YAWARAMICHI   作:ウィリアム・J・サンシロウ

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積み上げた記憶は水の泡と化し―――
振り出しに戻ったとしても―――
君は柔道が楽しいか?


OBLIVION・シオン・追憶と忘却の記憶

 豪華客船上での戦いを終えた青桐(あおぎり)達。

 審判寺(しんぱんじ)とその部下(えもん)達が、財前(ざいぜん)とその関係者が召捕(そく)られ、警察(ぶた)へと連行していくのを見送る。

 その流れに続くように船を降りた彼らは、城南高校の広々としたグラウンドへと招かれていた。

 そこには無数のパイプテントが並び、その下には折り畳み式の机が立ち並んでいる。

 机の上には、切り分けられた肉や野菜が隙間なく銀皿に並べられていた。

 労いの意味を込めて、ジョンソンヘッドコーチが饗宴(ごち)るBBQ。

 それに参加する蒼海高校柔道部の面々を、監督達は少し離れた場所から眺めている。

 焼酎を飲酒()きながら、互いの健闘を讃え合う監督達。

 その言葉の節々からは、決戦までに積み重ねてきた苦労の香と、ようやく戦いを終えた安堵が、しみじみと体から滲み出ていた。

 

「お互い、今回は大変じゃったな」

 

「そうですね……修多羅(すたら)監督、今回はどうも感謝(あざっす)

 

「なになに、礼を言うのはこっちの方じゃよ、井上(いのうえ)監督。おかげで理事長を檻に叩き込めたんじゃからな。じゃろ? ジョンソンヘッドコーチ」

 

「え? えぇ、そうですね」

 

「……? どうした? さっきから請求書を眺めて」

 

「いやぁ~……審判寺一族を呼んだ代金の請求書を受け取ったのですがねぇ……えらい金額が割引されているんですよ。何でしょうかね、これは」

 

「ふぅむ……? 彼らを呼んだのはワシも初めてじゃからのぉ……よく理解(わか)らんな。まあ、良いんじゃないか? 金が少ない分にはな。あやつらの食費が(パな)いことになりそうじゃし……」

 

大原(キャプテン)っ!! シャトーブリアン買って来たヨっ!!」

 

「……支払いは僕なんだから、彼らはもう少し遠慮して欲しいんだけどねぇ」

 

施主(おおくらしょう)は大変じゃのぉ~……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うへぇ~……油が多くて胃もたれしそうです……ん?」

 

「Hey~!! 蒼海のマネージャーだネ? Meも同じ同じ!!」

 

「あ、どうも……!?」

 

(城南のマネージャーって外国人(じんと)!? 金髪で……うぉ、胸が大きい……っ!! れ、劣等感がぁ……!!)

 

 火の通った肉を求めて、蒼海のマネージャーである五十嵐(いがらし)は、鉄板の周囲をさまよっていた。

 そんな彼女にフランクな調子で声をかけてきたのは、城南の外国人マネージャー、アメリアだった。

 初見(あためん)とは思えないほど気さくな様子で、肩を寄せるようにして五十嵐へ歩み寄り、さっそく友好関係を築こうとしている。

 その勢いにたじろいだ五十嵐は、周囲を見回して助けを求めるが、ちょうどいい人間は見つからない。

 真っ先に頭へ浮かんだ人物達は、先ほどの戦いの反省会を行うため、会場の一角に陣取っていた。

 石山(いしやま)伊集院(いじゅういん)草凪(くさなぎ)青桐(あおぎり)の4人。

 焦げ目のついた肉から脂を滴らせながら、それを頬張る4人は(つら)を突き合わせ、それぞれの戦いを振り返っていた。

 

「俺、仕掛(かま)す意識ばもっと持たないかんばい……」

 

「俺はそうだな……あの大原(おおはら)って人の戦いを見て、少し試してみたいことが出来たな。9割9分9厘、俺に適するかは理解(わか)らんが……失敗(ちょんぼ)は成功のもとと言うし、試してみるか」

 

龍夜(りゅうや)左利き(ひだりぎっちょ)の技さ……一応実戦で使い物にはなってたけどよ、毎回毎回、組み立て方が一緒(おそろっち)じゃねぇ? 背負い投げをフェイントにして左の一本背負いって感じでよ。最後の一本背負いなんて、相手に完全に読まれてた臭くねぇか?」

