アニメロスが酷すぎるので書きました。
pixivに投稿した同名タイトルと同じ内容です。

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わたしがASMRなんてできるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)

 

 

 それは放課後。

 真唯に三人の時間を過ごそうと言われて向かった、屋上でのことだった。

 

「ときに、れな子」

 

 風に吹かれると流石に寒いなと感じる、そんな頃合い。

 寄り添うように庇の下に座ったまま、真唯が続けた。

 

「君はASMRというものを知っているかな?」

 

 その発言の意図を確かめるように真唯の顔を覗き込むと、わたしの肩に頭を預けたままうっとりとした表情で目を瞑っている。もちろんそれを知らないわけじゃないけど、真唯の口からASMRって。

 

「⋯⋯うん、まあ」

 

 けど何それ知らなーい。

 なんてスルーしようとしたら、真唯のことだから「じゃあ私がどんなものか教えてあげよう!」なんて言い出しそう。そう正直に答えると、真唯とは反対の方向から声が聞こえる。

 

「えーえす、えむあーる⋯⋯?」

 

 どこか子どもっぽい滑舌でそう言ったのは、紫陽花さんだ。真唯と同じく、わたしに寄りかかっている。ああ、いい匂い⋯⋯。

 

「紫陽花さんには、必要ないものだよ⋯⋯」

 

 けれどそう、ASMRなんて世界の深淵は、紫陽花さんには縁のないものだ。っていうかわたしが紫陽花さんのASMRを聴きたい。ずっと甘やかしてほしいよぅ⋯⋯。

 

「だがれな子。君はそれを必要としていたし、実際に勇気をもらったのだろう?」

 

 真唯のその言葉に、思わずビクッと反応してしまう。

 この口振り⋯⋯急にASMRなんて言葉を持ち出したと思ったら、香穂ちゃんの差し金か。何してくれてるの、香穂ちゃん⋯⋯。

 

「私はね、れな子。そのASMRで生きる活力を得たいんだ。君の声で」

「いや真唯は絶対必要ないでしょ。歩くバイタリティだし」

「君のその可愛らしい声を耳元で囁かれたら⋯⋯。ああ⋯⋯ああ!」

「人の話を聞け! っていうか絶対そっちが目的じゃん!」

 

 自分の身体を掻き抱きながら、うっとりとした表情を浮かべる真唯。もう勝手に脳内再生で満足してくれないかな、なんて思っていると、ちょいちょいとスカートの端を引っ張られる。

 

「私も、れなちゃんに元気ほしいな⋯⋯」

「うっ⋯⋯」

 

 そ、そんな純真な瞳で見つめられたら⋯⋯。断れるわけがないし、上目遣いがとっても可愛い。え、今の紫陽花さんすっごい可愛かったんだけど(いつも可愛い)。

 

「ほら、れな子。紫陽花もこう言っている。君は私たち二人を幸せにすると誓ったのだろう? 恋人の希望を叶えるのは、君の努めというものだよ」

「くぅぅ⋯⋯限りなく欲望に近い希望のくせに⋯⋯」

 

 思わず恨み節を返しちゃったけど、そう言われるとわたしは弱い。あんな大勢の前で二人とも幸せにすると大見得を切ったのは、わたし自身だからだ。

 

「ほら、れな子」

「け、けどわたし、そんなアドリブ強くないからね!? いきなりやってって言われても」

「大丈夫だ。台本を準備してある」

「用意が周到すぎる!」

 

 真唯はいつかのように、鞄から丸められた紙を取り出しバーン! とわたしに見せてくる。も、文字がびっしりで読みきれない⋯⋯。

 

「さあ、君はこれを私の耳元で読むだけでいいんだ。簡単だろう?」

「はいはい⋯⋯やればいいんでしょ、やれば⋯⋯」

 

 変なこと書いてあったら途中でやめるからね、と言いながら、わたしはその用紙を真唯から受け取る。えーと、なになに⋯⋯まあこれぐらいだったら、音読だと思えば⋯⋯。

 

「さあ、ほら耳元で!」

「分かったから⋯⋯」

 

