転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~   作:KNa\

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03異世界初の珍道中、都合により全カット

 

 

歩いていた。昼の木漏れ日を受けて歩いていた。

歩いてきた。森を抜けて光に目をすがめて歩いてきた。

歩んできた。傾き始めた陽を受けて裸の道を歩んできた。

歩き着いた。足が棒になった日暮れにやっと歩き着いた。

 

街に、休める場所に……!

 

 

 

 

 

 

「御立派ぁ、ですねぇ……ここが何なのか知らないけども」

 

 

 

やぁどうも、俺だ。流石にずっと歩きっぱなしで疲れていた宇井(うい) 出稲(いずな)だ。ドナドナされる牛の気分で歩き続けてから五時間程、俺と三人組のパーティは森を抜け、森を囲うような大きな塀を超えて、そこから更に歩いて大きな街辿り着き、その街の中の、神聖さを感じさせる大きな建物の前へとやって来た。今はその建物の前に設置されてるベンチに三人で腰かけた所。ちなみに俺が真ん中。

 

 

「何って教会だろ、来た事ねぇのかお前?」

 

「無いねー。生まれてこの方無いねー」

 

日本で神社とかお寺とかなら修学旅行とかで行ったこともあるけれど、教会は未経験だ。遠目に見ることはあっても、入る用は無かったし。

 

とはいえそんな俺ですらわかるくらいに、この教会には真白な様相だけでは説明のつかない、厳かな雰囲気というものがある。やはり異世界だからか、本物の神様がいるのかもしれない……いや、いるだろ多分。俺をここに転生させたカミサマ()がいたわけだし。

 

 

「いや、そんなん有り得ねぇ……筈なのになんっかマジっぽいんだよなぁ……どこの生まれだよホント……」

 

「当たり前じゃん、オレ、ショウジキモノ、ゼンブホントウ……アッすいませんアイナさん。もうふざけません」

 

「最初からそうしなさい……ったくもう、レインもレインよ、教会の前なんだからシャキッとして」

 

「イズナのせいで俺にとばっちり来たんだが?……ギーツ、早く戻ってきてくれよー」

 

 

俺とナイファー……レインのおふざけに対して、アーチャー……アイナさんに弓を向けられる流れも、今やお決まりになっている。もうこれ打ち解けたと思ってよろしいか?よろしいだろ、もう拘束とかされてないし、名前も聞けてるわけだし。

 

何でここまでフレンドリーな感じまで持って行けたのかといえば色々あったのだ。喉の渇きが限界になって水をお願いした事から始まって、審判を受けるにしても罪を知らなければ公正じゃないと屁理屈かまして弓を向けられたり、暇だから【天意(てんい)の森】と教会とか禁区について聞いてみたり、森の出口で名前を聞いたら弓を向けられたり、森を囲む塀を超えた付近で魔物(まもの)(と呼ぶらしい動物)の奇襲から無駄にアイナさんを庇ったり、街を目指すときに野盗に出会って四人で協力して追っ払ったり……まぁ、色々あったのだ。色々。

 

ベンチに座っている今は、俺の審判とやらの順番待ち中である。現在はセイバー……ギーツさんが一人で教会に入り、対応できる偉い人にお伺いをかけに行っていて、俺たちは三人とも外で待っている状態。なんで偉い人が関わってくるのかは、レインに聞いても『守秘義務だ』っつって教えてくれなかった。

 

守秘義務なら仕方ないので、待っているのが現在の状況だ。ただ待つのは暇なので、レインとアイナさんからパーティでかつて苦戦した戦いとかを聞いてみることにした。

 

選ばれたのは、複数パーティ合同で挑んだ迷宮(ダンジョン)浅層に現れた巨大なボスの話。冒険者組合(ギルド)から近隣に滞在していた冒険者(ハンター)全員に、討伐への最大限の協力が要求された強制依頼だったらしい。当時はまだ赤銀級(シルバー)の一つ下、青銅級(ブロンズ)だった三人の話は、のっけからもう面白い。迷宮(ダンジョン)とかボスとか冒険者(ハンター)とか、気になるワードが盛り沢山のストーリーを、生き証人二人の口から語られるのだ。夢中にならないわけがなかった。

 