 

「……まだ足さばきに慣れてねぇから、工夫する余裕がねぇんだよ……逆の動きをすればいいだけなのに、思った以上に難しいんだわ。つーか、隼人(はやと)はもっと体力つけろよな。今日の試合、お前だけ明らかに消耗(へば)んの早すぎただろ」

 

「いやいや、俺、3試合ぐらいやる羽目になったから!? 普通消耗(へば)るって!!」

 

「うるせぇー……隼人、これから練習後は自主練で42.195㎞な」

 

「ぴゃ~龍夜君厳ちい~~~」

 

「……お前、俺のこと煽ってんのか?」

 

ー----------------------------------

 

 2021年4月19日、月曜日の夕暮れ。

 新学期を迎え、青桐達もそれぞれ1つずつ学年が上がった。

 放課後の博多駅地下(いたばした)修練場には、新入部員(ぺーぺー)達の純真(うぶ)い掛け声が響き、いつもとは違う新鮮な活気に満ちている。

 その中で、新入部員(ぺーぺー)の1人が、東京タワー3つ分にも及ぶ高さの天井から吊り下げられたロープを、必死によじ登っていた。

 勢いよく登り始めたものの、出だしから数メートル。

 早くも多くの手から合唱めいた悲鳴が上がり、修練場へ響き渡っていたのだった。

 

「ぐ……あぁぁぁあ!? 限界(おたまりこぼし)限界(おたまりこぼし)ぃぃぃぃ!!」

 

頑張(きば)れ、ここからだぞっ!!」

 

「んなこと言ったって……ギャァァァァ!!」

 

「あ、落ちた……アイツ、このロープ、何m登ったんだ?」

 

「えぇと……13mくらい……?」

 

「おぉ……結構頑張(きば)ったんじゃないか?」

 

「どうだろ……青桐先輩、1000m登ってるし……」

 

「せ、せんっ!? これ全部登ったのっ!? 化け物かよ、あの人……」

 

「ぐがぁぁぁぁっ!! ……もう無理」

 

「お、おい、大丈夫かっ!?」

 

「この鉄球を受け止めろって……何百㎏あるんだよ……何で石山先輩は、あんなに易々と止めれんだよ……」

 

「伊集院先輩は数十台の組手マシーンを一斉に相手してるし、花染先輩は木で出来た弾丸の雨を躱してるし……木場先輩は重石付けて(パね)ぇ~泳いでるし……」

 

「他の人達も後に続いてる……あれ? ここの先輩達、化け物しかいねぇぞ?」

 

「ん、どうした1年生(いちねんぼう)?」

 

「あ、草凪先輩、(おつかれさま)ですっ!!」

 

「おう、(おつかれさま)。どうだ? 練習には慣れたか?」

 

「そうっすね……正直、ついていけるか不安っす……」

 

「あ~理解(わか)るわ、その気持ち……まっ、そのうち慣れるから気にすんなってっ!! 俺も昔は地獄(へるへる)見たけどよ。慣れてきたら……おらぁ"ぁ"ぁ"っ!!」

 

 人外めいた練習を軽々とこなしていく蒼海の先輩達に、すっかり萎縮していた1年生(いちねんぼう)達。

 そんな彼らの様子を見かねたのか、偶然通りかかった草凪が、新入部員(ぺーぺー)達へ肩の力を抜くよう促す。

 その片手間に――彼らの頭上へ落下してきた巨大な氷塊を、人のいない場所へと軽々と投げ飛ばしてみせた!!

 一瞬、反応が遅れた1年生(いちねんぼう)達。

 何が起きたのかを理解した彼らの皮膚からは、冷たい汗がじわりと滲み出していた。

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

「……あっぶねぇ~!! お前ら大丈夫か?」

 

「う、了解(うっす)!! 頑張(きば)りますっ!! はいっ!! 練習の続き、やってきますっ!!」

 

「? ……お、お~う、頑張(きば)れよ~……あれ? なんか俺、失敗(しく)ったか……?」

 

「うへ、うへ、うへぇ!! 手が回りません……誰かぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!! ヘルプミーぃ"ぃ"ぃ"!!」

 

「んぁ? ……どうしたの、カナちゃん」

 

