転生特典《防御完全無視》で異世界を生きる~冒険者組合の直属冒険者です。二つ名が【人狩者】になりました~   作:KNa\

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08嫌な事と嫌な奴と嫌な気分

 

 

人間は雑食動物である。そして雑食動物は、動物性と植物性の栄養をどちらも直接的に摂取する生き物である。日本と言う国においては金銭さえ用意出来るのであれば、どのような社会的階級に所属していようとも、他人に食事を提供して貰ったりする事や自身で材料を購入して調理する事が可能である。飲食店ではその日の気分で様々な料理を堪能でき、食料店では限度はあれども四季折々の各国食材を選び取れる。

 

しかし、こと異世界において自由な食事、自由な材料と言うのは難しい。季節や地域によっては、目の張るような金があってようやく手に入る食材は多くあり、魔物や賊等の影響によっては手に入るはずだった食材が、煙のように消えてしまう事もある。そのため、異世界における一般人と呼ばれる人間達は、自力で食材を獲得する能力を最低限は備えている必要がある。

 

ここで言う能力とは、街の近くや外の自然の中から野草や野生動物を狩り、それを適切に処理・解体する技能の事である。現代の日本人であれば、魚や鶏が捌ければ充分である。現代日本人のままであれば。

 

 

 

 

現在時間帯はお昼を少し過ぎた頃。ギラギラの日光は空の頂点を過ぎようとも、未だにその光は衰えずにいた。

そんな陽光に照らされている冒険者組合(ギルド)の拠点でも、中々に大きく頑丈ならしっかりとした作りの、解体場と呼称される建物の中にて。

 

 

「本当に慣れてないのね、イズナ……大丈夫?」

 

「あの、無理はしないくても良いですかね?イズナくん……」

 

「……だいじょぶ……」

 

 

やぁ、若干のグロッキー状態からどうも。俺だ、出稲(イズナ)宇井(ウイ)だ。隣で声かけてくれてるアイナさんとフォウさんに、碌な返事も出来て無いのは申し訳ない。多分もう少ししたら立ち直るから待ってて欲しい。

 

さて、とりあえず今の状況でも伝えておこうか。武器選び、および防御と打ち込みの実技講習と続いて、現在はようやく解体演習を終えたところである。

 

うん、解体。何かっていえば動物やら魔物やら、つまりはその……生き物の体を切ったり抉ったり、刮いだりしているわけだ。フォウさんとアイナさんの監修で受けていた。

 

これがいやぁ、キツかった。

 

いや、動物までは良かったんだよ。良くはなかったけど。こう、兎(角付き)とか鹿(四ツ目)の奴とかは、解体に罪悪感はあっても皮を剝ぐとか、内臓をとるとかだったから。数をこなすうちに慣れていた。極論言えば釣った魚捌くのと変わらんわけ。

 

ただ、魔物。

 

マジで誇張抜きに本当にキツい……ごめん訂正する。獣っぽい魔物は平気。人型の魔物がやばい。ぶっちゃけるとゴブリンとワードックとかがヤバい。なんでって、ほぼ人だから。

 

解体前の死体は平気だった。肌とか顔とか普通に人外だったからね。やってやらぁよ!の気概で始めたんだけど……顔が見えなくなったらもう人との違いとか分からんのや!腹から胸まで掻っ捌いて、あばら骨を割って、心臓付近のちっこい魔石を探すのキッツイ!!

 

唯一の救いは、食肉目的じゃないことくらいだ。食肉目的の解体だったら俺は頭がおかしくなっていたと思う。使う部分が魔石だけでよかった本当に……ゴメン少し休ませて。

 

 

 

 

冒険者組合(ギルド)併設の酒場には酒以外にも色々と食事のメニューが置いてある。開店が冒険者組合(ギルド)と同じく朝からなので、朝食を食べたり、昼食を食べたり、仕事終わりに夕食と酒を頼んだりと、もはやただの飯屋な気はするが、あくまでも酒場らしい。税金がどうとか言っていたが、この世界に来てまだ二日目である、理解が及ばぬのもさもありなん。

 

