弱き者達が奴隷として扱われていたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
2020年11月7日土曜日、夕暮れ。
昇格戦を終えたばかりの
蒼海柔道部の面々は、福岡各地に点在する柔道タワーへと分散し、未だ見ぬ強敵達との激戦を繰り広げていた。
幸いどのメンバーも好成績を収めており、昨月100位圏内から脱落した
「……
「お~い
「
「んなわけねぇだろっ!! 俺さ、今日は飯塚市の柔道タワーまで遠征してたんだぞ?
「へいへい、
待ち合わせしていた
人波を縫うようにして、夕暮れの博多駅内部へと進むと、2人は電車に乗り込み、妙見岬へ向かうために姪浜駅へと向かった。
しばらくして2人は姪浜駅に到着する。
駅近くのコンビニエンス道場に滞在している
「んでよぉ
「あぁ? ……城南のシモンって奴に誘われたんだよ。この前の柔祭りで連絡先交換しててさ。なんか
「シモン……? 誰それ?」
「あぁー……隼人この前いなかったな……今年の福岡大会決勝戦で戦った高校の
「ほ~ん……で、そこで何すんの?」
「さぁ? ……
「知らねぇのかよお前……何か
「そん時はそん時だ。柔道で片付ければいいだろ」
「おっ!! 流石、脳筋は言うことが違うねぇ~……痛えっ!! 急に
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「やっと来たか……待ちわびたぞ」
指定された場所に到着した青桐と草凪。
それより一足早く気づいたのは、タオルで額の汗を拭いながら近づいてきた伊集院だった。
彼の右腕には手首に巻き付けられた数珠と、握りしめられた握力トレーナーがあり、カチカチと音を立てながらも手を止めようとはしない。
滴る汗の量からして、試合の帰り道とは思えぬほど道場でトレーニングに励んでいたことが窺えた。
「さっきは割と
「ああ、丁度筋トレも終わったところだしな。ふっ……そんな
「おっし、そんじゃ頼むぜ。 ……アレ?
「俺はここばい」
青桐と伊集院の会話に割って入った声。
その主が誰かは、ふと視線を落としたことで明らかになった。
畳の上で柔軟体操に励んでいたのは、青桐の同級生である石山。
開脚した両脚は一直線に伸び、巨体はぴたりと床に張りついていた。
前屈で地面と平行になったその姿は、百キロ超とは思えぬしなやかさで、思わず見とれてしまうほど。
むしろその徹底した柔らかさが、どこか
「青桐君、準備するけんちょっと待っとって」
「以下同文。9割9部9厘、5分以内に終わるだろう。それまで適当に時間を潰していてくれ」
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すっかり人数も増えた一行は、コンビニエンス道場を後にし、柔道タワーでの試合を振り返りながら、夕暮れのマリナ通りをゆっくりと進んでいた。
ジョギング中の中年
青桐は、待ち合わせ相手であるシモンの姿を探す。
辺りはすでに薄暗く、人の輪郭も曖昧になり始めており、青桐は少しばかり手こずっているようだった。
「……アレ? どこだ……」
「へいへいへ~い!! なにやってんすか龍夜先輩~!? しっかりしてくだ……痛ぇ!! だから急に
「あ"ぁ"?
「遊んでませぇん、柔道一筋ですぅ"ぅ"ぅ"!!」
幼馴染故の気安さなのだろうか。
道端で取っ組み合いの
その様子に何か思うことがあるようで、石山と伊集院は、荒事を静かに見守っていた。
「……青桐君、前よりはマシになっとーね。こげん元気な姿は久々に見るばい」
「9割9部9厘、草凪のおかげだろうな。見知っている人間が側にいるだけでも、心の持ちようは変わるだろうからな」
「本来はここに、
「……だな」
「この暴言、青桐さんですよネッ!! 探しましたヨ~!!」
青桐と草凪の激しい言い争いに気づき、駆けつけてきた者達がいた。
その先頭を切って走ってくるのは、今回青桐と合流する
背後には、かつて青桐が柔祭りで激闘を繰り広げた選手達の姿もあり、総勢4人の
「
「そうですネ。いや~今日は
「
「こっちですヨッ!!」
シモンに誘われるまま、小戸公園の奥へと歩を進める青桐達。
次に彼らが足を止めたのは、白い万能板でぐるりと囲まれた、大規模な工事現場だった。
夜の帳が降りた今、現場は稼働を終え、辺りにはしんとした静寂が広がっており、その様子は
中の様子は見えないが、継ぎ目の甘い板の隙間から
「公園内に……何だこれ? ビルでも建つのか?」
「看板にハ、ここから能古島まデ、橋がかかるって書いてましたネ。ただおかしいんですよネ。もう工事は終わってるぽいんですヨ。ほら、この隙間から中ヲ……」
「
万能板の向こうに広がる、閉ざされた空間。
シモンの指示どおり、青桐が隙間から中を覗き込むと――そこには、すでに完成を迎えた一本の連絡橋が、静かにその姿を横たえていた。
「なんか怪しくないですカ? ちょっと
「ん~……どうすっかなぁ……なんか
「あの~すみません、道を聞いてもよろしいでしょうか?」
「え? ……隼人、ちょっと頼むわ」
「あいあ~い」
「んでどうする? 俺は止めといたほうが……」
「うわぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
シモンの提案に思わず眉をひそめる青桐。
振り返った彼の視界には、草凪の姿はもうなかった。
代わりに、そこには黒く
そして、その近くにいたはずの道を尋ねて来た男の姿も、跡形もなく消えていた。
突然現れた大穴と共に、2人はそのまま地中へと呑まれてしまったのだろう。
青桐の脳裏に、そんな不吉な推測がよぎる。
「……ん? 隼人っ!? ……落ちたっ!?」
「青桐さん、これっテ……」
「ちっ!! しゃぁねぇ、俺達も追うぞっ!! ……穴から飛び降りるか?」
「9割9分9厘、その選択は進めない。行くならそこのエレベーターだな」
「エレベーター……? 何で? つ~か、勝手に使っていいのかっ!? クソ、なるようになれだなっ!!」
伊集院が指さした先、敷地内の隅にひっそりと佇んでいたのは、工事車両を搬送するための大型エレベーターだった。
進行方向は
なぜ工事現場に、真下へと向かう装置が必要なのか。
幸い警備は
青桐達は迷いなくエレベーターを呼び寄せ、そのまま
3分ほどの
そこに広がっていたのは、金属製のパネルで隙間なく囲われた、
いくつものドーム型建築物が余裕で収まってしまうほどの、
壁沿いには大小さまざまな重機が整然と並び、中央では、全長数十メートルはあろうかという豪華客船が、今まさに整備されている。
怒号が飛び交い、金属の音が響き渡る中、地上では姿を見せなかった作業員達が、この
「あ? んだよここは……地下造船所っ!?」
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