経験者の口から臨場感たっぷりに放たれる、手に汗握る話に心を躍らせているうちに数十分は経っていただろうか、いつの間にか教会から出てきていたギーツさんに肩をたたかれ、こう言われた。

 

 

「アイナ、レイン、そしてイズナ。許可が出たから付いてきてくれ」

 

「ん、わかった。行くわよ二人とも」

 

「あいよ。ほれイズナ、行くぞ」

 

 

そういって立ち上がるレインとアイナさん。先ほどまで冒険の話をしてくれていた時は、テンション高めに語っていたのに、切り替えの早さは流石というべきか。しかし俺はまだ満足できていないのだ。どう考えても今からが良い所、冒険の山場だ。これだけ待たされたんだし、向こうも数分くらい待たせたって良いだろう。

 

 

「えー、まだ死骨大騎兵(デッドスキャバー)討伐のラストシーン聞けて無―――」

 

「あ、イズナ?教会に迷惑かけるなら、三つくらい穴開けるから。気を付けてね?」

 

「ハイ!スグウゴキマス!」

 

 

―――お忙しい教会の人を待たせるなんてとんでもない。俺は人を待たせるのが嫌いなのだ。決してアイナさんの脅し文句にビビった訳ではない。弓の射線が俺の下腹部に向いていたことは関係ない。

 

誰にでもなく心中で言い訳を並べた後、俺は一人残って温めていたベンチから立ち上がり、三人の後を急いだ。

 

 

 

 

 

三人に続く形で教会の中に入り込んだ俺の目についたのは、入ってすぐの扉の先にある広場だった。外開きに開かれた扉は大きく頑丈そうで、その先の広場……聖堂、というのか?その中には沢山の人がいた。少なくとも十数人くらいが一様に最奥にある大きな像へ体を向けていた。夕方になってもこんな人数が訪れるとは、熱心な信徒がずいぶん多いらしい。

 

ギーツさんについて歩く俺たちは、そんな祈りの満ちた聖堂を素通りして少し横の位置にある階段へと進む。地下へと続く階段だが、人二人がすれ違うのには十分な余裕と、等間隔に壁にかかった明かりがあった。一応幅を取らないように、ギーツさん、俺、アイナさん、レインの順で降って行く。

 

カツンカツン、カツンカツン。四人分の足音を鳴らして、少し長い階段を抜けると、肌寒さと少しの息苦しさを感じる円形の空間に出た。地下室らしく、閉じきった場所ゆえの閉塞感はあっても、子供が思い切り飛び跳ねられる程度の広さはあって、狭苦しい感じはない。

 

そして円の弧、空間の奥まった所に、金属製のドアが左右と中央とに三つ、はめ込まれていた。速度を落とさず進んでいたギーツさんは、中央の扉の前で立ち止まり、俺の方へ向き直る。

 

 

「イズナ。この扉の先に行け。俺たちはここで待っている」

 

「え、俺一人で?」

 

「そうだ。そういう指示だからな」

 

「えぇ……」

 

 

突然そう言われたが、そういえば俺はここに何らかの審判を受けに来たんだったと思い出す。ギーツさんは言葉の後に扉の前から退いて、俺の後ろに回って仁王立ちする。伝えることは伝え終わった。ということだろうか。

俺は少し心細くなり、ちらりとレインやアイナさんのほうを振り返る。二人とも少し何かを考えている顔をしているが、声をかけてくることはしない。

 

どうやらこの先に進むのも、緊張しているのも俺だけみたいだ。衆目皆無な地下室で審判を受けるなんて、疑念と不安しか無いんだけども。

 

そんな不満げな感情が顔に流れていたらしい。俺の表情を見たレインが、一拍呼吸して口を開いた。

 

 

「あー、こりゃあ独り言だがよ、聞かれた事に正直に答えれば大丈夫だろ、今回の依頼は想定より楽だったし、イズ……監視対象に明確な危険性はなさそうだし、結構すぐすむんじゃねぇか?あぁ、いや。これは独り言だが」

 

 

まことにひどい大根役者だ。あまりの棒読みぶりに一周回ってそういう演技かと思うくらい、あからさまに俺の目を見て、レインは独り言を向けてきた。見て見ぬふりが出来ない男だと、ギーツさんに聞いていた事を思い出す。

 

 

