真相を知ってしまったとしても―――
君は柔道が楽しいか?
ネオンライトに照らされた街を、
テラス席では大人達が
その喧噪を小耳にしながら、彼は通りを真っ直ぐに進んでいく。
歩を進めれば進めるほど、
「……」
(福岡の中州みてぇに
「らっしゃい、らっしゃい!! 焼き鳥はいかがだい!? お、そこのマスクの兄ちゃん!! 買っていくかい!?」
「1本いくらっすか?」
「50円!! どれも同じ価格だよっ!!」
(50円……? やっす。離島なのに本土より安いとかどういう仕組みだよ。ここ、
「……じゃあ、もも肉1本で」
「
キッチンカーの店主に呼び止められた青桐は、押し切られるようにして焼き鳥を1本購入した。
炭火で炙られた肉の香ばしい匂いと、煙に混じるタレの甘辛い香りが鼻腔をくすぐり、歩き回っていた空腹を一気に思い出させる。
商品を受け取る傍ら、よそ者だと悟られぬよう、言葉を慎重に選びながら、彼はさりげなく聞き込みを始める。
「……店長さん、この辺で不審な人物を見ませんでした? この前、近所でおびたたしい人を見かけたもので、
「んん~? どんな奴らだぁ?」
「えぇっと……
「んだそりゃ? この島にそんな奴がいたのかい。
「
商品を受け取った青桐は、キッチンカーを後にした。
もも肉を頬張りながらも、視線だけは絶えず周囲を警戒している。
人通りの多い場所には目もくれず、あえて通路の脇道へ足を踏み入れる。
薄暗いその道を進むにつれ、背後から聞こえていた
残されたのは自らの靴音だけ。
耳を澄ましながら、
そして、角を曲がったその先―――
「止マレ」
「あぁ?」
出会いは不意打ちめいて訪れた。
青桐の前に立ち塞がったのは、黒い
その
「身分証明書ヲ提出シロ」
「ちっ……あ~身分証明書ですか? あれぇどこだったっけ~」
「身分証明書ヲ提出シロ」
「えぇっと……今日は家に忘れて来ちゃってぇ……」
「身分証明書ヲ提出シロ」
「あ~今は持ってないですねぇ」
「ターゲット補足。確保二移ル」
「ちっ……頭の硬ぇガラクタだなぁ……!! スクラップにしてやんよ!!」
機械的な反応しか返さない無機質な機体。
顔面部のレンズが青白く点滅しながら、
応戦するように動く機体は、右手で青桐の
その動作は柔道の組手そのものであり、青桐も負けじと同じ箇所を掴み取り、相手の体勢を崩しにかかるため、左右に揺さぶり始めるのだった!!
「……っ!!」
(あぁ? コイツ、細身の体で重すぎんだろ!? 鉄の塊かよ!?
狭い路地での対戦ゆえ、自由に動き回る余地はない。
後手に回るよりは攻めに出た方が勝機はあると判断し、青桐は短期決戦に打って出た!!
相手の左足の内側を、右足で時計回りに刈り取る大内刈を仕掛けるも、相手は難なく踏み堪えた。
足技があまり効いていない様子に舌打ち1つ入れながら、青桐は更なる猛攻を仕掛けていく!!
今度は機械兵の足元から、天へと飛瀑めいて水を噴き上げ、敵の身体を宙へと押し上げる!!
折り返す水流と共に、青桐は体を反時計回りに大きく回転させ、右足を伸ばして敵の両脚を絡め取った。
左手で相手を強く引き寄せ、右手で頭部を抱え込み、左へと旋回しながら一気に引き落とす。
体落しを進化させた柔皇の技、No.65―――
「
「……っ!! 判定、一本……機能ヲ停止スル」
豪快に背中から地面へと投げ飛ばされた機械兵。
粉塵を周囲に撒き散らしながら、次第にその機能は停止していくのだった。
心臓の鼓動が収まらない様子の青桐。
警備兵の動きが完全に止まったのを見届けると、ようやく肺の中の空気を全て吐き出し、平常心を取り戻そうしていた。
「はっ!! はっ!! はぁー……
『
「……
『あー……んー……? デカいビルの真下……牛丼屋の側の公園だなっ!!
