転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~ 作:KNa\
濃ゆい緑が生い茂る、少し薄暗い森の中。樹上から漏れ射す光からすると、少なくとも正午を大きく外れてはいないと思う。
『―――いやそこ以外を説明しろよ!?』
そんな大きな声が鳴ったのが、今から体感三十分程前のこと。つまりこの俺、
「やっぱり、森だなぁ」
ゆっくりと転ばないように進みながら、俺はすでに分かりきっていた事を呟いた。目を覚ました時点から、しばらく歩いた今も、俺を囲むのは木々の群れだった。時折動物らしき鳴き声は聞こえてくるが、姿は見えない。
「んー何も見つからん……」
一度立ち止まり、背中を木に預ける。ここまでなんと無しに歩いてきたが、流石に運任せが過ぎることに思い至ったからだ。目覚めてからこっち、緊張と不慣れな森歩きが続いていて、のどの渇きも無視できない。
「とりあえず目的決めよう、それがいい、うん」
人は寂しくなると独り言が増えるというが、俺もその例に漏れないらしい。応えてくれる相手もいないので、自分一人で会話をする。
ふぅ、と一つ息を落として。落ち着いて周囲を見渡してみる。とはいえ風景は変わらない。辺りに有るのは木。木。木だ。森の木は殆ど同じ種類なのだろう。見た目に大きな差異は無い。
目から入る情報はそんなもの。次に俺は、瞳を閉じて聞こえる音に集中してみた。暗くなった視界の中、最初はかすかに、しかし次第に聴力へと意識が移る。風の音、木の葉の音、何かの鳴き声、そして――
「―――が・・ろう」「・・・よぉ、・・何も・・・ぉ」「ハイ・・、
俺の耳に、環境音とは程遠い音が届いた。
「……声!もしかしなくても人か?」
ぱちっ、と瞼を上げる。不明瞭だが確かに人らしき声が聞こえた。詳しい内容までは聞き取れなかったが、少なくとも二、三人はいると思う。
森の音を拾うのは難しく、彼ら、あるいは彼女らが俺の後方にいる、ということくらいしかわからなかったが、そこまでわかれば十分だ。
降って湧いた希望に対し、さて、ここで俺が取れる選択肢は三つ。
一つ。大声で呼びかけながら俺から向かう。
これが一番楽だと思う。大まかな方向はわかっているし、会話が聞こえたということは、少なくとも音を使ってコミュニケーションが取れるはず。断片だったが意味が分かる単語もあったので『異世界転生~俺一人だけバベルの塔崩壊後。異世界で一から言語習得~』とかは無いはず。ご都合転生最高かな?
二つ。声は出さずにゆっくり音のほうへ向かう。
これは「俺にとって相手が敵だった」を想定した場合のもの。例えば声の主が人間に友好的じゃない種族だとか、
三つ。ステルス尾行作戦。
これは超ハイリスクハイリターンの案。上手くすれば森から出て、人の住んでる所に行ける。相手の様子を観察できれば、この世界の雰囲気もある程度はわかるだろう。相手が敵だった、という事態も見つからなければいいだけの話だ。ただしストーキングはれっきとした犯罪である、バレて怒らせたらシャレにならん……何より、俺は素人である。尾行もそうだが、森歩きだって慣れていない。九分九厘失敗すると思う。
最後に、声を出さず音に向かわず己を信じて森を出る、という方法は却下である。たかが数十分歩いただけで心身ともに疲れていたのだ、わざわざ目の前に垂れた蜘蛛の糸を、自ら切り捨てる選択肢は無い。
まぁ、脳内でこうして御託を並べる意味もないだろう。選ぶ選択肢なんて最初から決まっている。俺は木から背中を離し、体を大きく動かしながら、勢いよく息を吸いこんだ。
「ウェッッッ!!ゲッホ、ゴホッ!!」
植物のにおいで大いにむせた。学ばない俺である。森林浴には向かない体らしい。
気を取り直して、息を整える。次はむせないようゆっくりと息を吸い込み、声を吐き出した。
「すいませーーーーーん!!!助けてもらっていいですかーーーー!!!」
