転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~   作:KNa\

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04異世界審判、受けるのは俺

 

 

 

教会の地下にある一室で、向かい合って座る二人の影。地下室だけあり窓はなく、時計のようなものも置かれていない。部屋の中にあるのは簡素な丸机と、机を挟んで向かい合わせに設置された二脚の椅子、そして椅子に座る二人の人間だけがいる。地下というのは、年間を通して気温の変化が少ないのだと、どこかのテレビ番組で見た覚えがある。だから少し肌寒い感覚は、太陽が沈んだ合図でないことは確かだ。

 

 

 

 

 

現在時刻は不明なまま、ピリついた雰囲気の地下室よりどうも、俺だ。宇井(うい) 出稲(いずな)だ。現在俺は年齢不詳(68)のズィール神父と二人きり、対面に座して審判の開始を待っている状態だ。誰の審判って?俺のだよ。

 

心の中を鎮めるために、ごちゃごちゃと考えていると、さっそくとばかりにズィール神父は話を切り出した。

 

 

 

「うん、どうやら心の準備を待つ必要はないようだね。では、いいかなイズナくん?」

 

「……はい、大丈夫です!」

 

 

俺は負けん気、あるいは空元気ではっきり返事をする。審判の内容は不明だが、俺に過失は……まぁ禁区にいたことくらいしかない。正直に答えれば何の問題もないはずだ。そうやって俺は自分を鼓舞しながら、ズィール神父の言葉を待つ。ピリピリとした雰囲気がさらに強くなって肌を刺す。強張りそうになる体を努めてフラットに保とうとする。

 

 

「そうか、では……《今から私が許可するまでは、私の言葉に嘘偽りなく、「はい」か「いいえ」、もしくは「わからない」の三つでこたえなさい。了承するのなら「はい」と言いなさい》」

 

 

心中では抗っても、身体は緊張状態のままなのか、耳の中に響くズィール神父の言葉に、ズキンと喉に張り付くような、妙な感覚を覚えてしまう。しかし今更逃げるわけにもいかない。むしろ今逃げたらきっと、レインやアイナさん、ギーツさんにも迷惑がかかる。それは俺の本意ではない。俺はこの後、今度はギーツさんを含めた三人から死骨大騎兵(デッドスキャバー)討伐戦の話を、あわよくば他の話を聞いてやるのだ。その為にはまず、この審判を乗り越える必要がある。

 

フゥー……、と口から淀みを吐き出して、俺は意を決して口を開いた。

 

 

「《はい、wa》……!?」

 

 

わかりました。というつもりだった俺の口は、二の句まで告げずに停滞する。まるで気道に言葉が詰まったように。

 

 

「《よろしい、では審判を始めます。了承するなら「はい」と言いなさい》」

 

「……《はい》」

 

 

素直にズィール神父の言葉に答えながら、俺は苦虫を嚙み潰したような表情になっていた。出来るなら今すぐ大声で叫んでしまいたい気分だ。成程、これが異世界流……!!

 

 

 

俺は無意味に口を開いては閉じる。舌をくねらせ、声帯を開閉する。空気を飲み込み、胃を縮めてまで音を出そうと模索する。

 

 

 

しかし、出ない。

 

 

 

音は、出ない。

 

 

 

まったくもって、声が出ない。

 

 

 

 

 

俺の意思に反して、俺の行為に反して……俺の口は発声のハの字はおろか、ゲップのゲの音も発せなくなっていた。眉根と口を歪め、眉間に縦皺を刻みながら、俺はズィール神父を見る。いや、睨む。

 

 

「うん、気づいたみたいだね、イズナくん。すまないが、魔法で君の発言を縛らせてもらっているよ。教会における審判とはこういうものでね……語彙を限定することで、曖昧な、半端な言い回しを封じているんだ。最も、相手の了承を得られなければ、この魔法《言処契約(オーストレクト)》は発動しないけれど……《この説明で納得できたかな?》」

 

「……《はい》」

 

