転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~   作:KNa\

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00【人狩者(マンハント)】イズナ・ウイ

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 

朝日も微睡む、街の目覚めには少し早い時間。薄暗い路地裏に二つの影がある。

 

大きな人影と、それより二回りは小さな人影。

 

影は、どちらも疾走している。追うものと、追われるもの。雑多に放置されたごみを跳ね飛ばし、堆積していた塵埃を、大きな足音が巻き上げている。入り組んだ路地を右へ左へ、一定の距離を保ったまま、二つの影は路地を進む。

 

小さな影が、大きな影へ黒く染まったナイフを投げた。光のない路地裏では、ろくに視認も出来ないだろう。

 

だが、大きな影はソレに素早く反応する。片腕に取り付けた丸い盾を、背後から飛来するナイフに向けた。見事な反射神経、見事な対処だ。構えられた盾は闇に在りながら微かに蒼く光っている。青銅や粗鉄ではない、紛れもない戦闘職向けの盾であることは一目瞭然。

 

闇に溶け飛ぶナイフはしかし、盾を使い古した麻布のように容易く貫通した。

 

道中の抵抗もなかったように、微塵も勢いを衰えさせない。体を覆う亜竜の皮鎧も無視して、つるりと獲物の腿に突き刺さる。

 

 

「ぐっ!?な、なんでだ!?魔法銀(ミスリル)だぞ!魔法銀(ミスリル)の盾だ!なのにっ!!」

 

 

野太い声が路地に響く。大きな影は男だった。大人の、それもかなり体躯の良い男。

そんな男が、驚きを隠し切れない声で鳴いていた。深く突き刺さる傷の楔が、逃走の手段を縫い留める。よく見れば、男の体は既に幾つもの切り傷が有る。すべて、あの小さな影に付けられたものだ。

 

男の足が止まり、真っ直ぐ影へと向き直った。街の憲兵に追われ、この裏街まで逃げてきた男は、そこでこの影に襲われた。最初は返り討ちにしようとした男だったが、影の動きは素早く、広い通りでは対処しきれ無かった。そのためこの狭い路地裏まで逃げてきたのだが、そうすると今度は嫌に鋭いナイフを何本も投げて来たのだ。先で男が盾を構えられたのも、先の攻撃で慣れていたからだ。その結果がコレなのだが。

 

 

「すまんね、俺には意味ないんだ」

 

 

足の止まった男に合わせ、中性的な声で影はそう言って、ゆっくりと歩いて間合いを詰めた。だらりと脱力した手の片方に、やや大ぶりな片刃のナイフが握られている。

 

もはや逃げられない。そう悟った男は、腰に佩いた両刃剣を片手で抜き放ち、浅く構えた。負傷した足では速度は出ない、ならばと選んだ受けを主体とした防御の姿勢だが、その構えには確かな技量が見えている。生半可に打ち込めば、簡単に流して反撃を行ってくるだろう。

 

しかし影は何の躊躇いもなく一歩踏み込み、男の胸をめがけてナイフを振るった。

 

 

「は、ははっ!―――」

 

 

男の目に勝機が映る。影の動きは確かに速い。そして狙いも正確だ……だが、正確に過ぎる。男は冷静に、そしてこれ以上ないほど完璧な位置に、刃を置いた。片手を剣の腹に沿わせ、相手のナイフを斜め後方へと弾いてのカウンター狙いだ。油断か何か知らないが、この狭い路地なら影へと剣を届かせられる。例えナイフの一撃がブラフであろうと、この剣の位置取りなら対応できる。相手の隙を確実に突ける。そう自信を持っていた。

 

男の経験に裏打ちされた戦闘技能があれば、確かに、それは可能である。

 

ただ、それは。

 

 

 

 

 

 

 

相手の一撃を受け切れた場合の話だ。

 

 

「―――は?」

 

「言ったろ、意味がない」

 

 

パキン、と乾いた骨を折るような音がした。

 