 いいなぁ⋯⋯という目線を送ってくる紫陽花さんに心の中で平謝りして、わたしは真唯の耳に口元を近づけていく。それにしても真唯、耳の形まで綺麗だな⋯⋯。

 

「大好きだよ、真唯」

「おぅふ」

 

 一瞬、誰が声を出したのか分からなかった。けど当然紫陽花さんじゃないし、真唯の声で間違いない。

 テレビの中でも教室の中でも完璧超人然としている真唯がこんな気持ち悪い声を出すなんて⋯⋯。え、今のわたしの声、そんなにおかしかった? いやでも真唯がやれって言ったんだし。

 

「真唯のこと、心の底から愛してるの」

「あぁ、ああ! 私もだ、れな子!!」

「うっさい」

 

 ASMRに返事するんじゃないよ、と軽くチョップを入れる。しゅんと大人しくなった真唯の耳に向けて、わたしは続けた。

 

「真唯の声も、手も、言葉も、全部が好きなの。真唯がいないと、わたしは耐えられない」

「ああ、ああ──!」

「⋯⋯静かにしないとやめるからな?」

「大丈夫だ。続けてくれ」

 

 即答だった。

 それにしてもこれ、声に出すだけでも十分恥ずかしいんだけど⋯⋯台本書いたの真唯だよね? そう考えると、かなり恥ずかしいし真唯じゃなかったら相当気持ち悪いことしてるな⋯⋯。

 

「真唯が愛してくれた分までわたしも愛してあげる。わたしの全部を、真唯にあげる」

「ふぅー、ふぅー⋯⋯」

 

 さすがに途中でやめられるのは避けたいのか、真唯は必死になって反応を堪えていた。

 それにしても、あのみんなの王塚真唯がわたしの声ひとつで、こんな気色悪いぐらい身悶えるなんて⋯⋯。なんだかちょっと、優越感。楽しくなってきたかも!

 

「真唯に触れたい。真唯に触れてほしい。わたしの全てを差し出してもいいよ。その柔らかな手でわたしを押し倒して、白い指で脚を──っておい!」

 

 うっかりそのまま読み上げてしまいそうになって、慌てて止める。急に現実に引き戻されたらしい真唯は、不服そうにわたしを見ていた。

 

「どうしてやめるんだい、れな子。まだ半分も終わっていないのに⋯⋯」

「変なこと言わせるんだったらやめるって言ったじゃん! はい、おしまい!」

 

 途中から官能小説の台本と化していた紙を突き返すと、くいくいとシャツの袖を引っ張られる。

 

「れなちゃん⋯⋯。次は私でいいんだよね?」

 

 さっきまで黙って聞いていた紫陽花さんは、くてんと首を傾げて見上げてくる。

 ううう⋯⋯そうだった。わたしは二人の恋人なので、真唯だけ贔屓するなんてことはできない。

 とは言っても、紫陽花さんの場合は台本なんて必要ない気がする。だって普段思っていることが、さっき真唯に囁いた言葉に近しいのだから。

 

「じゃ、じゃあ、いくよ⋯⋯?」

「はい、お願いします」

 

 紫陽花さんはぺこりと丁寧に頭を下げると、スッと背筋を伸ばした。さあどうぞと言わんばかりにかき上げた髪の間から形のいい耳が見えて、ドキドキしてくる。

 

「紫陽花さん」

「⋯⋯っ」

 

 耳元で囁くと、それだけで紫陽花さんはビクッと肩を揺らした。何だかいけないことをしているみたいで、とってもえっちだ⋯⋯。

 

「わたしの大好きな天使さん。いっつもあなたのこと食べたいなぁって、思ってるよ」

「──っ!」

 

 さっき真唯にいちいち反応するなと怒ったから、紫陽花さんも必死に堪えてるんだと思う。みるみるうちに耳まで赤くなってきて、何だかわたしより恥ずかしがっているみたいだ。

 

「紫陽花さん、だぁい好き♡ ずっとわたしと一緒にいてくれなきゃやだよ。紫陽花さんがわたしのことしか考えられなくなるぐらい、ずーっと一緒にいよ?」

「はぅぅぅ⋯⋯」

「なあれな子⋯⋯私の時と随分違うようだが⋯⋯」

 

 何か背中から聞こえた気がしたけど、スルーした。今ようやく役に入り込んできたんだから、邪魔しないで!

