己の怒りが限界を迎えたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
場内で敵の大将を待つ副将の
だが肝心の
今にも内側から破裂しそうな
―――そしてついに、その時が訪れる。
「ふぅぅぅぅー……ふぅぅぅぅぅ~~~~!!
赤黒い悲鳴を撒き散らしながら、財前は傍らの荷物入れへと手を突っ込む!!
次の瞬間、取り出した注射器を左腕へ勢いよく突き刺した!!
薬液が、どぷりと血管へ流れ込んでいく!!
本日2本目のドーピング剤を打ち込んだ財前は、使い終えた容器を乱暴に放り捨てた。
そして―――沼の底から瘴気を引きずり上げるように、ゆらりと立ち上がる。
場内へ踏み込んできたその姿は、もはや人間というより怨念の塊だった。
狂気を孕んだ双眸は、精神の腐敗を映し出すかのように濁り切っている。
財前は目前に立つ大原を、じっと見据えていた―――!!
「ワタクシぃ……今までの人生、大概のことは金でどうにかしてきたのですがぁ……ここまで思い通りにならないのは初めてですよぉ……ワタクシの番が回ってきた時には、
「そりゃ残念だったな?」
「えぇ……もっと高い金を払って、質のいい
「……なんかさっきから、俺と大将の青桐に勝つ前提で話してるよな? ……どこまで
「はぁ~……小市民には
大原が勝てば、その瞬間に団体戦は終了。
後に控える
―――注目の一戦が、ついに始まる!!
対する大原も、例え学校の理事長が相手であろうと、一切手加減をするつもりはない。
両手へ厚氷をコーティングした彼は、敵との組手争いに備えていく!!
「
「しゃぁ、こいっ!!」
「はぁ~……やはり
大原の頭上へ、財前の両腕が荒々しく振り下ろされる!!
氷で覆われたその腕に触れれば、呼吸を阻害され、確実に体力を削られる。
それを嫌った財前は、本来狙う横襟ではなく、首裏に近い奥襟を右手で深々と掴み取った!!
脇を固く締め、大原の頭を地面へ押し潰すように組み伏せていく財前。
その巨体から繰り出されるのは、ドーピング剤によって底上げされた
小細工を仕掛ける大原の策を、真正面から力尽くで粉砕していくのだった!!
「ぐぅ……!? こいつ……そこそこ鍛えてんな!?」
「おほほほほ!! 正解ですよぉ!! さっきからあなた方ぁ、ワタクシの
「……ちっ!! 脳筋が……っ!!」
「ん"ん"ん"っ!! 総投資額500億ぅ"ぅ"ぅ"!!
100㎏を超える巨体で、真下へ押し潰すように圧を掛ける財前。
対する大原は、足を肩幅以上に開き、歯が砕けんばかりの力で食い縛りながら耐え抜いていた!!
体を支える2本の足。
その左足を狙い、財前の丸太めいた極太の左脚が、大原の外側から薙ぎ払うように襲い掛かる!!
突っ張り棒を外されたかのように左足を払われ、大原の体勢が大きく崩れた!!
その瞬間―――財前は後ろ腰を肩越しに掴み取る!!
左回転しながら半身へ入り込み、大原の左足の内側を鋭く払い上げるように、内股を炸裂させた!!
地面から引き抜かれた大原の体が、宙へと浮かび上がる。
ばたつく両足が空を切り―――数秒後、その背中が乱暴に畳へ叩きつけられた!!
「技ありぃっ!!」
「ん"ん"ん"!! 寝技で仕留めましょうかねぇ"ぇ"ぇ"!!」
一本勝ちを逃した財前は、そのまま制圧による勝利を狙い、地に背を付けた大原へ追撃を仕掛ける!!
猛牛めいて突進してくる財前を、大原は
財前の両腕が迫る中、大原は左手で財前の左襟を掴み、右手で
交差するように両腕を引き絞った次の瞬間―――
ロープで首を締め上げるかのように、財前の頸動脈を一気に絞め落としていった!!
ゆでだこめいて
「あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!? 締め技とは、鬱陶しいですねぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!!」
「おらどうした財前!! とっととギブする…………おぉ!?」
「だぁ~れがギブなど、するものですかぁぁぁぁ!!」
「
審判から
首を絞められていた財前は、大原が体へへばり付いたままの状態で、力任せに上体を起こした。
そのまま畳から立ち上がり、寝技の攻防を強引に断ち切ることで、試合を中断させてしまう!!
