転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~ 作:KNa\
ここが地球であろうと異世界であろうと。陽と月の出入りで日中と夜間を分けている限り、朝という時間は必ずやってくるものである。
朝日が昇ってすぐ、あるいは朝日が昇りきる前の時間に、農家や飲食店は動き始め、曙光が差し込むようになれば、朝市・屋台が街の通りに店を開く。にわかに町が活気付いてくる頃には服屋や道具屋が下げ札をひっくり返して店を開いて客を呼ぶ。そうして街が起きだして、その日の暮らしが始まるのだ。
しかし、街の全ての住人が、そうやって働き出すとは限らない。
「うぐぅぅ……あだまいだいぃ……」
ほら、ここにも。青白くした顔を二階建ての窓から外に出して唸る人間がいたりする。愚かにも昨日の行為のツケを支払っているらしい。
……まぁ、俺なのだが。
爽やかとは言い難い気分で風に吹かれながらどうも、
現在俺は痛む頭とカスみたいな吐き気に苛まれている。目が覚めて数分したらこの状態だったので、宿の窓で一人ぽつんと風に当たっているのだが、依然気分はバカ程悪い。どうにも昨晩の記憶が曖昧だが、なぜ俺はこんな状態なのだろうか。じっとしてると口から何か出てきそうになる、堪える為に少し無理して思い出してみよう。
昨晩。そう、最初はレインの言葉だった気がする。
教会での審判が無事終わって、四人でお菓子を食べてから夜の街道を歩いていた時に、レインが『そういえばよイズナ。お前金って持ってんのか?』と聞いてきた。
そうだ、そこで俺はようやく自分が、明日の食事代はおろか今日の宿代も持ってない素寒貧の無一文だと思い出した……いや、気づいたんだった。転生→拘束→連行→審判って感じで、それまでが激動すぎて自分の暮らし方なんかに目を向けたりとかしなかったから、本当にその時になってやっと。アレ?これ俺やばくね?っとなったんだよな。現代日本でもほぼ詰みの状態だと思う。生活保護とか通ればワンチャンかな。
だがしかし、ここは異世界である。しかも魔物とか、
まぁ、そこは事情をある程度知ってる三人が『当面の面倒くらいは持ってやる』と言ってくれたので、昨日からその厚意に甘えている。今いるこの部屋、宿屋兼食事酒場【ヒヅメの酒樽】亭も、二部屋借りた所に一人だけタダノリさせて貰ってる形だ。ちなみに内訳はこの部屋にギーツさん、レイン、俺の男三人。ちょっと狭いらしいあと一部屋にアイナさん一人で、男女で分かれている。
まぁ今この部屋には俺一人だが。ギーツさんとレインは夜中にコソコソどっかへ出てってからまだ帰ってない。
えーと、そう。それで俺は昨日今日と寝食を無事に得られたんだったな。……そうだった、食だ。俺はようやく今の状況に心当たりがついた。酒だ。酒飲んだんだった。正しくは飲まされた、だけど。
というのも、先に言った通りここ【ヒヅメの酒樽】亭は宿屋兼料理酒場である。一階を食事酒場として使ってて、二階にある六つの部屋を宿として貸しているらしい。昨夜はズィール神父からもらったお菓子が多少腹の足しにはなったものの、男子高生である俺も、ベテラン
そこで飲んで食べて話して笑って、と。まぁ楽しいものだった。最初は異世界の料理が口に合うかと思ったりもしたが、普通以上に美味かった。場の雰囲気とか、疲労のスパイスもあるかもしれないが、少なくとも食って吐きそうになる料理は無かったと思う。メシマズ世界じゃなくて本当に良かった……!
