

「個人競技は、読まれづらい配置にしておくね。じゃあ、まずは団体戦。棒倒しの配置から決めていこう」

 

「これ、力と速さが必要だよな。俺と健を中心にして攻めようぜ」

 

 

 

 池が、須藤を見た。

 

 

 

「おう。俺が敵の棒を倒す。お前は援護してくれ」

 

「決まりだな。守備の要は誰にする?」

 

「平田くんと三宅くんがいいんじゃない? 二人とも運動神経いいし」

 

 

 

 長谷部が提案した。

 

 普段は発言しないタイプだが、無人島試験を経て、クラスの雰囲気が変わっていた。

 

 誰もが、意見を出しやすくなっている。

 

 

 

「そうしよう。守りは任せてくれ」

 

 

 

 平田が頷いた。

 

 

 

「高円寺くんは?」

 

 

 

 櫛田が、後ろの席で髪をかき上げている高円寺を見た。

 

 

 

「ふむ。この私に棒を守れと? 些か役不足ではないかね」

 

 

 

 高円寺が、いつもの調子で言った。

 

 

 

「じゃあ、攻撃に回る?」

 

「まあ、気が向いたらね」

 

 

 

 高円寺は、曖昧に答えた。

 

 堀北は、少し眉をひそめた。

 

 高円寺の協力は、あまり期待できない。

 

 だが、彼を無理に動かそうとしても、逆効果だ。

 

 放っておくしかない。

 

 

 

「玉入れは女子限定だね。誰がリーダーやる?」

 

「私がやるよ」

 

 

 

 軽井沢が、手を挙げた。

 

 

 

「軽井沢さん、ありがとう! じゃあ、軽井沢さんがリーダーだね」

 

「みんなで協力すれば、勝てると思う。みんな、頑張ろうね」

 

「うん!」

 

 

 

 女子たちが、声を上げた。

 

 篠原や小野寺も、やる気を見せている。

 

 森や王も、頷いていた。

 

 

 

「綱引きは……力が必要だよね」

 

「男子は、須藤くんを中心に組めばいいんじゃない?」

 

 

 

 今度は佐藤が発言した。

 

 

 

「女子は、私がまとめるよ。みんな、しっかり踏ん張ってね」

 

 

 

 軽井沢が、女子たちを見回した。

 

 

 

「二人三脚は、ペアを決めないといけないけど、どうしようか?」

 

 

 

 櫛田が、黒板に新しい項目を書いた。

 

 

 

「身長が近い人同士がいいんじゃないかな。足の長さが合わないと、走りにくいし」

 

 

 

 平田が提案した。

 

 

 

「そうだね。じゃあ、身長順で決めちゃうけど、みんなもそれでいいかな?」

 

 

 

 櫛田が問いかけ、クラスメイトの同意を得る。

 

 平田のデータを参考にしたペアが、次々に発表されていった。

 

 

 

「騎馬戦は、騎馬の組み合わせが大事だよね」

 

「須藤を大将にするのがいいと思う。背が高いとハチマキを取られづらいからな」

 

 

 

 幸村が、珍しく発言した。

 

 普段は勉強以外にあまり関心を示さない幸村だが、今日は積極的だ。

 

 

 

「ただし、須藤を上にするなら、騎馬もしっかりした方がいい」

 

「そうだな。俺を支える騎馬は、誰がいい?」

 

「牧田くんと鬼塚くんと……三宅くん、いける?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「よし、決まりだな」

 

 

 

 堀北は、クラスメイトたちのやり取りを見つめていた。

 

 みんなが、自分から意見を出している。

 

 無人島試験の前とは、明らかに違う。

 

 あの試験を通じて、クラスの絆が深まった。

 

 誰もが、クラスの勝利のために考えている。

 

 

 

「推薦参加の競技も決めようか」

 

 

 

 櫛田が、続けて言った。

 

 

 

