個性、海神 ── 神の血を引く少女は雄英に立つ   作:一夏 茜

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爆竹くんと、氷のスムージーの作り方

 USJ襲撃に伴い実施された、休校明けの初日。教室はざわめきが響いていた。

 

「ねえねえ、昨日のニュース見た?」

 透が弾んだ声で言う。

「クラスのみんなが一瞬映ったでしょ? なんか私全然目立ってなかったね」

 まあ、その個性だとね。透明だもんね。

 

「しっかし、どのチャンネルもでっかく扱ってたよな」

 上鳴が頭の後ろで腕を組んでしみじみと呟く。

 それに「びっくりしたぜ」と上鳴の後ろの切島が頷いた。へーそうなんだ。私の家テレビないから知らなかった。

 

「無理ないよ、プロヒーローを輩出するヒーロー科が襲われたんだから」 

 イヤホンの耳をいじっていた響香が肩をすくめて言う。

 

 話題はオールマイトの、強さと凄さに移っていく。オールマイトがあの脳無を、天に向かって殴り飛ばしたのだと聞いて私は戦慄したのを覚えていた。平和の象徴は伊達じゃないということか。

 まあそれにしても……私は頬杖をついて目を細めた。その視線の先には緑谷の姿が。

 なあんか、引っかかるんだよなアイツ。オールマイトと緑谷。やけに目をかけてもらってるっていうか。

 ……隠し子だったり? 父親ならなんか納得できる。

 

「みんなー!! 朝のホームルームが始まる!! 私語を慎んで席に着け!!」

 

 シーンと場が静まり返った。すでに席に着いてるみんなは苦笑い。相変わらずだな飯田。

 

「着いてるだろー」

「着いてねえのおめえだけだ」

 

 飯田は結局、一人遅れて席に着く。

「くっ……しまった!」

「どんまい!」

 麗日はぐっと手を握り、飯田の後ろでにっこり微笑んだ。

 

 その時だった。

「おはよう」と包帯だらけのミイラマンが扉を開けてそう言う。かろうじて声と髪型と服装、背丈から相澤先生だとわかる。顔面は包帯まみれだ。

 相澤先生復帰したんだ。全身包帯だらけだけど前見えてるの?

 

「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねえ」

 身体の状態を心配する飯田に、相澤先生は低い声とテンションで告げる。

 

「雄英体育祭が迫ってる」

 

 ドッとした歓声に私は肩をびくつかせた。

 みんなめちゃくちゃテンション上がってるみたいだ。

『体育祭なんかやって大丈夫なのか』と聞く、響香やみんなに、相澤先生が言うには──

 

「逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石だと示すって考えらしい。警備も例年の五倍に強化するそうだ」

 

 これでやらなかったらテロに屈したのと同義だもんな。

 

「何よりうちの体育祭は最大のチャンス。ヴィランごときで中止していい催しじゃねえ」

 

 雄英体育祭は、個性社会でスポーツが衰退していった今、日本のビックイベントの一つらしい。オリンピックに代わるのがこの雄英体育祭なのだと。

 

 私は自分の手のひらを見つめた。私、なりたい私になるためにヒーロー目指すんだよね? だったら……。

 

「当然全国のトップヒーローも見ますのよ」

「卒業後はプロ事務所にサイドキック入りがセオリーだもんな」

 上鳴は親指を立てて説明してくれる。

 

「そっから独立しそびれて、万年サイドキックってのも多いんだよねえ。上鳴、あんたそうなりそう、アホだし」

 と響香は上鳴を見ながら半笑いで言う。

 

「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が、経験値も話題性も高くなる。時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が開けるわけだ。年に一回、計3回だけのチャンス。ヒーロー志すなら絶対に外せないイベントだ」

 

 みんな本気なんだな。私はぎゅっと拳を握る。

 これは多分、英雄譚で言うところの「試練」なんだろう。

 

「その気があるなら準備は怠るな」

「「「「はい!」」」」

 

  

 

