己の常識が覆されたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
柔道界の未来を嘱望される4人の若者が、思いもよらぬ場所――
彼らの周囲には、付き添いと見られる者達がちらほらと立ち並び、当の本人達と同様に、状況を飲み込めずにいる。
人間が瞬時に処理できる情報の量には限界がある。
この場に居合わせた全員が、処理落ちしたパソコンめいて、思考を凍結させていた。
その
「……俺は
「……
視線を泳がせる赤神は、アイコンタクトで対角線上にいる
訴えかけられた
「あぁー……俺はこの……人……」
「なんや歯切れ悪いのぉ~黒城ぉ?
「おまっ!? 何でヤクザだってバラしてんだよっ!?」
「あぁ~? んなもんワシの勝手やろがい、
どうやら、黒城の付き添いはヤクザのようだ。
小さな黒縁の丸眼鏡をかけ、こけた頬に不自然に剃り上げた髪。
見るからに近づいてはいけない雰囲気を纏っている。
その男と
隣にいた
「えぇっとぉー……この2人と新千歳空港で話してたら、不審者を見かけて……それで尾行してたら、いつの間にかここに……?」
「
「いや、あの……
「まぁ~まぁ~蛇島のダンナぁ……青汁でも
「どれだけ道連れにすれば気が済むんですか……っ!!」
東京の新人戦に乱入してきた7人のうちの1人──
彼が先輩と呼ぶ流浪人めいた男、桐ケ谷もまた、その
そんな、
本人はというと、体を小刻みに震わせ、今にも泡を吹きそうな有様で、青桐の方をチラ見していた。
「……
「……」
「……」
「……」
「……黒城、なんか
「あぁ? 赤神、お前さ……話のフリ雑じゃねぇ!? んなこと言ったってよぉ~……あぁー……んじゃ~話しが変わるがよぉ……お前に聞きてぇことがあんだよ」
「なんだ、黒城」
「なんかさぁ……
「あっ!! それ、僕も思った!! ねっ!! なんか変だよねっ!?」
「赤神さん、何か知ってるんすか?
「おいおい、急かすな青桐……結論を言えば知っている。だが……話したくない」
「んでだよ? 俺とお前の仲だろ? 隠し事なんてお前!! ……なんか変わっちまったなぁ~~~? この短ぇ間でよぉ~」
「こんな状況で
青桐、黒城、白桜の3人に囲まれ、逃げ場を失った赤神。
なんとか場を仕切ろうと司会進行を続けていたが、眉間に深く刻まれた皺が、彼の限界を物語っていた。
頑なに口を閉ざしていたものの、ついに観念したのか、
「……
「あっ? なんて? なんて?」
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「……それぞれ、これ以上の詮索はよせ。一先ず……柔県へ向かうぞ」
案内役を買って出たのは、流浪人めいた風貌の高校生である桐ケ谷。
彼の導きで、小型の乗客船へと乗り込むことになった。
エンジンの振動と波を割る音が交錯する中、面々はそれぞれ、思い思いの場所に腰を下ろしていく。
港を離れて、すでに数十分。
いま、彼らの乗る船内には、
互いに距離をとって座ったまま、誰ひとりとして口を開こうとしない。
そんな重苦しい空気が漂っていた。
「……」
「……
「……なんだ
「もう我慢できねぇ……柔県ってさ、アイツらの
「……知らねぇよ」
「
「知らねぇって!! 俺だって聞きてぇよ……」
「ってかさ、何で白桜はあんなに
「……隼人、落ち着け」
「古賀さん……」
「人生な、諦めが肝心だ」
「古賀さんっ!?」
ここぞとばかりに疑問をぶちまけていたが、古賀に半ば強引に宥められ、口を噤んだ。
息の詰まるような空気の中で、ただ時間だけが過ぎていく。
数時間後──彼らは目的地、柔県の港に到着した。
そこは、謎の集団
日本の他の離島と比べても遜色のない土地で、港に掲げられた全体図には
事情を何も知らずに足を踏み入れた者がいれば、眼前に広がる
時刻はすでに18時を回り、街灯の光が夜道を照らす中、
バスの前方では、バスガイドめいた桐ケ谷が
その隣で、蛇島はこの世の終わりめいた
「えぇ~この度は、柔県へとお越しいただき誠に
「あぁーもう駄目だなこれ。
「おっと、気を取り直してっと。皆さんにはこれから、ある場所へと向かっていただきやす。まあ、アレだ。あっしの
そう桐ケ谷が話した場所。
バスの窓越しに現れた浜辺では、夜だというのに大勢の人影が走り回っていた。
砂浜には屋根付きの筋トレジムや、畳を敷き詰めた試合場がいくつも並び、夜景を眺めながら汗を流すには格好の環境が整っている。
その爽やかな情景を打ち砕くように、浜辺からは絶え間なく暑苦しい雄叫びが、現在進行形で響いていたのだった。
誰が作ったのか心底問いただしたくなるほど、
『Muscle!! (Muscle!!) Muscle!! (Muscle!!) Muscle!! (Muscle!!) Pump!!