「うん、素直なのはやはり、君の良いところだイズナくん。こんな形をとった僕の言うことじゃないけれどね。《さて、質問を続けてもいいかな?》」

 

「《はい》」

 

 

説明なしの騙し討ちが教会のやり方なんですね。とか、語彙を限定したら聞きたいこと以外の情報取れないでしょうに。とか、魔法ってすげーワクワクするんですけど俺にも使えますか?とか、言いたいことは色々あれど、俺の言語は結ばれない。最初に言われた三つの語彙「はい」「いいえ」「わかりません」、それだけが現在取れる選択肢のようだ。しかもこれ、椅子から腰が上がらん上にズィール神父が質問しないと、三つの語句すら出てこないんですが?ちょっと有利不利が出過ぎとちゃいます?

 

動かせるのが脳内言語と表情くらいしかない俺が、脳内でエセ関西弁をかましている間に、ズィール神父は言葉を進める。

 

 

「ふぅ、ちゃんと僕の魔法が効いてくれてよかったよ、異世界から転移してきた【勇者】には、魔法に高い耐性があったらしいからね。《では次に、君は目が覚めたら【天意(てんい)の森】に居て、尚且つそれは自分の意思では無かった。これは本当かな?》」

 

「《はい》」

 

 

ズィール神父の質問に答えながら、俺は頭の中で思考を回す。俺程度の脳を回したところで、何か痛痒を与える方法を思いついたりはしないんだけど、これしかできることがないから仕方ない。

 

そうやって半ば諦めの境地でいる俺だ。しかし色々と気になることが出てきた。【勇者】、転移、魔法耐性ときたものだ。レインたちとの会話で、過去に勇者と呼ばれた人物がいたことは知っているが、この対応を見る感じ本当に【勇者】が居たらしい。そして教会としては【勇者】の情報は出自まで把握している……と。

 

 

「報告とも齟齬は無いみたいだね。では《イズナ君は神に……いや、神、神に連なるもの、または神に比する存在を信じているかな?》」

 

「《はい(上位っぽい存在を含めるなら、一応?)》 」

 

「……何か間がおかしかった気がするが、ただ嘘はなさそうだし、良しとしよう。《では、神、神に連なるもの、または神に比する存在と対面したことはあるかな?目に御姿を写したことがある場合でも「はい」と答えてくれ》」

 

「《いいえ(見てもない、むしろ会えてたら一発殴ってる)》」

 

「いいえ……?そ、そうか。謁見しない場合もあるのかな……?《では、君は【勇者】としてこの世界に来たのかな?》」

 

「《いいえ(なーんも聞かされずに転生させられました!)》」

 

「いいえ!?え、そんなことが……いやでも、イズナくん素直に言ってくれてるし、《魔力抵抗(レジスト)》も若干しかされてないしな……」

 

 

なんか素直に(イラつきを含める感じで)答えてたら、ズィール神父が困惑しだした。もしかして、俺の転生の仕方って何かおかしかったのか?いや、死んだあと幽霊になって転生してるのがおかしいっちゃおかしいんだけども。

 

思い返せば、俺はあのカミサマ()に転生って聞いてたけど、俺の体は地球時代のまんまである。目線の高さから歩幅、ちょっとした運動も違和感なしに問題なくこなせている。俺の体は血染めの筆やら現代R-18Gオブジェに成り果てていたし、ふざけたTipsを挟んできた前後の感覚で肉体を作り直したっぽいのも理解しているが……異世界で新しく作った、元の俺と全く同じ肉体に入ったとなると、転生なのか転移なのか微妙なところだな?……一応転生か、カミサマ()がそう言ってたんだし。俺は異世界転生してるのだ。

 

 

「うーん……【勇者】じゃない、か……そうだね《イズナくん。君は神、神に連なるもの、または神に比する存在から、何か為すべきことや使命、目的などを受けていたりしないかな?》」

 

「《いいえ(聞いてもなんも教えてくれなかったすねぇ!)》」

 