というわけでどうも、俺だ。ヒトガタ解体の精神疲労を何とか回復した出稲(イズナ)宇井(ウイ)だ。あれから二十分くらいだな。今は冒険者組合(ギルド)併設の酒場にて一人で果実水をちびちび飲んでいるところだ。

 

他の人はどうしたのかって?ちょっとそれぞれどこかへ行っている。

 

まずフォウさん。俺たちと一緒に解体場から戻ってきた時に、先輩職員から『昼休憩をとりなさい!』と言われてしまっていったん離脱。そういえば朝から昼過ぎまで付き添ってくれてたわ。ゆっくり休憩してくれ。

 

次にレイン。ギーツさんを迎えに行った。どうやら二人は同じタイミングで【ヒヅメの酒樽】に戻っていて、伝言を聞いて「片方が冒険者組合(ギルド)に様子を見に行き、片方が留守番」だったらしい。今日中に俺が冒険者(ハンター)になれそうだということで「せっかくなら全員で祝えたほうが良いだろ?」とのことだ。最後の試験もまだなのに気が早い。

 

最後アイナさん。ついさっき花摘みに行った。

 

以上だ。

 

 

「ふぅ。さて、最後の試験……どうなるかな」

 

 

少し騒がしい酒場のテーブル席で、俺はそう独り言をこぼす。現在、俺が酒場にいるのは休憩および待機状態だからだ。

 

フォウさんが休憩をとることになり、代わりにボム・ストキラエさんという男性職員が最後の試験の試験官を見繕ってくれている……ただなぁ、あの人なんか、仕事のやる気がカスほどなさそうなんだよな。大丈夫だろうか?「貢献度高くして、対人経験ありにしとけば見つかるでしょ、多分」とか言ってたけど……制度は知らんけどちゃんとした人来るのかそれ?

 

俺がそんなことを考えていると、後ろから不意に声を掛けられた。

 

 

「おい、イズナってのはお前か?」

 

「?、そうだと思うけど……だれ?」

 

 

手元のコップを机に置いて、返事をしながら振り向くと、そこにいたのは強面のおっさんであった。首元には白と黒が混じった斑模様のプレート。多分冒険者(ハンター)の証のタグがあった。

 

 

「……俺の試験官の人?」

 

「ふん、そうだ。今回お前の試験官をやってやることになった。黒鉄(アイア)……灰石級(ストーン)のスーメイクだ」

 

「ほん、よろしくスーメイクさん。俺は出稲(イズナ)宇井(ウイ)。イズナでいいよ」

 

 

おっさん改め、灰石級(ストーン)のスーメイクさんは、鼻息を一つ飛ばした後に、濁声で名前を教えてくれた。俺も礼儀として立ち上がって自己紹介を返す。しかしでかいなこの人。身長というよりガタイが。いや身長も俺よりは高いんだけども。筋肉モリモリマッチョマンの……失礼。熊みたいな体格の人だ。

 

 

「ちっ……腑抜けた顔だなおい。そんなんで本当に冒険者(ハンター)やれんのか?」

 

 

ボケっとスーメイクさんを観察していると、舌打ちしながらそう言われてしまう。しかしまぁ、やれるやれないじゃなくて、今の俺にはやる以外の選択肢が無いのだからやるしかない。そんな風なことを言ってみれば、スーメイクさんの顔はさらに険しくなる。なんでや。

 

と思えばスーメイクさんは、なぜか次の瞬間には固められた礫のような表情を、逆に弛緩させながら口端の片方をズイィと斜め上へと引き延ばした。

 

 

「ハッ!相当うまく(おだ)てられたらしいな?可哀そうで見てられねぇよ!」

 

「は?」

 

 

俺は耳を疑った。なぜか突然煽られたからだ。なんでや。俺なんかしたか?