財前の首へぶら下がったままの大原は、やがて両腕を解き、静かに畳へ足を下ろした。
そして、そのまま試合開始前の位置へ歩みを進めていく。
「ふぅ~……ふぅ~~~~!! 寝技でどうにかしようと企んでいたのでしょうがぁ~~~……無駄でしたねぇ~~~? ふぅ~~~~~残念っ!!」
「………………」
(こいつ、だいぶ息が上がってんなぁ。……運動不足か、こりゃ?)
「
試合再開までの束の間の
せき止められていた血流が脳へ巡り始めたことで、財前の頭には次々と
そして試合再開と同時に、意気揚々と体を乗り出し、大原の
対する大原も、差し返すように
―――だが、彼は先ほどから思考を巡らせ続けている。
仰々しく言葉を並べ立てる財前は、その様子に僅かな違和感を抱いていた!!
「んんん~~~? まぁた寝技狙いですかぁ……? ワタクシが、そう何度も同じ手を食らうとでもお思いですかぁ? お~ろかおろか♪ お"ろ"お"ろ"か"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
ガッチリと両手で組み合った財前。
ダンプカーめいて前進すると、その巨体で大原の体を後方へ無理やり押し込んでいく!!
大原も重心を低く落とし、両足で畳を踏み締めながら抵抗を図る。
―――だが、目の前の巨体の足が止まることはなかったのである!!
「ちっ!! この……豚がぁ……!!」
「ぶひぃ"ぃ"ぃ"ぃ"ぃ"!! 豚、
大原は後方への後退を余儀なくされ、場外の境界線がじわじわと迫ってくる。
そんな最中―――左足を真後ろへ引いた瞬間、突然、階段を踏み外したかのような浮遊感が全身を襲った!!
反射的に視線を真下へ落とす。
そこには、本来あるはずの畳が焼け溶けていた!!
なんたる光景、
財前が両足へ纏わせた炎によって畳が融解し、苦く燻された煙が大原の鼻腔を鋭く突き刺していく!!
同時に左足を取られ、大原の体勢が大きく崩れた!!
財前の目が妖しく光る。
次の瞬間―――炎を纏った左足が、大原の右脛へ接触。
そのまま後方へ押し込むように刈り払われ、大原の体が宙へと舞い上がった!!
払釣込足の強化技。
No.20―――
「
「技ありっ!! 合わせて一本っ!!」
敗北の気配を肌で感じながら、体勢を崩した大原の背が、再び畳へ叩きつけられる!!
判定は技あり。
2つ目の技ありを奪われた大原へ、審判は無情にも敗北を告げた。
互いに礼を交わし、大将である青桐へ繋ぐため、大原は静かに会場を後にする。
「わりぃ青桐、俺で決着をつけるつもりだったんだがな……あの野郎、思った以上に腕力があるぞ。恐らく……薬を2本使ったことが影響してんのか? 力勝負は避けた方がいいぜ。それとなんだが―――」
「……ん? ――――――」
「おほほほほっ!! さあさあぁ!? あと一人でワタクシの勝ちですねぇぇぇ!! さっさと入っていらっしゃいなさぁい!!」
「―――つーわけだ。頼むぜ青桐、あの野郎をぶっ飛ばしてくれ!!」
「
何かを耳打ちされていた青桐は、大原へ軽く会釈すると、そのまま視線を財前へ移した。
倒すべき標的が会場内で
一礼して会場内へ歩みを進めると、一回りも巨大な目前の敵を鋭く
冬空の下―――広がっていく殺意が空気を尖らせる中、試合前最後の
「ふー……」
「おほほほほ……さぁてと……最後は青龍の2つ名を持つ方ですかぁ……そうですかそうですかぁ!!」
(んん~……ワタクシ、この青桐って野郎に勝てますかねぇ? 前評判は嫌でも知っていますしぃ~……何か戦いを有利に運ぶ材料はないでしょうかねぇ? ……っ!! おやおや? おやおやおや!? そう言えば……思い出しましたよっ!!
「あぁ~コホン。青桐さん……ちょっと良いですか?」
「断る。さっさと試合を―――」
「
「……あ?」
「2020年8月15日、夕暮れ。全国大会から帰省した二人は、高層ビルの修繕工事が行われている工事現場を通っている際、なぜかワイヤーが切れたため、吊るしていた鉄骨が落下してしまいぃ~~~!! 青桐さんを庇うために、
「…………………………お前、なんでそこまで知ってん―――」
「いや~あの
「……………………」
「博多の女は可愛い子が多いですしぃ~~~適当に女見つけて、適当に新しい
「ぶ"っ"殺"す"っ"!!」
小説家になろう、カクヨム、NOVEL DAYS、アルファポリスでも投稿をしています。