 

──

 

 

 

 チャイムが鳴り終わり放課後になった途端に、A組の教室の前は人でいっぱいになった。正直、冥界の最下層で地獄の番犬ケルベロスに出待ちされている方がまだマシだ。あっちの方が、この群衆よりはまだ「何が目的か」がはっきりしているから。

 

「君たちA組に何かようか?」

「んだよ、出れねえじゃん。何しにきたんだよ!」

 

 

 

「敵情視察だろ、雑魚」

 

 爆豪はポケットに手を突っ込んでそう吐き捨てる。雑魚と呼ばれた峯田は震えている。

 

「ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろう」

 

 爆豪は低い声で唸るように告げる。

 

「そんなことしたって意味ねえから。どけモブども」

 

 知らない人のことモブって呼ぶんだ、笑える。でも、私も肩をすくめた。

 

「今回ばかりは爆竹くんに賛成かな。トップを狙うなら石ころに構ってる暇ないし」 

 緑谷や飯田はギョッとした顔で、私と爆豪を交互に見た。

 

「かっちゃんだけじゃなくてジャクソンさんまで……!」

「ふ、二人とも! 言い方に気をつけたまえ! 完全に火に油を注いでいるぞ!」

 

 そう、私は今回の体育祭で一位を狙うつもりだ。多分体育祭は私の不利な条件での戦いになる。

 でも私は勝つつもりだった。

 

「そうか……君も一番を狙うつもりなのだな」

 

 その私の様子に、飯田はメガネを押さえて呟いた。それに私は答えず無言で立ち上がる。

 

 最初は一位を狙うつもりはなかった。だって目立ちたくないし。

 でも──私には目標がある。

 私は……自分のために、自分がなりたい自分になるために、ここで頑張らないといけない。

 

 強くなるんだ。

 

『パーシーよりも強く、偉大なヒーロー』になるために。

 

 私は前世、あの背中を追い越すことを一度たりとて考えたことがなかった。隣を走ることでさえ。

 

 でも、今私は大それた野望を抱えていた。

 

 パーシーの背中を追うことしかできなかった過去の私のために。

 

 そして強くなるために。

 そのために私は他をねじ伏せて、勝つ。

 

 

 その時だった。

「噂のA組、どんなもんかと見に来たが随分と偉そうだな。ヒーロー科に在籍するやつはみんなこんななのかい?」

 

 紫の髪を逆立てたような、ダウナーぽい男子生徒が人混みを掻き分けて前へ進み出てきた。あの爆豪に恐れることなく目の前で、言葉を連ねる。

 

「こういうの見ちゃうと幻滅しちゃうな。普通科とか他の科ってヒーロー科を落ちたから入ったってやつ結構いるんだ。知ってた?」

「あ?」と爆豪は威嚇する。

 

 

「そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ」

 

 彼は鋭く爆豪を射抜く。その逆ってことは結果が振るわなかった結果、普通科に落とされることもあるの? 聞いてないんだけど。……まあいい。勝てばいいんだ、勝てば。

 

「敵情視察? 少なくとも俺はいくらヒーローかとはいえ調子に乗ってっと足元ごっそりすくっちゃうぞっつう宣戦布告しにきたつもり」

 

 宣戦布告ねえ……。

 それを聞いた私はカバンを背負いながらため息を吐いた。

 

「偉そうとか関係ある? 結果出せばいいんでしょ。敵情視察とかかこつけてヒーロー科襲撃された被害者ヤジるためにわらわら群がってるようなやつに言われたくないね」

「……ッ」

 教室の前で群がっていた10人中10人が痛いところを突かれたような顔をする。

 

「じゃ、ジャクソンさん……」

 緑谷が何かいいたげに私を見た。でもそれ以上、クラスメイトの誰もが私を責めることはしなかった。それは多分、あのUSJ襲撃で一番重傷だったのが、私だからだろう。

 ちなみに私が重傷を負ったことは口外されていないので、普通科の彼が知らないのも無理はない。

 リカバリーガールのものとは違い、私の回復は「外部のエネルギーで細胞を再構築する」もの。そう、致命傷が水に触れただけで一瞬で完治するのはこの世界でも「奇跡」の領域。私は生きた検体だ。