 

そんな思考も束の間に、スーメイクの次の言葉が俺の疑問を吹き飛ばした。

 

 

「こんな小僧に冒険者(ハンター)を勧めたやつは、相当に性格が悪いらしいな。きっとロクでもない奴に違いねぇ……おい小僧、忠告しといてやる。今すぐ諦めて家に帰りな。それでその汚れた服を、新しいのに着替えると良い。お前に冒険者(ハンター)は無理だろうよ」

 

「……」

 

 

言葉が一瞬出なくなっていた。口は開くし、怒りは沸くのに、どうも怒鳴り声というのが出てこない。俺のそんな様子を見たスーメイクはどう思ったのか。さらにニヤ付きながら言葉を続ける。

 

 

「お前を連れてきた奴にはうまく言っておいてやるよ。なぁに俺は貢献度さえ貰えればそれでいい。言い訳なんて簡単だぜ?お前が非道にも(おだ)てた小僧は、俺に泣かされて家に帰っ―――」

 

「うるさいなぁおっさん」

 

 

あぁ、声は出た。怒鳴り声でも、がなり声でもなく、ようく冷えた声が出た。

 

 

「おっさんの仕事は試験官じゃなかったか?ペラペラお喋り合戦するのが今回の試験の内容か?」

 

「―――……ほう?どうした急に。もしかして冒険者(ハンター)なんかにおかしな憧れでも持ってたか?」

 

 

俺の言葉を聞いて、スーメイクは冷静に、とはいえイラつきは隠せない表情になった。良かった良かった。ちゃんと挑発は効いてるな?

 

 

「憧れ?まさか。受けた仕事すら逃げだそうとする、ずいぶんな“臆病者(ハンター)”もいるらしいからな?」

 

「……んだと?」

 

 

頭には熱がある。心中には怒りがある。そして目の前に相手が或って……俺の手の内には試した事の無い転生特典(しゅだん)がある。細く研いだ瞳の中にスーメイクを収め、俺は片手を持ち上げてこういった。

 

 

「さっさと仕事にかかれよ臆病者(スーメイク)。それとも今から帰って着替え(じゅんび)がいるか?」

 

 

手の平は天を向く、手の甲は(スーメイク)を向く。ピンとそろえた指先をクイクイと前後に動かせば、ピクピクとスーメイクの眉や口端が跳ねていた。ジェスチャー(かかってこい)ってのは、どうやら異世界でも通じるらしい。

 

 

一触即発の雰囲気。散らす火花がいつ着火してもおかしくない状況。

 

 

いやわかっている。どう考えても無謀である。俺は素人だ。転生特典を使えたことはまだないし、戦闘経験なんて、武器選びの時の手加減されまくったレイン相手だけだ。それだってすべて避けられた。

 

更に言うなら、今の俺は無手である。対する相手は冒険者(ハンター)だ。その腰には一本の斧と金属製の盾が左右にそれぞれ提げられている。鈍色の斧にはいくつもの傷、歴戦とはこの事なのだろう。俺じゃあ逆立ちしたって勝てやしない。

 

ただ、どうしてもココで我慢は出来なかった。俺を助けてくれた本物の冒険者(あこがれ)達が馬鹿にされて、愛想笑いで引いてしまうほど、俺の心は大人じゃない。

 

互いに引かずに睨み合ってはいるが、俺の不利は何一つ変わらない。次の瞬間に俺の首と胴が泣き別れになっていようと不思議では無い。

 

そんな中、第三者の声が割って入る。

 

 

「ああああ、もう。何してるんですか、何ですかこの空気は……」

 

 

やってきたのはボム・ストキラエさん。彼は面倒そうな顔をしながら、俺達のいた席へと向かってくる。

 

 

「ちょっとちょっと、揉め事なんて止めてくださいよ……お願いしたのは試験官であって、喧嘩では無いでしょお?」

 

「ちっ、分かってる……おい、小僧。お前、これだけ啖呵切ったんだ……逃げるなよ?」

 

「当たり前だ、お前こそ逃げるなよおっさん」

 

「はいはい、これから試験ですから。先に地下へ行っていて下さいねぇ〜」

 

「ふん……」

 

 

ボムさんの言葉に、意外なほど素直にスーメイクは引き下がっていく。斧の柄に巻き付いていた右手の小指と薬指は、ゆるりと歩調に合わせて垂れ落ちた。

 

スーメイクが去っていったのを確認し、ボムさんは俺の方へと振り返る。不満げ……いや、面倒くさげとでも言えるだろうか。非難と申し訳なさとが混ざった、そんな顔だ。

 

 

