個性、海神 ── 神の血を引く少女は雄英に立つ   作:一夏 茜

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着水注意:このプールにはサメより凶暴な女子高生がいます

 

 オリンポス……いや、雄英への苦情はこうだ。『プールの水が塩素臭すぎる件』

 

 海難事故エリアなら海水使ってくれよな。

 マジで。

 淡水と海水じゃ力の出方が全然違うんだから。

 

 水中に飛び込んで次の瞬間ヴィランが襲いかかってきたが、慌てない慌てない。ここで戦って、負けるほうが難しい。

 用意してきたであろう水中銃で攻撃してきても、それを避ける必要すらない。私の周りは水が意思を持って避けるから攻撃が一切当たらない。

 

 私は笑う。隣に着水した緑谷を水流で船の上に押し上げながら、私はヴィラン全員を水面に一気に噴き上げた。梅雨ちゃんが峯田を抱えて船に上がるのを見ながら、軽く水をなでる。巨大なプール全体の水が一瞬で凍る一歩手前の超高圧に変わる。水の鎖で拘束されたヴィランは息ができなくてもがくしかない。

 

「サメなら噛み付くだろうけど、私はもっと合理的。……息、できないと辛いよね?」

 

 でも中には呼吸しなくても平気なヴィランもいるみたいだ。

 エラ呼吸なのかな? マグロの親戚の方? 

 私はふむと考えると、父さんの鉾をイメージした。この一帯にある水流を巨大な三叉槍の形に具現化して一振り。おもちゃのように脆い水難エリアのヴィランを一掃する。あ、殺してないよ? 

 

 

「はい、ゴミ掃除終了〜」と最後のゴミ(ヴィラン)を水面に放り投げたところで、船に飛び乗り緑谷や梅雨ちゃんに笑った。

 

「二人とも、水遊びはもう終わりだよ」

「ガラテアちゃん、服が……」

 

 あれだけ荒れ狂う水の中にいながら、私の髪も服も一切濡れていない。

「ん? ああ、私が許可しなかったら濡れないの。あ、3人のも乾かしてあげる」

 

 緑谷と梅雨ちゃん、そして峯田の服は一気に水分が蒸発して乾いた。

「さ、いこ」

 

 3人は引いているみたいだった。手際が良すぎたかな? でも水の中だったら絶対負けないし。

 

 梅雨ちゃんが呟く。

「しかし大変なことになったわね」

「うん……雄英のカリキュラムを知ってた」

 緑谷は険しい顔で言葉を紡ぐ。私は頷いて言う。

「つまりマスコミが乱入したのはカリキュラムを盗むため」

 

「轟くんが言ったように虎視眈々と準備を進めてたんだ」

 

「でもよでもよ、オールマイトを殺すなんてできっこねえさ。オールマイトが来たらあんな奴らけちょんけちょんだぜ!」

 峯田はシャドウボクシングをしながらそう言った。

 

「そうかな? オールマイトも人間だ。神じゃない」

 私は肩をすくめた。神を殺すよりもっとやりようがあるに違いない。

 

「そうね、殺せる算段が整ってるから、連中こんな無茶してるんじゃないの?」

 梅雨ちゃんは冷静だった。

「そこまでできる連中に私たちなぶり殺すって言われたのよ。オールマイトが来るまで持ち堪えられるのかしら。オールマイトが来たとして無事で済むのかしら」

 

「大丈夫だよ、私が守るから」

 

 私は髪を払って梅雨ちゃんに微笑んで言った。

 

 

 

「水の中なら私、オールマイトにだって負けない」

 

 

 それは誓いでも戒めでもある。二度と失いたくなかった。

 その言葉に3人は言葉を失った。私は続ける。

「ま、でもあんたたちには選択してもらわないといけないけど」

「何を?」

 

「私、相澤先生の助太刀に行く。ごめんだけどここでずっと守るのは無理。私は元の場所に戻んないといけない。だからここに残るか着いてくるかの選択」

 

「そんなの無茶よ──」

「そうだ! 相澤先生なら助けなくたって──」

 

 

 

「僕は賛成だ」

 緑谷は震える拳を握る。その瞳は決意に滲んでいた。

 

 

「奴らにオールマイトを倒す術があるんなら僕らが今すべきことは、その企みを阻止すること! 戦って、勝つこと!」

 

 

 私は目を丸くした。ガッツあるじゃん。

 

 