さて、再三になるが【ヒヅメの酒樽】亭は宿屋兼食事酒場である。酒場、ということは沢山の酒がある、ということ。実際俺を除く三人は、結構な頻度で酒を飲んでいた。かくいう俺は食事に集中しててその辺には一切手を出してなかった。飲んでたのは水とか果実水くらいだ。まぁ、大きな理由としては日本人的にまだ未成年だし、って考えが頭にあったからなんだが……それに目ざとく目を付けた人がいたのである。
それは誰であろうか。なんとまさかのアイナさんだ。
パーティの中でツッコミ役、諫める担当のアイナさんなのだが、実は一つだけ欠点があった。それが酒好きでありながら、そこまで強くない上に他人に絡み酒をする所であった。
少しだけ、わきに外れた小話になるのだが。アイナさんは篤い信仰心を持っている。元々は孤児であり、教会の運営する孤児院で育ち、見本となるシスターとして姓も貰えるくらいには熱心だったらしい。そんな彼女は現在シスターを辞しており、そこから実力で
ただ、教会のシスターおよび神父は、過度の飲酒は控えなければならない、という規律があることをここに置いておく。
さて、アイナさんは絡み酒をする人だ。日本的基準でいうとアルハラみたいな絡み方をしてくるタイプである。つまりはそう、すでに出来上がっている状態の彼女に目をつけられたのが、昨日の俺の運の尽きだったというわけだ。ズキズキとする二日酔い状態の頭の中に、昨夜の出来事が浮かんでくる。
『あれ?イズナあんた、さっきから全然飲んで無いわよね?』
『?、ちゃんと飲んでんよ、ほら』
『違う違う!お、さ、け!せっかく主役なんだから、もっと楽しんだほうがいいわ!ほら、これとか飲んで!』
ベロベロに酔ったアイナさんは、俺にグイっとジョッキを向けてそう言った。今思えばあれは彼女の飲みさしだったかもしれないな、今更どうでも良いことだけど。そんなアイナさんに対して最初は俺も『いやぁ、まだ俺には早いから』とか言って、躱そうとしてた覚えがある。しかし……。
『早いってあんた、もう16でしょう?12以下ならわかるけど、もう立派な大人でしょうに!ほーら!ぐいっと!』
そんな感じで押し切られ、俺はジョッキを受け取ってしまったわけだ。異世界では13から飲酒解禁とはたまげたなぁ……?俺は両手で持ったジョッキを前にしばらく固まっていたが、受け取ってしまった手前、そしてじぃ~っと手渡した本人に見られていては、飲む以外の選択肢が出てこなかった。断れない空気というのは恐ろしい。アルハラ止めよう!絶対!の標語が異世界にも来ることを願いながら、俺は一息にジョッキを傾けた。
苦い。が最初だった。次に熱い。最後が多い。舌、喉、胃袋の順に、ジョッキの中のアルコールが俺の体を蹂躙した。頑張って飲み切った頃には肺の残量も限界になって、口を離した俺の口からは大きく『くあぁぁ……』と声が漏れた……これ、巷では「良い飲みっぷり!」と言うらしいですね。確かにお風呂上がりのサイダーもこんな感じの声出ますけど、違うからね、美味ぇー!!の声じゃないからね?
