個性、海神 ── 神の血を引く少女は雄英に立つ   作:一夏 茜

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本作は
『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』
×
『僕のヒーローアカデミア』
のクロスオーバーです。

原作ではいなかったパーシーの双子の妹が、雄英高校という異世界に立つところから物語は始まります。
原作知識はどちらか一方だけでも読めるようにしていますが、
両作品が好きな方にはより楽しんでいただける構成です。

女主人公・原作沿い・捏造設定あり。
合わないと感じた場合は、そっとブラウザバックしてください。
少しでも刺さったら、どうぞゆっくりしていってください。



私はうっかり雄英高校を水浸しにする

 

 

 いい? これを読んでるあんた。

 もし自分が『個性』とは違う何かを持ってるかもなんて疑ってるなら、今すぐこの画面を閉じた方がいい。ブラウザバックしなよ。 あんたの親が海神だとか、そういう妄想もなし。

 

 自分が『普通』だと思って、『普通』にヒーローに憧れて、雄英にでも通ってるほうがよっぽど安全。

 

 ……それでも、この『最悪な生まれ直し』の話を聞きたいっていうなら、まあ止めはしないけど。

 

 

 

 私は海神の娘だ。

 

 

 「個性」と呼ばれる異能を宿した人々が暮らすこの異世界で、

 

 

 私は、ヒーローを目指して雄英に立っている。

 

 

 

 ──

 

 

 

 兄は私のヒーローだった。

 

 ──ペルセウス・ジャクソン。

 

 私と同じ海神の血を引く、英雄。私はいつも助けられてばかりで、それでもあの頃は、彼が眩しかった。舌ったらずな頃からずっとパーシーと呼んでいた双子の兄。怪物に囲まれてもジョークを言って「ガル」って私を呼ぶ。

 いつも一歩先を歩いて、私が転ぶ前に手を伸ばす人だった。

 

 

 でもパーシーはもういない。

 

 この世界で、私は生まれ直した。なぜかはわからない。普通なら冥界に行くはずだったのに。

 ただ思う。

 あの手をもう一度掴めるなら、私はどんな怪物にでもなれただろう。

 

 会いたい。

 この人間の世界では私は異物だ。

 

 それでも思う。

 兄の“劣化版”の私でも、──それでもヒーローになりたい、と。

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 私は市街地型ステージに立っていた。ここが試験会場らしい。なんの試験会場かって? もちろん雄英入試だ。

 私は辺りを見回した。見える水源なし。周囲はコンクリと鉄。

 

 ここならうっとおしい公安()もいない。それだけで晴れやかな気分になる。

 動きやすい格好に着替えた私は、いつも通りストレッチを始めた。念入りに腕と足を伸ばす。

 

 

 「スタートー!!!」

 

 その言葉が告げられても、私は目を閉じて上を向いていた。駆け足でそばを通りずぎる受験者をよそに、私は手を広げて遠い水の匂いを感じる。遠いけど、わかる。確かに水源はある。

 呼ばれているのだ。

 

 突っ立っている私に向かってロボットが腕を振り下ろす。その様子はスローモーションのようにゆっくりだ。いつもの戦闘反射。私のADHD──医者には集中力がないと言われ、検査じゃ『脳の多動による自己防衛本能の過剰発達』とかいう個性付随の診断名をつけられたやつ──が、ロボットの動きをコマ送りに見せてくれたので、余裕を持って避けた。

 私はロボットを無視して集中する。

 

 そして──みぞおちをぐいっと引っ張られる感じがした。馴染み深い、大西洋まで引きずり回されるようなこの感覚。

 

 天井に張り巡らされた火災対策のスプリンクラーが作動して、 細い水の線が天井から落ちる。手のひらに水が伝うが足りない。イメージする。

 見えなかったはずの水の気配が、一本、また一本と線になって立ち上がる様子を。

 スプリンクラーの水圧を逆流させる。水の気配を引き摺り出す。壁の中の配管から。または地下の貯水槽。消火用水路。

 隠れてた水が、全部私に応える。

 空気が、変わる。

 

「……何だ、あれ」

「信じられない……」

 

 海だ。地面を濡らしながら、私の元へ全ての水が集まる。地下の配管が水圧に耐えきれず爆ぜ、街路が噴水へと変わる。うねり、渦を作ってロボットを流していく。細い水の線が、高圧洗浄機を遥かに超える刃となって鉄を断ち、ズタズタに引き裂く。

 ぶつかったら危険なので、一応受験者を避けてはいる。

 

 暴走して水を吐き出す壊れたスプリンクラーを見上げて私は苦笑いした。

 ……これ、絶対あとで怒られるやつだ。

 パーシーなら「ま、壊れたもんは仕方ないよな!」とか言って、先に逃げてたかな。それとも「やったぜガル、無料のシャワーだ!」とかかな。パーシーの脳天気さはたまに羨ましくなる。

 

  今の私はと言えば、錆び臭いスプリンクラーの水を浴びてため息を吐いていた。 地下配管の水を無理やり引きずり出すのは、ストローで無理やりシェイクを吸い込むより何倍も疲れる。身体が『おい、いい加減にしろ』ってストライキを起こしかけてた。

 

 その時、一人の少女がロボットの下敷きになるところを見た。耳がイヤホンのようになっている黒髪の少女。私は水を操りロボットだけを押し流した。

 

「あ、ありがとう」

「ん」

 

 なんだか息がしづらく、視界が滲む。心臓が、ヘビメタのドラマーがドラムを猛連打してるみたいな音を立て始めた。それをこらえて、私は背後を振り向いた。ある程度ロボットを破壊し尽くしたところだった。