「……イズナさんも、格上相手には慎重にして下さいねぇ……はぁ、挨拶を頼んだだけなのになーんでこんな事になってるんですかねぇ……」

 

「あー……えっと、すいません。助かりました。ボムさん」

 

「いやぁ、まぁこっちとしても冒険者組合(ギルド)内の刃傷沙汰は面倒ですからねぇ……一応、次からは気を付けて下さいねぇ?」

 

「うす、分かりました」

 

 

ちょっと思う所はあるが、助けられた事は事実だ。それに言ってることも概ね事実なので、荒んだ心は何とか飲み下してお礼を言った。返礼にお小言を貰ったが素直に受け取っておく。

 

さて、しかし。一応聞いておくべきではあるか。

 

 

「……あの、ボムさん。あの人が俺の試験官って事で合ってます?」

 

「えぇ、そうですねぇ。スーメイク・レオナード。現役の灰石級(ストーン)冒険者(ハンター)で、歴は長くて対人技能マル。彼が今回の試験官ですねぇ……若干素行不良の気があるので、気に食わないならお断りも出来ないことは無いですよ」

 

 

あぁ良かった。振り上げた拳の宛先は、どうやらスーメイクで良いらしい。

 

 

「いや、いいっす……アイツには絶対一発ぶち込みたいんで」

 

「そーですか。こちらとしても面倒が無いので、構いませんけどねぇ……今ここで、試験の説明でもしていまいますか、席に座ってください。なに、三分経たずに終わりますからねぇ」

 

「お願いします」

 

 

言葉に従って俺は自分の席へと戻り、ボムさんは先程までアイナさんがいた席へ座った。それからボムさんは試験のルールを説明しだす。はぁ……とため息を一つ吐いてから。

 

 

 

少し間延びした語尾が特徴のボムさんのセリフを吐き連ねるには忍びないので、受けた説明は搔い摘んで下へ置こうと思う……質問しようとしたら大体「それは後で誰かに聞いて下さいねぇ。今回の説明は、試験に関してだけで済ませますのでねぇ」と流されているので、抜けがあったらごめんなさいだ。

 

 

 

・試験は冒険者組合(ギルド)地下にある、第一闘技場で行う。

 

・試験は模擬戦。使用する武器や盾は冒険者組合(ギルド)が用意する。

 

・試験は一回のみ。再戦やリベンジをしたいなら、闘技場使用料を払って勝手にやれ。

 

・試験において試験官には魔法契約書(スクロール)でハンデを架している。挑戦者(おれ)は全力で挑め

 

・試験では殺傷行為は禁止。治療要員は冒険者組合《ギルド》が用意しているが、死亡後の蘇生はできない。

 

・試験における明確な禁足事項は上記の殺傷禁止のみ。明確な殺意に基づく攻撃は出来うる限り避けろ。

 

 

 

こんなところである。とりあえず俺はおっさんの面を全力で殴って良いってことだな。「面倒なのでその認識で大丈夫ですねぇ」とボムさんも言っていたので、大丈夫なのだろう。

 

そんなこんなルール説明も終わり、俺が辺りを見回して観れば、酒場にいた冒険者(ハンター)達がどこかへ消えている。スーメイクとのアレで人が掃けてしまったようだ。酒場の人が若干こっちを睨んでいる気がして若干居心地が悪い。

 

しかしボムさんはそんな空気は知らないとでもいう風に「準備できたら第一闘技場に来てくださいねぇ、では」と言って歩き去ってしまった。酒場に残ったのは空になった座席と、俺の席の果実水のコップがポツンと一つ……俺はとりあえず残った果実水を飲みながら、アイナさんを待つことにした。今の俺に支払い能力がないからだ。逃げられない……貧すれば鈍するってこういうことか。

 

鈍するの意味が違う?さいですか。

 

 

 

この後アイナさんが帰ってきてから、試験官と喧嘩になったことを伝えたらバチクソに怒られた。喧嘩の理由をプライドと説明したのが不味かったかも知らない。

 

 

 

 

ともあれ、最後の試験に向かうのである。

 

 

 

 

 

 




次回やっと転生特典使えたり使えなかったりしそう……09でようやくなのヤバ、スローペースの注意書き増やしときますね
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