「
『手がかり? あぁ~……OK、
「へいへい、
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薄気味悪い
道中、送られてくる数枚の
街灯が仄かに地面を照らしている公園のベンチには、落ち着かない様子でソワソワと待つ草凪が座っていた。
青桐を見つけると、彼は手招きして立ち上がり、そのまま並んで歩き出す。
「
「
「あれ? ……
「
「おうよ。そんで……この先にいんだよな」
「ああ、龍夜が来る前にもなんか
「
公園の真正面にそびえる、年季の入った4、5階建てのビル群。
その隙間を縫うようにして、青桐と草凪は裏路地へと足を踏み入れる。
息を殺して進んだ先――ビルの影が落ちる溜まり場めいた一角に、文化祭で見かけた男の姿を見つけた。
2人は建物の陰に身を潜め、慎重に
「……この前の
「龍夜……今度は
「
「……だ。こ……である……か?」
「……聞えねぇな。もっと腹から声出せよ……動画を取る意味がねぇじゃねぇか」
「埒が明かねぇな……隼人、もう少し寄るぞ」
「
「
目的の人物は視認できたものの、肝心の会話内容までは拾えない2人。
周囲に散らばるごみ箱や廃棄物の影を伝い、忍者めいて目と鼻の先まで距離を詰める。
湿気を帯びた生ごみの臭気が一層強く鼻を突く中、手にしたスマホで
「……
「おい、白桜のやつ、もう見つかってるじゃねぇかよ……隼人、お前さぁ……」
「いや、俺に言うなよ!? つか今の……かなり重要な話じゃねぇか?」
「……財前って言ってたよな? ……あぁ? どういうことだ? ……げっ!! 隼人、そろそろ時間だ。烏川と古賀さんと合流する時間」
「
時間が許すなら、もう少しこの場に留まっていたかった2人。
烏川と事前に交わした約束どおり、集合場所へ向かおうとしたその瞬間、街に警報が鳴り響いた。
耳を劈くような音に思わず視線を巡らせると、ただならぬ事態が起きたことを直感的に悟る。
青桐達はペース配分など一切考えず、脱兎めいて全速力で
幸いにも周囲は薄暗く、
数分間、己の
到着するや否や、青ざめた
「青桐っ!! お前、
「……見つかって勝負を挑まれたから、ぶん投げてやったんだが?」
「なんで逆切れしてんだよ!? ……え、つうか勝てたの? いや、今はどうでもいい!! とっとと
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街から雲隠れするように遠方へと駆けていく4人。
背後に広がるネオン街の光は次第に霞み、代わりに無数の鉄の塊が肉眼で捉えられるほどの距離まで迫ってくる。
草木や遮蔽物を容赦なくなぎ倒しながら押し寄せる鉄の波に、青桐達は死に物狂いで逃走を続けていた。
「うわぁ"ぁ"!!
「知らねぇよ!! あ、そうだ。
「あぁ!? ……今見せて今っ!!」
急かす烏川に促され、青桐の合図で草凪は自分のスマホを差し出す。
烏川は走りながらスマホの画面を操作し、前方の障害物をほとんど見ずに巧みにかわしていく。
ひと通り映像を確認すると、烏川は目を細め、青桐へと真偽を問いただした。
「この動画……加工してねぇよな」
「そんな暇ねぇよ」
「こんな連中、知らねぇなぁ……妨害活動?
「……前にお前らごちゃごちゃ言ってたけどよぉ……最終的に勝ちゃいいんだろ? その割に妨害には否定的なんだな」
「当たり前だろっ!! 俺達はあくまで、柔道で
彼らの胸中を正確に測ることはできない。
だが推測するに、柔道部員と大人達の間で認識の
やがて
そこには既に到着していた他のメンバーが、バスに乗り込み、青桐達の帰還を待ちわびていた。
窓越しに姿を見せた獅子皇が、切羽詰まった
「烏川っ!! そっちも見つかったかっ!!」
「獅子皇さんっ!! ……ん?
「……深く考えるな烏川っ!! 今は取り合えず
あらかじめ呼び寄せていたバスへ、青桐達4人は飛び乗った。
彼らが腰を下ろすより早く、車体は勢いよく路上を蹴って加速する。
荒い呼吸を整えつつ空いた席へ身を沈める4人。
一方、前席に陣取る獅子皇はノートパソコンを操作し、集められたデータを
彼の傍らには、無数のUSBメモリが雑然と積み重なっており、青桐達が合流するまでひっきりなしに作業していたことが伺える。
「し、獅子皇さんっ!!」
「話は後だ。烏川、何か収穫はあったか?」
「え!? ……動画、動画があるんすよっ!!」
「それを渡せ。パソコンで
草凪のスマホをノートパソコンにケーブルで接続し、獅子皇は無駄のない動作で
作業を終えると、静かに端末を草凪へ返し、青桐ら4人に向けてこれからの方針を端的に告げた。
既に赤神達には説明を済ませており、今回で4度目となるため、その口ぶりは慣れを感じさせるものだった。
「このUSBには今回収集したデータが入っている。各々の活動に役立てるように。烏川!! こいつらが
「う、
追手を振り切ったバスは、荒れた海風を切り裂きながら港へと滑り込む。
桟橋では船が出航の準備を終えたところで、扉が開くや否や、青桐をはじめ島の外から来た面々が、足をもつれさせながら甲板へと駆け込んでいった。
追手は港の入口まで迫っていたが、
彼らの奮闘に支えられた青桐達は、無事に島を脱出し、張り詰めていた緊張の糸を各々緩めていった。
船内の長椅子に大きく身を投げ出し、荒く息を吐いていく彼ら。
一方そのころ烏川達は、船が岸を離れてもなお、波打つ桟橋の上で戦い続けている。
柔道の技を繰り出すその姿には、ただの護衛では終わらない、これからの覚悟と情熱が宿っていたのだった!!
「刃狼!! 天蠍!! 烏川!! 今後のことだが……少々面倒になりそうだ。腹をくくれよ!?」
「BAHAHA"A"A"!! おうよ、獅子皇ぉ"っ!!」
「あらやだ、盛り上がって来たわね♡」
「
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