「これもいいえ!?!?!?なんで!?!?!?!?」

 

 

おおう、ズィール神父が、あの柔和で落ち着いてて、少しお茶目で上品な笑いをするあのズィール神父がご乱心であらせられられら。目を白黒させながら頭を抱えて唸ってらっしゃる。これ相当予想外な事になってるんだろうなぁ(笑)。一杯食わされた側なのでちょっと溜飲が下がる思いだ。

 

しかし、ズィール神父をみてほくそ笑んでいたものの、これで俺自身も俺のことが分からなくなってきた。森をぬけての道中の会話で、【天意(てんい)の森】の伝承とか、【勇者】の話を聞いていて、異世界転生モノによくある勇者モノかと思ったが、どうやら俺は勇者じゃない。それにこの世界は冒険者(ハンター)職が英雄扱いされるくらい戦闘なんかが身近っぽいからスローライフ系統でも無さそうな……どういう世界観なんだこれ、そして俺はどういう立ち位置なんだ?転生の理由が欠片も分からなくなってしまった。

 

 

「うーん、うーん……《イズナくん?君は異世界から転移してきたんだよね?》」

 

「《いいえ(転移じゃなくて転生っすねぇ!)》」

 

「んんんん、そっかぁ、違うのかぁ……【勇者】の特例無しで禁区に突然現れた場合って、どういう扱いなんだろう?一般の侵入者は教会罰則なら財産没収からの身柄差し押さえ何だけど……しかしなぁ……」

 

 

俺と同じく色々悩んでいる様子のズィール神父が、ボソッとやばいことを言った。まって、俺捕まるの?

 

 

「うーん。そうだね。イズナくん。《君は禁区への立ち入りが禁止と知った後も、【天意(てんい)の森】に留まろうとしたのかな?》」

 

「《いいえ(いいえ!!)!!》」

 

 

収監エンドは御免被りたいので即答する俺。流石に『異世界転生獄中生活!~いてごい!~』をやりたくはない。

 

 

「おぉ、切実……それはそうか、脅したみたいになってごめんね。僕としてはイズナ君の素直さは嫌いじゃないから、侵入が故意じゃないなら流しておこうかな」

 

 

ズィール神父からお目こぼしを頂けるらしい。さっきまでメタクソに睨みつけてた俺に優しい、天使かな?……天の使いって意味だと神父も天使か。広義で見れば。

 

いてごい!展開を何とか免れ、フゥと一息つく。これ、魔法でズィール神父に語彙を決められてなかったら、俺の潔白証明できなかったんじゃないか?やはりズィール神父は天の使いらしいな……と、緩んだ俺だったが、どうやら審判はまだ続いていたようだ。

 

 

「《イズナくん。これが最後の質問だ……君は、ウイ・イズナは、この世界を壊したい、と思うかな?》」

 

 

はて、おかしな質問だ。しかし先程までと比べて幾分……いや、三倍増しで噛み締めるような重い口調で、ズィール神父は俺に問いかけた。

 

 

「《いいえ(んな訳、こちとらニホン出身ですよ?)》」

 

 

こんな質問、答えなんて決まっている。誰が好き好んで世界を荒らしたいなんて思うのか。俺は嘆息しながら、すぐさまそう答えた。それを聞いたズィール神父はホッとしたように、本当に安心したような顔をして。

 

 

「そうですか。ならば、その心根が変わらないことを、僕は切に祈っていますよ……《これで審判を終わります。私のこの発言以降、貴方への制限は終了されます》」

 

 

彼は、ゆるりと柔和な笑みを浮かべて、俺に向かってそう言った。顔も肌も若々しいのに、ズィール神父のその表情は、昔見た戦争体験を語る、ビデオの中の誰かのようだった。

 

 

「ぁー……あ、喋れる!」

 

 

ズィール神父の様子に気圧されながら座り続けていた俺は、呼吸の拍子にふと声が出ることに気づいた。

 

 

