転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~   作:KNa\

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01不幸な事故。説明不足の転生

 

 

 

空に浮かぶ太陽はアスファルトを照らし、白くて細い金属製のガードレールが歩道と車道を分けている。朝の陽ざしが混ざった風が、道脇に植わった街路樹の葉を擽っていて、時折コンクリート製の電柱の高いところから、ハトやカラスの鳴き声が降ってくる。

 

このあたりの地区には人が少ない。まだ八時にもなっていない今の時間は、車通りだってあまりない。そのおかげといっていいのかどうか、こちらが静かにしていれば、鳥たちの会話は鮮明に聞き取れる。

 

いつもは彼らの会話内容なんて、全く予想もつかないけれど、今日に限っては俺にだって彼らの言葉が伝わってくる気がする。

 

多分恐らくこう言っている、「早くて大きい走ってるのには気を付けよう」と。

 

 

 

 

おはこんちくぱんわ。ちくわのパフェって塩バニラ系統でクレープにすれば意外とアリな気がしますよね。さわやかな挨拶と共にどうも、俺です。

 

今俺は欄干に腰掛けて、歩道橋の上から下の光景を見下ろしているところです。

 

眼下に見えるのは派手に炎上してる車と、そのあたりに飛び散った血肉、そして無惨な死体の三点セットです。絶景ですね。(生きてる内には)絶(対に見たくない光)景(ぜっけい)です。

 

 

さて、現在の経緯を簡単に説明すると。

 

 

いつも通り朝に家を出て、歩道橋を渡っていたら、道交法無視の爆速暴走車に轢き飛ばされました。

 

 

道交法に『歩道橋を車で時速185kmでかっ飛ばしてはいけません。』という決まりがあるのかは知らないけど。でも事実を述べるとそうとしか言えないのでそのまま受け取ってほしい。

 

とりあえず今は歩道橋の上で車に轢かれて、その歩道橋から事故現場を見ている状態。

 

何を言っているのかわからないと思うけど、俺だってわからん。だれがそんなこと予想出来るんだよ、という事態に巻き込まれることを『事実(リアル)は小説よりだいぶややややー(頭をかち割るぞこのボルシチ野郎)!』と古来よりそう伝わっています。古事記にもそう書いてあるし『本』が頭に着く建物はすべからく爆発する。

 

 

 

自己紹介が遅れまして。どうも、俺の名前は宇井(うい) 出稲(いずな)。日本生まれ日本育ちの日本人だ。さっき暴走車に轢かれたと言った割には、元気そうだと思ったかもしれない。事実今の俺は怪我はおろか痛みも出血も全く無いので、元気といえば元気である。十余年連れ添った肉体を失って、初めて経験する幽霊になったことを除けば、まごうことなき健康体と言えよう。

 

いや、言い間違えとか、精神錯乱とかではない。マジで今の俺はそんな状態なのだ。

 

まず状況を簡単に二つに分けようか。

 

 

 

一つ目、事故にあった。

 

大体五分前のことだ。

 

朝、登校する為に通学路である歩道橋を渡っていた俺は、真後ろから爆走してきた車に轢き飛ばされた。根拠は俺の視線の先にある。地面に衝突して炎上している廃車と、所々ピンクが混じった赤黒い肉の塊、もとい俺の死体である。

 

ちなみに乗っていた運転手と同乗者の二人は、車が地面に追突してすぐに自力で車から這い出て逃げ出した。ぱっと見血だらけだったけど、二人共その健脚ですぐさま走り去っていったから、重傷ではないのだろう。

 

俺の体は……背中に追突されたからか、体は昔の携帯ゲーム機のように二つ折り。そこから回転して吹っ飛ばされてたから、周囲にスプリンクラーよろしく俺の体液が撒かれている。地面にぶつかってからも慣性で滑っていたので、その軌跡には血肉の轍。血文字の筆になった下半身は摩り下ろされてほとんど残っていない。

 

不幸中の幸いと言っていいのか、なぜか顔だけは割と奇麗に残っているので、見る人が見れば多分俺だと気づくと思う。こんなグロアート見たら発狂すると思うけど……死人の口からとは悪趣味だが、まぁご愁傷様ということで、強い心を持ってほしい。

 

 

 

二つ目。俺は精神だけが残っている。

 

事故に在ってすぐ、俺は自分の意識をはっきりと自覚できていた。

 

ただその時から体は半透明になっており、空中に浮遊できた。いわゆる幽霊ってやつかな。幽体離脱説は体が死んでるから無いと思う。風景を透過してるのにどうやって物を見てるのか、と言われれば俺にも詳しくはわからん。

 

ちなみに服は着ている。体と同じく半透明だが、服が透けて体が見えたりはしない。脱いだり出来ないし、隙間から体も見えたりしないので、(コレ)込みで幽霊になってるっぽい。

 

それと、感情もなんか平坦だ。轢いて逃げた犯人の二人に何も思わないし、遺した友達とか家族とかに執着が湧かない。テレビで見る海外の事故ニュースとか、そんな程度には意識と感情に壁がある。

 

あとこの体、何も出来ない。物は触れても動かせないし、動物にはぶつからないし気づかれない、多分人も同じだろう。そのくせ疑問は浮かぶから、こうして事故現場の歩道橋で色々考えてみたりはしてるが、ぶっちゃけ暇。

 

 

 

 

さて、これが今の俺の現状となる。五分前に轢き逃げされ、死んで幽霊になったわけだ。今のところ警察も救急も来る様子がないので、第一発見者が可哀想ことになると思う……一番可哀想なのは俺か、ガハハ。

 

 