一拍遅れて、添えた手から金属の冷たさが消えた。

 

二拍経って、コキン、と地面で金属質の音が鳴った。

 

三拍待たず、男が自らの剣を見た。

 

鍔から先に、刃は残っていなかった。

 

男の胸は冷たい熱で切り裂かれている。

 

 

「ギッ……ぁ!?」

 

 

男の喉が引き攣って、掠れた声が漏れだした。そうしてようやく、今更になってようやく。

 

 

「そ、うか……てめ、えが……!!」

 

 

男は影の正体に思い至った。しかしそれは遅すぎた。既に胸からは血を流し、呼吸もまともに出来ていない。もはや助かる道はない。

 

 

あぁ、あるいは。影に狙われた時点で、助かる道なんて無かったのかもしれない。

 

 

「ぐっ、来るな!!来んじゃねぇ!!―――」

 

「《(くび)()り》」

 

 

ピン、と張りつめた糸を鋏で断ったかのように、影の一撃が非道くあっさりと男の首を宙に送る。くるくるくるくる、中空で回転しながら、赤い液体を辺りに撒いて散らす。そして影は、落ちてくる生首の髪の毛を、地面に落ちる前に片手で掴んだ。

 

(―――人狩者(マンハント)め!)

 

伸ばした腕の先で、苦悶の表情の生首(おとこ)と目が合った。声や音にさえならなかったものの、影の持つ夜目の効く瞳は、はっきりと男の最期の言葉を看取っていた。ずるり、と倒れ行く男の体が、宙ぶらりんな首の代わりにべたりと力なく地面に落ちる。

 

 

「……ニホン帰りてぇ……」

 

 

顔の無い死体を足元に転がして、鮮やかな殺人劇を終わらせた影は、片手にナイフを、片手に生首をぶら下げながら、白み始めた空を見上げてそう呟いた。

 

 

「この仕事辞めてぇ……」

 

 

声に応える者はいない。聞いてくれそうな人間は、今しがたその手で葬ってしまったのだから。生首だけになっても喋ったなら、それは人間ではなく不死者(アンデッド)である。

 

 

「言っても無駄、か。さっさと戻ろ……《()(ねぶ)り》」

 

 

はぁ、とため息と共に影は弱音を吐き捨てた。片手のナイフを地面に突き立てて唱えると、ナイフの刺さった地面から、黒い触手が幾本も生え、路地中を這うように伸びていく。

 

 

「いつ見てもキモいな、コレ……」

 

 

壁、道、屋根を彩る赤が、黒い触手に舐め取られ、十秒もすれば路地に散らばった赤色は、染み一つ残さず消え去った。

 

 

これで仕事は終わりだ。さっさと帰って、ギルドへ報告を済ませてしまおう。

 

赤銀級(シルバー)冒険者(ハンター)こと、指名手配者(ターゲット)アース・ノーツは始末した、と。

 

 

「《(かげ)(もぐ)り》」

 

 

影が一言そう唱えると、死体と共にとぷん、と吸い込まれるように足元の影へと落ちていった。

 

後に残ったのは、きらきらと朝日を反射する埃塵と、散乱したごみの残骸だけ。

 

飛び散った血液も、首のなくなったヒトの死体も、路地で起きた出来事を連想させるものは何もない。朝の陽ざしを浴びるのは、いつも通りの薄汚れた、雑多に散らかる裏路地だけだった。

 

手掛かりとなり得る剣の刃も、裏街の住人からすればただの飯のタネ(ごみ)だ。

 

暫くすれば、ここを通りがかった住人が、鋳つぶし売り払ってカネに変え、アース・ノーツの遺した物は、すべてまっさらに消え去るだろう。

 

ここは裏街、路地の中。

 

冒険者組合(ギルド)の直属冒険者(ハンター)、【人狩者(マンハント)】イズナ・ウイの痕跡を辿れるものは誰もいない。

 

 

 

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