いずれ完全に動きを止めたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
なんたる悲劇、
病室内が静まり返る。
青ざめる者。
口を開けたまま呆然とする者。
それぞれが異なる反応を見せる中、最愛の
「お、おい……お前、さぁ……?」
「え、えっと……
「………………ちっ!! お前さぁ"!? お前……
「うぁ……苦しい、や、めて……」
「おい
乱暴に胸倉を掴み、震える声で
患者衣の首元を締め上げられ、苦しげに息を詰まらせる夏川の頬が赤く染まっていく。
その瞳には、苦痛に
そんな2人の間へ割って入る
胸倉を掴んでいた青桐の右手を掴むと、力任せに夏川から引き剝がす。
「よ、よぉ
「……さ、
「おいおい、
目を覆いたくなる
その場から逃げ出すように病室を飛び出し、脇目も振らず駆け去っていく……!!
草凪もすぐさまその背中を追い、病室から飛び出していった!!
後に取り残された
重苦しい空気が病室を満たす中、最初にその
「……あの、ちょっといいですか? えぇっと……」
「……花染だ」
「花染さんですね……あの、私とさっきの青髪の人って、どういう関係なのでしょうか……」
「関係、ね……風化することのない
「そう、だったんですね……あのっ!! 花染さん!!」
「……どうした?」
「えっと……その、青桐さんのこと、頼んでもいいですか?」
「………………頼む、か」
「はい……私、
「……」
(昔、俺達に青桐のことを頼むと言っていたが……記憶を失ってもなお、同じように頼み込むのか)
「……あぁ、
深々と頭を下げられ、青桐のことを
病室を後にする彼らの足取りは、鉛めいて重い。
記憶を失ってなお最愛の男を想い、献身的にその身を案じる夏川の姿に、かつての記憶を呼び起こされていた。
誰1人として言葉を発さぬまま、歩を進めていく男達。
その足取りとは裏腹に、何かを決意した彼らの鋭い瞳には、確かな熱が宿っていた。
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「はぁ……はぁ……おいっ!! 待てって、龍夜ぁ"!!」
夏川の元から一心不乱に
行き交う人の波を掻き分け、遠ざかるその背中を必死に追う。
数十分にも及んだ逃走劇が終わりを告げたのは、病院から遠く離れた人気のない公園の一角だった。
ひっそりと佇むベンチに腰を下ろし、青桐は
ようやく追いついた草凪も、気の利いた言葉など思い浮かばない。
それでも荒い呼吸を整えながら、目の前の
「はぁ……はぁ……お前……急に飛び出すなよなぁ。あぶねぇだろうが」
「……」
「いや、記憶喪失なのは流石に
「……」
「だからよ、一旦落ち着けって。な? とりあえず―――」
「……うるせぇ」
「……あぁ"?」
「うるせぇっつってんだよ……あんな状況見て……落ち着けると思ってんのかよ、糞がっ!!」
「お前よぉ……ちっ!! いちいち
「だからお前、今余裕ねぇから話しかけんなっつってんだろうがっ!! テメェ、脳にウジでも湧いてんのかよ、あ"ぁ"!?」
「んだとテメェ……!! 黙って聞いとけば暴言ばっか言いやがってよぉ!! あ"ぁ"ん"!?」
暴言の応酬を重ね、互いの
草凪は項垂れる青桐の胸ぐらを左手で掴むと、そのまま強引にベンチから引きずり起こした。
直後、
左頬をまともに打ち抜かれた青桐の体が、後方へ大きく吹き飛んだ!!
受け身すら取らず、背中から地面へ叩きつけられる青桐。
それでも倒れた次の瞬間には上体を跳ね起こし、勢いそのまま草凪へと掴みかかっていったのだった!!
「って~なぁ"!? お前、柔道やんのかっ!?」
「おう、やってやろうじゃねぇか!! 柔道をよぉ"!! おいお前、
売り言葉に買い言葉。
2人は互いに
公園内に設けられた畳敷きの野外スペースへ場所を移すと、昂ぶる感情をぶつけるように、そのまま柔道を始めていった!!
