YAWARAMICHI   作:ウィリアム・J・サンシロウ

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世界中から集まりし強者―――
異国の人間達との激闘が始まろうとしても―――
君は柔道が楽しいか?


REVENGE・オレイマイリ・夜空に集う者

 柔祭り第一試合の幕が上がった!!

 5人抜きに挑む青桐(あおぎり)の相手は、外国人(じんと)選手の1人、白人のオリバー・ウィルソン。

 濃紺の髪を短く刈り上げ、頂点を鋭く整えたヘアスタイルが特徴的な彼。

 陽気(パリピ)な鼻歌を口ずさみながら指定の位置へと向かう仕草は、大型犬めいて親密(さく)い印象を与える。

 対照的に、青桐は引き締まった表情(ツラ)を崩さず、静かに燃え上がる闘志を滲ませていた。

 

開始(はじめ)っ!!」

 

「こぉ"ぉ"いっ!!」

 

「いくヨ~!!」

 

 審判の合図が響くと同時に、青桐は間合いを詰めていく。

 柔祭りの試合時間は()()()3()0()()

 通常の4分間試合に比べ、はるかに短いこの特別なルールは、この祭り独自のレギュレーションである。

 勝利または引き分けで次のステージへ進むことができる青桐。

 特殊な環境ゆえ、両者は守りを捨て、攻撃一辺倒の姿勢で試合に挑む。

 青桐の右手とオリバーの左手が交差し、互いの柔道着(まとい)の横襟を力強く掴むと、試合の緊張感が一気に高まっていく。

 

(このオリバーって野郎……左利きかっ!! ちっ!! クソ面倒(うぜ)ぇ!!)

 

 交差する互いの利き腕が、技の発動を互いに封じ込める。

 青桐は宙に浮いた左手で敵の右腕の袖を狙い、掴むと同時に右足を勢いよく天高く蹴り上げた。

 その動きに呼応するかのように、大地から瀑流が(ささらえおとこ)に向かって吹き上がる!!

 一方、青桐の次の技を即座に察知したオリバーは、膝を曲げ、重心を左足に移して身構える。

 受け止める準備を整えつつ、瞬時に反撃への算段を巡らせる彼の瞳には、野外ライトめいた眩い光が差し混んでいる。

 

(これ、No.65滝落(たきおと)しだヨネッ!! この前の練習で受け止めたヨ……!!)

 

「体ヲ……捻っテェッ!?」

 

 善く泳ぐものは(どじ)るということわざがある。

 練習で一度体験した技を前にするオリバーは、得意げに腰を右へと切り、守りの態勢に入る。

 滝落しの動作中、敵の重心の変化を瞬時に察知した青桐は、繰り出しかけた技を素早く中断し、重心が乗ったオリバーの左足を狙い、小外刈りを放つ。

 青桐の足が敵の左足を外側から払い取った瞬間、オリバーの体勢は崩れ、支えを失ったよう突っ張り棒めいて、背中から畳へと倒れ込んでいった!!

 

「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

「一本ぉぉぉん!!」

 

「グゲェ~……やられちゃったヨ~……」

 

「HAHAHA~!! 相手が上手(テク)かったナ!! 交代ダゼ~オリバー」

 

 1番手のオリバーに代わり、試合会場に現れたのはドレッドヘアが特徴的な黒人留学生、ガブリエル・シルヴァ。

 白い歯を覗かせながら不敵な笑みを浮かべるが、その射るような眼差しには隙のない緊張感が漂う。

 審判が開始の合図を告げた瞬間、2試合目の幕が上がった!!

 

開始(はじめ)っ!!」

 

「こい……!!」

 

「OK~戦闘(バト)るゼッ!!」

 

 得物を狩るチーターめいたしなやかな筋肉を躍動させ、両脚に(くものつづみ)を纏うガブリエル。

 その動きは目にも留まらぬほど速く、会場内を縦横無尽に残像を作りながら駆け巡る。

 俊敏(はしっこ)さで青桐を翻弄し、瞬時に死角へと潜り込むと、勢いよく距離を詰めて道着(まとい)へと手を伸ばした。

 

「もらっタ……」

 

「……甘ぇぞ鈍足(ノロマ)!!」

 

 ガブリエルが右手を差し出した瞬間、その右袖を素早く左手で掴み取った青桐。

 敵の突進力を巧みに利用し、合気道めいてタイミングよく体を180度左回転させると、一本背負いを鮮やかに繰り出した。

 力をほとんど使わず背中に担ぎ上げた青桐は、そのまま豪快にガブリエルを畳へと投げ飛ばす!!