「いや、虚しー……と言うかこういう不幸な事故って、転生ものテンプレじゃねぇの?神様が手違いで云々って転生特典チートもらうやつ」

 

 

俺が暇な現状に飽き始め、そんな風に一人寂しく呟いていると。

 

 

【なるほど、あなたは転生をお望みなのですね?】

 

「うぉ?何?頭の中に声が響いてる?」

 

 

脳内に響く感じで、頭に文字が浮かんできた。機械音声とボイスロイドが混ざったような、平坦で熱のない、そんな謎の文字と音声。

 

そこでピンときた。これはあれだ。フラグを踏んだ、というやつではないか?これでも現代日本人。転生モノは手習い程度に履修している。死亡後に上位っぽい存在からの干渉されるとか、まさにってやつだ。

 

 

【では転生特典を与えて転生させます】

 

「待って?」

 

 

頭に浮かぶ謎文字音声に、俺は待ったをかける。確かに転生に興味はあるのだが、世界観から転生後の目的までも一切合切省略されると不安になる。

 

 

【待ちません、丁度空きがあるのでそこで決定です】

 

「せめて何か転生先の説明とか、転生特典とか選べたりは……?」

 

【仕方ないですね、転生特典をルーレットで決めます、決まったら転生です】

 

「俺のお願い聞こえてない感じですかカミサマ?」

 

 

推定カミサマの上位存在に頼んでみるが、暖簾に腕押し糠に釘。親身の欠片も切り分けてはくれない。奴さんにこちらの要求を通すつもりは爪の先程も無いらしい。上位存在ぽいっちゃぽいけどさ。説明くらい欲しいなぁ?

 

 

【ドゥルルルルルル】

 

 

ああ、もうホラ。脳内に謎文字音声でドラムロールが流れ出した。しかもこれカミサマ自分でやってるな?……巻き舌上手ですね。口とかあるのか知りませんけど。

 

 

【ジャン。はい、というわけで貴方の転生特典は《防御完全無視》です。さようなら】

 

「え、いやマジで説明無―――」

 

 

 

 

 

日本に生まれ、日本で育ち、不運な事故に遭って命を散らした俺の意識は、気絶する時の心地と共にプツンと落ちて。

 

 

 

ぐわん、たましいがぼやけた。

 

 

くらいくろにしずんでいく。

 

 

あかるいしろにやかれてく。

 

 

おもいあかいろにつぶされる。

 

 

ながれるあおにのみこまれる。

 

 

あふれたみどりにつつまれる。

 

 

おれのからだがつくられていく。

 

 

おれのいのちが

 

 

【追伸。私の口は三個、舌は四枚有ります。かしこ】

 

 

        そそがれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いやそこ以外を説明しろよ!?」

 

 

そんな大声が聞こえた。うるさい。

 

まどろみ、あるいは仮死のうろの中にいた俺は、自分のツッコミでそうやって目を覚ました。

 

 

「……あ?」

 

 

開かれた目に飛び込んで来たのは穴の開いた若草色の木の葉の傘。鼻につく濃ゆい緑のかおり。肌で感じる草葉の感触と、弱弱しい空気の流れ。

 

 

「……森……だな」

 

 

言葉通り森であった。大の字に倒れていた上半身を引き起こし、辺りを見渡す。

 

視前後左右どこを見ても、同じような立ち姿で木々が生えている。つい、と首を持ち上げれば、まだまだ伸び盛りといった感じの枝葉の天蓋。地面には所々うねった木の根が見えている。

 

 

「どこだ、ここ」

 

 

口をついて出た言葉は、誰にも応えられることはなかった。俺の疑問は木立の中に紛れて消える。周囲に人の気配はない。

 

そわり。

 

背筋を通った感覚に無視をした。自分の体を胸上から見下ろす。身に着けているのはどうやら制服。着慣れたシャツと、黒いズボン……ポケットには何もない。周囲を見ても、カバンやスマホは落ちていない。どうも着の身着のまま、身一つで森の中に寝ていたようだ。

 

 

 

……ああ、思い出してきた。

 

 

 

転生だ。転生した。

 

確か、そう。登校中に歩道橋を渡っていたら、何故か車に跳ね飛ばされて、話の通じないカミサマに転生させられたんだった。

 

そうだ、俺、死んだんだったな。

 

ひう、と風が吹いた。肌を舐めるぬるい風に、少しだけ肩を竦ませる。地面についた掌が、無意識に地面を引っ掻いた。

 

 

「……とりあえず、動こう」

 

 

俺はそう言って立ち上がる。明確な目的があったわけじゃない。ただ、何かをしないと見知らぬ場所に一人きり、という心細さを誤魔化せなかっただけだ。

 

瞳を閉じて大きく一度深呼吸をする。肺いっぱいに植物のにおいが入り込んで、ちょっとむせた。

 

 

「ウエッ、ケホッ、ゲホッ……ククッ、あー馬鹿っぽ」

 

 

苦笑いが漏れたが、いい感じに肩の力が抜ける。

 

持ち物無し。サバイバル経験無し。今いる場所も不明。見知らぬ森でソロぼっち。転生先すら聞いてないから、ありがちな魔物やらとの戦闘にも警戒が必要かもしれない。改めて、一介の日本男子学生にはハードな展開だよな。せめて転生先の説明は欲しかった。

 

しかし、どうあれ今は生きている。気負いすぎても現状が変わるわけでもない。自分のペースを崩さずいこう。

 

そう俺は自分に言い聞かせ、早足に森の中を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

すぐに木の根っこに足ひっかけてこけた。ゆっくり歩こうと思う。

 

 

 

 

 

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