「おぉ!! いいタイミングですね!? あの~ちょっと買い出しに行きたいのですがね……絶対、私じゃ持てない量なんですっ!! 誰かに来ていただきたいんですっ!!」

 

「あ、そうなの……んじゃ、俺も行こうか? ……龍夜も連れていくか。お~い、龍夜っ!! ちょっと来てくれっ!!」

 

「……んだよ、隼人……懈怠(あおてん)か?」

 

「違ぇよ!! ちょっと買い出しに付き合えよ。カナちゃんが助けを求めてるぜ?」

 

「ん、そうか。理解(わか)った……ちょっと待っててくれ」

 

「おう、迅速(なるはや)にな~」

 

「青桐さん、お手伝い、熱望(おねがいしゃっす)っ!!」

 

「おう……ん?」

 

「あ、青桐先輩だ……(パね)ぇ……迫力ある……」

 

「おい……俺に何か用か?」

 

「ひぃっ!? いや、あ、え、その」

 

「…………」

 

「さ、謝罪(さっせん)でしたっ!! あ、練習い、行って来ますっ!!」

 

「あぁ? あぁ……」

 

ー----------------------------------

 

 (かざしぐさ)の花びらが作り出した桃色の絨毯が、街灯に仄かに照らされている。

 練習を終えた青桐、草凪、五十嵐の3人は、備品の調達のため、近くのホームセンターへと足を運んでいた。

 テーピングやプロテインなどの消耗品を中心に購入したものの、その量はとても1人では持ちきれないほど多数(さんたく)だった。

 段ボールをいくつも抱えて支払いを終えた3人は、近くの公園へと移動し、ベンチに腰を下ろす。

 缶ジュースを片手に一息つきながら、夜桜の下で束の間の休息(なかいり)を取っていた。

 

謝罪(さっせん)!! 想像以上に新入部員(ぺーぺー)が増えちゃって、明日と明後日の備品がなくなってしまったんですよね……完全に見誤(どじ)りましたっ!!」

 

「ほー……そんな人増えたんだ」

 

「はいっ!! マネージャーも増えたので、教えることが多くて、手が回ってないですねっ!!」

 

「大変そうだね……あ、そうだ、龍夜」

 

「……ん、何だよ」

 

「お前さ、練習中に1年生(いちねんぼう)怖気(びび)られてたぞ? 愛想が悪いんだよ愛想が……笑顔、理解(わか)る? えぇがぁおぉ~」

 

現実(マジ)か」

 

現実(マジ)だよ。つか、なんでそんな不服そうなんだよ!? な? そう思うだろ、カナちゃん?」

 

「うへぇっ!? あー……なんですかね、そのー……人を殺しそうな目をしてますねぇー……」

 

「……人、殺し?」

 

「あ、あ!! 謝罪(さっせん)したぁっ!! あ、け、指詰《けじめ》で勘弁してくださいぃぃぃぃ!!」

 

「へいへいへ~い!! 龍夜くぅ~ん、これが周りの印象だぞぉ~!! 理解《わか》るか!?」

 

「理解《わか》らん……いや、鈴音(すずね)にもそう言われてたっけか……?」

 

「あぁ? ……鈴音? 何で今……お前、まさかまだ引きずってたりする?」

 

「…………」

 

「夢《ウソ》だろ、お前……半年以上経つんだぞ……?」

 

「いやさ……事故の原因を作った財前(ざいぜん)御用(しば)かれたのはいいんだけどよぉ……なんだろな。今までと何も変わってねぇっていうか」

 

「……あの野郎が買収した土地で工事して、事故を装った計画的な犯行だったっけか?」

 

警察(ぶた)の話ではな……事件の全貌は理解(わか)ったけどさ……それで鈴音が目を覚ます訳じゃねぇし。これ、やられ損じゃねぇかよ……」

 

「いやまぁ……そうだけどよさぁ……」

 

「う……おぉ」

 

猛烈(はんぱ)なく重い空気が流れてますよ……どどどどうしましょう……こんな時、夏川(なつかわ)さんがいたらどうにかしてくれそうなのに……)

 

 重苦しい空気が胸を締め付ける中、ふとマネージャーの五十嵐は、高校へ入学して初めて夏川と出会った時のことを思い出していた。

 昨年4月――あの日の追憶(しおん)を―――

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『……ここが柔道部……なんか、厳格(イカつい)ですね……これ、入っていいのですかね? ダメ? うぅ……どうしましょうか』