「借り物競争は、誰がいいかな?」

 

「これ、運要素強いよね。何を借りるか分からないし」

 

「コミュ力ある人の方がいいよね。借りる相手と交渉しないといけないし」

 

「じゃあ、櫛田ちゃんがやればいいんじゃね?」

 

 

 

 池が、冗談めかして言った。

 

 

 

「えー、私? まあ、いいけど……みんながいいなら」

 

 

 

 櫛田が、少し照れたように笑った。

 

 

 

「櫛田さんなら、誰からでも借りられそうだよね」

 

 

 

 佐倉が、小さな声で言った。

 

 佐倉も、以前より発言するようになっていた。

 

 堀北は、その変化を嬉しく思った。

 

 

 

「四方綱引きは、力自慢を集めよう」

 

「握力の強い、男子中心でいいんじゃない?」

 

「おう、任せろ」

 

「男女混合二人三脚は……誰がペア組む?」

 

「これ、男女でペアだよね。恥ずかしくて、誰も組みたくないでしょ」

 

 

 

 軽井沢が、少し苦い顔をした。

 

 

 

「じゃあ、平田くんと軽井沢さんでいいんじゃない? 付き合ってるんだし」

 

 

 

 松下がからかうように言った。

 

 

 

「えっ、いや、そういうわけじゃ……」

 

「僕は構わないよ。軽井沢さん、どうかな?」

 

 

 

 平田が、穏やかに笑った。

 

 

 

「……まあ、いいけど」

 

 

 

 軽井沢が、戸惑いながらも承諾した。

 

 クラス全体が、和やかな雰囲気に包まれている。

 

 

 

「最後に、1200メートルリレー」

 

 

 

 櫛田が、黒板を見つめた。

 

 

 

「これが一番大事な競技だよね。3学年合同で、各クラスの代表者が走る」

 

「アンカーは、一番速い奴がいいだろ」

 

 

 

 須藤が言った。

 

 そして、ちらりと綾小路を見た。

 

 

 

「綾小路、お前がやれ」

 

「……オレか?」

 

 

 

 綾小路が、いつもの無表情で答えた。

 

 

 

「スポーツテストでの走りを見てたけどよ。アレ、手抜いてただろ」

 

「……」

 

「ずっとスポーツやってるから、そんくらい分かんだよ。お前、本気出せば俺より速ぇんじゃねえか?」

 

 

 

 クラスメイトたちが、綾小路を見た。

 

 

 

「えっ、マジ?」

 

 

 

 佐藤が、驚いた顔をした。

 

 

 

「ああ。マジだ。俺が言うんだから、間違いねぇ」

 

 

 

 須藤が、力強く断言した。

 

 

 

「綾小路くん、それって本当なの?」

 

 

 

 櫛田が、綾小路に尋ねた。

 

 もちろん、全員が綾小路に注目している。

 

 綾小路は、少し考え込んだ。

 

 

 

「確かに、手は抜いていた。全力を出して、注目を集めたくなかったんだ」

 

「……そうなんだ。本当はかなり速いんだよね?」

 

「須藤より速いかどうかは分からないけどな。たぶん同じくらいだと思う」

 

「そっか。でも、目立ちたくないんだよね。流石にアンカーなんて、頼めないよね……」

 

 

 

 櫛田が、気まずそうに問いかける。

 

 綾小路は、堀北をちらりと見た。

 

 堀北は、小さく頷いた。

 

 

 

「……いや、大丈夫だ」

 

「え?」

 

「アンカーでも構わない」

 

「ありがとう、綾小路くん!」

 

 

 

 櫛田が、笑顔で言った。

 

 

 

「じゃあ、リレーの走順を決めよう。綾小路くんがアンカーで、他のメンバーは……」

 

「俺も走るぜ」

 

 

 

 須藤が、手を挙げた。

 

 

 

「私も参加するわ」

 

 

 

