YAWARAMICHI   作:ウィリアム・J・サンシロウ

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未知の敵との再戦―――
実力差をまざまざと見せつけられる戦いでも―――
君は柔道が楽しいか?


THUNDER・クモノツヅミ・黒衣の武人

「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

「一本ぉ"ぉ"ぉ"ん!!」

 

 場内に響く荒々しい雄叫びと共に、黒い道着(まとい)に身を包む3人の若者へ試合終了を告げる審判。

 既に試合の出番が終わっている周囲の選手達は、一礼し場外に向かう彼らを横目に、先ほどの試合内容について語り合い始めた。

 

「……なあ、Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)と当たった高校って、確か去年の県大会準優勝のチームだったよな?」

 

「……ああ、そうだな」

 

「そんで試合時間の合計が……何秒だ?」

 

「……10秒切ってる」

 

「おいおいおい……!? 素人(だいこん)じゃないんだぞっ!?  誰が勝てるんだよ、こんなの……」

 

 驚愕と諦めに包まれる周囲の選手達。

 その視線をよそに、Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)の3人は淡々と試合の反省会を始めていた。

 

「順調、コノママ、決勝モ勝ツ」

 

「当然ですよ。この程度の相手に負けてしまっては、帰った時に何て言われるか理解(わか)りませんから。いやいや、油断(なめぷ)していませんがね? 油断(なめぷ)なんてとんでもない……ただもう少し、こう、手応えが足りないと、悄然(くさ)ってしまいますよねぇ……? ふふっ!! おっと謝罪(さっせん)

 

「ソレナラ、心配イラナイ。次ハ蒼海ノ人間。青桐ガ居ル高校、精悍(ごつ)イ」

 

「なるほど……それは朗報を聞きましたよ。では決勝の会場に行きましょうか……西村(にしむら)君も行きますよ」

 

「……」

 

「西村君?」

 

「……ッ!! 隔靴掻痒(かっかそうよう)ッ!! なんと不甲斐ないッ!! あんな組手争いなど、理想の組手争いではないッ!! あんな失態(ちょんぼ)をするとは、何が最強(てっぺん)を目指すだ、含羞(じはきょく)るッ!!」

 

「西村君、反省会は決勝が終わってからにしましょう。変に目立っちゃいますよ……いや、嫌いではないですよ? 嫌ではないのですがねぇ……」

 

「オッスッ!! 蠅野(はえの)先輩ッ!! 賭香月(とかつき)先輩ッ!! お時間頂戴して謝罪(さっせん)ッ!! 向かいましょう、決勝戦にッ!!」

 

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『さぁ~始まりました決勝戦っ!! 実況はこの私、松井秋広(まついあきひろ)がお届けします!! いや~皆さんっ!! これは事件です!! 今、世間(シャバ)を賑わわせている黒衣の柔道家達が、なんとこの大会に参加(カチコミ)しているんですっ!! 会場のボルテージは最高潮(チョベリグ)!! 一体どんな戦いが待ち受けているのか、期待が高まります!!』

 

 太陽が頂点に輝く午後。

 柔道タワーでの戦いは、ついにクライマックスを迎えようとしている。

 先鋒は青桐(あおぎり)、対する相手は西村空太(にしむらこうた)

 試合前、青桐はマネージャーから伝えられた情報を頭に巡らせつつ、白いテープの前まで進んでいく。

 肌寒い10月にもかかわらず、会場の空気は熱気に包まれ、実況アナウンサーの熱のこもった声が観客(パンピー)の期待をさらに煽り立てていた―――!!

 

「……ん?」

 

「…………」

 

『おぉ~っと!? どうした西村選手っ!? その場から動こうとしないぞっ!?』

 

 青桐の対戦相手、西村が場内へ入って来ようとしない。

 彼の髪は芝生めいた金髪で、鼻にテーピングを施し、閉じた瞳は微動だにしない。

 周囲は次第にざわめき、審判も痺れを切らして注意を促そうとしたその瞬間だった。

 突如、西村は猛獣めいた雄叫びを上げ、静寂(あおいろ)を切り裂いた!!

 

「オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ッ!! 力戦奮闘、オッスッ!! 一意専心、オッスッ!! Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)、西村空太、いざ参るッ!!」

 

「……五月蠅(うるせ)ぇなぁ……喉に拡声器でも仕込んでんのか? 口から騒音まき散らしてんじゃねぇよ、音割れクソ野郎が……!!」

 

「青桐っ!! 相手のペースに飲まれるなよっ!!」

 

「……了解(うっす)井上(いのうえ)監督……!!」

 

 ただならぬ殺気を放つ相手だが、それは青桐も同じだった。

 1か月前、黒衣の集団に屈辱的な敗北を喫した青桐にとって、この試合は予想外のリベンジマッチとなる。

 身体を冷やさないよう着ていたシャツを脱ぎ、両者は柔道着(まとい)の上着を羽織り直す。

 両者の体から一瞬覗いたのは、青痣だらけの鍛え抜かれた肉体。

 臨戦態勢に入った二人は、光のない、まるで刺すような眼差しを敵へと向けている。

 

「青桐龍夜ッ!! 頂点(てっぺん)への踏み台にさせてもらうッ!!」

 

「あ"ぁ"? ……あの天パ赤髪野郎が勝ったからって天狗(ちょづ)いてねぇか? この前と一緒にしてんじゃねぇぞボケが……!! 一本負け(くたばった)時用の言い訳考えてやがれっ!!」

 

 水を打ったように静まり返る会場。

 小さな物音一つでも立てれば、まるで濃霧の中にいる猛獣を刺激するかのように、全ての殺意が自分に向かってくる気配を、観客(パンピー)達は感じている。

 天才猛獣使いとしてアフリカで崇められている、ムハマド・ピレもそう感じている。

 張り詰めた空気が肌を深々と突き刺す中、審判の声が静寂を切り裂いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 We have poured years into these fleeting moments,

 for we are those who live within the blink of an eye.