「うん、魔法の効果は解除されたからね。椅子からも立ち上がれると思うよ」

 

「おぉ、ほんとだ」

 

 

言われて俺は立ち上がり、手足をプラプラと振ってみる。審判中の張り付くような固定の名残は全くない。むしろ歩き疲れていた足が回復しているくらいだ。不思議に思って腿をもんだりしていると、ズィール神父が机の下に手を下ろし、何やらごそごそとしている。

 

 

「いや、長らく拘束してしまって、申し訳ないね本当……一応足の痺れなんかは無い筈だよ。よかったらこれでもどうぞ」

 

 

そういって持ち上げた手には、右手に金属製のポットが一つとグラスが二つ。左手にお皿に乗ったクッキーのようなものが乗せられていた。ズィール神父は、それらをそっと机の上に設置する。

 

 

「は?ぇ?あれ?」

 

 

俺は何度も頭を移動させた。机の上から向こう側を覗き、机の下や裏を覗き、次にズィール神父の両手を見に行ったりした。行動の理由は簡単だ。今取り出したそれらが、いったいどこから来たのか気になったからである。

 

この部屋へと入ってきた時から、机の様子は変わらない。簡素な、本当に簡素な一枚板の丸机である。物を入れる厚みはないし、モノを置く場所なんかも付いて無い。立ち上がって見に行ったズィール神父の両手だが、そこにもおかしな箇所はなかった。そもそも彼の着ている神父服に、満足な収納があるように思えない。

 

 

「ふふ、そうか、そういえばイズナ君は魔法については、あまり知らないんだったね」

 

 

ズィール神父はそう言って笑いながら、ポットから二つのグラスに何かを注いだ。匂いからして……あれだ、某バーガーチェーン店の紅茶?に似てると思う。俺は飲まないから名前は知らん。

 

俺が立ち上がっている間に、またもどこからか小さな皿を取り出して、クッキーを数枚小皿へ移し、注いだグラスの片方と一緒に、俺の座っていた方へと置いてくれた。うーん、おかしな箇所はカケラも無いのに、お菓子や紅茶がいくらも出てくる……これが魔法なのか?

 

 

「あぁ、これは僕の個人的な趣味でね。たまにお気に入りのお店で買っているのさ。おかしな物は入っていないよ」

 

「……いや、そこじゃ……ま、いいか。いただきます」

 

 

気になったのは魔法とやらで取り出された物の安全性とかなのだが……俺は勧められるまま席に着いて、焼き菓子に一口噛り付いた。

 

 

一瞬、体の動きが止まる。

 

 

こ、これは………この菓子……!

 

 

 

 

 

 

 

いやマジでバカ美味いんだけど!?

 

その菓子は美味すぎた。俺は言葉も忘れて焼き菓子を掻き込み、グラスの中身を一息に干す……が、その飲物もまた美味かった。食後の余韻にため息しか出なくなるくらいには。

 

 

「……はぁー……」

 

 

俺がお菓子と飲物の余韻に浸りつつぼーっとしていると、ズィール神父がややしょんぼりとした声で話しかけてくる。

 

 

「うーん。やはり若い子には合わなかったかな。ごめんね?」

 

「あ、いや!すげー美味しかったんで!その余韻だか……です」

 

「!、そうかい?いやー良かった。たまに茶菓子に他の子たちを誘うこともあるんだけど、恐縮ですって言って断られちゃうからね……口にあったようで良かったよ」

 

 

どうやらお菓子たちが気に召さなかったのかと思ったらしい。思わぬ誤解を慌てて訂正すると、ズィール神父は満足そうに笑う。言われて、そういえばこの人教会の偉い人なんだよなー……と思い出す。そして同時に、アイナさんの助言を全く生かせていない事にも思い至った。思わず扉を振り返ったのは、大目に見てもらいたい。

 

ただ、内心がわからなければ、人の行動は別の理由に見えるらしい。空になった小皿とグラスをどこかにしまい込みながら、ズィール神父がこちらに問いかけてきた。

 