 堀北が、静かに言った。

 

 クラスメイトたちが、堀北を見た。

 

 

 

「堀北さん、走れるの?」

 

 

 

 軽井沢が、少し驚いた顔をした。

 

 

 

「ええ。そこそこ速いはずよ」

 

 

 

 堀北は、淡々と答えた。

 

 

 

「じゃあ、リレーメンバーは須藤くん、堀北さん、綾小路くん……あと三人、誰がいいかな?」

 

「高円寺、お前も走れよ」

 

 

 

 須藤が、高円寺にも参加を迫る。

 

 

 

「あいにくだが、今回の試験は気乗りしないんだ。私は全員参加の種目だけにさせてもらうよ」

 

「テメェ!運動できるんだから、ちっとはやる気出せよ!」

 

「まあまあ、須藤くん。他にもやりたい人がいるかもしれないし、とりあえず落ち着こう」

 

「チッ……」

 

 

 

 一瞬、険悪な空気になりかけるが、すぐに平田が場を収める。

 

 高円寺を説得するのは無理そうだが、どうやら参加自体はしてくれるらしい、

 

 何一つ貢献してくれなかった前回に比べれば、かなりマシだ。

 

 それに、Dクラスには運動神経の良い生徒が揃っている。

 

 何も問題ない。

 

 結局、前園、三宅、小野寺の三人が名乗り出て、すんなりとリレーメンバーは決定した。

 

 

 

「よし、決まりだね!」

 

 

 

 櫛田が、黒板に最後の名前を書いた。

 

 1200メートルリレー:前園、三宅、小野寺、須藤、堀北、綾小路(アンカー)

 

 

 

「これで、全部の競技の担当が決まったね」

 

 

 

 櫛田が、黒板を見渡した。

 

 

 

「みんな、ありがとう。すごくいい会議だったと思う」

 

「櫛田、進行うまかったな」

 

 

 

 幸村が、素直に褒めた。

 

 

 

「平田くんのおかげだよ。データ用意してくれたのも平田くんだから」

 

「いや、みんなが意見を出してくれたからだよ。本当に、いいクラスだと思う」

 

 

 

 平田が、クラス全体を見回して言った。

 

 堀北は、その言葉に同意した。

 

 前回のDクラスは、バラバラだった。

 

 誰もクラスのことを考えず、自分のことだけを考えていた。

 

 だが、今回は違う。

 

 みんなが、クラスの勝利のために協力している。

 

 無人島試験を通じて、絆が生まれた。

 

 その絆が、今日の会議を成功させた。

 

 

 

「最後に、堀北さんから一言もらってもいい?」

 

 

 

 櫛田が、堀北を見た。

 

 堀北は、少し驚いた。

 

 だが、すぐに立ち上がった。

 

 クラスメイトたちが、堀北を見つめている。

 

 

 

「……みんな、ありがとう」

 

 

 

 堀北は、静かに言った。

 

 

 

「正直、作戦会議がこんなにスムーズにいくとは思っていなかったわ。みんなが積極的に意見を出してくれて、それを櫛田さんが上手にまとめてくれたおかげよ。私が進行していたら、もっと時間がかかっていたでしょうね」

 

「堀北さん……」

 

「でも、そんなことはどうでもいいの。誰がリーダーでも構わない。私たちは無人島試験で、クラスとして優秀なことを証明したわ。体育祭でも、同じことを証明しましょう」

 

 

 

 堀北は、力強く言った。

 

 

 

「私たちは、誰にも負けない。今回も、勝つ」

 

 

 

 クラスメイトたちが、頷いた。

 

 須藤が、拳を突き上げた。

 

 

 

「よっしゃ! 絶対勝つぞ!」

 

「おー!」

 

 

 

 クラス全員の声が、教室に響いた。

 

 体育祭まで、あと二週間。

 

 準備は、整った。

 

 あとは、本番で全力を出すだけだ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。