 

「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

「一本ぉぉぉん!!」

 

「Oh~……こりゃ失敗(しく)っちまったナ」

 

「Thank you for your hard work. Leave it to me((おつかれさま)です。後はお任せを)」

 

 敵チームの3番手、アーロン・アレンゼが入場する。

 ボルドー色の髪を後ろで団子状にまとめた、がっしりとした体格(ガタイ)の黒人留学生。

 青桐は彼を見つめながら、試合時間の短さに救われつつも、3戦目に入り疲労が体を蝕んできているのを自覚していた。

 首元を流れる汗を道着(まとい)の襟で拭いつつ呼吸を整えると、静かに目線をアーロンに向け直す。

 

(……次の野郎は体格(ガタイ)が良い野郎だな……木場(きば)先輩と同等(タメ)か? 道着(まとい)を掴ませるのは危険(ヤバ)そうだな)

 

開始(はじめ)っ!!」

 

 審判の掛け声とともに始まった3試合目。

 筋肉質な両腕で道着(まとい)を掴もうとするアーロンに対し、青桐は腕の軌道をわずかにずらしていなし続ける。

 しかし、疲労が見え始めている青桐に対し、アーロンは終始万全の状態。

 青桐は力任せの攻めに押され、場内ギリギリの赤畳まで追い詰められてしまう。

 場外に出れば処分(しどう)が与えられる瀬戸際、青桐は意を決してアーロンの道着(まとい)を握り直すと、右足を踏み出して敵の左足を制しつつ、支釣込足を繰り出した。

 惜しくも決定的な投げには至らなかったが、巧みに体を入れ替え、アーロンを場外間際へと追い込むことに成功する!!

 

「……!! That's a good way(上手(テク)いやり方ですね)」

 

「しゃおらぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

 青桐は場外際へと圧をかけながら、アーロンとの激しい押し合いに挑む。

 全身の筋肉を酷使して互いを後方へ押しやる中、青桐は一瞬だけ力を抜いた。

 その瞬間、壁が崩れたようにアーロンが前のめりに突っ込む。

 それに合わせて、青桐は左手で右袖を引きつつ、体を左回転させ、右ひじを敵の右脇に差し込む。

 力を効率よく利用した背負い投げが決まり、大地を揺るがすようにアーロンが背中を叩きつけられた。

 同時に、審判の手が夜空に高々と上がっていく!!

 

「一本ぉぉぉん!!」

 

「……OK(理解(わか)りました)」

 

「アーロンさん、(おつかれさま)でしタ。青桐さん、次はワタシでス。よろしく熱望(おねがいしゃっす)ッ!!」

 

 外国人選手の4人目として現れたのは、シャルトルーズイエローの髪を右に流し、サイドを刈り上げた白人男性、シモン・ノーブル。

 洗練された紳士的な表情で青桐と挨拶(アイツキ)を交わすが、審判の合図とともに一変。

 全身から放たれる狩人めいた殺気をまとい、鋭く青桐に掴みかかる。

 迎え撃つように道着(まとい)を掴んだ青桐だが、その瞬間、彼の脳裏は暗く揺れる黒いモヤに包まれていった。

 

(この野郎……さっきまでの3人とは格が違ぇ。高校生ランク何位だ? ……これは本気(ガチ)でやんねぇとなぁ……!!)

 

 青桐の周囲に白雲が漂い始めた。

 闇夜に浮かぶ白き霞の中、刃めいた右足が閃き、シモンの右足を後方から刈り取ろうとする。

 しかし、シモンの右足は、地中深くに根を張った大木めいており微動だにしない。

 よく見ると、彼の右足は硬質化しており、畳を突き破って地面に突き刺さっていた。

 それは船のアンカーめいて、シモンを揺るぎない存在へと変えていたのだった!!

 

「No.8楔足(くさびあし)!! 簡単には一本負け(くたば)りませんヨ……!!」

 

「ちっ……!! 天狗(かち)るんじゃねぇぞ!!」

 

 短期決戦を見据え、序盤からスタミナを度外視して技を繰り出す青桐。

 しかし、相手の巧みな体さばき、とりわけ腰を切る動作によって技の起点を封じられ、攻めきれない展開が続く。

 試合時間が30秒を過ぎた時点で、両者ポイントは無しのまま、審判が試合終了の合図を送る。

 今回の試合の形式では、青桐が次戦進出となるが、彼の表情は冴えない。

 5人目の対戦相手がまだ姿を見せていない事から、一旦場外へ退場した彼。

 未だ現れない5人目を待ちながら、駆け寄る花染(はなぞめ)木場(きば)からタオルと飲料水を受け取り、汗が冷えないようにケアを行う。

 

(おつかれさん)っと。5人目の野郎がまだ来てねぇのかぁ?」

 

「風の知らせによればそのようだな。木場、お前は知らないのか?」

 

「俺が知るかよ……はぁ~何やってんだろな対戦相手さんは? んでぇ~青桐、あの4人どうだった?」

 

「……そっすね。アイツら本気(ガチ)でやってないっぽいんで、正確には理解(わか)んないんすけど……あのシモンって野郎……アイツは出来る奴っすね。多分高校生ランク100位以内の実力(ウデ)っす」

 

「ほぉ~……そいつはそいつは……大原(おおはら)の野郎が学校訪問(おれいまいり)するわけだわ」

 

賛同(それな)。……木場ならあの逆風を超えられるか?」

 

「どうだろなぁ? やってみねぇと理解(わか)んねぇわ……ん? おい青桐、5人目来たぞ!! けどありゃ……」

 

「あぁ? あの野郎……不死原(ふじわら)!?」




小説家になろう、カクヨム、NOVEL DAYS、アルファポリスでも投稿をしています。
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