「ちょっ、レイン!?……はぁ、まぁいいわ。これは愚痴だけど、砕けた口調過ぎるわね。偉い人の前だとよくないから控えなさ……控えた方がいいと思うわ……と!く!に!教会の人には丁寧に!……まぁ、私たち相手なら、聞き流してあげるけど」

 

 

レインの様子を見て、少し慌てたアイナさんだったが、すぐに一つ嘆息して、まっすぐこちらを向きながら、俺への愚痴を吐き出した。何かを誤魔化す時の彼女は、髪の先端を弄る癖があるのだと、道中でレインが俺にバラしていた。

 

 

「……俺からいうことは何もない。イズナ……対象におかしな思想や攻撃性が無い事も知っている。気を張らずに行けば問題ないだろう」

 

「それ、助言かよ?」「それ、助言かしら?」

 

「……いや、ただの事実確認だ」

 

 

伝えることは伝えたと、ギーツさんは二人の言葉をさらりと流し、俺と合わせていた目を離して、再び仁王立ちの姿勢に戻る。ふん、と鼻息を一つ鳴らすのは、気恥しかった時なのだとアイナさんから教わっている。

 

 

「ふは、露骨すぎでしょ皆……ありがとう。行ってくる」

 

 

笑いが漏れて力が抜ける。一度三人の顔を見直して、俺は目の前の扉を押す。重そうだった金属の板は、キィ、と軽い音を立てた。

 

 

「お邪魔し……失礼します」

 

 

扉をくぐった俺は、できるだけ丁寧なあいさつを心掛けて中へと進む。部屋の中は両開きのタンスの奥行きを伸ばしたような、縦長の長方形のつくりになっていた。中央に簡素な丸机を挟んで、手前と奥に椅子が二脚、向かい合うように設置されている。そして奥の椅子には既に一人、柔和な笑みを浮かべた神父服の男性が、座って俺を待っていた。

 

 

「あぁ、よく来たね。そこにかけてくれるかなイズナ・ウイくん」

 

「あ、はい……」

 

 

促されるまま、俺はその人の対面の席に座る。俺の名前を知ってるのは、まぁギーツさんが報告したのだろう。別に名前くらいなら知られたって良いので構わない。そも依頼のほうが優先なのだし当然だ。しかし困る。俺はこの人の名前を知らないのだが……丁寧な対応の時って、俺から名前を聞いて良いのだろうか。

 

そうやって少し逡巡する素振りをしていると、こちらの心を読んだかのようなタイミングで男性が口を開く。

 

 

「……あぁ、失礼。一方的な認知というのは良くないね。僕の名前はズィール。ズィール・クロスロード。気軽にズィール神父とでも呼んでください」

 

「これはどーもゴテイネイ、に?……えっと、出稲(いずな)宇井(うい)です……名前がイズナで、えーと……」

 

「姓がウイ、だね。ギーツくんから聞いているが、伝えてくれてありがとう……イズナくん、と呼ばせてもらっても?」

 

「あ、それでだいじょぶです。ズィール神父……さん?」

 

「ふふ、ズィール神父で良いですよ。イズナくん」

 

 

神父服の男性改めズィール神父は、優しくゆったりとした喋り方で、俺の目をまっすぐ向いて話しかけてくる。それが何というか、どうにも子ども扱いを受けている気分になって妙な心地だが、不思議と嫌味な感じは全くなかった。おかげで強張っていた脳内言語野も少しは緊張が解けたようだ。

 

 

「あの、つかぬことを聞くんだ……す、けども、おいくつです?」

 

 

緊張の解けてきた俺は、ズィール神父にそう質問した。それを受けた彼は一瞬、ポカン、と口と目を開いて俺のほうをじっと見つめる。いや、だって仕方ないじゃん、引っかかったのそこだし。

 

さて、俺が気になったのはギーツさんの呼び方に関してだ。ズィール神父はギーツさんのことをギーツくん……そう、ギーツくん呼びしたのである。冒険者(ハンター)歴21年。御年34歳になるあのパーティの最年長者であり、現在赤銀級(シルバー)の大ベテランを、くん付けで呼んでいることに俺は驚いていた。

 