 まあこれだけやれば合格できるだろ。

 だがそこでは私は口を押さえた。吐き気がする、力の限界が近いんだ。

 口を押さえながら、そんな余裕のない自分に苛立った。パーシーなら、この状況でどう振る舞うだろう。

 

「あー……ごめん。なんかスプリンクラー壊しちゃったみたいだ。あとで弁償とか言われないよね?」

 

 誰も何も言わない。「ロボット相手に水撒き大会になるとは思わなかったな……これ、試験だよね? 消防訓練じゃないよね?」って言った方が良かったかな。

 だがそこで私は少し口を歪めた。

 

 本当は、ちゃんとわかってる。

 

 私は、兄じゃない。

 同じ血を引いていて、同じ場所に立っているのに、いつも私だけが「偽物」みたいだった。

 

 呆然と見ていた受験者たちがハッとしたように辺りを見回す。

 

「ありかよ……まだ1体しか倒してないのに」

 

 何人かが悔しげにキッと私を睨みつけた。涙ぐむ者まで。

 

「あんたたちがノロいのが悪いんでしょ。その程度で睨まれても困るんだけど」

 

 しまった、言いすぎたと自分でも思った。なんで私ってこうなんだろう。

 あっという間に険悪な雰囲気に様変わり。だが、後悔してももう後には引けない。顔を真っ青にしながら、どうにか鼻で笑う。

 

 興味を失ったように視線を逸らしてふと、思う。

 ……やっぱ向いてないな、私。パーシーならもっと上手く言えた。笑顔で気の抜けるジョークを言いながら全員を救い、敵を倒した。

 

 

 

 私はヒーローになりたい、というより──

 

 

 ──パーシーみたいになりたい。

 

 

 でも私は、違う。

 

 

 心臓が沈んだみたいに重くて、息を吸うたび胸の奥が軋んだ。立ってるのもきつい。回復するため水に入ろうとするが、入れそうな入れ物はない。水が遠ざかる感覚と共に、集中力が一気に蒸発する。

 

 

 

「あのさ、大丈夫?」

 顔を上げると、ジャックがついたイヤホンの耳をした黒髪の少女が私を心配そうに見るところだった。無理に平気を装っていたけれど、視線を合わせたらちょっと心が落ち着いた。

  

「うち、耳郎響香。さっきはありがとね」

「……私は、ガラテア・ジャクソン。この空気の中でよく話しかけたね」

 

 私は勤めて淡々とした声で話す。弱みを見せたくなかった。

 

 

「だってさ……さっきの──」

 

 

 次の言葉に、私は目を見開いた。

 

 

 

「──ヒーローみたいだった」

 

 

 私は息を呑んでいた。彼女は照れくさそうに頬を掻く。

 

「うちもヒーロー志望だから、呑気なこと言ってられないんだけどね。でも、さっきのロックだったよ」

 

 風が吹いたようだった。でも、彼女──耳郎の言葉は、オリンポスのどんな予言よりも私の胸に深く突き刺さった。

 彼女はそれだけ言うと「運が良かったらまた雄英で会おうね、じゃ」と言って去っていった。

 

 

 

──

 

 

 

 

 

「個性、なのか……?」

 

 その会議室の空気がざわりと波打つ。あまりに圧倒的な力を見せつけた強い個性に、相澤さえ少し目を見開いた。

 

「レスキューポイントは、ほとんどなし……だが」

 

 

 ダントツの一位だ。

 この会場にあるロボットの多くを流し、破壊し尽くしたのだ。それくらいにもなるだろう。もちろん、0ポイントも含めて。

 

「個性、『海神』か……」

「両親は死亡していて、孤児。まさか今まで独学で個性を鍛えたのか」

 プロヒーローでもこんなに強力な個性のものは滅多にいない。

 水が意思を持っているかのようにうねり、物理法則を無視した圧力でロボットを圧縮し、切り刻んだ。おそらく水筒の中の水だけでも人を楽々殺せるだろう。

 

 その場にいる者たちの頭にあるのは一つだけだった。

 

 ──ヒーロー社会の枠に収まる力なのか。

 

 まさに、神の意思を乗せた奔流。一歩間違えれば歴史に悪名を轟かす凶悪なヴィランにもなれる個性だ。しかも孤児。教師たちは不安げに顔を見合わせる。

 

「一子供が持つには危険すぎる」

「それに最後。協調性もない」

 

 誰も口には出さずとも思っていた。

 本当に大丈夫かと。

 

「だから、これからこの雄英で、ヒーローとして導くのさ!」

「……校長」

 

 教師たちは少し難しい顔で頷いた。

 それをテーブルの上で見渡した根津は、相澤を射抜いた。

 

「彼女の扱いは君に任せようと思う」

「……俺は反対です」

 

 根津には相澤の考えていることがわかった。

 どんな立派な力も制御できなければ、ヒーローじゃない。そう、最後に動けなくなった彼女を見て、思っているのだろう。相澤から言わせれば動揺を抑えられない精神面の未熟さが目についた。

 

「だが、入試のポイントは間違いなくトップなのさ! 彼女を跳ね除ける理由としてそれは弱い。君もわかってはいるんだろう?」

 

 相澤は内心で舌を打つ。厄介なのを押し付けられた、と。

 ニコリと笑って根津は言った。

 

 

「特別枠として彼女の入学を許可しようと思うのさ! 君になら彼女を任せられる」

 

 

 

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