 それを知るものが多ければ、[[rb:良くない考えを持つ者 > ヴィラン]]に狙われかれない。そういうわけで、あれは口外禁止となった。

 

 切島が狼狽えたように呟く。

「お前らのせいでヘイト集まりまくってんじゃねえか……」

 

「関係ねえよ」

 

 爆豪は前をまっすぐ睨む据えて低く淡々と吐き捨てる。

 

 

 

「上にあがりゃ関係ねえ」

 

 

 

 そのまま爆豪は人混みの中を歩いて去っていく。やっぱり爆豪も目指すのは、一番なんだ。

 きっと同じトップを狙うのなら、爆豪にぶつかることもあるだろう。

 頑張らないと、私。

 

 

 ──

 

 

 

 体育祭本番、入場を待つ待合室にて。

 私は折り畳み椅子に腰掛け、自分の運命の残酷さについて考えながら頬杖をついていた。  

「青いスポドリが飲みたい……。どうしてこの国の出店には青い食べ物がないわけ?  色彩感覚が保守的すぎるんじゃない?」

 せっかく出店があるんなら買い食いしたいけど相澤先生にバレたら締められそうだな。

「あんた、余裕だね。つか、いつも青い食べ物食べたいって言ってない?」

 

 耳郎は呆れ気味に私を見る。彼女は少し緊張したように耳をくるくるいじってる。

 少し指先が震えていた。それに声をかけようとしたその時。

 

 

「緑谷」

 

 轟が、席の前でちょうど立ちあがった緑谷に歩み寄って行った。何かと注目を浴びることの多い彼らの動向に、自然と部屋中の視線が集まる。轟はそれに気づいていても全く動揺せず淡々と告げた。

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

「えっう、うん」

 

 わお。まるでアレスの息子が、新入りの生贄を脅している時みたいなストレートな宣戦布告。でもそれは喧嘩を売るためというには悪意がない。

 

「けどお前、オールマイトに目かけられてるよな」

 

 私はそこで目を見開いた。そこは私も気になってたところだったから。多分クラスメイト全員が、なんとなく気にして、少し意識している部分。

 

「別にそこ詮索するつもりはねえが……お前には勝つぞ」

 

 宣戦布告か。

 轟ってこんな熱いやつだったんだ。……まあそれも当然か。ヒーローになるなら、今熱くならないでいつ熱くなるんだって感じだもんね。そこで轟は視線をずらして私を射抜く。

 

「お前もだ、ジャクソン」

「え、私?」

 

 机にもたれていた私は、まるで椅子に電気ショックを流されたみたいに跳ね起きた。

 

「USJで死にかけたはずのお前が、ピンピンしてここに立っている。……今年、特例でねじ込まれた『特別枠』その正体はお前だな」

「……」

 

 私が特別枠で入学できたのは多分、公安に目つけられてるからって言うのもある。今も裏では「監視対象」だと思うし。

 今も奴らは[[rb:冥河 > スティクス]]の誓いを破る方法を虎視眈々と狙っている。

 おそらくだが……根津校長は私を「雄英の生徒」という公的な身分で塗りつぶすことで、私をあの連中の解剖台から救い出すために、この「ヒーローの卵」という檻を与えてくれたのだと思う。

 

 なんと言おうか迷った。轟の瞳は、まるで嵐を起こす直前の海みたいに冷たくて、逃げ場がない。私は頭を掻きながら言葉を吐いた。

 

「まあ……うん、受けて立つよ」

 

 誰が相手だろうと、最後に立っているのは私だし。

 強くなるためなら、私は精神年齢が一回りも小さな子供を押し除けても一位の椅子に座るよ。

 轟は仲裁をしに入った切島の手を振り払い、背を向けて扉に歩き出す。

 その背中に、それまで黙っていた緑谷は声を上げた。

 