「はあ〜!? 何が戦うだよバカかよ! オールマイトぶっ殺せるかもしれねえ奴らなんだろ? 矛盾が生じてんぞ緑谷!! 雄英ヒーローが助けに来てくれるまでおとなしくが得策に決まってらあ!」

 峯田は喚く。梅雨ちゃんの言葉を受けて弱気になってるな。私は言った。

 

「うん危険なのはわかってる。だから戦うのは私一人でいい」

 

 

 

 ──

 

 

 

「ダメだ」

 緑谷は言った。

「一人で戦うのは反対だよ。でも……相澤先生、やっぱり僕らを守るため、無理を通して敵の群れに飛び込んだと思うんだ」

 

 私は無言で緑谷を見ていた。私も薄々察していたことだが聞くとやっぱり、助けに行くべきだと思う。

 緑谷は私を射抜いた。

 

「邪魔になるようなことはするべきじゃないと思う。でも、でも──」

 

 結局緑谷は言葉を捻り出した。

 

「ただ──隙を見て少しでも先生の負担を減らせればって」

 

 それが緑谷なりの返事だった。

 

 

 結局、峯田もついてきて、3人で今──

 

 

 

 ──倒れた相澤先生を見ている。

 

 馬鹿でかい男……男? 性別があるのかもわからない人型の化け物が相澤先生の頭を掴んでいた。

 

「そいつが対平和の象徴、改人脳無」

 

 脳無と呼ばれた怪物は相澤先生の腕を折る。まるで小枝でも折るかのように。相澤先生の苦痛を耐える悲鳴が耳にこびりつく。

 

「個性を消せる。すてきだけどなんてことないね。圧倒的な力の前ではつまりただの無個性だもの」

 

 

 手を大量に体に付けたイカれ野郎が楽しげにそう言う。

 血がダクダクと流れていて、相澤先生はぐったりしてて……もう私は迷わなかった。

 

「3人とも出口の方に行ってて、すぐ戻るから」

「えっ、待っ」

 

 

「おい、先生を離せ。その剥き出しの脳みそ、かっこいいとでも思ってんの? 日焼けでもしたほうがマシになっていいんじゃない、 塩素の匂いがきついプールで洗ってあげようか? ……おら、こいよデカブツ」

 

 私は水を引っ張り体を預けて渦を作る。

 ただ背筋が粟立つ感覚があった。こいつは雑魚じゃない。タルタロスの怪物級。ミノタウロスなんて目じゃないほどの強敵。

 

 だがこんな時にも、イメージするのはパーシーの姿だ。その存在感は海のように深く広い。私は水中で回転して水の竜巻を作り、渾身のハリケーンをぶつけた。

 

「お前ッなんで……」

「先生、遅くなってごめん。ハデス(冥界の王)みたいな顔がもっと酷いことになってるよ」

 

 相澤先生を優しく流して緑谷たちの方へ。私は背後を振り向かず剣を構えた。

「脳無、やれ」

 

 脳無は多分人格がない。あったのかもしれないけど今はない。ロボットのように、あのイカれ男の言うことを従順に聞いている。改人と言っていたな。あの男。

 脳無の拳が振り下ろされる直前、私は地面を蹴った。水たちが私を弾丸のように運んでくれる。

 脳無とやり合うその一瞬。あったのは、ヴィランの動きがスローに見える感覚。よしよし。やっと脳内の配線がバトルモードに切り替わった。

 背後の水が意志を持つ巨大な触手のように脳無の四肢に絡みついた。 流す、水流で脳無の身体を巻き取り宙へ。

 

 

「ショック吸収?  再生? ……関係ないよ。水は、ただそこにあるだけで重いんだから」

 

 

 水が、私の意志で、私のために吼える。

 

 

 脳無が水を力ずくで引きちぎろうとするが、水は切ろうとしても切れない。水ってそう言うものじゃないから。

 むしろ、絡みつくほどにその圧力は増していく。 私は足元の水を爆発させ、自分の体を加速させた。

 

 私は剣を脳無の胸元に叩き込む。 脳無の背後に立ち上がる水の壁は、いまやUSJの天井に届かんばかりの勢いで、私の怒りに呼応して咆哮をあげていた。

 プールに引き摺り込んで溺れさせてあげる。

 

 だがイカれ男は淡々としていた。全く焦ってない。

「……おかしいなあ。脳無のステータスは『平和の象徴』を殺すためにカンストさせてあるんだ。なのに、その金魚。死ぬ間際まで水圧を下げない。バグか何かか?」

 