 

『ねぇ』

 

『……はい? ……っ!?』

 

(うわっ、均整美人(スタシャン)!! 誰だろう、この赤毛の人……ってかおっぱいでかっ!? 耳にピアス付けてるっ!? ……なんかこういう感じの人、不良ドラマで見たことあるかも!? 待って待って、冷静に私……えぇっと、赤髪の人と……後ろの青い髪の人がぁー……人殺しの目でこっちを見ているぅ!? ここでもたもたしてたからっ!? あ、この目は完全に人を殺ってますね。今日が命日ですか、そうですか……お父さん、お母さん、今まで感謝(あざ)っしたぁ……)

 

『ねぇ、もしかして、柔道部に入部するの?』

 

『ひぇっ!? はいっ!! そうでありますっ!!』

 

『マネージャー志望?』

 

『はいっ!! 僭越ながら、その通りでありますっ!!』

 

『やった~!! 実はワタシもなのっ!! ワタシ、夏川鈴音っ!! よろしくねっ!! あ、名前聞いてもいい?』

 

『私、五十嵐カナでありますっ!! よろしく熱望(おねがいしゃっす)!!』

 

『そ、そんなに硬くならなくても……』

 

『ひ、ひぃ!! 殺さないでぇ……』

 

『ん……? ……っ!! 龍夜っ!! アンタ愛想よくしなさいっ!! 五十嵐さんが怖気(びび)ってんでしょっ!?』

 

『……え? 現実(マジ)で……?』

 

『この……!! ゴメンね、五十嵐さんっ!! コイツ、私の彼氏(かれぴ)の青桐って言うんだけど……年がら年中こんな(つら)してるからっ!! ね? 安心してっ!!』

 

『……? 殺さない?』

 

『殺さない殺さない!! 仮に何かあったら、ワタシがコイツを殺すから!!』

 

『……やっぱり死人は出る感じですかぁ!?』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『でさぁ~……龍夜のやつ、周囲に迷惑かけ過ぎなのよぉ……世話する方の身にもなって欲しいのよぉ!! この前だって先輩に突っかかっていってさぁ~』

 

『うわぁ~……大変そう……』

 

『でしょ!? それに……アイツ、恋人関係になったのに、全然恋人らしいことしてくれないのよっ!! そういうのは高校卒業してからだと思う、だってさっ!? 思うって何よ、思うってっ!! 何でそんなとこだけ糞真面目なのよっ!! ちょっとぐらい私に手ぇ出してみなさいってんのよ!! あの馬鹿(ぐだま)!!』

 

『……ん? んんん!? 夏川さんっ!! ちょっと!!』

 

『ん~? どしたの、カナちゃん?』

 

『青桐さんが……面倒事起こしそうですっ!!』

 

『…………はぁ!? あの馬鹿(ぐだま)……!! カナちゃん、教えてくれて感謝(あざっす)っ!! ちょっと行って来るわ!! これからも龍夜の馬鹿がやらかしそうになったら、教えてね!! よろしくっ!!』

 

『あ、はい!! 喜んで!!』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 初対面の相手にも分け隔てなく接する、太陽(きくのはな)めいて快活(きゃぴ)る女性の姿が、五十嵐の脳裏を過る。

 定期的に交遊(あいずき)を重ね、親睦を深めてきた2人だったが、その片割れは今、この場にはいない。

 今もなお病院のベッドで眠り続ける彼女を思えば、五十嵐の胸中は穏やかではなかった。

 誰もが言葉に詰まる御通夜(しけしけ)の中、沈黙(スフィンクス)を破ったのは、無機質な機械音だった。

 着信音が周囲に鳴り響く。

 五十嵐はポケットからスマートフォンを取り出すと、何かを警戒するように、恐る恐る通話へと応じた。

 

「……ん? 電話……花染(はなぞめ)先輩から? もしもし……えっ!? ……夏川さんが目を覚ました!?」

 

「……はっ!? カナちゃん、今なんつったっ!?」

 

「あたたたたぁっ!! 青桐さん、肩、もげる!! あ、死ぬぅぅぅ!!」

 