しかし時間は非情である。起きた事は戻せないし、吐いた声も戻ってこない。
俺は空になったジョッキをドンっと、音を鳴らして机に叩きつけた。飲み切ってやった、という達成感がなかった訳じゃないが、まぁ普通に沸いたフラストレーションの勢いに任せた行為だったと思う。それがとどめになったらしい。
『いいわね!なによイズナ、ずいぶんイケるクチじゃない!』
ドプドプドプドプッ、という音に連れて、握るジョッキの重さが次第に増していく感覚がフラッシュバックする。
『は?』
という声を出していた。というかそれしか出なかった。気づいた時には、空にしてやったジョッキになみなみと、白い泡と濃ゆい赤茶色の液体が湛えられていた。それから俺の視界に、満面の笑みを浮かべた赤ら顔のアイナさんと、気の毒そうな表情でそっぽを向く
「あ、いだだだだ……」
―――増してきた頭痛に、俺の思考が断ち切られる。こめかみが痛い、というか頭蓋の中が痛い。頭の中で脳をチタタㇷ゚されてる気分だ。
「思い出したら余計頭痛くなってきた……」
壁に手をついて、体を引きずって窓から離れる。そうやって出口付近の水差しを目指して移動していると、廊下側から気配する。不審に思って見ていると、コンコンと扉がノックされ、その後静かに音の主が扉を開けた。
「朝よ、誰か起きて……るみたいね。おはよう、イズナ」
「……アイナさんか……おはざす……」
「随分元気なさそうね?大丈夫?」
扉の前からのんきに挨拶してきたのは、
「……おかげさまで、頭痛と吐き気以外は元気かな」
「あー、その感じだと私のせいっぽいわね、ごめんごめん……あれ?」
嫌味っぽく返した俺に対し、素直に謝るアイナさん。しかし、ふと何かに気づいた様子で部屋の中に入ってくる。どうやら俺以外の男二人がいないことに、今気づいたようだ。
「……イズナ、あんた薬ちゃんと飲んだ?」
「?、いや、飲んでないけど。何の薬?」
「あいつら……はぁ、まぁいいわ。イズナ、ちょっとだけ頭下げてくれるかしら」
「ん?わかった」
俺が薬とやらを知らない様子を見て、アイナさんはレイン達に対して少し怒った様子を見せた。最も、それもすぐに引っ込めて俺に頭を下げるように言ってくる。断る理由もないので素直に少し身を屈めると、アイナさんは俺の頭に向けて手をかざす。
「《
「……え……あ、痛くない!治った!?」
ぷわわ、と体の芯が少し温まるような感覚があった後、俺を苛んでいた二日酔いが見事に綺麗さっぱり消えていた。深呼吸してもこめかみが痛くならないし、みぞおち当たりにあった重い感じも無くなっている。
「そう?よかった。コレ自分以外に使うことあんまりないから」
「すげ……これも魔法ってやつ?」
「そうよ。お酒専用だから、私以外に覚えてる人見たことないけれど」
気になったので聞いてみれば、やはり魔法というやつだった。お酒専用のがあるってことは、魔法って結構身近なのかもしれない。好奇心から他の魔法についても聞いてみようと思ったが、アイナさんから止められる。なんでもここに来たのは用事の為らしい。それもそうか、じゃなきゃ一人部屋があるアイナさんが男三人のここに来る理由がない。ほーん、どんな用事なんやろなぁ?
「……どんな用事なんだろうって顔してるけど、イズナに関してのことよ?」
「え、俺?」
「そ、あなた」
「……なんか約束とかしてたっけ……?まったく覚えてない」
的確に内心を見透かされた俺には、身に覚えのない用事があるらしい。ちょっと記憶をたどってみたけど、それらしいものは探せずに謝罪をする。いや、マジで身に覚えがない。俺が酒飲んだ後の話だったりする?ちょっとそこらへんは探りたくないんだけど。
「約束というか……ほら、イズナって、昨日私たちに遠慮して悩んでたでしょう?食事のこととか、お金のこととか」
「え、それはまぁ、そうだけど。普通じゃない?借りっぱは嫌でしょ」
少し考えこんだ俺に、アイナさんはすぐに答えを投げてくれた。それを聞いて納得する。どうやら俺が悩んでいたことは、既に見抜かれていたらしい。しかし言った通りだが、それは普通のことだと思う。誰だって借りを押し付け続けるのは嫌なものだ。特に仲の良い人相手なら特に気にするだろう。
「ふーん?」
「え、俺なんか変なこと言った?」
「いいえ?立派だと思うわよ?【救いを求むなら、先立って人を救え。人に救われたのなら、必ず恩を返せ】って教会の教えにもあるし」
「じゃあ普通じゃん」
いや教会の教えにあるなら普通じゃんね。なんでちょっと驚かれる必要があるんですか?それとも異世界では教会以外の教えは【まず盗むべし。次に奪うべし。最後にあべし】とでもあるんですか?どこの蛮族だよ、明日の種籾を直食いするタイプか?