 私は言葉を紡がず視線一つでその巨大な水の壁を一気に叩きつける。 何トンあるのだろう。並の怪物なら粉砕され、タルタロスまで押し流される一撃。このプールの底まで流してやる。

 だが、脳無は「水」という物理的な重圧の中ですら、その異様な瞳を濁らせることなく私を見つめていた。

 

「……っ、嘘でしょ」

 

 狼狽えたその一瞬で距離を詰められる。脳無が、何トンもの水圧に抗って私の腕を掴んだ。

 咄嗟に身を捩るが避けられなかった。

 その、 凄まじい握力。

 骨が悲鳴をあげ、 間違いなくヒビが入った。

 これが、オールマイト並の力……正直舐めてた。水の圧力という「持続的な負荷」に対しても、この化け物は驚異的な適応を見せていた。おまけに私の金属をも切り裂くハリケーンも効かない。外側の皮膚を傷つけてもすぐに再生する。

 内側から引き裂くその、筋力。

 

「脳無、そいつを潰せ。まずはその腕からだ」

 

 ヴィラン男の声。嫌な奴だ。すでに痛めてるこの腕を壊しにかかっている。

 

「……が、ぁッ……!?」

 

 脳無の指が、私の右腕に食い込む。 それは「握る」なんて生易しいものじゃない。巨大な油圧プレス機にかけられたような、逃げ場のない圧倒的な破壊の力。

 

 ──メキッ、と。

 

 自分の体の中から聞いたこともないような嫌な音が響いた。 筋肉がひしゃげ、血管が弾け、神経が断裂し、そして……骨が粉々に粉砕される感触。

 

「あああああッ」

 

 腕を粉砕された。痛みより先に、理解が来た。

 あ、これ──折れた、じゃない。

 壊れた。

 視界の端で、自分の腕が、ありえない方向に折れ曲がっているのが見えた。熱い血が噴き出し、冷たいコンクリートに不規則な模様を描いていく。あんなに騒がしかった喧騒が遠のき、ドクドクという自分の早鐘のような心音だけが、耳の奥でうるさく鳴り響いている。

 ……冷たい。心臓が凍りつくみたいに、力が抜けていく。

 右腕が、もう自分のものじゃないみたいだった。ペンも、剣も、水を掴む感覚すら、もう戻らないかもしれない。そう思わせるほどの抉られるような痛み。

 

「……はは、いい声。化け物みたいな個性でも中身はちゃんと人間と同じように壊れるんだね。……脳無、止めだ」

 

 さらに立て続けに脳無のもう一方の拳が、防御の間に合わない至近距離から振り抜かれる。

 骨折した肩が激しく疼き、視界が揺れる。水を引き寄せようとしたが、広場の水量が足りない。ここはプールじゃない。淡水の、しかも限られた量しかない戦場。

 

 私の「神性」が、この世界の理不尽な「個性」に押し負けようとしていた。

 

「ジャクソンさんッ!!!」

「ガラテアちゃんッ!!!」

「ジャクソンッ!!!」

 

 緑谷や梅雨ちゃん、峯田の悲鳴。

 ──ああ。私は勝てると思ってた。水があれば、世界の理不尽なんて全部流せるって。私って随分傲慢な女だったんだな。

 私は過去を思い返して目を細めた。パーシーなら、こんな時どうするかな。 ……多分、笑って、もっと無茶をするんだろうな。私は最後に、兄さんの匂いを思い出した。潮風と、冒険の匂い。

 

 

 

 ──私はパーシーにはなれなかった、か。やっぱそんなもんか、私って。

 

 

「じゃーな、壊し甲斐のあるおもちゃだったぜ」

 

 

 脳無の拳が私の顔面に届く、そのコンマ数秒前。

 

 

 

 USJの重厚な入り口の扉が、衝撃波と共に吹き飛んだ。 空気の震えだけで、脳無の動きが止まる。 そこにいたのは、ハリケーンよりも、津波よりも、圧倒的な「圧」を纏った男。

 吹き飛ぶのは扉だけじゃない。USJ内の、停滞し絶望に彩られたすべての空気が吹き飛ぶ。

 

「……もう、大丈夫だ」

 

 いつも通りの笑顔はない。 そこにあるのは、教え子たちを傷つけられたことへの、純粋な怒り。

 