 

「この数分に数年を費やした。我らは刹那を生きし者」

 

 柔英書房発刊「武の道を生きる者」

 著者:エルル・ジェルネイル

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開始(はじめ)っ!!」

 

「しゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

「オォ"ォ"ォ"ォ"スッ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 蒼海大学付属高等学院柔道部団体戦先鋒

 高校生ランク21位 青龍 「青桐龍夜(あおぎりりゅうや)

      VS

 Rivolu(リヴォル)zione(ツィオーネ)Squadra(スクヮドゥラ)β団体戦先鋒

 高校生ランク14位 黒衣の武人 「西村空太(にしむらこうた)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ついに幕が上がった決勝戦、先鋒同士の激突。

 両者は己の形に持ち込むべく、息を呑む組手争いを展開する!!

 横襟を掴んでは払い、奥袖を取られては瞬時に振り解き、互いの意図が畳の上で激しくぶつかり合う。

 その中で、西村がわずかに後方へ跳躍。

 瞬間、両足に迸る雷光!!

 稲妻めいた速度で青桐との間合いを詰めていく!!

 

「先手ッ……必勝ォ"ォ"ォ"ッ!!」

 

「……ちっ!!」

 

(ちょろちょろしやがって……!! こいつ、カナちゃんが言っていた通り雷属性みたいだな……さっきのはNo.6の飛雷脚(ひらいきゃく)か……あの加速、面倒(うぜ)ぇなぁ。どう切り崩すか……!!)

 

「あ"ぁ"……!?」

 

 横襟と前袖を掴み、がっぷり四つに組み合う両者。

 青桐は体勢を崩そうと、一瞬の隙を狙い足技を繰り出そうとする。

 しかし―――それを見抜いた西村が剛腕を活かし、体全体を使った緩急のある動きで青桐を激しく揺さぶっていく!!

 畳の上で生じる音、そして会場を包む緊張感――

 勝敗の行方を占うには、まだ……早い!!

 

「ぬぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!!」

 

「……!!」

 

(この野郎、俊敏(はしっこ)い上に怪力(てっぱん)かよっ!? クソが……さっきからやりたい放題やりやがって……!!)

 

無礼(なめ)んじゃねぇぞ……この野郎がぁ"ぁ"ぁ"!! No.23……!!」

 

 場内を縦横無尽に駆け回る西村。

 そのスピードに引きずられながらも、青桐は冷静に先を読んでいく。

 西村の進行方向を見極め、足首を覆うほどの水球を畳の上に出現させる青桐。

 罠は見事にハマり、西村の両足が水球に捕らわれていった!!

 その瞬間、青桐の目が鋭く光る……!!

 揃った足を見逃すはずもなく、彼は左足で畳を撫でるように動かし、敵の両足を払い取る送足払の強化版を繰り出す。

 No.23―――

 

露払(つゆばら)いっ!!」

 

 推進力の流れに逆らうことなく、鋭く足払いを繰り出す青桐。

 その一撃で西村の体勢は崩れかける。

 咄嗟に右足で踏ん張ろうとする西村だったが、青桐は追撃の手を止めない。

 彼の周囲に厚く立ち込める白雲――入道雲めいた雄大で圧迫感のあるそれが現れる。

 雲間に潜む青き龍が形を成し、その右足が西村の右足を正確に狙う。

 平衡を取り戻そうとする動きを見逃すことなく、青桐の技が刈り取るように放たれる!!

 No.14―――

 

八雲刈(やくもが)りっ!!」

 

 猛攻を振り切ろうと、西村は一瞬両手を離そうとする。

 しかし、その瞬間、青桐の技によって彼の周囲に巨大な水の塊が出現。

 西村の身体はその中へと沈められていった。

 拘束された彼の膝元に、圧縮された水牢が弾け飛ぶ勢いで襲いかかる青桐の左足。

 刹那、青桐の両手がハンドルを切るように反時計回りに回転し、車輪めいた軌道を描く。

 流れるような動作で足を刈り取る膝車の強化技。

 No.32―――

 

泡包(あわづつ)み……トドメだ一本負け(くたばれ)やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」

 

 柔皇の技を3連発で食らい、西村は堪らず大きく体勢を崩す。

 ガードが完全にがら空きとなった瞬間を、青桐が見逃すはずがなかった!!

 水の流れめいた足さばきで、決め技である内股を狙う青桐。

 西村の左足内側を捉えるように右足を天へと払い上げる!!

 しかし―――技に何の手応えも感じない彼。

 その理由はすぐに明らかになった。

 西村は青桐の内股を(くものつづみ)めいた速度で回避し、反撃に出たのだ!!

 払われた右足を追うように、西村の左足が軌道を重ねる。

 落ちた(くものつづみ)(てんがい)へと返すような動き。

 内股返しの強化技。

 No.15―――

 

落雷返(らくらいがえ)しっ……オ"ラ"ァ"ァ"ァ"ァ"ッ!!」

 

 なんたる光景、吃驚仰天(おったまげ)!!

 2人の両足が畳から離れていく。

 宙を舞う両者は技の勢いそのままに、畳へと背を叩きつけていったのだった!!

 審判が下した判定は―――




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