直視し難い光景に直面したとしても―――
君は柔道が楽しいか?
2021年2月16日、暮夜。
途中合流した
巨悪を打ち倒すべく、会場へと乗り込もうとする青桐達。
だが、それを見越していた財前は、能古島へと続く橋の前に無数の
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『……とまぁ、引きこもりがちの財前理事長が公の場に姿を現すのが、この日――2021年2月16日ってわけだ。この日に僕達、城南の選手と蒼海の選手が協力して、財前を追い詰める。それが、僕達の提案するやり方だね。修多羅監督、以上で説明は大丈夫かな?』
『あぁ、説明ご苦労じゃったな……こちらからは大原とシモンを同行させる。その他の選手は、蒼海高校を死守する防衛戦に回す予定じゃ。おそらく学校への妨害工作を仕掛けてくるじゃろうからのう。先手を打って、対策を講じておくとしよう……井上監督、蒼海の皆さんには迷惑をかけるが、ここは何卒、協力を
『
『OK!! それじゃあ早速、作戦の話なんだけど……
『……蹴散らすっすか。俺以外に代え……俺と同じくらい
『そうだね。向こうはきっと、多勢に無勢で来ると思うから』
『………………なぁ
『あぁ。覚えてっけど』
『烏川の携帯の電話番号は?』
『あぁ? あぁ~……確か交換してて連絡先に記録……されてるな。 あ? おい、龍夜……まさかお前……』
『あいつさ、
『いやいやいや!? 流石にそれは……』
『あいつ
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襲撃前に交わした打合せのやり取りを、面々はそれぞれ思い返していた。
ジョンソンヘッドコーチが視線で合図を送ると、青桐は一度つばを飲み込み、意を決したように警備網の前へと姿を現す。
まだかまだかと落ち着かない様子の青桐は、手元のスマホに何度も視線を落とし、執拗に時間を確認していた。
その
彼らは青桐を囲むようにじりじりと距離を詰め、澄み切った冬空に、ドスの効いた声を張り上げていった。
「
「……」
「
「おいおい、もう柔道やっちまおうぜ? 畳の匂い、嗅がせてやろうぜ!?」
「ぎゃはははぁ!!
「……ちっ!! やっと来やがったか、アイツ」
「お~う青桐~!! 来てやったぜぇ!! そんで……アレ!! 持ってきてんだろうなぁ!?」
青桐が
黒い
無表情のまま、胸中で小さくガッツポーズを決める青桐は、烏川の期待に応えるべく、色紙入れに収めた古賀のサインを差し出す。
何も事情を知らない烏川は、
「うっひょ~!!
「……なぁ烏川、ちょっとこっち来いよ。もっと良いもんくれてやるからよ」
「
「……おい糞警備兵どもっ!! 一丁前に数だけ揃えやがってよぉ!! それで俺達の邪魔が出来ると思ってんのかっ!? 0がいくら集まっても0のまんまなんだよっ!! 数学出来ねぇのか? あ"ぁ"ん"!?」
「……あ? よく見たらなんだこの集団? おい青桐、青桐っ!!」
「テメェらなんてなぁ……1人で十分なんだよっ!! とっとと
「ん"ん"っ!?」
警備兵達へ向け、
その直後、彼は何の躊躇もなく右手で烏川を指差し、全ての責任を赤髪の青年へと擦り付けていった。
あまりにも他人事めいた
色紙を両手に持ったまま、彼は状況を飲み込めぬまま、青桐へと疑問を投げかけるのだった。
「……青桐? お前、何してんの……?」
「烏川……俺はお前の柔道の
「え?
「だからこうやって、お前を生贄に出来るんだ」
「おい待てっ!! ……お前まさかこのために呼んだのかよっ!?」
「察しが良くて助かるラスカル」
「お前、俺を
「あぁ? 男に二言はねぇんだよ」
「お前、自分に関係ねぇからって好き放題言ってんじゃねぇよっ!?」
「おいオメェらっ!! 先にあの黒い
「お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"!!」
「はぁ!? はぁ!! はぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
「おらご指名だ烏川ぁ!! とっととやってこいやぁ"ぁ"ぁ"!!」
「ギャァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!」
烏川を蹴り飛ばし、警備兵の群れへと叩き込む青桐。
囮となった彼は、迫り来る雑兵を軽々と投げ飛ばしながら、青桐に向けて何かしらの批判を浴びせているようだった。
だが周囲では、怒号と歓声が入り混じり、声は合唱めいて重なり合うばかりで、その内容を判別することは出来ない。
いや―――そもそも、青髪の彼に聞き取る気など無かったのだろう。
烏川に背を向けたまま、青桐はその場で小さく拳を握り、誰にも見えぬようにほくそ笑んでいた。
「…………よっしゃ」
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能古島へと続く橋を駆け抜け、豪華客船へと進入した青桐達。
事前にジョンソンヘッドコーチが内部から手を回していた経路を辿ることで、彼らは大きな障害に遭うことなく、船内への潜入に成功していた。
船内に溢れる人だかりをかき分けながら、目的地――
そこへ至る階段の目前に辿り着いた彼らは、ジョンソンヘッドコーチと最後の確認を交わすことになる。
「この先に財前が待ち構えているよ。今頃は大勢の人間と、立食パーティーでもやってるんじゃないかな?