 

 

「私が、来た!!」

 

 

 

 

──

 

 

 

 昔のことだ。

 

「なんでパーシーの金魚のフンなんてやってるの?」

 

 タレイアが少し理解できないような顔をして私に言った。

 タレイアっていうのはゼウスの娘の女の子。リーダー気質で有能で、カリスマがあって。どこかパーシーと似てても私とは似ても似つかない。

 バカにしたようなその言葉に、私は微笑んだ。

 

「何か問題ある?」

 言い返すとは思わなかったのだろう。そんなタレイアの顔を見て私は言った。

 

「パーシーが私の世界で一番大事なの。悪い? だって同じ血が流れる唯一の兄妹だから。どいて。悪いけど石ころに構ってる暇ないの」

 

 タレイアは一瞬何を言われたかわからないという顔をして次の瞬間、今にも雷を散らしそうな顔になった。

 私は肩をすくめてその場から立ち去る。自分でも、なんで私ごときがあのタレイアに強気に出れたのかわからない。

 いつも冒険の旅(ハーフは予言を受けて冒険の旅に出ることが多々ある)に行くのはパーシーで、私は置き去り。タレイアから見ればパーシーの陰で威張ってるようにしか見えなかったのかも。まあ要するに金魚のフンって言葉は私にぴったりだ。

 でも、私はパーシーが関わっている時は、強気になれる。

 海水に触れている時のように、鳩尾から力が沸く。パーシーを助けるためならどんな怪物にだってなれる。

 

 骨が軋んで、血の味がする。それでも──。

 ──なぜだろう今、その感覚が体を支配していた。

 

 

 それは一瞬のことだった。

「行け、脳無」

 

 脳無とワープ野郎に危うく腹を断絶されそうになったオールマイトに加勢に来たのは爆豪、轟、切島だった。

 私はどうにか自分の足で立っていて、言われるがままに避難しようとした、時。

 爆豪の至近距離に脳無が迫るのが見えた。 その掌が火花を散らすよりも早く、手が伸びる。私は爆豪に一番近いところにいた。だから、誰よりも早く動けた。

 私は、動いていた。爆豪を突き飛ばす。 骨が砕けた肩の痛みなんて、冷たい海に沈めて消した。

 

 

 

 一瞬。ほんの一瞬のこと。だが致命的だった。

 

 私は脳無に物凄い勢いで殴り吹っ飛ばされて壁にめり込む。

 

「ジャクソンさんッ!!!」

「ジャクソン少女ッ!!!」

 

 

 私は壁にめり込んでいた足を腕をどうにか動かし、そして崩れ落ちる。死が指先まで迫っているというのに、私の唇は無意識に弧を描いていた。

 血まみれの口元で、笑う。

 

 パーシー……私、ちゃんとやれたかな。

 

 私の命で誰かが救えるなら──。

 

 

 そこで私は意識を飛ばした。

 

 

 

 ──

 

 

 

 目の前に立つのは、いつも潮風に吹かれたあとのように無造作に乱れた漆黒の髪の男。瞳はシーグリーン色。嵐の海のように深く、恐ろしい色。

 パーシーなら、今の私を見てこう言うかな「その折れた腕、変なダンスのポーズに見えるぞ」って。

 でも、違った。

 

「ふざけるな、ガラ! !」

 

 私はハッと息を呑んだ。

 ザパーン!!と波がうねって叩きつけられる。空は澄んでいるのに、海だけが嵐だ。パーシーは怒っていた。荒れ狂う海がバックに広がる浜辺の真ん中で。

 

「誰が自分の命をチップにして賭けろなんて言った!?  誰が『俺の代わり』になれなんて言ったんだ!」

 

 こんなに怒られたことは一度もない。私は言葉に詰まって、でも口を開いた。

 

 

「だって、だって……パーシーはもういないじゃない!!」

 

 

 

「私は、パーシーみたいになりたいの!!」

 

 

 私はパーシーが大好きだった。いつもイタズラっぽく笑ってくれて、私を暗闇から引っ張り上げてくれる。

 自由で型破り。ハンサムで。皮肉っぽく片方の眉を上げる素直じゃない性格も。常に何かを企んでいるような、世界を斜めに見ているような不敵な横顔も。血が繋がっていることが誇りだった。パーシーが私の憧れで、世界だったの。

 一生をパーシーの背中を追いかけることに決めていた。なのに、なのに──!!