「龍夜、落ち着け馬鹿(ねさのこ)っ!! カナちゃん、それ現実(マジ)かっ!?」

 

「はいっ!! 学校に連絡があったって、花染先輩がっ!! あっ!! 青桐さんっ!?」

 

 五十嵐マネージャーの制止を振り切り、青桐は我武者羅(しゃかりき)にひた走っていく。

 耳を疑うような知らせに、彼の頬には久方ぶりの笑みがこぼれていた。

 その後を追うように、草凪と五十嵐も青桐の背中を追っていく。

 いつにも増して颯爽と街を駆け抜けていく、その背中を必死に追いかけるために―――

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 夏川が入院している病院の入口へ、青桐はいち早く駆けつけていた。

 既に到着し聚合(たむろ)していた蒼海のレギュラー陣――木場(きば)伊集院(いじゅういん)石山(いしやま)の3人も、青桐達が来るのを待ちわびるように、落ち着きなく周囲を見渡している。

 青桐と目が合うと、木場が右手を上げ、手招きして彼を呼び寄せた。

 肺が酸素を貪るように激しく呼吸する中、青桐は張り裂けそうな両脚を前へと動かし、3人のもとへ駆け寄っていった。

 

「青桐っ!! こっちだこっち!!」

 

「はっ!! はっ!! えっほ、げほぉっ!! ……き、木場先輩、(おつかれさま)です。あの、す、鈴音はっ!?」

 

「おいおい、一旦落ち着けって……今、花染が受付に行ってる。病院内は静かにだぞ?」

 

了解(うっす)。ふー……」

 

「9割9分9厘、このままだと夏川に怒号(どや)されるぞ」

 

「青桐君、やっとばいね!!」

 

「伊集院も石山も感謝(あざっす)な。駆けつけてくれてよ」

 

「龍夜ぁ~……お前、俺達のこと置いて行くなよぉ……おぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! おま、急に走り出すからよぉ!! カナちゃん見てみろ、ほれ!!」

 

「お"え"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!! あ、青桐さん、ご心配な……お"ろ"ろ"ろ"ろ"!!」

 

「いや……あぁー……わりぃ」

 

「……風雲児が到着したか」

 

 (つら)を突き合わせる青桐達の前へ、受付を済ませた花染が病院の入口から姿を現す。

 しかし、その表情(つら)はどこか浮かない。

 頭を掻きながら、慎重に言葉を選ぶような素振りを見せている。

 まるで彼1人だけが、夏川が目を覚ましたことを素直に喜べていないかのようだった。

 

「……お前ら、よく聞け。今日は帰らないか? もう時間も遅いしな」

 

「あぁ? 花染ぇ、急に何言ってんだよ、お前」

 

「いや……これは……あまりいい風が吹いていないというか」

 

「あの、花染先輩。俺、もう行くっすね」

 

「あっ!! おい!! ちっ……疾風か、アイツは!? お前ら、すぐに後を追うぞ」

 

「おい、花染。何かあったのかよ? 何そんなに焦燥(あせあせ)ってんだよ、不明瞭(したったる)いぜ?」

 

「そうだな……理由は走りながら話そう。その前にお前ら、俺と約束(ちぎり)だ。青桐が取り乱したら、すぐに取り押さえるんだぞ……!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 花染達を置いて、夏川のいる病室へと向かった青桐。

 定期的に訪れているその場所を、音を立てながら早足で進み、病室の扉を勢いよく開ける。

 そのまま、室内へと歩を進めた。

 これまで何度も目にしてきた、ベッドに横たわる夏川の姿。

 しかし今、彼女は上体を起こし、ぼんやりとした表情(つら)で、窓の外に広がる闇に染まった景色を眺めていた。

 呼吸が、徐々に速くなっていく。

 待ちに待ったその日が、あまりにも突然訪れたことで、青桐はまだ心の準備ができていなかった。

 なんて声を掛ければいいのか。

 そう迷っている間に、遅れて花染達も病室へと到着する。

 大人数が室内へ入ってきたことで、さすがの夏川も彼らの存在に気がついたのだろう。

 とろんとした目を青桐達へと向ける。

 そして彼女は、青桐が言葉を発するよりも先に―――

 

「す、鈴音っ!! お前……!! んだよ、お前やっと起き―――」

 

「あの……皆さん、誰……ですか?」




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