「おい、見つけたぞっ!!」
「……まあ、そう
最上階の野外デッキへと突入しようとした、まさにその瞬間。
背後から、船内警備にあたる人間達が
船内に無数に設置された
どう対処したものかと、
その空気を察したのか、アロハシャツを素肌の上に纏った城南柔道部監督である修多羅が、さりげなく助け舟を出すように一歩前へと進み出た。
「……ジョンソンヘッドコーチ、ここはワシらが食い止めようかのう? シモン、其方もここに残りなさいな」
「oh!? ワタシ、居残りですカ!?」
「そういうところじゃ。どれ……運動がてら、ワシもちょいと柔道をやろうかのう。ほれ、ジョンソンヘッドコーチ」
「おっと……これは助かります、修多羅監督。では僕達は先へ向かいます。どうかお気を付けて」
「はいはい。城南の恥晒しに
二手に分かれることになった面々。
城南の監督とシモンをその場に残し、青桐一行は財前の元へと続く階段を、駆け足で登っていく。
追手を迎え撃つ役目を担うことになったシモンと修多羅監督。
本来ならば、自分も財前の悪行に終止符を打つ側に立てるはずだった――そう思っていたシモンは、
「……ワタシも行きたかったでス」
「そうむくれるな。後で寿司を……」
「なんだか急にやる気が出てきましたヨっ!! 監督、
「……いつにも増して食いつきがいいのう。現金なやつめ……」
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「おやぁ~~~? はぁ~……警備兵共は使えませんねぇ!?」
財前が待ち構える最上階――野外デッキへと辿り着いた青桐達。
会場には、ドレスコードに身を包んだ来賓客が楽しげに談笑し、点在するテーブルに並べられた豪奢な料理を、それぞれの皿に取って嗜んでいる。
そんな和やかな空気の只中で、明らかに場違いな侵入者の存在を、財前は即座に察知した。
会場入口から最も離れた位置に陣取る彼は、煌びやかな椅子に深く腰掛け、卓上の料理を貪りながら、眉間に濃い皺を刻んでいる。
忌々しげに侵入者達を
「あなた方を招いた覚えはないのですけどねぇ!?」
「
談笑していた来賓客達は息を呑み、視線は侵入者達へと吸い寄せられていった。
そのど真ん中を、青桐達は臆することなく、悠然と進んでいく。
先頭を歩くジョンソンヘッドコーチは、これまで独自に集めてきた財前の数々の悪行を、余興の演目めいて、芝居めいた口調で語り始めていった。
「財前理事長……あなた、
「はぁ~? 何を言っているのかさっぱり……」
「いやいや、
「あの秘書の野郎ぉ……」
「さぁ……大人しく
「……」
「財前理事長? 聞いてます? もしも~し」
「……うぅ、うぅぅぅ……!! ワ、ワタクシ、ワタクシ……!! 本当に馬鹿なことを、し、してしまいました……!!
「う~ん……?」
「小市民共がここまで
「……うぅ~ん」
(やっぱこうなるよねぇ)
ジョンソンヘッドコーチは、ある程度この展開を想定していた。
十中八九、
それでも、ほんの僅かな可能性――罪悪感に押し潰され、自首を選ぶかもしれないという淡い期待を、完全には捨てきれずにいた。
財前の振る舞い次第では今後の対応を変えるつもりでいたが、どうやら目の前の男には、その判断を揺るがすだけの良心は微塵も存在しないらしい。
大の大人が大粒の涙を流し、その場に膝をつきながらも、そこに反省の色は一切見受けられなかった。
プランBへ移行するしかない――そう悟ったジョンソンヘッドコーチは、諦観を滲ませたため息と共に、財前へと呼びかけるのだった。
「財前理事長……その反応は、こちらの要求を拒絶する――そう受け取って構いませんね?」」
「うわぁぁぁぁ!! ワタクシ、
「……あの、理事長。猿
「あぁ~~~? さっきからギャーギャーと……耳障りにも程があるのですがねぇぇぇぇ!?」
財前の獣めいた咆哮が、空気を切り裂いた。
その声に呼応するかのように、音もなくスーツ姿のSP達が現れ、青桐達の前へと一斉に割って入る。
財前はゆっくりと膝を地から離し、薄気味悪い笑い声を漏らしながら、こちらへと
その瞳は墨を流し込んだように黒く、狂気を孕んだ鈍い光を宿していた。
「はぁ~……!! ありもしないことをベラベラベラベラ、よくもまあ好き勝手に並べ立ててくれますねぇ!? あ"ぁ"!? ワタクシを
「ふ~ん、そう……」
(
「青桐さん、適当な暴言で時間を繋いでくれる?」
「
「あぁ"ぁ"ぁ"ん!? 誰が豚野郎だゴラァ"ァ"!! テメェ、誰に向かって口を利いてるのか
「……こんな感じで良いっすか?」
「Great、良い暴言だったよ……今、ヘリが見えたね……皆、プランBで行くよ」
じりじりと距離を詰めてくる黒服のSP達。
完全に包囲されているにもかかわらず、青桐達の
その時、ざわめきに満ちた会場へ、突如として空から重低音が降り注いだ。
輸送ヘリCH-47JAの飛行音である。
3機のヘリが豪華客船めがけて接近し、やがてその巨体を頭上に滞空させた。
後部ハッチが開かれ、畳を担いだ屈強な男達が、次々とパラシュートを展開しながらデッキへと舞い降りていく。
場内が完全な
轟音と共に受け身を取り着地!!
その身を滑らせるようにして、青桐達と財前の間へと割って入ったのだった!!
「む……久しいな
小説家になろう、カクヨム、NOVEL DAYS、アルファポリスでも投稿をしています。