試合というより、柔道の形を借りた取っ組み合いの
「このがぁ"!! 龍夜ぁ"!! テメェ、どんだけ周りに気ぃ使って貰ってると思ってんだよ!? ちったぁ~周りのことも考えろ、ボケぇ"!!」
「いってぇなぁ"!? え"ぇ"!? 蹴ってんじゃねぇよ、糞がっ!!」
「蹴ってねぇよ、足払いだよっ!!」
「どこがだよ、下手糞っ!!
「おう、やってみろや雑魚がっ!! テメェ、いい加減に―――」
「お前は
「あ"ぁ"?」
「お前が別の中学行ってから、色々あったんだよっ!!
「……………………」
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『……んだよ、やっと龍夜と鈴音のやつ、くっついたのかよ~……俺が別の中学行ってまでお膳立てしてやったのに、遅すぎんだよなぁ~……ん? 遠くて何て言ってっか聞こえねぇな……何て言ってんだ?』
『ほら龍夜っ!! とっとと行くわよ!! 時間に遅れるじゃないのっ!!』
『へいへ~い』
『アンタねぇ……急ぐ気ないでしょっ!?』
『…………はぁ~……お前らよぉ、これで別れたりしたら
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「……………………こっちの気も知らねぇで……言いたい放題言わせておけばぁ"!!」
互いに
草凪は青桐の左襟を掴んでいた右手を不意に離すと、その手を固く握り締めた。
次の瞬間、剝き出しの拳を青桐の左頬目掛け、再び力任せに振り抜いていった!!
「
鈍い衝撃音が周囲へ鳴り響く。
拳をまともに受けた青桐の上体が、大きく後方へ仰け反った!!
だが、その勢いを殺すことなく体を左へ旋回させると、一気に草凪の懐へ潜り込む!!
そのまま背中へ草凪を担ぎ上げ、
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「ぐぎゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!?」
殺意すら感じさせる一撃に、草凪はカエルが潰れたような呻き声を上げる。
どうやら畳への打ち所が悪かったらしく、その意識は次第に遠のいていった。
フラつく足取りでその場を後にする青桐。
草凪は畳に背を預けたまま、遠ざかっていくその背中を霞む視界に捉えていた。
そして意識を手放す間際、憎々しげに青桐へ恨み節を吐くのだった。
(あの、野郎ぉ……覚えとけよぉ……)
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数時間にわたり畳の上で
すっかり人気のなくなった公園を後にし、静まり返った住宅街をトボトボと歩いていく。
時折痛む背中をさすりながら、脳裏に浮かべるのは、自分より先に帰宅したであろう
あれだけ激しくぶつかり合った後だというのに、草凪は結局、青桐のことを案じているのだった。
「いってぇ~!! ……あの野郎、
「……おい」
「ん?
街灯だけが照らす薄暗い夜道。
草凪の行く手を遮るように、数人の
その風貌には、嫌でも見覚えがある。
ごくりと唾を飲み込み、
全身が
「単刀直入に言おう。お前がこの夏の大会に出場することは叶わない」
「……は? 何言ってんだ、お前ら……」
「この映像を見ろ」
「これは……!!」
『もしもしっ!? そこにいるのは隼人っ!?』
『隼人っ!? 隼人なんだなっ!? そっちは無事なのかっ!? あ、オイっ!! 母さんに何をするんだっ!! はな―――』
「……
「ふ、ふざけんなよ!! お前ら、自分が何やってっか……!!」
「暫くしたら返事を聞きに来る。それまでに決めておくことだな。では……」
「お、おい!! 待てよっ!! ……んだよ、次から次に……どうなってんだよ、今日はっ!?」
小説家になろう、カクヨム、NOVEL DAYS、アルファポリスでも投稿をしています。