 

「ねえわたしの天使さん。その顔も、声も、髪も、ぜーんぶ大好きだよ。心の底から、愛してる。もっとあなたの名前を呼びたいな。紫陽花さん、紫陽花さん、紫陽花──」

「きゅぅぅぅ⋯⋯」

 

 何だか小動物の悲鳴みたいな可愛らしい声が聞こえたと思った次の瞬間に、紫陽花さんは両手で顔を覆って倒れ込んでしまった。

 ええ⋯⋯。ひょっとして、やりすぎた!?

 どーしよ? と思って真唯の方を振り向くと、何故か壁にもたれかかって目を瞑っていた。今まさに逝かんとばかりに、空を見上げて。

 

「ちょ、ちょっと。真唯までどうしたの⋯⋯」

「『紫陽花』を『真唯』に変換して聞いていたら、昇天したんだ」

「いや生きてるし⋯⋯。設定ザルすぎでしょ⋯⋯」

 

 それでいいならわたしは紫陽花さんにだけASMRをしてあげればよかっただけなのでは⋯⋯? と思っていると、真唯はうっすら目を開いた。倒れ込んだまま顔を覆っている紫陽花さんをチラと見やって、静かな声で言う。

 

「ああ、私も紫陽花も、目覚めのキスが必要だな⋯⋯」

「だから何なのその設定!?」

 

 あれか、毒リンゴを食べた白雪姫のつもりなのだろうか。

 わたしのツッコミにも真唯は反応せず、静かに目を瞑っている。まさに膠着状態。ええい、こうなったら!

 

「んっ⋯⋯」

 

 減るもんじゃないし、と開き直って真唯の唇に自分の唇を重ねる。触れるだけのバードキスだったけど、真唯は目を開いて満足そうに笑った。本当いい顔で笑いやがる⋯⋯このモデル女⋯⋯。

 

「さあ、紫陽花にも」

「わかったよ⋯⋯」

 

 紫陽花さんに同じ手が通用するのかどうかは全然わからなかったけど、仕方ない。わたしは倒れ込むように紫陽花さんの隣で横になると、覆っている両手を優しく丁寧に剥がしていく。

 

「紫陽花さん」

 

 紫陽花さんは顔のガードを剥ぎ取られた後も、ぎゅっと目を瞑っていた。

 やっぱり、めちゃくちゃ恥ずかしがってる。さっきのあれは、完全にやりすぎだったらしい。なんか思い出したら、急に恥ずかしくなってきたな⋯⋯。

 

「ん⋯⋯」

 

 わたしはその恥ずかしさを誤魔化すように、紫陽花さんの両手を握ったまま、ゆっくりと唇同士を触れ合わせる。

 真唯にした時と同じように、触れ合うだけの軽いキス。それを終えて顔を離すと、紫陽花さんは大きく目を見開いた。そして──。

 

「んんんっ!?」

 

 紫陽花さんの方から、キスしてきた。それも軽いやつじゃなくて、ねっとり重くて情熱的なやつ。

 ちょ、ちょっと待って舌入ってるから! 紫陽花さんから! 天使の舌が! 脳が蕩けるぅぅぅ⋯⋯。

 

「ぷはぁ⋯⋯っ」

 

 ディープでロングなキスの後に、ゆっくり紫陽花さんはわたしから離れていった。唇の間に銀糸がかかって、また変な気分になってしまいそうだった。

 

「ごめん、ね⋯⋯。我慢、できなくなっちゃって⋯⋯」

「ずるいぞ紫陽花! さぁ、れな子! 今度は私と──」

「あああ! もう!!」

 

 分かってるよ、その流れは! どうせするまでだだをこねるんだろうし! 別にわたしも嫌じゃないけど!

 だけどこれだけは──はっきり言わせてもらう!

 

「やっぱわたしには、ASMRなんてムリ!」

 

 ムリじゃなかった、けどね!

 

 


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