 

「あぁ、外の三人が気になるかな?」

 

「え、あーいや……ソッスネ」

 

「目が覚めてから、彼らと長くいたと聞いているよ。見知らぬ場所で、頼れる人達に出会ったのなら普通のことだ。恥ずかしがることはない」

 

「……まぁ、そうですね?」

 

 

俺は微妙な表情で肯定する。最初は頼れる人達というか、その人たちに手錠とロープで手繰られてたんすけどね、俺。まぁ色々あって今は結構友好的ではあるが。

 

 

「うん。彼らを待たせるのも忍びないね……イズナくん、これを」

 

「……?袋ですか?」

 

「先程のお菓子、だよ。良ければ彼らにもお裾分けして欲しい。僕でなく君からなら、受けとってくれそうだろう?」

 

 

直接渡そうとすると、畏まられちゃうから、とズィール神父はイタズラっぽく、少し寂しげな笑みを浮かべて、俺に四つの小袋を差し出す。俺は静かに手を伸ばし。

 

 

「あ……はい」

 

 

という言葉に続けて、わかりました、と。俺は口パクでそう言って袋を受け取った。ズィール神父はひょっと、驚いた表情をした後に。バツの悪そうな顔をする。不意打ち魔法の意趣返しは上手く伝わってくれたらしい。

 

 

「ふふ、最後まで愉快な子だね君は……次に会えたら、またお菓子でもご馳走するよ」

 

「んなら、お茶も一緒にお願いします。美味かったんで!」

 

「うん、用意しておくよ。それでは、またねイズナくん」

 

「うす、それじゃあ、また、ズィール神父」

 

 

俺は踵をくるりと半回転させ、入ってきた地下室の扉へと向かって歩く。後ろを振り返ることはしなかったけど、ズィール神父が俺に向かって手を振っている気配だけは、開いた扉が閉じるまでの間、背中に感じ続けていた。

 

 

 

 

 

 

ちなみに教会内でのお菓子類は厳禁らしい事を、袋を渡したアイナさんに注意された。食べるとポロポロこぼれて虫が湧くから、だそうだ。仕方が無いので外に出たあと、四人でベンチに座って食べた。食事中の会話は全く無かったと言えば、気に入りっぷりくらいは伝わると思う。

 

食べ終わって一息ついた頃には、空の明かりは大きな日から、細々とした数千、数万の星々に塗り変わっていた。青と黒と白の夜空を見て、今日はよく眠れそうだ、と。俺は異世界初の夜をそう思った。

 

 

 

 

 





■■■■■■■■■■

吐いたけど邪魔になったお茶菓子食べた所

ふわりと香ばしいにおいが鼻を抜け、やんわり塩っぽいような?味と、ほんのりと甘い生地の味が、じわりと舌の上で混ざって溶ける。

美味い。その一文字が、疲れていた俺の脳を支配した。手に残した菓子の残りをパクリと丸ごと口に放り込む。さくさくした触感と、ところどころコリッとした、ナッツのような触感が、舌だけではなく俺の歯と顎も刺激する。たった一枚で俺の心をつかんだ焼き菓子を、また一つ、また一つと止める間もなく口に消えていくと、流石に喉が渇きを訴えてくる。狙いすましたような位置に置かれた紅茶?入りのグラスを、一息に呷った。


「ん!」


匂いがした。

グラスに口をつけたとき、紅茶?を口に入れたとき、そして喉を通って抜けたとき。

フルーティ?というのか、花のようなというのか、そういった匂いが、鼻を、口内を、喉を撫でた。お菓子よりも甘くないのに、匂いと混じったその味は、確かにあまいとしか言い表せない。甘い香りはたったの一息で、少しの酸っぱさと共に腹の中へと落ちていった。満足感からフウと一息つけば、自分の呼吸に紅茶?の残り香が少しする。感じたことのない、上品っぽいその感覚に、俺はため息しか出なくなった。


「はぁー……」

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