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかは分かんないけど……そりゃ君の方が上だよ実力なんて。大半の人に敵わないと思う。客観的に見ても……」

 

「でも、みんな……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。後れを取るわけにいかないんだ」

 

 その瞳は怖いくらいに真剣だった。

 

「僕も本気で取りに行く」

 

 

──

 

 

 

 スタジアムを埋め尽くす大歓声。入場しながら私はあくびをした。

「ちょっと、ガラテア! テレビに映ってるんだよ!?」

 私は背中を響香にバシンと叩かれてうめく。だって入場とか観客盛り上げるためのパフォーマンスでしょ? だるいじゃん。はあ、めんどくせー。

 

「選手代1ーA、爆豪勝己」

 

 主審のミッドナイトが名前を呼ぶ。

「ええ、かっちゃんなの?!」

 緑谷は素っ頓狂な声を出した。まあ……似合わないよね確かに。

「入試トップ通過だもんな」

「え? 入試一位はジャクソンさんじゃ?」

 

「ああ、私トップ通過したの実技だけだから。筆記はボロボロボッコボコよ」

 緑谷に、私は手を振って告げた。

 

「「ああ……」」

「でも自慢げに言うことじゃないわ」

 と梅雨ちゃん。

 

 名前を呼ばれた爆豪は壇上に進み出る。ポケットに手を突っ込んだ不良スタイル、いつも通りマイクの前で口を開いた。

 

 

 

「宣誓、俺が一位になる」

 

 

 

 絶対やると思った、笑える。一気にブーイングで生徒たちはしっちゃかめっちゃか。でも私は爆豪の意図がわかるような気がしていた。

 

「せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」

 

 爆豪は親指を下に向けた。その挑発的な言葉に反して視線はいたく冷静だ。多分だけど……これは、自分を追い込むため。なるほどね、背水の陣か。

 ──面白い。

 

 

「さーて、それじゃ早速始めましょ! 第一種目はいわゆる予選よ。毎年ここで多くの者がティアドリンク!」

 

 ティアドリンクて……。涙を飲むってことだとはわかるけどさあ。

 

「さて運命の第一種目!今年は──これ!!!」

 

 運命ってやつがあるなら、そろそろ私に有給をくれてもいいと思う。

 パチンコのスロット画面のように回っていた前のモニターに表示されたのは『障害物競走』と言う文字。

 

 計十一クラス全員参加のレース。コースはこのスタジアムの外周約4キロだという。

 障害物競走か。環境と障害物が何かによっても左右されそう。まあ、パーシーが挑んだっていう迷宮に比べれば、マシなのかな……。

 

 そして何より重要だったのは、コースを守れば何をしたっってかまわないとのこと。ふうん、攻防戦もあり……か。

 

「スタート!!」

 

 私は開始と同時に走り出した。だがそれもみんな同じ。スタート地点が狭くて押し合いへし合いになる。

 これじゃ前に出れない。私は隣の生徒の肩に足を置いた。

「おい! お前──」

「ごめんごめん、じゃお先に」

 不安定な足場だけど、──もうすぐ『水』が手に入る予定だから。

 ──その時だった。一気に氷が襲いかかってくる。メキメキと一気に地面に固定され氷漬けにされ混乱する人たち。

 

 正直思った。

 

 

 ──待ってました、と。

 

 

 私は氷を水に変換して滑るように前へ躍り出る。轟がいるなら水が足りない心配はしてなかったんだよね。轟が氷を使われることを危惧して、氷の能力を使わない可能性も考えてたけど……。いや、ありがたいありがたい。

 お礼に、この氷、最高のスムージーにしてあげようかな。

 

 足元の水が、まるで生きているみたいに私の意志に応え、水をローラーのように回して滑るように前に進む。轟の後ろを走ってたら水には困らない。

 

 問題はどう追い越すかだ。

 

 

 

 

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