俺の内心を知ってか知らずか、アイナさんは意味ありげな表情でこちらを見てくる。その視線がどうにもむず痒い。なんでちょっと年上くらいの女性に朝から観察されにゃならんのだ。
「あー!いいじゃんかそれは別に……で、用事って?俺でも出来る仕事とか?」
そう言って俺は強引に話を断ち切った。お金に関しては実際に至急の対応が必要になっているのだから、そっちを聞きたい。今のところ借りが大き過ぎるので、今すぐ貸し借り無しは無理だとしても、食い扶持くらいは自分で何とかしたいのである。
「……そうね。今はそっちが先かしら。イズナでも、というか、誰でも就ける職があるのよ。今日は皆でその様子見でもさせようと思ってた……んだけれどね」
「レインとギーツさんがいないと不味い感じ?」
「……いえ、いいわ。私とイズナだけで行きましょう。二人には店主に伝言でも頼んでおくわ」
その後アイナさんは部屋を出て行った。「準備ができたら戸締りして、鍵を持って降りて来て」とのことだ。
さて、言われた通り。一応俺も準備するかな。
・確認一つ目。一張羅の制服よし。ちょっとシャツのほうの汚れが目立つ。後でアイナさんに相談してみよう。
・確認二つ目。貰い物の小袋よし。中に焼き菓子の甘い香りが残っている。こういう袋って水洗い平気だろうか。
・確認終わり。持ち物準備終了。所要時間二分三十秒。
「……俺の持ち物マジで少ないな、知ってたけど」
カップ麺が出来るよりも早く準備が終わってしまった俺は、一人寂しく呟きながら、部屋の窓と戸締りを確認して一階へと降りる。カウンターで店主と話していたアイナさんがこちらに気づいた。早かったわね、と言わないのはアイナさんなりの優しさだろうか。
「来たわね。それじゃあ行きましょうかイズナ。鍵は店主に預けておいて。伝言と一緒に二人へ渡してくれるわ」
「うぃ……じゃあこれ、よろしくお願いします店主さん」
ぺこりと頭を下げて鍵を渡して、俺はアイナさんの後ろについて歩きだす。外に出たとき、澄んだそよ風がシャツの裾を揺らしていった。風につられて今日初めて見上げた空の色は、透き通るような青空だった。
……そういえば。と、俺は足を止めずに前のアイナさんへ向けて話しかける。
「アイナさん、今から行くのってどの職場?」
「あぁ、言ってなかったわね」
「おん。聞いてない」
俺の問いかけにアイナさんは、首だけを傾けてこう答えた。
「
「ふーん、
「?、そうよ?だってそれ以外の選択肢、イズナに無いもの」
何でもないように、さも当然とでもいうように。目の前を歩く彼女は言い切る。
「選択肢が、無い?」
「えぇ。今のイズナはお金無し、身元無し、記憶も無し。おまけに16まで就業経験無しだからね。たぶん正規で雇ってくれる場所国中探したって無いわ」
「ぐぅ……」
聞き返しといてなんだけども、人から改めて言われると滅茶苦茶キツイ。でもその通りだからなんも言えん。残酷な真実の前にぐうの音しか出ない。そして説明されて大いに納得は出来た。ナイナイ尽くしじゃあそりゃ選べんわ。
もはや溜息しか出ないが、どれだけ吐いても金は増えないし、俺の身元が王族になったりすることはない。悩みを解決したいなら、手に職をつけるのは急務である。鼻からゆっくりと呼吸をして、俺はもう一度空を見上げた。今度の蒼は、深い深い海の色に見えた。
「まぁ、あまり気を張らずに行きましょう。大丈夫、頼れる先輩もついてるわ」
立ち止まって上を見ていた俺の肩を、アイナさんは笑いながら叩いてそう言った。
「……そっすね、頼りにしますわアイナセンパイ」
「よろしい、まずは私にしっかり付いて来なさいな」
頼もしいセンパイの背中に付いて歩きだす。今の俺が選べる道は、そこだけだからだ。
どうも、元一般男子高生
すてーたす
[年齢] 16 [性別]男 [職業]無職
[状態]健康 [称号]無し
[
・該当なし
[
・該当なし
「
・該当なし
・《防御完全無視》