できるだけ大きく、まっすぐ、ハッキリと、小学校時代に挨拶運動で習った声掛けの基本だ。義務教育だぶりゅーあいえぬ。勝ったな、ガハハ。
・
・
・
「どぼじでごんなごどに……」
どうも、意気軒昂に、意気揚々と声の主たちに助けを求めた俺だ。現在俺は前に出した両手を硬い手錠とロープで拘束されて、前を歩く鎧姿のごっつい男の後ろを牽引されている所だ。ちなみに前の男に比べると幾分か軽装の男女二人が、それぞれナイフと小弓を片手に装備して俺の左右についている。
少なくとも我が国に『未成年を拘束しながら武器で脅して歩かせてよい』という法律はないはずなので、ここは日本ではないらしい。武装がどう見てもナーロッパなので外国でもなさそうだ、なので推定異世界だろう。挨拶運動は異世界にて最弱。義務教育えるおーえすいー。
「誰が見ても通りすがりの無害な一般人だったと思うんだけどなぁ」
お前は何故こうなっているのか?と問われれば、俺は何故こうなっているのか?と聞き返す事態に陥っている。なんで俺は犯罪者よろしく両手にわっぱをかけられているのか。今少し思い出してみよう。
大声を出して助けを求めた俺は、結構早くに目的の声の主たちに出会えていた。こちらの声は彼らにもきちんと届いていて、お互いに声の方向へと進んでいたらしい。大体二分弱で俺は男二人女一人の三人組に出会うことに成功したわけだな。
彼らの第一印象はざっくり言えば『創作物の冒険者パーティ』だ。頑丈そうな鎧の大男。ちょっと軽薄そうな外套の男。癖毛ショートの勝気っぽい女。ここに老練な武闘家とか、堅物魔法使いとかいた日には、第一声が「すいません、一枚良いですか?」だったたかもしれない。撮る物は持ってないけど。
俺はそんな有名人に街中で出会った時のような言葉は我慢できた。しかし、ポロっと本心は漏れた。『うぉ、冒険者だ』ってな。心細さの中で人に会えた喜びと、目の前に転生モノっぽい存在が出てきたから、ソワってなって言っちゃた。
そしたらもう、すごい速さで質問→回答→拘束の流れって訳よ。なんでやろなぁ。『なぜここにいる?』とか『目的はなんだ?』とか『ここで何をしていた?』とか『どうやってここに入ってきた?』とか、聞かれたことにも正直に答えたのになぁ。
まぁ回答全部『何も知らない、気が付いたらこの森で寝てた』だったんだけど。
うーん、怪しさ採点10/10/10で満点ですね。思い返したら当然の扱いな気がしてきた、拘束もやむなし。
そんなこんなあって、今俺はこうなっているわけだ。一応拘束されてからも、現状確認のために会話は試みている……が、しかし、前を歩く鎧の男は元々そういう質なのか知らないが、俺が何か聞いても、あまり答えたりしてくれない。返しても「いや」「ああ」「だめだ」の三種類だ。botか何かでいらっしゃる?とりあえず大剣背負ってるから仮称セイバーで。
そして俺の隣、女の人も口数は少ない。ただ彼女に関しては俺を警戒・観察してるんだろうなって感じがする。だって彼女だけ俺への敵意が凄いし。ちょくちょく矢の先が俺の頭向いててコワイ……まぁ弓持ちってんなら仮称アーチャーとかでいいか。
前を歩くセイバーと、隣を歩くアーチャー……ラノベなら無口系リーダーと、ツン系ヒロインなんだけど、ここまで二人に俺から話しかけて得られた情報は、俺がすこぶる怪しすぎるってのと、連行先で審判をくらうらしいって二つだけだ。ラノベの主人公ってコミュ力高かったんだな。と思う今日この頃。
「やっぱり第一声が良くなかったんかな」
「【
しかし、俺をガキ呼ばわりしている男は二人とは別だ。深緑の外套を纏っている彼は、ナイフこそ構え続けてるけど結構こっちの声に返してくれる。ナイフ持ちなのでとりあえず仮称はナイファー。
「だって目ぇ覚めたらここで寝てたんだもん、仕方なくない?」
「誰が信じるんだよソレ、ここ禁区だぞ、入るだけで教会から罰則食らうわ」