 

「なんで私の前から消えたの!? なんで私を捨てたんだよ!!」

 

 

「捨ててない!! ガラが死んだんだろうが!! 勝手に消えたのはお前だろ!!」

 

 

「捨てた!!」

「捨ててない!!」

「捨てた!!!」

「捨ててない!!!」

 

 

 私たちはぜいぜいと肩を揺らして息をしていた。

 

「……なんで、わかんないんだ」

 

 私は息を呑む。パーシーは本当に辛そうな顔で私を見ていたから。

 そんな苦しそうな顔見たくない。でも、それをさせているのが私だって気づいた。

 

 

「……お前には無事で、笑ってて欲しいんだよ」

 

 

「俺が大好きな、『ガラテア』を殺さないでくれ……」

 

 

 

 

 ──

 

 

 

 意識が浮上する。

 梅雨ちゃんが震える声で囁くのが上から聞こえていた。

 

「このままじゃ、……死んじゃうわ」

「早くリカバリーガールのところに運ばないと……」

「ああ、早く──」

 

 私は瞼を震わせた。口を動かす。でも声が掠れて出ない。

「あ、……しを……ずに」

 

 緑谷の声がした。

「気がついたのジャクソンさん!! しゃべらないで!! 悪化しちゃうよ」

 

 私はそれでも口を動かした。

 

 

 

「水に、入れて……お願い」

 

 リカバリーガールではこの量の傷は直せない。生命力が足りないだろう。だがこのままだと、病院に行く前に死ぬか、後遺症が残る。

 霞む視界。私の上で少し戸惑ったような沈黙が広がった。梅雨ちゃんが「……そうしましょう。一か八かでやらなきゃ、このままならガラテアちゃんは死ぬわ」と言った。

 私をプールへ運ぶため、峯田や他のみんなの手によって運ばれる。

 

 みんなが必死に抱え上げ、私をプールの水際へと運ぶ。 水面に私の指先が触れた──その瞬間だった。

 

 心臓が大きく波打つ。

 

「な、なんだ……!?  傷が、消えていく……!?」

 

 聞こえるのは緑谷の驚愕の声。 私は水の中で息を吸って吐いた。粉砕されていた右腕が、ありえない方向に曲がっていた関節が、バキバキと音を立てて自己修復していく。コンクリートに叩きつけられ変色していた肌は瑞々しさを取り戻し、失われた血液が急速に補填されていく。

 

 私は、水の中からゆっくりと立ち上がった。 水滴一つ纏わない、完璧な姿で。

 まあ完璧っていうのは言い過ぎかな。まだ完全には治ってない。でも十分だ。

 

「ごめん、ちょっと寝過ごした。……ふぅ、塩素の匂いは最悪だけどやっぱり水の中は最高。生き返るわ」

 

「ま、まじかよ」

「ぶい」

 私はVサインを作った。あたりを見回すと、多くのプロヒーローたちがいる。助けが来たんだ。

 

 

 梅雨ちゃんが心配そうに尋ねる。

「だ、大丈夫なの? ガラテアちゃん」

「そうだよ、あんたすごい量の血を流してたんだよ?」

 耳郎も震える手で私の肩を掴んだ。

 

「まあ、まだ本調子じゃないけど……海に入ったらちゃんと回復すると思う。脳無は? あのイカれ男は?」

 

 

「脳無はオールマイトが倒したわ。あの後先生たちが来て……。あのヴィランたちは逃がしてしまったけれど。でも相澤先生が……」

 

そこで悔しそうに梅雨ちゃんが俯く。

 

 

「そう」

 

 

 さすがオールマイト。あの脳無を倒せるなんて。そのオールマイトでも逃がしてしまう敵なら、私なら逃がしていただろう。

 ……私は目を伏せて頷いた。相澤先生は重症らしい。

 

 両腕複雑骨折。顔面骨折。幸いなことに脳系の損傷は見受けられない。ただ眼窩底骨が亀裂が入り陥没していて……目に何かしらの後遺症が残る可能性もあるとのこと。

 

 

 私は周囲に引っ張られて病院に連れてかれることになった。結果、詳しく体を調べるために検査入院とのこと。めんどくさ。

 

 

 

 

 

 ──こうしてUSJ襲撃事件は幕を閉じた。

 

 

 

 私は知らなかった。これがまだ始まりにすぎないってことを。

 

 

 

 

 

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