緊張が解けて最初に聞くのがコレ、というのもおかしな事なのだが、気になったのだから仕方ない。というのもこのズィール神父、どうも年齢がつかめないのだ。服装で肌の露出が少ないとはいえ、机の上で組まれた手や、照明の明るさでよく見える表情は、風呂上がりのケア後の母親よりも若々しい。どう見積もっても二十代前半が精々だ。有体に言えば高校卒業後のOBのパイセンと変わらない年に見える。

 

 

「……ふ、ふふっ……年齢(とし)年齢(とし)かあ。まさかそれを聞かれるとは思ってなかったな……君は結構愉快な子だね、イズナくん?」

 

「そうっs、ですかね?すいません……」

 

 

そういってくすくすと、ゆるく握った片手を口へ当てて笑うズィール神父。どうやら怒ってはいないようだ。むしろ先ほどまでよりこう……自然な笑みというか。彫刻のように、狙って作られた綺麗な表情からは、外れているように見えていた。まぁこれは俺の主観でしかないんだけども。

 

ただ、思わず謝った俺に対して向けられたその視線が、遠方に住んでいた祖父を想起させたのは確かだ。俺を観察していると言うよりは、目の中すべてに俺の体を捉えているというか。そんな感じだ。

 

 

「あぁ、いや、悪いわけじゃないよ。むしろ報告で聞いていた通りの良い子だと思っただけさ……僕の年齢、だったね。今年で68歳だよ。年嵩に対してどうにも貫禄が足りないのは、悩むところだったりするね」

 

「はぇ?……え!?68っすか!?若っか!!」

 

「ふっ、くっ、くふふ……良い反応を返してくれるね。なんだか新鮮だよイズナくん」

 

 

俺がズィール神父の変化を観察していると、予想外、いや予想超過?な回答が飛んできて、思わず叫んでしまった。いや若すぎだろ……しかし、答えてくれた人に対してこの反応は、スゴクシツレイ。にもかかわらず、俺のリアクションに対して、ズィール神父はカラカラ笑って目を細めている。気分を害した様子は微塵もない……う、うーん?許された……?

 

 

「ふふふ……あぁ、仕事中こんなに笑ったのは久しぶりかもしれない……ふぅ、気を取り直して、イズナくん」

 

「あ、はい。なんですか?」

 

「今から君に質問をしたいと思う。一応僕もお仕事だからね……審判に呼んだ子に先に質問されるのは初めてだったけど」

 

「ッ……わかりました」

 

 

そういえばそうだった。質問するの俺じゃなかったわ。と、言われて思い出した。この場合は思い至った、か?まぁいいやそれは。ともかく、質問に答えてくれたズィール神父は、居住まいを正して俺の瞳をまっすぐに射貫く。場の雰囲気が変わったのが、ピリ、と体に静電気が走ったような感覚で理解できた。

 

先ほどまで僅か出ていた好々爺っぽさが消え、再び年齢不詳のシリアスな雰囲気に飲み込まれた。俺は今から審判を受けるのだと、そういった実感が徐々に爪の先から凍みていく。腿の上に置いた手が、ぎゅっとズボンに皺を作った。

 

 

「ごめんね。大仰に聞こえてしまったかな。なに、難しいことは何もないよ。僕が聞くことに答えてくれれば良いだけさ」

 

 

優しい言葉、優しそうな笑顔でニコリ、と笑うズィール神父のその顔は、再び作られた彫像のような表情へと戻っている。

 

 

どうやら、俺の異世界生活は、ここから本番が始まるらしい。

 

萎縮しそうになる心を奥歯に挟んで嚙み潰し、俺はまっすぐズィール神父を見つめ返す。俺一人なら、きっと震えてガチガチになっていたかもしれない。……でも、と俺はドアの外で、三人に貰った言葉を思い出す。一人じゃないと覚えている。

 

俺の様子を見たズィール神父が、少しだけ、ほんの一瞬だけ、祖父のような瞳に戻った。部活で新しい技術が出来るようになったと、そう伝えた時のような瞳に。最も、すぐにシリアスな目に戻ってしまったのだが。

 

 

 

さぁ、時は来た。目覚めてこっち、五時間も歩き通した目的、異世界飛んで元の世界でも初経験の俺を対象とした審判が、ここに開幕する。

 

 

 

 

 

 

……そういえば結局、何の審判なのか分かって無いんだけども……ホントに大丈夫かな、コレ?

 

 

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