Let's train muscles everyone!! Right arm Pump!! (Muscle!!)
Let's train muscles everyone!! Left arm Pump!! (Muscle!!)
It's too early to give up! ?? Why are you giving up there! ??
Bully the muscles!! Bully the muscles!!
Look muscles are happy! !!
It's too early to give up! ?? Why are you giving up there! ??
Bully the muscles!! Bully the muscles!!
It's a good pump up!!
Let's all scream together, the name of the muscle!!
Pectoralis major!! Deltoid muscle!! Latissimus dorsi!! Triceps brachii!! Trapezius muscle……
yeaaaaaah!!』
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「BA・HA・HA"A"A"A"A"~!! 2人共帰ってき……た、か?」
集団の音頭を取っていたのは筋骨隆々の大男―――
その正体は、かつて
帰省していた桐ケ谷と蛇島を見つけるなり、大股で駆け寄ってくる彼。
直前まで鍛錬に励んでいたのだろう。
半裸の胸板からは、真冬の夜空へ白い湯気が勢いよく立ちのぼっていた。
桐ケ谷と蛇島と合流するなり、背後に見える青桐達の姿を見て、刃狼は口を半開きにして動きを止めてしまう。
そして、助け舟を求めるような目をして、桐ケ谷を問いただし始めた。
「き、桐ケ谷……お前何を……黒城だとっ!? はぁ"!?」
「ああ、刃狼のダンナぁ~コイツはですねぇ……以前
「へ、蛇島ぁ"っ!? お前、何のために付いて行ったんだぁ"!?」
「
「開き直ってんじゃねぇ!! し、
「なんだ刃狼……夜中に声がデカ……っ!? お前ら……なぜここにいる……!?」
かつて赤神と対戦した彼は、刃狼とまったく同じ反応を示した。
事態が平行線のままでは埒が明かぬと判断した赤神は、敵の総大将へと事情を説明し始める。
行方の見えない展開に不安を覚えた草薙は、ひそひそ声で青桐に相談を持ちかける。
青桐もまた、同じく声を潜めて応じていった。
「おい龍夜、これいつまで続く感じなの?」
「知らねぇよ……すぐ終わるだろ」
「いつだよ……」
「……いつかだよ」
人数の多さゆえ、周囲から見て
赤神と
それはかつて青桐が完敗を喫した深紅の髪色を持つ相手。
福岡のコンビニエンス道場以来の再開となる
「……よりにもよって、お前かよ」
「あ"ぁ"!? 仕方ねぇだろ!! 獅子皇さんの指示なんだからよぉ!! 文句あんのか青桐っ!?」
「君が俺達の案内役か。よろしく
「……っ!? え、
「あ、あぁ……」
「やっべ……
「……ここの人間の行方を追って来たんだ」
「ああ、獅子皇さんもそう言ってました。行方を追っている……? 誰をですか?」
「
「
「おいおい……お前らの組織の人間だろ? 知らないなんてことあんのかよ?」
「はぁ~俺に
「……」
売られた
青髪を逆立てて
「俺達の組織は役割が細かく分かれてて、よく
「手掛かりなし、か……」
「うぅん……街で
「ここから近いのか?」
「ええ。この島は主に東西南北4つのブロックと、中央の土地の計5つに分けられるんすけどね。各ブロックに街があるんすよ。今なら
「
これからの方針を定めた2人。
古賀は青桐と草凪を呼び寄せ、烏川を先頭に目的の街へと歩を進める。
4人は足早に進みながら、道すがらの
「……お前らの組織って、いつ頃に出来たんだ?」
「知らね。少なくとも、俺が生まれる前からあったってことしか
「さっき街って言ってたよな。そんなにこの島には人がいるのか?」
「あぁ? そうだなぁ……ざっと10万人くらいだったか? で、そんなこと聞いてなんになるんだよ」
「気になっただけだよ。一から作ったなら、移り住んだ人間が大半だろ? よくそんなに集まったな」
「そりゃなぁ~柔道絡みでこの
「……柔道への恨み? どういう事だ」
「それ、俺も詳しく聞いてみたいな」
「げっ……古賀さんまで!?
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烏川の身の上話を聞きながら進んでいた青桐達は、やがて目的の街へと足を踏み入れた。
そこは
もし目隠しをされたまま連れて来られたなら、誰もが
東京都知事の
烏川は一同にビルの影で待つよう指示すると、足早に姿を消した。
数分後、彼は紙袋を手に戻り、その中からマスクと帽子を取り出して青桐達に配っていった。
「なんだこれ」
「変装の
「……随分と協力的だな」
「あぁ? なんだ青桐、俺が罠に嵌めようとしてるって言いてぇのか? こっちもお前らが言う
「あ?」
「街をうろついている
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