ナイファーの口から、協会、禁区のワードが出てきた。なるほど宗教的な場所なんだなココ。
俺からの敵意が欠片程も無いからか、ポロポロ異世界ワードを落としてくれているナイファー。軽薄そうな見た目だが、実はかなり強いのではないかと思っている。あぁいや、俺に武術の心得とか体育の柔道くらいしか無いから、力量が読み取れるとかではない。判断材料は別のものだ。
「でもそっちは入ってるじゃん、やーい禁区破り」
「俺らは
おちょくる俺を、そうやって怒鳴りつけるナイファー。彼の首元には、ちらっと金属の板が見える。銀色の……ドッグタグ?だっけ、そういうやつ。多分認識票ってやつじゃないか?一応確認のためにアーチャーも見てるけど、そっちも同じ銀色のタグが首元にかかってた。セイバーは前を歩いてるから確認できないけども。今出た
「依頼受けてってことは、結構ナイファーさんたちは強い感じ?」
「ナイファーって俺のことかよ……ま、そうだな。俺らのパーティは全員が
否定しないってことは俺の想定で合ってそうだな、順当に考えたら
「ほーん、一番上か。強いねナイファーさんたち」
「いや三番目だろ……まぁ、
「なんだ、一番じゃないんだ。じゃあいいや」
「何がいいんだガキコラ、言っとくが
ナイファー、やはり人が好い。俺だったら年下がこんな口の利き方してたら、普通に悲しくなって言葉少なくなるもん。同級生くらいの感覚で喋れるのありがたい。いろんなワード教えてくれるので二重にありがたい。
「有名ならサイン欲しいな、ください。ホラ早く、はりーはりー」
「誰がするか!拘束中に
「そこは……ほら、血文字とか。俺の白い服ならよく目立つと思うし?」
「ヤに決まってるだろ血文字とか、
「ねぇ喋りすぎ。コイツ一応禁区侵入者だからね?」
俺とナイファーがやいのやいの言い合っていると、逆サイドのアーチャーがピシリと冷たい声で割って入ってきた。声につられてそっちを見ると、なんと俺にむけて矢を番えている、しかも引き絞っている。お喋りで浮かれかけてた血液が、アーチャーの声色みたく冷え上がった。脅しじゃないこれ、目がマジだ。
「―――ああ、すまん……けどよ、話しててわかるけどコイツただの世間知らずの物知らずっぽいぜ?そこまで警戒いるか?」
「油断しすぎ、確かに弱くて力も無かったけど、この状況でこの胆力……何かあってもおかしくないわ」
「そう言われるとまぁ、わからなくもねぇがよ」
「それにさっきから私たちの事を脅威と思ってないどころか、若干舐めてる節がある、気を引き締めなさい」
アーチャーはそう言って俺を睨み付ける。もちろん照準は向けたまま。ナイファーも、俺に付き合って喋りすぎた自覚はあったらしく、言葉に従って口を噤んでしまった。俺だってさすがに脳天を射貫かれそうなまま話しかける勇気はない。しずしずと、おずおずと、両手の手錠に繋がれたロープに従って歩く。
ナンデ!?ナンデアーチャーさっきより殺意高いの!?俺何かした!?
1.ちょっと禁区とやらの中にいて。(配点2)
2.聞かれたことに全部『気が付いたらココに居た』って答えて。(配点2)
3.捕まったまま緊張感なくお喋りしてて。(配点2)
4.たまにおちょくった発言しながらナイファーと話して笑ってたけど!(配点2)
5.ちゃんと逃げずに付いて歩いてきてたじゃん!!(配点2)
減点式評価:1.減点/2.大減点/3.減点/4.大減点/5.減点無し
合格基準点数:7/10 以上
評価点数:4/10▶基準未達につき不合格
……思い直すと結構何かしてた。謝るから許してほしい。そんな心中がアーチャーに伝わるはずもなく、重苦しくなった空気の中で、俺たちは森を歩き続けた。喉乾いたから水飲みたい。
はぁ、と溜息を吐き出した。死亡して、異世界転生から、即拘束と来て、これから俺は一体どうなってしまうのか……流石に二度目の幽霊は勘弁願いたい。アレマジで暇だから。
これからの行く末を思うと、少しだけセンチになる俺だった。